ポリソルベート(Tween)配合バイオシミラーモノクローナル抗体に対する、生理的 pH での MaxPeak Premier Protein SEC 250 Å カラムの寿命
要約
医薬品での自己集合または凝集したタンパク質不純物は、免疫応答が誘起される可能性があるため、懸念事項になっています。その結果、タンパク質の自己集合や表面吸着を防ぐために、多くの場合、適切な処方にポリソルベート(Tween 20 または Tween 80)が含まれます。これらのタンパク質関連の不純物のモニタリングには、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)が多くの場合用いられるため、SEC カラムのタンパク質および配合されたバッファー成分との適合性が重要です。
以前に発表された論文では、Waters Premier Protein SEC カラムを使用して、生理的 pH(7.4)およびイオン強度で有効な分離が達成できることが実証されました。このように弱い塩基性の pH 条件では、シリカベースの充塡粒子の安定性に悪影響を及ぼす場合があるため、これらの最近導入されたカラムの寿命を、Tween 20 または Tween 80 を配合した 4 種の市販 mAb バイオシミラーの分析に対して pH 7.4 で評価しました。以前の公表文献で、これらの配合界面活性剤により、以前の世代の Waters BEH Protein SEC カラムの寿命が短くなる可能性があることが提示されていたため、これらのカラムの寿命を再評価し、Waters Premier SEC™ カラムによってカラム寿命の改善が実現可能かを確認しました。この試験では、500 回を超える分析にわたって Waters XBridge Premier™(粒子径 2.5 µm、ポアサイズ 250 Å)、ACQUITY Premier Protein SEC™(250 Å、1.7 µm)、ACQUITY Protein SEC™(200 Å、1.7 µm)カラムの性能を評価しました。自己集合化およびフラグメント化した mAb サイズバリアントの両方で、分離性能を評価しました。
アプリケーションのメリット
- 生理的 pH(約 7.4)およびイオン強度(約 150 mM)の前後のバッファーを SEC に使用したタンパク質医薬品サイズバリアントの評価における安定性
- ポリソルベート(Tween 20 または Tween 80)が配合された治療用 mAb サンプルの分析 500 回を超えるカラム寿命
- 寿命試験全体にわたる、HMWS および LMWS 不純物レベルでの再現性の測定
はじめに
自己集合または凝集したタンパク質不純物は一般的に高分子種(HMWS)と呼ばれ、非経口のタンパク質医薬品では、これによって一部の患者で免疫応答が誘起されることがあります1。 その結果、タンパク質の自己集合を防ぐために、適切な処方には多くの場合ポリソルベート(Tween 20 または Tween 80)などの非イオン性界面活性剤が含まれます2。 HMWS および場合によっては医薬品タンパク質関連フラグメント(低分子種、LMWS)のモニタリングには、多くの場合サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)が用いられます。そのため、タンパク質や配合バッファー成分、さらに使用する移動相との SEC カラムの適合性が、SEC 分析法開発時の主要な検討事項です。
Waters XBridge Premier Protein SEC 250 Å、2.5 µm カラムおよび ACQUITY Premier Protein SEC 250 Å、1.7 µm カラムのカラムハードウェアおよび充塡粒子ケミストリーの両方は、タンパク質の表面相互作用を低減するために最適化されています3。 特に、ポリソルベートが配合されているタンパク質の SEC 分析では、ジオール結合の代わりに、エチル架橋ハイブリッド(BEH)SEC 粒子とヒドロキシ末端ポリエチレンオキシド(PEO)の結合により、タンパク質との二次的疎水性相互作用がさらに最小化され、カラムの界面活性剤による汚染の可能性が低減されることも予測されます4。
この試験では、Waters XBridge Premier(粒子径 2.5 µm、ポアサイズ 250 Å)、ACQUITY Premier Protein SEC(250 Å、1.7 µm)、ACQUITY Protein SEC(200 Å、1.7 µm)カラムの性能を、現在バイオシミラーとして米国で市販されている 4 種の異なる mAb 医薬品の 500 回の分析にわたって評価しました。ベバシズマブ、インフリキシマブ、リツキシマブのサンプルはバイオシミラー医薬品であり、トラスツズマブのサンプルは先発医薬品でした。ベバシズマブおよびトラスツズマブ医薬品には Tween 20 が配合されており、インフリキシマブおよびリツキシマブ医薬品には Tween 80 が配合されています。
以前の試験では、弱塩基性生理的 pH(約 7.4)およびイオン強度(約 150 mM)を有するダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)を移動相として使用して、Waters Premier SEC カラムで有効な分離が実現することを実証しました3。 塩基性 pH 条件によりシリカベースの充塡粒子の安定性が低下する可能性があるため、移動相に DPBS を使用して Waters Premier カラムの寿命試験を実行しました。一方、ACQUITY Protein SEC カラムで 4 種の mAb すべてで効果的な分離を達成するには、1.5 倍の DPBS(pH 7.4、イオン強度約 225 mM)バッファーが必要でした。
実験方法
サンプルの説明
バイオシミラー mAb は、ベバシズマブ(Mvasi、25 mg/mL)、インフリキシマブ(Avsola、10 mg/mL)、リツキシマブ(Ruxience、10 mg/mL)で、トラスツズマブは、先発バイオ医薬品(Herceptin、21 mg/mL)を使用しました。すべてのサンプルを、希釈せずに、1 回以上の凍結融解サイクルを経た後に分析しました。
LC 条件
LC システム: |
ACQUITY UPLC H-Class Bio™、CH-30A APH カラムヒーター搭載 |
検出: |
ACQUITY UPLC TUV 検出器™ および 5 mm チタンフローセル(波長 280 nm、214 nm) |
バイアル: |
ポリプロピレン 12 × 32 mm スクリューネックバイアル(キャップ付きおよびスリット入り PTFE/シリコーンセプタム付き)、容量 300 µL、100 個入り(製品番号:186002639) |
カラム: |
XBridge Premier Protein SEC、250 Å、2.5 μm、7.8 × 300 mm カラム + mAb サイズバリアント標準試料(製品番号:176005070) ACQUITY Premier Protein SEC、250 Å、2.5 μm、4.6 × 300 mm カラム + mAb サイズバリアント標準試料(製品番号:176005072) ACQUITY UPLC Protein BEH SEC、250 Å、1.7 µm、4.6 × 300 mm カラムおよび BEH200 SEC タンパク質混合標準試料(製品番号:176003905) |
カラム温度: |
室温 |
サンプル温度: |
6 ℃ |
注入量: |
インフリキシマブおよびリツキシマブ:7.8 × 300 mm カラムでは 10 µL、4.6 × 300 mm カラムでは 4 µL ベバシズマブおよびトラスツズマブ:7.8 × 300 mm カラムでは 5 µL、4.6 × 300 mm カラムでは 2 µL |
流速: |
0.2 ~ 0.5 mL/分 |
移動相 A: |
リン酸緩衝生理食塩水(DPBS、10X)、ダルベッコ調剤 10X(Alfa Aesar、J61917)(0.1 µm 滅菌フィルターでろ過済み) |
移動相 B: |
Milli-Q 18 MΩ 水(0.1 µm 滅菌フィルターでろ過済み) |
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower™ 3(FR 4) |
結果および考察
XBridge Premier、ACQUITY Premier、ACQUITY BEH カラムの寿命評価
XBridge Premier Protein(7.8 × 300 mm)、ACQUITY Premier Protein (4.6 × 300 mm)、ACQUITY Protein BEH(4.6 × 300 mm)SEC カラムを使用して、4 種の mAb サンプルの 500 回を超える分析(1 mAb サンプルあたり約 125 回分析)で HMWS および LMWS 不純物の分離を評価しました。4 種の mAb サンプルすべてに臨界ミセル濃度(CMC)を超える濃度の界面活性剤が配合されています。ベバシズマブ(MVASI)およびトラスツズマブ(Herceptin)には 0.04% および 0.009% の Tween 20(CMC 0.006%)が配合されています5。 リツキシマブ(Ruxience)およびインフリキシマブ(AVSOLA)には 0.02% および 0.005% の Tween 80(CMC 0.001%)が配合されています5。 Premier Protein SEC カラムで使用した SEC 移動相は、弱塩基性の生理的 pH (約 7.4)およびイオン強度(約 150 mM)を有するダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)であり、ACQUITY Protein SEC カラムでは DPBS を 1.5 倍の濃度(イオン強度約 225 mM)で使用しました3。 この試験では、DPBS の 10 倍濃縮液を LC によりターゲット濃度まで希釈しました。さらに、DPBS の 10 倍濃縮液および Milli-Q 18 MΩ 水を 0.1 µm の滅菌フィルターでろ過してから、使用しました。
XBridge Premier カラムでのタイムポイント分析で使用した流速は、0.5 mL/分でした(分析時間 25 分)。中間タイムポイントは、mAb 注入の間に、流速 0.80 mL/分で実行しました(分析時間 10 分)。中間分析およびインフリキシマブとトラスツズマブのタイムポイント分析では、ACQUITY Premier カラムで 0.35 mL/分で実行しました。ベバシズマブおよびリツキシマブのタイムポイント分析においては流速を 0.20 mL/分に下げ、0.35 mL/分でこれらのサンプルの LMWS1 フラグメントで観測された不十分な分離を改善しました。mAb の LMWS1 ピークはメイン(モノマー)ピークの直後に溶出し、その結果、5σ でのシステム拡散が 10 µL を超える LC で、存在量約 0.5% 以下の場合は通常、カラム外拡散による分解能低下の影響をより受けやすくなります。6。 ACQUITY Premier カラムの寿命試験に使用した、アクティブプレヒーター(APH)付き CH-30A カラムヒーターを搭載した ACQUITY UPLC H-Class では、5σ でのシステム拡散は 17 µL でした。 同じように構成した ACQUITY UPLC H-Class でのすべての分析は、ACQUITY BEH SEC カラムで流速 0.35 mL/分で実行し、mAb 注入の間に中間タイムポイントを組み入れました。すべてのタイムポイントを 2 回分析しました。
図 1 に、XBridge Premier、ACQUITY Premier、および ACQUITY Protein BEH カラムで分離した mAb のフルスケールのクロマトグラムが示されています。3 本のカラムすべてで、全体的に同等のクロマトグラフィープロファイルが得られ、微量レベルの HMWS および LMWS 不純物が含まれていました。図 2 ~ 図 4 に、3 つのカラム寿命試験での代表的クロマトグラムの拡大図が示されています。目視で精査すると、全体的なクロマトグラフィープロファイルでは、HMWS および LMWS サイズバリアントの保持時間および分離は、部分的に分離されたショルダーピークを含めて、一貫しているようです。これらのサンプルでは、HMWS2 および HMWS1 が主に mAb の多量体型式、および mAb の二量体自己集合型を示すものであると考えられます。これらのサンプルでは、LMWS1 および LMWS2 として抗体のフラグメント化も観察されました。LMWS1 は主に mAb のヒンジ領域での単回切断により、共有結合した Fc ドメインと単一の Fab ドメインで構成される約 100 KDa のフラグメントが生じた結果と予測されます。一方、LMWS2 は主に単一の Fab ドメインおよび Fc ドメインで構成されています。
図 5 ~ 7 に、クロマトグラムで同定された、測定可能な HMWS および LMWS のサイズバリアントの相対ピーク面積の変化が示されています。ベバシズマブで観察された HMWS ショルダー(HMWSS)の相対ピーク面積もモニターしました。インフリキシマブの LMWS2 は一貫して存在量が低かったため(≤ 0.02%)、結果は報告されませんでした。さらに、すべてのサンプルについて LMWS1 の部分的分離をピークバレー比(P/V、USP Chapter <621>)を使用して評価しました。低存在量、および主なモノマーピークのテーリング上に溶出することから、LMWS1 の P/V は機能的カラムの効率低下の指標としての役割を果たします。
500 回を超える mAb 医薬品の注入にわたって、クロマトグラフィープロファイル、HMWS および LMWS 不純物の相対定量測定、LMWS1 の P/V は 3 本のカラムすべてで比較的一定のままでした。最も顕著な HMWS の変動は ACQUITY Premier カラムで観測され、そこでは、ベバシズマブの初期のタイムポイントで高レベルの HMWS1 が認められました。HMWS1 に関連する亜種の分離に主要な変化が観測されなかったため、この差は、サンプルの処理や分割に関連すると考えられます。さらに、ACQUITY Premier カラムおよび ACQUITY Protein BEH カラムでは、一部の mAb サンプルで LMWS1 の分離のわずかな低下が認められましたが、XBridge Premier カラムでの P/V 値は一貫していました。これは、2 種の ACQUITY カラムで観察された初期 P/V 値が低いためのようです。この値は、一般的な効率低下の影響を大きく受け、充塡粒子のサイズが小さいカラムはサンプルまたは移動相の中の微粒子の影響を受けやすい傾向があります。注目すべきこととして、3 本の寿命試験全体にわたって、一般的に LMWS1 の定量では変動がありませんでした。
上述したように、エチレン架橋ハイブリッド(BEH)SEC 粒子とヒドロキシ末端ポリエチレンオキシド(PEO)の結合(ジオールとの結合ではなく)により、カラムの界面活性剤による汚染の可能性が低減されることが予測されました。ただし、以前の試験とは対照的に、この試験ではジオール結合の ACQUITY Protein BEH により、Tween 20 または Tween 80 を配合した mAb サンプルの 500 回を超える分析後に印象的な性能が示されました4。 この初期試験で使用したリン酸塩および塩化ナトリウムの移動相(イオン強度約 200 mM、pH 6.8)が 1.5 倍の DPBS(イオン強度約 225 mM、pH 7.4)に類似しているため、以前の試験で観察された ACQUITY Protein BEH カラム性能の低下は、サンプルまたは移動相の微粒子が原因である可能性があります。
結論
以前に実証されたところでは、XBridge および ACQUITY Premier 250 Å SEC カラムに採用されたハードウェアおよび充塡粒子ケミストリーの技術的進歩により、タンパク質とカラムの非特異的相互作用が低レベルに抑えられるため、弱塩基性の生理的 pH (約 7.4)およびイオン強度(約 150 mM)を有する DPBS バッファーを用いた、医薬品タンパク質の HMWS および LMWS の分析が可能になります。DPBS バッファーを用いて、これらのカラムのカラム寿命性能を、前世代の ACQUITY Protein BEH カラム(200 Å)と共に評価しました。これらすべてのカラムは、高 pH(8.0)で長期間使用できるように設計されています。この寿命試験に使用した医薬品 mAb サンプルには Tween 20 または Tween 80 が配合されており、このサンプルは事前希釈なしに注入しました。
HMWS および LMWS の分離および定量に関連するカラム性能の有効性は、3 本のカラムすべてで治療用 mAb サンプルの 500 回を超える分析にわたって維持されました。これらの結果によって XBridge Premier SEC、ACQUITY Premier SEC、ACQUITY Protein BEH カラムで、ポリソルベート界面活性剤が配合されたタンパク質サンプルに生理的 pH を持つ移動相を使用することによって、カラム寿命の延長を達成できることが実証されました。粒子径 1.7 µm または 2.5 µm が充塡されたこれらのカラムの寿命性能を向上させるための追加の検討事項は、移動相を 0.1 µm 滅菌フィルターでろ過すること、およびサンプルに感知できるレベルの顕微鏡で見える微粒子やより大きい微粒子(≥ 0.1 µm)が含まれていないことを確認することです。開発サンプルに顕微鏡で見える微粒子やより大きい微粒子が大量に含まれている場合は、ガードカラム(MaxPeak Premier Protein SEC ガード、製品番号:186009969)、または遠心分離などのサンプル前処理を使用することを推奨します7。
参考文献
- Moussa EM, Panchal JP, Moorthy BS, Blum JS, Joubert MK, Narhi LO, Topp EM.Immunogenicity of Therapeutic Protein Aggregates.J Pharm Sci. 2016 Feb;105(2):417–430.
- Liu, Haiyan, Yutong Jin, Rashmi Menon, Erin Laskowich, Lisa Bareford, Phil de Vilmorin, Dave Kolwyck, Bernice Yeung, Linda Yi.Characterization of Polysorbate 80 by Liquid Chromatography-Mass Spectrometry to Understand Its Susceptibility to Degradation and Its Oxidative Degradation Pathway.Journal of Pharmaceutical Sciences (2021).
- Stephan M. Koza, Hua Yang, and Ying Qing Yu.Modern Size-Exclusion Chromatography Separations of Biosimilar Antibodies at Physiological pH and Ionic Strength.Waters Application Note 720007484, 2022.
- Improving the Lifetime of UPLC Size-Exclusion Chromatography Columns using Short Guard Columns.Waters Technology Brief 720004034, 2011.
- Singh, S.M., Bandi, S., Jones, D.N. and Mallela, K.M., 2017.Effect of Polysorbate 20 and Polysorbate 80 on the Higher-Order Structure of a Monoclonal Antibody and Its Fab and FC Fragments Probed Using 2D Nuclear Magnetic Resonance Spectroscopy. Journal of Pharmaceutical Sciences, 106(12), pp.3486–3498.
- Stephan M. Koza, Corey Reed, Weibin Chen, Impact of LC System Dispersion on the Size-Exclusion Chromatography Analysis of Monoclonal IgG Antibody Aggregates and Fragments: Selecting the Optimal Column Configuration for Your Method Waters Application Note 720006336, 2019.
- Waters Corporation, Guide to Size-Exclusion Chromatography (SEC) of mAb Aggregates, Monomers, and Fragments, Waters Brochure, 720006067.2020.
720007523JA、2022 年 2 月