ラボ間試験を用いた、EU 飲料水指令への準拠を確認するための、飲料水中の PFAS を測定する UPLC-MS/MS メソッドの性能の評価
要約
ウォーターズでは以前に、タンデム型質量分析(LC-MS/MS)を搭載したダイレクト注入液体クロマトグラフィーに基づき、飲料水中のペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)を測定する分析法を開発しました。これは、EU 飲料水指令改正案への準拠の確認に適していました。このアプリケーションブリーフでは、PFAS 分析キット、アイソレーターカラム、Xevo™ TQ-XS タンデム四重極質量分析計(UniSpray™ イオン源付き)を搭載した ACQUITY UPLC™ システムを使用したラボ間試験によって達成された、この分析法の性能の評価が示されています。20 種の PFAS が含まれているレファレンス物質が、ネイティブ PFAS 化合物と同位体標識アナログが含まれている標準溶液と共に、7 つの Waters™ ラボに送付されました。レファレンス物質は受け取り後に希釈され、PFAS 化合物濃度 0.01 µg/L の試験サンプルを作成しました。ほとんどのラボで汚染が発生したため、ペルフルオロブタン酸(PFBA)については結果を評価できませんでした。他の PFAS については、分析法の真度は 96 ~ 110% の範囲内と判定されました。各ラボでの室内併行精度および室間再現精度はいずれの場合も、RSD は 20% 未満でほぼ一致していることが観察されました。
アプリケーションのメリット
- この分析法は、PFAS 分析の経験がさまざまなレベルの 7 つのウォーターズのラボで、正常に実施されました。
- このラボ間試験で実証されたこの分析法の性能により、簡単な導入、規制遵守のための飲料水中の PFAS 検査への適合性について信頼が得られる
- お客様の成功を保証するための当社の成果ベースのサポートモデルを利用して、導入をサポート
はじめに
「永遠の化学物質」とも呼ばれる PFAS が、多くの国の環境で検出されています。これらが環境中に幅広く存在することと、人々の健康および環境に悪影響を及ぼすことを結びつける証拠が、ここ何十年にわたりますます増えています1。PFAS は多くの産業用途で使用され、衣類、食品の包装材、調理器具、化粧品、カーペット、消化剤の泡などの消費財に存在します。非常に多くの製品に PFAS が使用され、生物分解されない事実の結果、複数の発生源から世界的規模で飲料水の汚染が発生しています。米国では連邦レベルでの法的強制力がある基準はまだありませんが、米国環境保護庁(EPA)では PFAS のための第 1 種飲料水規則を 2022 年後半に発行することを表明しています2。 基準の代わりに、2016 年に、飲料水中の PFOA および PFOS について、EPA によって法的強制力のない健康勧告レベルが確立されました3。 連邦レベルでの飲料水基準がない中で、米国の多くの州では、さまざまな健康への影響に基づいて飲料水、表層水、地下水中の PFAS の限界値を制定しました4。 現在、ヨーロッパでは飲料水中の PFAS レベルが法律で規制されています5。 人による消費を目的とする水の品質に関する飲料水指令の目的は、水が健康に良く清浄であることを確認することによって、人々が消費する飲料水の汚染による悪影響から人々の健康を守ることです。飲料水指令改正案は 2020 年 1 月に発効され、20 種の PFAS の合計に対して 0.1 µg/L の限界が課されました。
ウォーターズでは以前に、2020 年の EU 飲料水指令への準拠の確認に適した、PFAS のダイレクト注入分析法の開発を報告しています。各 PFAS について、定量限界(LOQ) 0.001 µg/L を達成しており、20 種の PFAS 合計の限界値 0.1 µg/L の施行に、事前濃縮を行う必要なしで自信を持って対応できます。この分析法では ACQUITY Premier BEH™ Shield RP18 カラムを ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムに装備し、Xevo TQ-XS タンデム四重極質量分析計と独自の UniSpray イオン源と共に使用しました6。PFAS では、ネガティブイオン化モードのエレクトロスプレーイオン化を使用する場合十分に応答しますが、UniSpray は、20 種の PFAS すべてについて一貫したゲインが得られることが示されました。さらに、新しい MaxPeak™ High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーを採用した ACQUITY Premier UPLC カラムにより、長鎖の PFAS に対する感度が向上しました。ここでは、この分析法の導入の簡単さを評価し、さらにこの分析法の性能を評価するための、ラボ間試験の結果を報告します。
結果および考察
ラボに以下を提供しました。
- 分析プロトコル。これには、対象分析種および内部標準試料のリスト(表 1 を参照)、装置の構成、分析法、使用するパラメーター、ガイダンス文書、分析順序が含まれています。
- 特注の水のレファレンス物質、ネイティブ PFAS 、同位体標識 PFAS ストック溶液。これらは ERA™ および Wellington Laboratories から入手しました。
ヨーロッパ規制にリストされている化合物は 2 つのシリーズで構成されており、1 つ目はペルフルオロカルボン酸(PFCA)、もう 1 つはペルフルオロスルホン酸(PFSA)であり、両方とも炭素数 4 ~ 13 であり、合計 20 で構成されています(表 1)。これらの PFAS は良く知られており、US EPA メソッドにも含まれていますが、この状況で比較的「新しい」3 種 C11、C12、C13 PFSA(PFUnDS、PFDoDS、PFTrS)があります。
元の分析法は FL ベースのサンプルマネージャー(SM)を搭載した ACQUITY UPLC システムで開発され、それぞれのラボの FTN ベースのシステムで使用するように調整されました。参加ラボは、PFAS 分析キットおよびアイソレーターカラムを、ガイドに従って、使用前に設置するように指示されました7。 これにより、PFAS を含むサンプルの分析のための完全な流路が確立され、バックグラウンド汚染からの干渉が最小限に抑えられます。この設置では、既知の PFAS が含まれる一部のチューブアセンブリーを取り外しおよび交換し、アイソレーターカラムを使用してサンプルから移動相などの発生源のシグナルを遅くすることで、避けられない干渉を分離します。
7 つの参加ラボは、20 種の PFAS 化合物が 0.01 µg/L 含まれる水被験サンプルの繰り返し注入(n = 6)からの分析種の濃度を測定するように求められました。この測定では、プロトコルの指示に従って、入手可能な場合には安定した同位体アナログを内部標準試料として使用し、LC-MS グレード水中の標準試料の分析用に準備した適切な検量線を使用することが求められました。参加ラボはいずれも多忙な施設で、PFAS 分析の経験もさまざまでした。ラボでは、この分析法をそれぞれのシステムにセットアップするラインに制約があったため、この試験により、この分析法の導入しやすさや、遭遇した非常に重大な問題について、価値あるフィードバックが得られました。一部のラボでは比較的重大な汚染が発生したため、PFBA の結果について評価できませんでした。これにより、水に含まれる PFAS 濃度の調査の計画時点で、汚染源に対して慎重な検討が必要であることが繰り返し言われました。適切な緩和手段を講じた場合(ポジティブディスプレイスメント式ピペットの使用、使用前のガラス容器のすすぎ、移動相でのボトル入りの水の使用、UPLC ラインの徹底的なフラッシュ洗浄など)、ラボからは PFBA に対して満足できる性能が報告されました(n = 3、真度 98%、RSDr = 4%、RSDRL = 5.8%)。
それぞれのラボではクロマトグラフィー分析法が正常に導入され、始めから終わりまで、極性 PFAS のほとんどで十分な保持が得られ、クロマトグラフィーピーク形状がガウス分布で、安定した保持時間が見られました。この分析法は、標準試料 0.001 µg/L の分析のクロマトグラムに示されているように、非常に感度が高いことが示されました(図 1)。
標準的な 1/x 重み付け線形適合を使用したキャリブレーショングラフにより、r2 > 0.99、残差 < 20% で、優れた直線性のレスポンスが示されました(図 2)。
ラボでは、水被験サンプル中の PFBA を除くすべての PFAS の定量において、良好な正確性が得られました(表 2)。真度は 96 ~ 110%、各ラボでの室内併行精度(RSDr)は 10 ~ 16%、室間再現精度(RSDRL)の値は 10 ~ 19% でした。バリデーションの結果が表 2 に示されており、図 3 および図 4 にまとめられています。それぞれの場合、水被験サンプルの分析でのイオン比および保持時間は、一般的に使用される基準と一致していました8。
結論
ラボ間試験を用いて、水に含まれる 20 種の PFAS を測定する分析法の性能を調査しました。各ラボでは、分析法を正常に導入し(ACQUITY UPLC PFAS キットの取り付けを含む)、スタートアップガイドを使用し、安定したクロマトグラフィーおよび十分な感度が実証されました。参加ラボにより、水被験サンプル中の PFAS(PFBA を除き)の定量に対して、良好な正確性が実証されました。真度は 96 ~ 100% で、各ラボでの室内併行精度および室間再現精度の値はすべて 20% 未満でした。3 つのラボを除くすべてのラボで、PFBA による汚染の問題が発生しました。この試験により、このダイレクト注入 UPLC-MS/MS 分析法を複数のラボで導入でき、飲料水に対する世界各地の様々な規制限界値および勧告限界値に対する確認に適していることが確認されました。
参考文献
- Kurwadkar S et al.Per- and Polyfluoroalkyl Substances in Water and Wastewater: A Critical Review of their Global Occurrence and Distribution.Sci.Total Environ. 2022 809:151003.
- https://www.epa.gov/newsreleases/epa-advances-science-protect-public-pfoa-and-pfos-drinking-water.
- https://www.epa.gov/ground-water-and-drinking-water/drinking-water-health-advisories-pfoa-and-pfos.
- https://www.bclplaw.com/en-GB/insights/state-by-state-regulation-of-pfas-substances-in-drinking-water.html.
- Directive (EU) 2020/2184 of the European Parliament and of the Council of 16 December 2020 on the Quality of Water Intended for Human Consumption (Recast) [Online] https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2020/2184/oj.
- Routine Determination of Per- and Polyfluoronated Alkyl Substances (PFAS) in Drinking Water by Direct Injection Using UPLC-MS/MS to Meet the EU Drinking Water Directive 2020/2184 Requirements.2021. Waters Application Note 720007413.
- PFAS Analysis Kit for ACQUITY UPLC Systems User Guide 720006689.
- Document No.SANTE/12682/2019.Guidance Document on Analytical Quality, Control, and Method Validation Procedures for Pesticides Residues Analysis in Food and Feed.
謝辞
サンプル分析の実施にあたり、サポートを頂いた次のウォーターズ施設のスタッフに感謝いたします:オーストリアのデモンストレーションラボ、ベルギーのデモンストレーションラボ、フランスのデモンストレーションラボ、英国およびアイルランドのデモンストレーションラボ、シンガポールのソリューションセンター、シンガポールの IFWRC、米国ミルフォードのサイエンティフィックオペレーション。
ソリューション提供製品
720007538JA、2022 年 2 月