Waters XBridge Premier Protein SEC カラムを使用したモノクローナル抗体分析における、サイズ排除クロマトグラフィープラットホーム分析法の汎用性の拡張
要約
治療用タンパク質中における自己会合、凝集、および断片化によって生じたサイズバリアント不純物は、免疫原性の反応または活性に有害な影響を及ぼす可能性があるため、一般に、臨床前試験および臨床試験、ならびに承認済み医薬品の両方において、サイズバリアント不純物の濃度レベルは重要品質特性(CQA)と見なされています。多くの場合、これらの不純物をモニターするために導入される方法としてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)が挙げられます。多くのバイオ医薬品開発関連企業は、開発パイプラインにモノクローナル抗体などの類似の候補薬を複数抱えているため、可能な限り効果的なプラットホーム分析法を採用することで、分析法の使用、文書化、スタッフのトレーニング、ラボのストック確保の点において利点が得られます1,2。 単一の移動相およびカラムを使用するプラットホーム SEC 分析法は、常に高分解能で信頼性の高い分離を提供できる必要があります。そのため、SEC カラムにより、より広範な移動相条件でこれらの能力が得られるようになれば、プラットホーム分析法を使用して分析できる化合物の数が増えると考えられます。更に、特定のタンパク質に対してプラットホーム分析法の移動相組成の再最適化が必要となる場合、より汎用性の高い SEC カラムがあれば、分析法開発を効率化できます。
この試験では、pH 範囲 5.8 ~ 7.6 にわたる 20 mM リン酸ナトリウムバッファー(NaPi)および 50 mM ~ 400 mM の範囲の塩化ナトリウム濃度を使用して、現在入手可能なバイオシミラーモノクローナル抗体の SEC 分離の有効性を評価しました。これらの非常に多様な SEC 溶離液を、Waters XBridge Premier Protein、SEC 250 Å、2.5 μm カラム、および前世代の Waters BioResolve SEC mAb、200 Å、2.5 μm カラムを用いて評価しました。
アプリケーションのメリット
- 幅広い pH 範囲(5.8 ~ 7.6)およびイオン強度(約 70 mM ~ 約 450 mM)のバッファーを用いる SEC を使用した、タンパク質医薬品サイズバリアントの評価における SEC の機能と安定性の向上
- 高速液体クロマトグラフィー(HPLC)対応 SEC カラムで、mAb の凝集体およびフラグメントのサイズバリアントの高分解能の分離を実現
- Auto•Blend Plus を備えた Empower を使用することで、QbD 分析法開発と頑健性試験が容易に
- プラットホーム型 SEC 分析法の汎用性が向上
はじめに
最近開発された Waters XBridge Premier Protein SEC、250 Å、2.5 μm カラムでは、MaxPeak Premier High Performance Surfaces(HPS)ハードウェアとヒドロキシ末端ポリエチレン酸化物(PEO)結合 BEH(エチレン架橋型ハイブリッド有機シリカ)BEH-PEO 粒子を使用することで、さまざまな分析種タンパク質の非特異的吸着が大幅に低減します。非修飾ステンレススチール製ハードウェアに充塡した現行の Waters ジオール結合 BEH SEC カラムに、このような変更を加えた目的は、幅広い分析種に対応し、弱塩基性の pH 標準液を含め、幅広い移動相条件を使用して展開できる、汎用性に優れた高効率 SEC カラムを提供するためです。ウォーターズでは最近、XBridge Premier Protein SEC カラムおよび ACQUITY Premier Protein SEC カラム(粒子径はそれぞれ 2.5 μm および 1.7 μm)で、架橋デキストランアガロース粒子を非金属カラムハードウェアのカラムに充塡した SEC カラムと、弱塩基性の生理的 pH(約 7.4)および生理的イオン強度(約 150 mM)の Dulbecco のリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)の SEC 移動相を用いた場合に、同等の不活性性を示すことを実証しました3。 また、同じ試験において、BEH-ジオール粒子をステンレススチール製ハードウェアに充塡した SEC カラムと Premier SEC カラムを比較すると、分析法の頑健性の点において若干改善されていることが分かりました。
この試験では、XBridge Premier Protein SEC カラムのプラットホーム性能と汎用性を、現在の Waters ジオール結合 BEH SEC カラム(Waters BioResolve SEC mAb、200 Å、2.5 μm)と比較しました。Waters ジオール結合 BEH SEC カラムテクノロジーにおいても、プラットホーム対応の SEC カラムを実現しています4。 米国で現在市販されている 4 種類のバイオシミラーモノクローナル抗体製剤(ベバシズマブ、インフリキシマブ、リツキシマブ、トラスツズマブ)を、幅広い pH 範囲(5.8 ~ 7.6)および塩化ナトリウム濃度(50 mM ~ 400 mM)の 20 mM リン酸ナトリウムバッファー(NaPi)を使用して、完全実施要因計画の Quality by Design(QbD)アプローチで評価しました。広範な mAb およびその他の組換えタンパク質医薬品製剤のバッファーにおいて、非常に多様な SEC 溶離液により、pH および等張性の点で対応しています。
実験方法
サンプルの説明
バイオシミラー mAb は、ベバシズマブ(Mvasi、25 mg/mL)、インフリキシマブ(Avsola、10 mg/mL)、リツキシマブ(Ruxience、10 mg/mL)で、トラスツズマブは、先発バイオ医薬品(Herceptin、21 mg/mL)を使用しました。すべてのサンプルを、希釈せずに、1 回以上の凍結融解サイクルを経た後に分析しました。
LC 条件
LC システム: |
CH-30A APH カラムヒーター搭載 ACQUITY UPLC H-Class Bio |
検出: |
ACQUITY UPLC TUV 検出器、5 mm チタンフローセル装着、 |
波長:280 nm および 214 nm |
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バイアル: |
ポリプロピレン 12 × 32 mm スクリューネックバイアル、キャップおよび |
スリット入り PTFE/シリコーンセプタム付き、容量 300 μL、100 個入り(製品番号:186002639) |
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カラム: |
XBridge Premier Protein SEC、250 Å、2.5 μm、7.8 × 300 mm カラム Plus mAb サイズバリアント標準試料(製品番号:176005070) |
BioResolve SEC mAb、200 Å、2.5 μm、7.8 mm × 300 mm(製品番号:176004595) |
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カラム温度: |
25 ℃ |
サンプル温度: |
6 ℃ |
注入量: |
2 ~ 4 µL |
流速: |
0.75 mL/分 |
移動相 A: |
100 mM 一塩基性リン酸ナトリウム一水和物(NaH2PO4 H2O)、 |
Sigma–Aldrich BioXtra(71507)(0.1 μm 滅菌ろ過済み) |
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移動相 B: |
100 mM 二塩基性リン酸ナトリウム二水和物(Na2HPO4 2H2O)、 |
Sigma-Aldrich BioUltra(71643)(0.1 μm 滅菌ろ過済み) |
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移動相 C: |
1.00 M 塩化ナトリウム(NaCl) BioUltra(71376)(0.1 μm 滅菌ろ過済み) |
移動相 D: |
Milli-Q 18 MΩ 水(0.1 μm 滅菌ろ過済み) |
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア |
Empower 3(FR 4)、Auto•Blend Plus |
結果および考察
pH および NaCl 濃度が XBridge Premier Protein SEC および BioResolve SEC mAb カラムの性能に及ぼす影響
フルレスポンス表面実験設計を用いて、BioResolve SEC mAb カラムまたは XBridge Premier SEC カラムを使用した場合の、4 種類のバイオシミラー mAb サンプル(ベバシズマブ、インフリキシマブ、リツキシマブ、トラスツズマブ)の SEC 分離性能に対する pH および NaCl 濃度の影響を評価しました。両方のカラムについて、流速 0.75 mL/分でカラムサイズ 7.8 速 300 mm を評価しました。濃縮リン酸ナトリウム(100 mM NaH2PO4 および 100 mM Na2HPO4)と塩化ナトリウム(1.00 mM NaCl)を使用し、Empower および Auto•Blend Plus を用いて、pH 値 5.8、6.4、7.0、7.6 および NaCl 濃度 50 mM、100 mM、200 mM、400 mM の合計 16 種の 20 mM リン酸ナトリウムバッファーを作製しました。これらのバッファーで予測されるイオン強度を表 1 に示します。
ベバシズマブ(Mvasi、25 mg/mL)およびトラスツズマブ(Herceptin、21 mg/mL)では 2.0 μL、インフリキシマブ(Avsola、10 mg/mL)およびリツキシマブ(Ruxience、10 mg/mL)では 4.0 μL を注入しました。pH 条件は 5.8、7.6、6.4、7.0 の順に分析し、各 pH において NaCl 濃度 200 mM、100 mM、400 mM、50 mM の順に分析しました。各条件につき 1 回のみ分析を行い、各条件で分子量標準を評価した結果、分析の過程全体にわたるカラム性能の一貫性が確認されました。BioResolve SEC mAb カラムの結果を図 1、3、6、7 に、XBridge Premier Protein SEC カラムの結果を図 2、4、6、8 に示します。これらのサンプルでは、HMW2 と HMW1 は主に、mAb の多量体型および mAb の二量体自己会合型に対応すると推定されます。これらのサンプルでは、抗体の断片化(LMW1 および LMW2)も見られました。LMW1 は主に mAb のヒンジ領域での単回切断により、共有結合した Fc ドメインと単一の Fab ドメインで構成される約 100 KDa のフラグメントが生じた結果と予測されます。一方、LMW2 は主に単一の Fab ドメインおよび Fc ドメインで構成されています。
評価した各 mAb のデータ分析には、HMW2、HMW1、LMW2、LMW1 の相対ピーク面積と、ピークバレー比(P/V)によって決定した LMW1 の分解能を含めました。ベバシズマブの HMW のショルダーピーク(HMWSh)の追加の評価などは行いませんでした。また、インフリキシマブの HMW2 または LMW2 では、サイズバリアントの存在量と(<0.02%)シグナル対ノイズ比(<2)が低いため、評価していません。各 mAb とカラムの組み合わせの有効な動作範囲を評価するため、観察された HMW および LMW バリアントの分離および相対ピーク面積に関して見た目が類似したクロマトグラムを統合し、HMW 型および LMW 型の相対量の中央値を決定しました。HMW1 と LMW1 のピーク面積の割合が中央値の 10% 以内である場合に、pH と NaCl 濃度に関するバッファー組成が HMW1 と LMW1 に対して有効とみなしました。また、一貫性の高いドロップ-ベースライン統合のためには、LMW1 のピークバレー(P/V)分離が 1.05 を超えることが必要でした。HMW2 と LMW2 の存在量が少ないため、これらの分離を有効とみなすには、ピーク面積の割合が中央値の 20% 以内であることが必要でした。2 つのカラムの汎用性を視覚化するため、mAb の結果をまとめてコンパイルを作成しました。1 つ目のコンパイル(図 9)では、HMW2(該当する場合)、HMW1、および LMW2(該当する場合)がすべて有効に定量できた mAb の数を、NaCl 濃度と pH 条件ごとに合計し、ヒートマップとして示しています。2 つ目のコンパイルでは、HMW2、HMW1、LMW2 に加えて、LMW1 の有効な分析も必要になりました(図 10)。
BioResolve SEC mAb カラムと XBridge Premier Protein SEC カラムについて生成したヒートマップを比較すると、合計 HMW(HMW2 および HMW1)および LMW2 サイズバリアントの分析で、動作範囲において XBridge Premier カラムの方が大幅に優れていることが分かりました(図 8)。また、LMW2 の分析に失敗したすべての条件で HMW の分析も失敗していることから、図 8 のヒートマップは、HMW の分析のみに使用する SEC 分析法にも適用されます。
LMW1 を測定するための追加要件を加えたら、両方のカラムで成功した分析の数が減少しました(図 9)。最も注目すべき観察結果は、XBridge Premier SEC カラム(図 2)を使用して、すべての pH レベルで 400 mM NaCl を用いた場合におけるベバシズマブの LMW1 の分析の失敗であり、LMW1 の定量は要件を満たしていましたが、P/V 比は要件(1.05)を下回っていました。XBridge Premier Protein SEC カラムでのトラスツズマブのモノマーおよび LMW1 の溶出プロファイルや保持時間は、200 mM NaCl から 400 mM NaCl まで変化しなかったことから、粒子または結合相の収縮または膨張による粒子孔径などのカラム特性の変化は、この失敗の要因から除外されます。したがって、XBridge Premier SEC カラムでのベバシズマブの最大 P/V(1.33)がこの試験で観察された最も低い P/V 値であり、これが、400 mM NaCl での非特異的相互作用のわずかな増加、タンパク質立体構造の変化、あるいはその両方と組み合わさって P/V 値の不良の大きな原因となった可能性があります。
全般的に、イオン強度が強く(NaCl 濃度が高く)、移動相 pH が高い場合には、2 つの SEC カラムの性能は類似していました。これらの性能特性は、同じバイオシミラーモノクローナル抗体の分析において、これらのカラムを用い、生理的な pH(約 7.4)およびイオン強度(約 150 mM)の Dulbecco のリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)を SEC 溶離液として使用した以前の結果と一致しています3。 また、有効な条件下で分析した場合、両方のカラムにおいて、HMW および LMW サイズバリアントについて同等で再現性のある定量結果が得られました(図 11)。一方、BioResolve SEC カラムと比較して、XBridge Premier SEC カラムでは、低 pH および低イオン強度の移動相を使用した場合にカラムの有用性が大幅に改善し、望ましくないイオン性相互作用のレベルが低いカラムであることが示されました。XBridge Premier SEC カラムは、使用できる pH 範囲が広く、イオン性相互作用のレベルが低いことから、多くの治療用 mAb やその他のタンパク質ベースの医薬品が配合されている生理的な弱塩基性または弱酸性 pH の移動相条件を用いることができ、カラムを生理的条件または製剤のバッファーに対応するイオン強度で操作できることから、汎用性の高いプラットホーム SEC 分析法の開発に利用できる可能性があります。
結論
XBridge Premier Protein SEC、250 Å、2.5 μm、7.8 mm × 300 mm カラムの mAb SEC プラットホーム分析法の機能を評価しました。このカラムのハードウェアおよび充塡パーティクルケミストリーの技術的進歩により、以前、mAb SEC プラットホーム分析法に対応していることが示されている前世代のジオール結合 BEH SEC カラムと比較して、非特異的タンパク質-カラム相互作用が低く、ハイスループット分析が可能なカラムの作製に成功しました。BEH-PEO 粒子の塩基性 pH での機能と安定性の改善が実証されたことで(推奨 pH 範囲: 2.5 ~ 8.0)、治療用薬剤中の多くのタンパク質の生理的 pH(約 7.4)または弱酸性 pH(約 6)および生理的イオン強度(150 ~ 200 mM)のバッファーを用いた SEC を使用して、mAb やその他のタンパク質の HMW 不純物および LMW 不純物を、タンパク質の違いにあまり影響されず評価することが可能になります。
XBridge Premier Protein SEC 250 Å、2.5 μm、7.8 mm × 300 mm のカラムケミストリーにより、プラットホーム型 SEC 分析法の汎用性および迅速なカスタム分析法開発が可能になると同時に、HPLC、UHPLC、UPLC クロマトグラフィーシステムに適合する 7.8 mm のカラム内径により、ルーチン分析法の導入と移管が更に簡素化できます5,6 。更に、XBridge Premier SEC カラムと同等の不活性度であることが知られている ACQUITY Premier Protein SEC、250 Å、1.7 μm、4.6 mm × 300 mm カラムを低拡散 UPLC クロマトグラフィーシステムに導入すると、同等の結果が得られ、約 30% のサンプルスループットの向上が見込まれます。
参考文献
- Wang X, An Z, Luo W, Xia N, Zhao Q. Molecular and Functional Analysis of Monoclonal Antibodies in Support of Biologics Development.Protein Cell.2018;9(1):74–85.
- Moore, Rowan.Leveraging Platform Analytical Methods for Biopharma QbD.Pharma Manufacturing. https://www.pharmamanufacturing.com/articles/2017/leveraging-platform-analytical-methods-for-biopharma-qbd/
- Stephan M. Koza, Hua Yang, Ying Qing Yu.Modern Size-Exclusion Chromatography Separations of Biosimilar Antibodies at Physiological PH and Ionic Strength, Waters Application Note, 720007484EN, 2022.
- Renee Yang, Yun Tang, Bing Zhang, Xuemei Lu, Alice Liu, Yonghua Taylor Zhang.High Resolution Separation of Recombinant Monoclonal Antibodies by Size-Exclusion Ultra-High Performance Liquid Chromatography (SE-UHPLC), Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis, Volume 109, 2015, Pages 52–61.
- Stephan M. Koza, Corey Reed, Weibin Chen.Impact of LC System Dispersion on the Size-Exclusion Chromatography Analysis of Monoclonal IgG Antibody Aggregates and Fragments: Selecting the Optimal Column Configuration for Your Method, Waters Application Note 720006336EN, 2019.
- Pamela C. Iraneta, Stephan M. Koza.High Resolution Size-Exclusion Chromatography Separations of Mab Aggregates, Monomers, and Fragments Using BioResolve SEC mAb Columns on UPLC, UHPLC, and HPLC Chromatography Systems, Waters Application Note 720006956EN, 2020.
720007500JA、2022 年 1 月