• アプリケーションノート

Waters XBridge Premier Protein SEC 250 Å、2.5 µm カラムを使用したモノクローナル抗体および抗体薬物複合体の分離性能の改善

Waters XBridge Premier Protein SEC 250 Å、2.5 µm カラムを使用したモノクローナル抗体および抗体薬物複合体の分離性能の改善

  • Kenneth D. Berthelette
  • Jennifer M. Nguyen
  • Lavelay Kizekai
  • William J. Warren
  • Steve Shiner
  • Waters Corporation

要約

モノクローナル抗体および抗体薬物複合体(ADC)は、過去 20 年にわたってバイオ医薬品として使用されてきました。2020 年の最も収益が大きい医薬品上位 50 種のうち、11 種が mAb で、この内の上位 2 種としてヒュミラとキイトルーダが含まれていました1。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、タンパク質のサイズバリアントを特性解析の一環として分離するための主要な手法の 1 つです。ただし、タンパク質と液体クロマトグラフィー(LC)カラムハードウェアおよび/または充塡剤の間の望ましくない二次相互作用により、得られるデータの質が低下する可能性があります。Waters XBridge Premier Protein SEC 250 Å、2.5 µm カラムは、二次相互作用が低減するように設計されています。3 種類のタンパク質標準を Waters XBridge Premier Protein SEC 250 Å、2.5 µm カラムとシリカベースの SEC(dSEC-2)カラムで分離したところ、これらの応用分野では Waters MaxPeak Premier SEC テクノロジーにより改善が得られることが示されました。 

アプリケーションのメリット

  • mAb 標準品 2 種に存在する低分子量分子種(LMWS)の USP 分離度および検出の改善
  • 3 種類の標準品について、HMWS のモノマーに対する相対ピーク面積(割合)が、シリカベースのカラムと比較して改善
  • 3 種類の標準品について、主要な mAb モノマーピークの 5σ 効率が向上
  • リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を使用して、SEC 溶離液の分析法開発が簡素化

はじめに

治療用生体分子は、その合成、特性解析、製造、有効性の進歩により、急速な成長を遂げています。2021 年に米国食品医薬品局(FDA)が承認した 50 種の医薬品のうち、16 種がバイオ医薬品でした2。 対象化合物を適切に特性解析し、凝集体およびフラグメントを確実に追跡するのに、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)が利用できます。SEC は、1950 年代に Wheaton と Bauman が初めて導入した、流体力学半径に基づいて化合物を分離する手法です3。それ以降、粒子の一貫したポアサイズや新しいポアサイズの製品、再現性の高い粒子製造工程や試験体制など、固定相の設計および製造の改善がみられたことで、SEC の信頼性および正確性が向上するとともに、新規化合物に対する分析法開発およびバリデーションが簡素化しました。

既存の SEC 分析法は、分析種とカラムハードウェアや SEC 充塡された粒子などの分離プラットホームとの間の相互作用の影響を特に受けやすくなっています。このような相互作用は、アッセイ条件、対象分析種、システム設定によって、イオン性の場合もあれば疎水性の場合もあります。生物学的分析種の複雑さにより、様々な二次的相互作用が生じる場合があり、ピーク形状の不良、幅広いピーク、更には凝集体やフラグメントの回収率が低下することがあります。酸性基は、液体クロマトグラフィー(LC)システムの金属表面と相互作用し、ピーク面積が減少する原因となることがあります4-6。 低分子種における分析種、金属製カラム、システムハードウェアの間のイオン性相互作用を軽減するため、2020 年に MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)が導入されました。タンパク質はイオン性相互作用が発生する可能性が非常に高いため、追加の特別な検討が必要です。また、充塡剤の活性部位でのイオン性相互作用および疎水性相互作用を軽減する対策も講じる必要があります。そのため、新規エチレン架橋ハイブリッド粒子とカバー率の高いヒドロキシ末端を持つポリエチレンオキシド(BEH-PEO)結合を、新しい親水性 MaxPeak HPS ハードウェアと組み合わせることで、望ましくない二次的相互作用の問題に対する解決策を提供しています7。 この試験では、Agilent 1260 Infinity Bio システムを使用して、Waters XBridge Premier Protein SEC 250 Å 2.5µm カラムの性能を、200Å 2.5µm シリカベース(dSEC-2)カラムと比較しています。 

実験方法

サンプルの説明

Waters mAb サイズバリアント標準品(製品番号:186009429)を 70 µL の水に再溶解し(2.28 mg/mL)、数秒間ボルテックスしてから注入しました。ヒスチジン配合バッファー(12.5 mM ヒスチジン/12.5 mM ヒスチジン-HCl)で調製した NISTmAb レファレンス物質 8671 の作業溶液(2 mg/mL)。抗体薬物複合体(ADC)であるトラスツズマブエムタンシン(KADCYLA)。作業溶液(5 mg/mL)は Milli-Q 水中に調製。 

LC 条件

LC システム:

Agilent 1260 Infinity Bio-Inert システムクオータナリー LC、HiP ALS(高速オートサンプラー)、およびバイオイナートフローセル(10 mm、13 µL)付きの DAD。5σ システム拡散は 37 µL

検出:

UV @ 280 nm、5 Hz

カラム:

XBridge Premier Protein SEC 250 Å、7.8 × 300 mm、2.5 µm

比較用カラム:dSEC-2 200 Å、7.8 × 300 mm、3 µm

カラム温度:

室温

サンプル温度:

8 ℃

注入量:

10.0 µL(mAb 標準)、7.2 µL(KADCYLA)

流速:

0.58 mL/分

アイソクラティック移動相:

2x リン酸緩衝生理食塩水(20 mM リン酸、276 mM NaCl、5.4 mM KCl pH 7.4)

サンプルマネージャー洗浄溶媒:

18.2 MΩ 水

サンプルマネージャーパージ溶媒:

18.2 MΩ 水

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

Empower 3 Feature Release 4

結果および考察

ダイオードアレイ検出器(DAD)を搭載した Agilent 1260 Infinity Bio システムにバイオイナートフローセル(10 mm、13 µL)を装備しました。試験の前に、システムのバンド拡張をウラシルの注入を使用して評価しました。ピーク幅 4.4%(5σ)を使用して、拡散は 37 µL と測定されました。各被験カラムをアッセイ条件になるまで 40 分間平衡化してからサンプルを注入しました。

図 1.  2 種類のカラムでの ADC の分析。2x PBS 水溶液でのアイソクラティック分離(0.57 mL/分)、280 nm での UV 検出。 

ADC トラスツズマブエムタンシン(KADCYLA)の分離を図 1 に示します。両方のカラムで、高分子分子種(HMWS)がメインピークから十分に分離されています。XBridge Premier Protein SEC カラムと比較して、他社製 dSEC-2 カラムではわずかにピーク幅が広く、保持時間も長くなっています。保持時間の増加は、2 つの相のポアサイズの違いによるものと考えられます。HMWS のピーク面積割合など、分離において重要な特性を表 1 に示します。XBridge Premier Protein SEC カラムでは、面積割合が HMWS(1.72%)で、他社製 dSEC-2 カラム(1.51%)よりもわずかに高くなりました。これらの値はいずれも、この分子種の範囲と一致しており、他社製カラムではかろうじて範囲内に収まっていました。ウォーターズ製カラムでは、メインピークの半値幅での分離能が他社製カラムより高いという結果でした(ウォーターズ製カラム 2.68、他社製カラム 1.71)。製品の安全性と有効性を保証するには、開発・有効性試験から製造時の品質管理に至るまで、製品のライフサイクル全体を通じて信頼性の高い HMWS の測定が重要です。

XBridge Premier Protein SEC カラムを使用することで、図 2 の Waters mAb サイズバリアント標準品の分析においても同様の改善がみられました。Waters mAb サイズバリアント標準品には、HMWS だけでなく LMWS やフラグメントも含まれます。NISTmAb レファレンス物質(8671)に基づいて、Waters mAb サイズバリアント標準品には IdeS 消化フラグメントの含量が多く、約 100 kDa の分子種が総 mAb の約 1% を占めています。そのため、100 kDa フラグメントには、近接して溶出し、完全には分離しない加水分解物および IdeS 消化分子種の両方が含まれるため、ここではこれを LMWS1&2 と呼びます8

図 2.  2x PBS 水溶液の移動相、流速 0.57 mL/分、UV 検出 280 nm を使用して実施した XBridge Premier Protein SEC 250Å および他社製シリカ dSEC-2 カラムでのアイソクラティック分離における Waters mAb サイズバリアント標準品の分析。 

XBridge Premier Protein SEC カラムにより、メインピークが LMWS1&2 のピークから効果的に分離されました。一方、他社製カラムでは、メインピークのテールにショルダーが現われたのみでした。モノマー(約 150 kDa)の分子量は 1 番目のフラグメント(約 100 kDa)の 2 倍未満であり、はるかに存在量が低い LMWS はモノマーピークのテール部分に溶出することから、この標準試料の分離は非常に困難です。標準のガイドラインを逸脱せず、LMWS1&2 をメインピークから分離すると同時に HMWS の回収率を高めることで、より徹底したサンプルの特性解析が可能になります。表 1 に示すように、XBridge Premier Protein SEC カラムでは、他社製 dSEC-2 カラム(2.28%)と比べ、その他の改善点に加えて、HMWS の面積割合が大きくなっています(2.47%)。全体として、XBridge Premier Protein SEC カラムで達成された分離の効率は、他社製カラムでの結果を上回っており、特に HMWS と LMWS1&2 についてより優れた結果が得られました。

最後に分析した標準試料は NISTmAb レファレンス物質(RM)8671 でした。両方のカラムで得られたこの標準試料のクロマトグラムを図 3 に示します。この標準試料には HMWS 並びに LMWS1 や LMWS4 のマイナーピークが含まれており、LMWS2 フラグメントは含まれていません。クロマトグラムに基づくピーク同定は、Waters mAb サイズバリアント標準品の取扱説明書に示されています7

図 3.  2x PBS 水溶液の移動相、流速 0.57 mL/分、UV 検出 280 nm を使用して実施した XBridge Premier Protein SEC 250Å および他社製シリカ dSEC-2 カラムでのアイソクラティック分離における NISTmAb レファレンス物質 8671 の分析 

XBridge Premier Protein SEC カラムで相対存在量が低い(0.26%) LMWS1 は、メインピークからの分離が部分的です。そのため、このピークの半値幅での USP 分離度は計算できませんでした。一方、dSEC-2 カラムでは LMWS1 ピークが現れず、Waters mAb 標準品の場合と類似したメインピークの小さいショルダーとして現われました。更に、XBridge Premier Protein SEC カラムでは LMWS4 の S/N が改善されており、定量性が改善する可能性があります。NISTmAb RM 8671 の分離の全詳細を、表 1 に示します。 

表 1.  XBridge Premier Protein SEC 250 Å および他社製シリカ dSEC-2 カラムでの 3 種の標準試料すべての分離のデータをまとめた表。開始時 P/V 比以外の値はすべて Empower CDS で計算したものです。開始時 P/V 比は、頂点のピーク高さを LMWS1 ピークとメインピーク間の谷の高さで割って計算しました。5σ はピーク高さ 4.4% で測定した理論段数です。

最も重要なパラメーターに関し、XBridge Premier Protein SEC カラムでは、3 種のサンプルすべてについて予測範囲内の良好で正確な結果が得られました。他社製カラムでは、ADC サンプルに関して HMWS の予測ピーク面積比の範囲外であり、NIST mAb および Waters サイズバリアント標準品に関しては、かろうじて予測範囲内に入っていました。HMWS のピーク面積割合は、各標準品について、XBridge Premier Protein SEC カラムの方が分離の合計面積で最大 0.53% 高いという結果になっています。HMWS の信頼性の高い定量および回収が、バイオ医薬品の mAb の製造および品質管理に重要です。HMWS の面積割合は標準品のパラメーターの範囲内でしたが、面積割合が低いことから、最終製品中の分子種を正確に反映していないことが示唆されます。重要な点は、メインピークからの LMWS1&2 の分離です。XBridge Premier Protein SEC カラムでは、メインピークから LMWS1&2 をより効果的に分離することができます。これにより、より信頼性の高いサンプルの特性解析が行えると考えられます。このピークが十分に分離されなければ、フラグメントピークのピーク面積割合が本来よりも低くなり、特性解析が正しく行われず、全体的な結果が不良になります。

結論

バイオ医薬品化合物の SEC 分析は、医薬品タンパク質の正確な特性解析とプロセスモニタリングのための有用な手法ですが、望ましくない二次的相互作用のために結果が混乱する可能性があります。2 種類の粒子サイズが用意されている Waters XBridge および ACQUITY Premier Protein SEC 250 Å カラムは、特許取得済みのカラムケミストリーおよびタンパク質分離用に最適化した親水性 MaxPeak Premier HPS ハードウェアを採用することにより、二次的相互作用が軽減するように特別に設計されています。この新たな設計により、3 種類の標準品の分析において、他社製カラムと比較して HMWS と LMWS がより良好に分離するようになりました。XBridge および ACQUITY Premier Protein SEC 250 Å カラムを使用することで、バイオ医薬品化合物の一貫した特性解析が行え、重要な情報および重要なアッセイ結果に対する確信が得られます。

参考文献

  1. 50 of 2020’s Best-selling Pharmaceuticals.Drug Discovery and Development.Accessed 3-Jan-2021.https://www.drugdiscoverytrends.com/50-of-2020s-best-selling-pharmaceuticals/
  2. Novel Drug Approvals for 2021.FDA website.Accessed 4-Jan-2021.https://www.fda.gov/drugs/new-drugs-fda-cders-new-molecular-entities-and-new-therapeutic-biological-products/novel-drug-approvals-2021
  3. Wheaton RM, Bauman WC.Non-Ionic Separations with Ion Exchange Resins.Annals of the New York Academy of Sciences.1953.159-176.
  4. Kellett J, Birdsall RE, Yu YQ.Increasing Recovery of Phosphorylated Peptides Using ACQUITY Premier Technology Featuring MaxPeak High Performance Surfaces.Waters Application Note 720007198EN, 2021.
  5. DeLano M, Walter TH, Lauber M, Gilar M, Jung MC, Nguyen J, Boissel C, Patel AV, Bates-Harrison A, Wyndham K. Using Hybrid Organic-Inorganic Surface Technology to Mitigate Analyte Interactions with Metal Surfaces in UHPLC.Analytical Chemistry 2021 5773–5781.
  6. Jung M, Lauber M. Demonstrating Improved Sensitivity and Dynamic Range with MaxPeak High Performance Surface (HPS) Technology: A Case Study in the Detection of Nucleotides.Waters Application Note.720007053EN, 2021. 
  7. Kizekai L, Lauber M. Waters ACQUITY and XBridge Premier Protein SEC 250 Å Columns: A New Benchmark in Inert SEC Column Design.Waters Application Note.720007493EN, 2022.
  8. Waters mAb Size Variant Standard Care and Use Manual, 720006811EN, 2022.

謝辞

試験パラメーターを開発していただいた Pamela Irenata 氏に感謝いたします。

装置の使用およびセットアップについてご支援いただいた Mark Trahan 氏および Andrew Steere 氏に感謝いたします。 

720007528JA、2022 年 2 月

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