アンチセンスオリゴヌクレオチドの高感度 LC-MS/MS バイオアナリシス定量
要約
このアプリケーションでは、Waters™ Xevo™ TQ Absolute タンデム四重極型質量分析計(MS/MS)の定量機能および定性機能、およびそのヒト血漿中のオリゴヌクレオチドのバイオアナリシスへの適合性を実証しています。
アプリケーションのメリット
- タンデム四重極型質量分析計 Waters Xevo TQ Absolute を使用して、ヒト血漿中のオリゴヌクレオチドの高感度ルーチン定量を実証
- ヒト血漿から抽出した 25 mer の完全にホスホロチオエート化されたアンチセンスオリゴヌクレオチドであるトレコビルセン(GEM91)およびポリオリゴデオキシチミジン(15 ~ 30 mer)オリゴヌクレオチド標準(分子量 4.5 ~ 9 kDa)の定量
- Waters ACQUITY™ Premier UPLC システムおよび Waters ACQUITY Premier オリゴヌクレオチド C18 カラムテクノロジーにより、クロマトグラフィー回収率の向上、LLOQ の改善、リニアダイナミックレンジの向上など、このアプリケーションにおける複数の重要なバイオアナリシス上の課題に対する性能が向上
はじめに
オリゴヌクレオチドは、イオン対または逆相以外のクロマトグラフィーが必要、慎重な取り扱いおよびサンプル前処理が必要、消耗品やクロマトグラフィーシステムに多く存在する金属表面との相互作用による非特異的吸着の問題がしばしば生じるなど、多くの要因(上記に限定されない)により測定が困難な基質です。
このアプリケーションノートでは、Waters ACQUITY Premier システムと組み合わせた高性能 Xevo TQ Absolute タンデム四重極型質量分析計の、生体マトリックス中のオリゴヌクレオチドの分析における性能について実証しています。オリゴデオキシチミジン標準試料(Waters MassPREP™ オリゴヌクレオチド分離テクノロジー(OST)標準試料)および GEM91(完全にホスホロチオエート化したアンチセンスオリゴヌクレオチド[d(P-Thio)(C-T-C-T-C-G-C-A-C-C-C-A-T-C-T-C-T-C-T-C-C-T-T-C-T)-DNA]の定量について調査しました。
実験方法
Waters MassPREP Oligonucleotide Separation Technology(OST)標準試料(製品番号:186004135)およびオリゴデオキシヌクレオチドホスホロチオエートの GEM91(Integrated DNA Technologies, Inc. 社製によるカスタム合成)のストック溶液を、社内で調製した TE バッファー(10 mM Tris + 1mM EDTA、水酸化アンモニウムで pH 8 に調整)中にそれぞれ 10 µM および 1 mg/mL になるように調製しました。血漿サンプルは、ストック溶液のヒト血漿(BioIVT から購入)中での連続希釈により調製しました。血漿サンプルを、フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1)を用いた液‐液抽出法で抽出し、次にクロロホルム(99% 以上)で 2 回目の抽出を行いました。最終的に、水系抽出物をすべて蒸発乾固し、100 µM の EDTA 溶液中に再溶解しました。
LC 条件
LC システム: |
Waters ACQUITY Premier システム(BSM) |
移動相 A: |
100 mM ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP) + 15 mM N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)水溶液 |
移動相 B: |
100 mM ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP) + 15 mM N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)含有 80% アセトニトリル溶液 |
バイアル/プレート: |
MaxPeak™ を採用した QuanRecovery™ 700 μL プレート(製品番号:186009185) 丸型スリット入りシリコンキャップマット(製品番号:186006332)付き |
カラム: |
Waters ACQUITY Premier オリゴヌクレオチド C18 カラム、1.7 μm、2.1 × 50 mm(製品番号:186009484) |
カラム温度: |
50 ℃ |
サンプル温度: |
8 ℃ |
注入量: |
20 μL |
流速: |
0.5 mL/分 |
グラジエント
MS 条件
イオン化モード: |
ESI- |
取り込みの種類: |
MRM |
キャピラリー電圧: |
2.5 kV |
コーン電圧: |
30 V |
イオン源オフセット: |
30 |
イオン源温度: |
150 ℃ |
脱溶媒温度: |
600 ℃ |
脱溶媒ガス: |
1000 L/時間 |
コーンガス: |
150 L/時間 |
コリジョンガス: |
0.15 mL/分 |
データ管理
データは MassLynx™ v. 4.2 により取り込み、TargetLynx™ で解析しました。
結果および考察
ACQUITY Premier オリゴヌクレオチド C18 カラム、130 Å、1.7 µm、2.1 x 50 mm(製品番号:186009484)を備えた ACQUITY Premier システムで、流速 0.5 mL/分で 5 分間のグラジエント(5 ~ 80% B)を使用してクロマトグラフィー分離を行いました。ACQUITY Premier カラムには、非特異的吸着を最小限に抑えるのに重要な MaxPeak™ High Performance Surface(HPS)テクノロジーがカラムハードウェアに組み込まれており、オリゴヌクレオチドの回収率およびアッセイの検出限界が向上しています。HPS テクノロジーは、オリゴヌクレオチドなど金属表面に強い親和性を示すことが分かっている分析種の、金属との相互作用を最小限に抑えるために特別に開発されたものです1,2。
これらの GEM91 について得られた代表的なスペクトルを図 1 に示します。ここでは、チャージ状態クラスターの全般的な分布(MS スキャン)、および GEM91 における MRM トランジションのプリカーサ―として選択されたチャージ状態で生成したフラグメントを示す MS/MS スペクトルを示します。分析法開発時に、複数のイオンをモニターする場合があります。優先イオンが干渉を受ける場合は、別のクラスターや適切なフラグメントイオンを簡単に選択できます。
図 2A に、マトリックスのバックグラウンドに対する GEM91(m/z 597.2 > 319.1)の LLOQ の代表的なトレースを示します。
図 2B に 0.1 ~ 500 ng/mL の代表的な QC トレースを示します。
図 2B. GEM91(0.1 ~ 500 ng/mL)の代表的な QC トレース。
Xevo タンデム四重極型質量分析計での OST 標準および GEM 91 の標準曲線および品質管理(QC)性能のサマリーを表 2 に示します。OST ストック溶液は µM レベルのストック溶液として調製し、nM 単位で報告しています。参照用に対応する LLOQ(ng/mL 単位)を右側に示し、GEM91 は nM と ng/mL の両方の単位で報告しています。
定量下限値(LLOQ)は 0.1 ng/mL で、観察されたダイナミックレンジは 0.1 ~ 10,000 ng/mL でした。検量線は、直線性が r2 値 > 0.99(1/x2 重み付け)で、許容範囲のすべてのキャリブレーションポイントでの平均正確度が 87 ~ 112% でした。オリゴヌクレオチド OST および GEM 91 の QC 性能を表 3 に示しており、すべてのヌクレオチドについて、平均正確度は 90 ~ 114%、CV(示していない)は 1.1 ~ 10.5% です。OST 標準品の結果は、低分子のオリゴヌクレオチドの方が高分子よりも感度が高くなる可能性を示唆しています。GEM91 は 25T 標準品と長さが類似しており、同様の結果となったのに対し、15T 標準品では LLOQ で 0.05ng/mL と感度が 2 倍でした。
Xevo TQ Absolute で試験した複数回のトランジションにより、生体マトリックス中で ng/ml 以下の単位の GEM91 オリゴヌクレオチドを検出することができました。GEM91 の LLOQ 0.1 ng/ml 濃度の 3 回のトランジションを図 3 に示します。
基本的な構造部分(597.2 > 94.8 のトランジションにより測定されるホスホロチオエートフラグメントイオンなど)に対応する低質量トランジションは、最も強度の強いフラグメントイオンであり、定量のターゲットとして魅力的ですが、複雑な血漿マトリックスのバックグラウンドでは、困難で選択性が低くなることがあります。この試験では、LLOQ 濃度の低、高両方のフラグメントベースの質量トランジションで、高いカウントと許容可能なシグナル対ノイズが得られました。319.1 フラグメントイオンに対する -14 (597 Da)および -13 (647 Da)のチャージ状態のトレースから、597.2 > 94.8 MRM のピーク形状および性能が、このアッセイのより大きなイオンに匹敵することがわかります。この柔軟性により、前臨床試験(およびヒト試験)で分析種/マトリックスが変わっても、ユーザーは最高の感度および選択性を示すトランジションを選択できるようになります。このアプリケーションノートの QC、直線性、バイオアナリシス性能指数が、m/z 319.1 のプロダクトイオンを使用したチャージ状態 -13(m/z 597.2)について示されています。一方、Xevo TQ Absolute では、GEM91 が LLOQ 0.1 ng/mL(ブランクのレスポンスと比較して 5 倍超のレスポンス)で検出され、血漿サンプル中で、すべてのトランジションにわたって同様のバイオアナリシス性能を示しました(図 3)。
図 4 に、GEM91(597.2 > 319.1)について MS システムで得られた 0.1 ~ 10,000 ng/mL の範囲でのリニアダイナミックレンジと、低濃度キャリブレーション標準(10 ng/mL 未満)の拡大図を示します。5 桁のリニアダイナミックレンジが見られました。
結論
- Xevo TQ Absolute では、困難な陰イオン性化合物に対する感度の向上により、ルーチンの液体クロマトグラフィーとタンデム質量分析計(LC-MS/MS)ベースの定量において、生体マトリックス中のオリゴヌクレオチドについて質の高いデータが生成できるようになりました。
- ヒト血漿中のオリゴヌクレオチドについて、アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド性能標準の両方において、ng/ml レベルの低濃度の感度と優れたダイナミックレンジ性能が見られました。
- ACQUITY Premier を使用して、分離システムおよび分析カラムの両方に採用した MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーにより、金属に対する吸着を低減し、定量バイオアナリシスアッセイにおいて頑健で感度の高い定量性能を確保できます。
参考文献
- Guilherme J. Guimaraes, J. Michael Sutton, Martin Gilar, Michael Donegan, Michael G. Bartlett, ‘Impact of Nonspecific Adsorption to Metal Surfaces in Ion Pair-RP LC-MS Impurity Analysis of Oligonucleotides’, Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis Volume 208, 20 January 2022, 114439.
- Jennifer M Nguyen , Martin Gilar, Brooke Koshel, Michael Donegan, Jason MacLean, Zhimin Li & Matthew A Lauber, ‘Assessing the Impact of Nonspecific Binding on Oligonucleotide Bioanalysis’, Future Science, BIOANALYSIS VOL.13, NO.16.
- Kathryn Brennan, Mary Trudeau, Paul D. Rainville, Utilization of the ACQUITY Premier System and Column for Improved Oligonucleotide Bioanalytical Chromatographic Performance, Waters Application Note, 720007119, January 2021.
720007574JA、2022 年 3 月