Xevo™ G3 QTof を使用したベンゾイミダゾールオピオイドの精密質量スクリーニングおよびディスカバリー
法中毒学目的のみに使用してください。
要約
waters_connect™ インフォマティクスプラットホームおよび Xevo G3 QTof を使用してベンズミダゾールオピオイドの分析によるセミターゲットディスカバリーワークフローを実証するための、法中毒学高分解能質量分析(HRMS)スクリーニングソリューションの適用(図 1)。
アプリケーションのメリット
はじめに
精密質量の方がノミナル質量と比較して大きな利点があることから、飛行時間型質量分析(Tof-MS)がスクリーニングによく用いられるようになっています。その主なメリットは、レファレンス物質を必要とせずにスクリーニング分析法を導入できることです。精密質量分析は、同位体データを使用して物質を同定する際に、特異性が高いことに加えて、ユーザーが可能性のある元素組成を提案することができます。元素組成式の提案は、複雑な化学構造の多段階解析の出発点になることがしばしばあります。中毒学においてこのことは非常に有用であり、認定レファレンス物質がまだ入手できない可能性のある新規合成ドラッグ、新規向精神薬、およびその代謝物をターゲットとする分析に役立ちます。
このワークフローでは、最大でモルヒネの数百倍の活性を示すことがある合成オピオイドのクラスである、一連のベンゾイミダゾールオピオイド(ニタゼン)を分析します。これらの含窒素複素環式化合物は、芳香族化合物であるベンゼンとイミダゾールの融合によって生じます。これらの物質を分析することにより、waters_connect インフォマティクスパッケージ内のセミターゲットワークフローおよびディスカバリーワークフローを評価しました。
実験方法
試料
5 種類のベンゾイミダゾールオピオイド(ブトニタゼン、クロニタゼン、エトニタゼン、イソトニタゼン、N-ピロリジノエトニタゼン)の認定レファレンス物質は、濃度 1 mg/mL のストックメタノール溶液として Merck(英国、ドーセット)から入手しました。
サンプル前処理
まずベンゾイミダゾールオピオイドの個別のストック溶液を、濃度 10 µg/mL になるようにメタノールで希釈して調製しました。分析の前に、ストック溶液を 5 mM ギ酸アンモニウム(pH 3.0)でさらに希釈して、濃度 500 ng/mL の注入用サンプルを調製しました。サンプルは分析の前にボルテックス混合しました。
結果および考察
分析の前に、5 種類の分析種の名前を単に入力するだけで、ベンズミダゾールオピオイドのカスタムライブラリーを作成しました。各物質の構造を記載した MOL ファイルを、ライブラリーの各エントリーに追加しました(図 2)。それぞれのベンゾイミダゾールオピオイドを個別に注入し、確立された法中毒学 HRMS スクリーニングソリューションに基づいて、Xevo G3 QTof と組み合わせた ACQUITY™ UPLC™ I-Class(FTN)システムを使用してデータを取り込み、グラジエント溶出を用いることで 15 分以内にクロマトグラフィー分離が得られました1,2。 Xevo G3 QTof 質量分析計は、ポジティブイオン化 MSE 取り込みモードで動作させました2。この取り込みモードにより、フル MS スペクトルの収集が容易になり、2 つのコリジョンセル電圧の間の迅速な切り替えが行われます。具体的には、最初の低電圧での取り込みでプリカーサーイオンの精密質量が得られ、次に電圧ランプ(10 ~ 40 eV)でフラグメントイオンの精密質量が得られます。ベンズミダゾールオピオイド標準試料の分析に続いて、取り込んだデータを、カスタムベンズミダゾールオピオイドライブラリーに対してスクリーニングしました。各分析種の同定における合否基準は、3 次元(3D)低エネルギーイオンカウント強度が 250 以上、保持時間がレファレンスから 0.35 分以内、実測プリカーサー質量が予想値の 5 ppm 以内であることです。
セミターゲットワークフロー:in-silico フラグメンテーションの適用による同定
それぞれのベンゾイミダゾールオピオイドを、プロトン化したプリカーサーイオンの質量精度を使用し、解析時に MOL ファイル構造から自動的に生成された理論上のフラグメントイオンと組み合わせて確認したところ、高エネルギースペクトル中の実測フラグメントイオンとマッチしました。図 3 に、waters_connect コンポーネントのサマリーページにある、クロニタゼンの in-silico フラグメンテーションの例を示します。この分析種に割り当てられた低エネルギーイオンは、プロトン化された同位体クラスターに対応しており、スペクトル内で緑色で強調表示しています。この高エネルギースペクトルは、waters_connect によって自動的に生成され、フラグメントイオンとして高エネルギースペクトルピークに関連付けられている、クロニタゼンの部分構造と注釈付けされています。
ライブラリーエントリーの更新
カスタムライブラリーに入力した情報に基づいて、5 種類のベンズミダゾールオピオイドすべてを検出および同定しました。これには、解析ステップにおいて生成された理論上のフラグメントイオンの追加および各分析種の実測保持時間が含まれています。ライブラリーエントリーは、この分析から直接簡単に更新することができ、割り当てられた付加イオンおよび関連するフラグメントイオンの予想保持時間と予想 m/z 値を含めることができます。ライブラリーを更新すると、代表的なエントリーには、図 4 に示す N-ピロリジノエトニタゼンと同様の情報が含まれるようになります。この追加情報を使用して、後続の分析でその物質をターゲットにすることができます。
ディスカバリーワークフロー
waters_connect の機能は、ディスカバリーパラメーターを利用する問題解明ツールセットであり、元素組成、ライブラリー検索、フラグメントマッチ機能が単一のステッププロセスに統合されているため、サンプル内の未知物質のアイデンティティーを簡単に取得することができます。使用されているディスカバリーパラメーターを図 5A ~ D に示します。
図 5A には、各成分について返される元素組成の最大数、および各元素組成について返されるライブラリーヒット数が表示されています。選択した各成分について、実測 m/z が元素組成アプリケーションに送信されます。図 5B には使用されたパラメーターが示されています。元素組成アプリケーションによって返された各化学式は、次に選択したライブラリーのリストに自動的に送信されます。これらのライブラリーは、waters_connect レポジトリーまたは ChemSpider のいずれかに属している場合があります(インターネット接続されている場合)。図 5C に、ChemSpider ライブラリーが選択されていることが示されています。
ライブラリー検索から返された各化学式は、ライブラリーヒットに MOL ファイル形式の関連付けられた構造がある場合は、自動的にフラグメントマッチアプリケーションに送信されます。フラグメントマッチアプリケーションでは、図 5D で選択したパラメーターを適用して、各構造に対して系統的な結合解離が行われ、理論上の部分構造の m/z 値が測定された高エネルギーフラグメントイオンにマッチングされます。マッチしたフラグメントイオンの数と、それらのマッチが占める高エネルギースペクトルの強度の割合の両方が決定されます。
説明の目的で、ターゲット分析でイソトニタゼンと同定された候補成分を、構造解析のために登録しました。図 5A ~ D に示すパラメーターに関してアプリケーションを実行した後の結果を図 6 に示します。
構造解析のために登録したこの成分は、候補質量 m/z 411.239066 でした。この結果には、1 つの元素組成 C23H30N4O3 が示されており、設定されたしきい値を超える i-FIT™ 信頼性が認められました。この元素組成は、ChemSpider 内で FDA UNII-NLM ライブラリーに自動的に送信され、イソトニタゼン(N,N-ジエチル-2-[2-(4-イソプロポキシベンジル)-5-ニトロ-1H-ベンゾイミダゾール-1-イル)]エタンアミン)のヒットが、別名のリスト、構造、引用回数とともに返されました。図 6 に示すように、この構造がフラグメントマッチとともに自動的に使用され、該当する部分構造が、候補質量 m/z 411.239066 に関連する高エネルギースペクトルに割り当てられています。部分構造によってマッチした高エネルギーフラグメントイオンの数と、それらのマッチが占める高エネルギースペクトルの強度の割合が、ライブラリーヒットについて示されています。
さまざまな成分、元素組成、ライブラリーヒットに関するこの情報にアクセスすることにより、サンプル中の未知物質のアイデンティティーに関して、情報に基づく判断を下すことができます。
結論
この試験では、waters_connect で法中毒学 HRMS スクリーニングソリューションを使用して、一部のベンズミダゾールオピオイドのデータを取り込みました。取り込んだデータを使用して、カスタムサイエンスライブラリーを簡単に作成および更新できることを実証しました。waters_connect インフォマティクスプラットホームを使用し、セミターゲットワークフローを用いて MSE データを解析しました。フラグメントマッチ機能により、高エネルギーイオンに部分構造を割り当てることができました。さらに、問題解明ツールセットによってディスカバリーワークフローを強化できることがわかりました。
参考文献
- M. Wood.The Utility of MSE for Toxicological Screening; Waters Application Brief. 720005198.March 2022.
- HRMS Forensic Toxicology Screening solution media available at Forensic Toxicology Application Solution Media by Waters | Marketplace.
720008036JA、2023 年 9 月