• アプリケーションノート

Xevo™ G3 QTof システムを使用したインタクト/サブユニット RP-MS および IEX-UV-MS によるバイオシミラーの包括的な同等性評価

Xevo™ G3 QTof システムを使用したインタクト/サブユニット RP-MS および IEX-UV-MS によるバイオシミラーの包括的な同等性評価

  • Samantha Ippoliti
  • Owen Cornwell
  • Lisa Reid
  • Ying Qing Yu
  • Emma Harry
  • Mark Towers
  • Waters Corporation

要約

医薬品開発において、バイオシミラーモノクローナル抗体(mAb)がますます普及している中で、頑健な液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)装置および合理化された特性解析ワークフローが不可欠になっています。Xevo G3 QTof 質量分析計に ACQUITY™ Premier UPLC™ を組み合わせることで、高分子に対する感度、質量分解能、質の高いスペクトル、質量精度が得られ、インタクトレベルおよびサブユニットレベルでのモノクローナル抗体の正確な特性解析が可能になります。ハードウェアに waters_connect™ インフォマティクスプラットホームを組み合わせることで、インタクトモノクローナル抗体分析専用のワークフローが実現し、規制環境での合理化された信頼性の高いデータ分析が可能になります。この試験では Xevo G3 QTof プラットホームを使用した、インフリキシマブのイノベーターである Remicade® と 3 種のバイオシミラー(Inflectra®、Avsola®、Renflexis®)の同等性分析について実証しています。逆相(RP) LC-MS およびネイティブイオン交換(IEX) LC-MS を用いて、サンプルをインタクトレベルおよび IdeS サブユニットレベルで分析しました。得られたデータは、waters_connect 内の UNIFI™ および INTACT Mass アプリケーションで解析しました。N-グリコシル化、C 末端リジンバリアント、チャージバリアントなどのモノクローナル抗体の製品品質特性を定量し、バイオシミラーの間で比較しました。

アプリケーションのメリット

  • Xevo G3 QTof には更新されたイオン光学系が備わっており、キャリブレーション範囲が拡張されて、高分子アプリケーションにおける定量機能が向上
  • ACQUITY Premier BEH™ C4 カラムおよび BioResolve™ SCX mAb カラムを使用した、インタクトレベルおよびサブユニットレベルでの製品品質特性の信頼性の高いプロファイリング
  • GxP 環境、非 GxP 環境の両方に対応できるインフォマティクスプラットホームの柔軟性
  • インテリジェントデータキャプチャー(IDC)の使用によるスペクトルの質の改善およびファイルサイズの縮小

はじめに

過去 10 年間、画期的なイノベーター医薬品の特許切れにともない、バイオシミラーモノクローナル抗体(mAb)医薬品がますます普及しました。安価なバイオシミラーという選択肢は、患者および規制当局のいずれにとっても魅力的です。規制機関は、バイオシミラリティ―(生物学的類似性)を証明するための分析データ、動物実験、臨床試験を要求しています1–4。これは、わずかな差異が医薬品の有効性および安全性に大きな変化をもたらす可能性があるためです。バイオシミラーは、イノベーターとアミノ酸配列が同じですが、翻訳後修飾(PTM)に起因する構造やプロダクトバリアントのプロファイルに差異がある可能性があります。このような差異は、細胞株、タンパク質発現、製造条件、精製プロセスなど、医薬品開発および製造プロセスの変更の結果として発生します。N-グリコシル化、脱アミド化、N 末端および C 末端への修飾などのプロダクトバリアントの一部は、モノクローナル抗体の全体構造と比べてサイズが大幅に小さく、それらの組み合わせとして存在します。そのため、このような複雑な分子において信頼性の高い同等性の証明を行うことは困難になります。

インタクトモノクローナル抗体逆相(RP)LC-MS 分析により、N-グリコフォームの分布の全体像が把握でき、未切断 C 末端リジンなど、デルタ質量がより大きいプロダクトバリアントを同定することができます。さらに、IdeS 酵素を使用してモノクローナル抗体を約 25 kDa のサブユニットに消化することで、低レベルのバリアントのより局所的な詳しい分析が可能になります。また、表面電荷によりタンパク質分子種を分離できる有用な直交的な手法である、ネイティブ IEX-UV 質量分析(UV-MS)も実施して、チャージバリアントプロファイルを作成することができます。モノクローナル抗体医薬品の特性解析およびモニタリングには、このようなプロファイルがルーチンで使用されています。また、IEX クロマトグラフィー分離を MS 検出と組み合わせることで、それぞれのチャージバリアントのピークで分子種を調査できるという追加のメリットが得られます。

更新されたイオン光学装置を備えた Xevo G3 QTof(図 1)を用いることで、モノクローナル抗体の特性解析に用いる主力分析装置として導入するのに必要な感度、質量分解能、頑健性が得られます。このシステムは、規制対応の waters_connect ソフトウェアで動作し、創薬および GxP 環境の両方にわたる展開に必要な柔軟性が得られます。このシステムでは、バックグラウンドノイズを適応的に低減し、データファイルサイズを縮小する取り込み処理オプションである IDC5 も使用しています。このアプリケーションノートでは、インフリキシマブのバイオシミラーの特性解析および同等性試験におけるインタクトプロテイン質量確認を簡素化するための、Xevo G3 QTof MS プラットホームおよび合理化されたワークフローを用いた頑健な RPLC-MS およびネイティブ IEX-UV-MS 分析について説明します。

 

図 1.  waters_connect ワークステーションで動作する Xevo G3 QTof 質量分析計と組み合わせた ACQUITY Premier UPLC

実験方法

サンプルの説明

インフリキシマブのイノベーター(Remicade)および 3 種のバイオシミラー(Inflectra、Avsola、Renflexis)を、インタクト、IdeS 消化サブユニット、およびカルボキシペプチダーゼ B 消化サンプルとして、Xevo G3 QTof 質量分析計と組み合わせた UPLC-MS(RPLC および IEX の両方)で分析しました。データの取り込みおよび解析は、UNIFI アプリの従来のインタクト質量ワークフローおよび新しい INTACT Mass アプリケーションの両方を使用して waters_connect プラットホームで実施しました。 

LC 条件:逆相 (RP)

LC システム:

ACQUITY Premier UPLC

検出:

TUV(280 nm)

バイアル:

MaxPeak™ HPS を採用した QuanRecovery™ 12 × 32 mm スクリューネックバイアル、300 µL(製品番号:186009186)

カラム:

ACQUITY Premier Protein BEH™ C4、300 Å、1.7 µm、2.1 × 50 mm(製品番号:186010326)

カラム温度:

80 ℃

サンプル温度:

6 ℃

注入量:

2 µL の希釈済み 0.1 mg/mL サンプル(インタクト)

2 µL の希釈済み 0.1 mg/mL サンプル(サブユニット)

流速:

インタクトは 0.4 mL/分、サブユニットは 0.3 mL/分

移動相 A:

0.1% ギ酸水溶液

移動相 B:

0.1% ギ酸含有アセトニトリル

グラジエントテーブル(インタクト RP)

グラジエントテーブル(サブユニット RP)

LC 条件:イオン交換(IEX)

LC システム:

ACQUITY Premier UPLC

検出:

TUV(280 nm)

バイアル:

MaxPeak HPS を採用した QuanRecovery 12 × 32 mm スクリューネックバイアル、300 µL(製品番号:186009186)

カラム:

BioResolve SCX mAb、3 µm、2.1 × 100 mm(製品番号:186009056)

カラム温度:

30 ℃

サンプル温度:

6 ℃

注入量:

10 mg/mL を 1 µL(インタクト)、5 mg/mL を 2µL(カルボキシペプチダーゼ B 消化)

2.5 mg/mL を 4 µL(サブユニット)

流速:

0.1 mL/分

移動相 A:

IonHance™ CX-MS 濃縮液 A(製品番号:186009280)、説明通り MilliQ 水に 10 倍希釈(最終濃度 50 mM 酢酸アンモニウム、2% アセトニトリル、pH 5.0)

移動相 B:

IonHance CX-MS 濃縮液 B(製品番号:186009281)、説明通り MilliQ 水に 10 倍希釈(最終濃度 160 mM 酢酸アンモニウム、2% アセトニトリル、pH 8.5)

グラジエントテーブル(インタクト IEX)

グラジエントテーブル(サブユニット IEX)

MS 条件

MS システム:

Xevo G3 QTof

イオン化モード:

ポジティブ

取り込み範囲:

m/z 50 ~ 5000(RP)

m/z 400 ~ 8000(IEX)

キャピラリー電圧:

2.25 kV(インタクト RP)

2.75 kV(サブユニット RP)

3.00 kV(インタクト & サブユニット IEX)

コーン電圧:

150 V(インタクト RP、インタクト IEX、およびサブユニット IEX)

70 V(サブユニット RP)

イオン源温度:

150 ℃(インタクト RP)

125 ℃(サブユニット RP)

120 ℃(インタクトおよびサブユニット IEX)

脱溶媒温度:

500 ℃(すべて)

コーンガス:

0 L/時間(RP)

50 L/時間(IEX)

脱溶媒ガス:

700 L/時間(RP)

600 L/時間(IEX)

インテリジェントデータキャプチャー(IDC)しきい値:

低(5)

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

UNIFI(waters_connect を介して) v 2.1.1.13

MS ソフトウェア:

UNIFI(waters_connect を介して) v 2.1.1.13

インフォマティクス:

UNIFI & INTACT Mass アプリ v 1.9.13

結果および考察

この試験では、変性 RPLC-MS およびネイティブ IEX-UV-MS により、Remicade(イノベーター)および 3 種のバイオシミラー(Inflectra、Avsola、Renflexis)のサンプルをインタクトレベルおよびサブユニットレベルで分析しました。 

RPLC-MS

RPLC-MS を使用してモノクローナル抗体のアイデンティティーを確認し、N-グリコシル化、糖化、C 末端リジンの切断で生じたプロダクトバリアントの相対的定量を実施しました。インタクトの Remicade および Renflexis についての、コンバインされたマススペクトルのミラープロット(図 2、左パネル)および MaxEnt1 デコンボリューションマススペクトル(図 2、右パネル)。この分析において最も顕著な差異は、Renflexis との比較における Remicade 中の C 末端リジンバリアントのレベル(青色のアスタリスク)でした。さらに、N-グリコフォームにわずかな差が認められ、Remicade では Man5 を含む分子種のレベルが高く、Renflexis には A2 を含む(二分岐)分子種が存在しました。 

図 2.  Remicade(赤)と Renflexis(青)のインタクト RP 分析のミラープロット。挿入された拡大図には、52 を超えるチャージ状態が見られます。左のパネルにはコンバインされた MS スペクトル、右のパネルには MaxEnt1 デコンボリューションおよび注釈付きのスペクトルを示します。

N-グリコフォームの分布の相対的定量を簡素化するために、すべてのサンプルをカルボキシペプチダーゼ B 酵素とインキュベートして C 末端リジンバリアントを除去してから、同じインタクト RPLC-MS 分析法を使用して分析を行いました。N-グリコフォーム分布の相対的定量の結果を図 3 に示します。主要 N-グリコフォームの分布には、わずかな差異のみが観察されました。 

図 3.  インタクト RPLC-MS での N-グリコフォームの分布(カルボキシペプチダーゼ B 消化サンプルで得られた相対存在量の計算)

IdeS 消化および還元によって生成した 3 種の約 25 kD のモノクローナル抗体サブユニットを分析することで、追加の PTM 情報が得られ、それによってプロダクトバリアントの局在性をさらに特定でき、このレベルでの相対存在量と関連付けることができました。この試験のインフリキシマブバイオシミラーをサブユニットレベルで分析し、N-グリコフォームの分布および Fc 領域の未切断の C 末端リジン(図 4)、並びに軽鎖と Fd サブユニットの糖化のレベルを比較しました。N-グリコシル化における主な差異は、Remicade および Inflectra で検出され、Avsola および Renflexis では検出されなかった、免疫原性 N 型糖鎖(N-グリコリルノイラミン酸を含む)でした。このことは、各バイオシミラーの製造に使用される細胞株で説明がつきます6。つまり、Remicade および Inflectra は Sp2/0 細胞株で発現させますが、Avsola および Renflexis は CHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞株で発現させます4,7。興味深い点として、Remicade では軽鎖および Fd の糖化は 0.5% 未満であったのに対し、Inflectra、Avsola、Renflexis ではそれぞれ 2 ~ 3% の範囲でした。インタクトおよびサブユニットの RPLC-MS はいずれも、バイオ医薬品の特性解析、同等性試験、モニタリングに非常に適合していることが実証されました。

図 4.  サブユニットレベルの RP 分析における N-グリコフォームおよび C 末端リジンバリアントの相対的定量

waters_connect プラットホームは、UNIFI アプリのインタクト質量データ解析を支援すると共に、多数のサンプルのハイスループットで迅速なスクリーニングが必要な場合における有用性が向上するように設計された、新規の INTACT Mass アプリを使用した、より効率化・自動化された解析も支援します。このアプリにより、インタクト質量分析において、ターゲットを絞らない(ディスカバリー)アプローチおよびターゲットを絞った(モニタリング)アプローチの両方を用いて、データ解析を行うことができます。

この試験では、バイオシミラーのサンプルを未知化合物として扱い、自動データ解析によるターゲットを絞らないワークフローで処理することにより、デコンボリューション質量のリストが生成され、主要な N-グリコフォームおよび未切断 C 末端リジンバリアントを割り当てることができました。図 5 に、このようなノンターゲットアプローチを用いたデータ解析後の INTACT Mass アプリのダッシュボードを示します。このダッシュボードレビューツールにより、シンプルなデータの質のレビューが可能になり、図 6 に示すように、デコンボリューション質量データにおける差異が明確になります。Renflexis バイオシミラーでは、Remicade イノベーターおよび他の 2 種のバイオシミラーほどプロダクトバリアントのプロファイルが複雑でないことがすぐにわかります。このような差異については、UNIFI、または INTACT Mass アプリ内のターゲットを絞ったアプローチのいずれかを使用して個別のプロダクトバリアントのピークのそれぞれをモニターすることで、さらに調査を深めることができます。 

図 5.  ノンターゲットワークフローにおけるデータ解析後の INTACT Mass アプリのダッシュボード
図 6.INTACT Mass アプリでのターゲットを絞らないモノクローナル抗体分析を用いて生成された、RP インタクト分析で得られた MaxEnt1 デコンボリューション済みスペクトル

チャージバリアントプロファイリングは、バイオシミラー医薬品の同等性を確立し、安定性をモニターするための補完性のあるアプローチとして使用されています。オンライン IEX-UV-MS8 アプローチにより、チャージバリアントの定性/定量分析が可能になり、光学データから得られた相対面積比と、各ピークに対応する分子種を調査するための MS 検出を用いることで、チャージバリアントプロファイルが生成されます。IEX のピークを直接調査できるため、オフライン IEX 分析での MS 調査で通常必要になる、時間のかかる分画およびバッファー交換の必要性が大幅に低減します。

この分析法を使用してインフリキシマブバイオシミラーを分析し、インタクトおよびサブユニットレベルでの IEX-UV-MS の ACQUITY UPLC チューナブル UV 検出器で得られた 280 nm での吸光度クロマトグラムの重ね描きを生成しました(それぞれ図 7 A および 7 B)。RPLC-MS 分析で見られるように、インフリキシマブイノベーターおよびバイオシミラーにおいて多量の未切断の C 末端リジンが見られましたが、これらは塩基性のバリアント分子種です。カルボキシペプチダーゼ B 消化後に行った IEX において、未切断の C 末端リジンから生じたバリアントが確認されました。単純化したプロファイルの重ね描きを図 7A の挿入図に示します。オンライン IEX-UV-MS を用いて、メインピーク、塩基性 2(B2)ピーク、B5 ピークをそれぞれ 0K、1K、2K リジンバリアントと割り当てることができました。 

図 7.  インフリキシマブバイオシミラーの UV クロマトグラムの重ね描き(280 nm):(A)インタクト IEX-MS 分析および(B)サブユニット IEX-MS 分析。(A)の挿入図は、これらのバリアントを確認するための補完性のある手法として、カルボキシペプチダーゼ B 消化で C 末端リジン分子種を除去した Remicade を示します。(B)の挿入図は、A1Fd+LC ピークおよびメインFd+LC ピーク、ほぼ同重体の MaxEnt1 デコンボリューション質量のコンバインされたスペクトルを示します。

残りの酸性バリアントおよび塩基性バリアントを調査したところ、さまざまな N-グリコフォームおよび推定脱アミド化を含む多数の分子種が明らかになりました。酸性バリアントおよび塩基性バリアントをいくつか図 8 に示します。これには、Remicade のメインピーク、2 つの酸性バリアント、1 つの塩基性バリアントの 27 を超えるチャージ状態のコンバインされたスペクトルの拡大図(図 8A)、およびそれぞれについて得られた MaxEnt1 デコンボリューションスペクトル(図 8B)が含まれます。図 8B のピーク A1 で観察された酸性 N-グリコフォームは Remicade と Inflectra でのみ観察されました。インタクト IEX-UV-MS を使用して検出された酸性バリアントおよび塩基性バリアントを表 1 にまとめています。

図 8.  インタクトネイティブ IEX-MS。A)コンバインされたスペクトル、27 を超えるチャージ状態の拡大図、および B)いくつかの酸性および塩基性の Remicade 分子種の MaxEnt1 デコンボリューションスペクトル(図 5A のラベルを参照)。
表 1.  インタクト IEX-MS の結果のサマリー - MS 分析により各ピークで検出された分子種の割り当て(図5A のラベルを参照)および各インフリキシマブサンプルの UV 面積比の比較(3 回の繰り返し注入の平均相対比) 

また、IEX-UV-MS 分析は IdeS 消化サブユニットの分析にも有用で、重要なプロダクトバリアントの局在性をさらに特定することができます。IdeS 酵素によりモノクローナル抗体が 2 つの主な分子種(共有結合した Fd+LC x 2(約 98 kDa)および非共有結合で会合した N-グリコシル化 Fc x 2(約 50 kDa)分子種)に切断され、これらは IEX-UV-MS 法により容易に分離されます(図 7B)。Fd+LC 分子種には、結合において重要な役割を担うモノクローナル抗体の CDR(相補性決定領域)が含まれるため、Fd+LC 分子種の酸性バリアントおよび塩基性バリアントを Fc 分子種から区別する能力は非常に重要です。したがって、CDR の脱アミド化や異性体化などの修飾は、結合親和性に大きく影響し、その結果、医薬品の有効性に影響を及ぼす可能性があります。

従来、このレベルの詳細に及ぶ CDR の脱アミド化レベルの評価を行うには、ペプチドマッピングに頼る他なく、サンプル前処理、LC-MS 分析法、複雑なデータ解析に多大な時間がかかっていました。サブユニットレベルでの IEX-UV-MS は、Fd+LC 酸性バリアントの「初回通過」スクリーニング法として利用でき、多数のペプチドマッピング分析を行うのと比べて、貴重な時間を節約できることが証明されています。さらに、Fc の C 末端リジンバリアントのクロマトグラフィー分離は、光学系データの波形解析を適用することで、補完性のある定量法として使用できます。インフリキシマブバイオシミラー試験において同定された分子種の完全な詳細を表 2 に記載しています。 

表 2.  サブユニット IEX-MS の結果のサマリー - MS 分析により各ピークで検出された分子種の割り当て(図5B のラベルを参照)および各インフリキシマブサンプルの UV 面積比の比較(3 回の繰り返し注入の平均相対比)。相対的定量のため、Fc のピークおよび Fd+LC のピークをグループ化しています。 

RPLC-MS および IEX-UV-MS の結果は、C 末端リジンバリアントおよび N-グリコフォームの分布に関して一致していました。C 末端リジンバリアントについては、(インタクト RPLC-MS で得られた相対的 MS 定量およびサブユニット IEX-UV-MS の Fc 分子種の UV の波形解析に基づいて)Remicade および Inflectra は約 48%、Avsola は約 35% が保持され、Renflexis の保持はわずか約 5% でした。全体として、インタクト RPLC-MS およびインタクト/サブユニット IEX-UV-MS で観察された N-グリコフォームの分布は、各バイオシミラーと同等でした。補完性のある手法により一貫性のある結果が得られることは、レビューアからも好意的にみられており、バイオシミラー製品のロットリリースのための分析法の確立にさらなる柔軟性がもたらされます。 

結論

バイオシミラーモノクローナル抗体医薬品の規制承認の裏づけとしてその安全性と有効性を保証するには、頑健で効率の高い同等性評価が不可欠です。このアプリケーションノートでは、インフリキシマブのイノベーターおよび 3 種のバイオシミラーの同等性評価における、新しい Xevo G3 QTof システムを用いたインタクト/サブユニットレベルの RPLC-MS および IEX-UV-MS について実証しています。

インフリキシマブバイオシミラーで見られた最も顕著な差異は、未切断 C 末端リジンバリアント、N-グリコフォーム、チャージバリアントプロファイルです。このような差異は予想の範囲内であり、バイオシミラーの申請の一環としてリスク評価が必要になると考えられます。RPLC-MS および IEX-UV-MS 分析での C 末端リジンバリアントおよび N-グリコフォームの分布の結果は良く一致していました。さらに、サブユニットレベルの RPLC-MS 分析では、軽鎖および Fd の糖化および Fc の N-グリコシル化についてさらに詳しい情報が得られました。インタクトおよびサブユニットレベルの IEX-UV-MS 分析には、従来の UV ベースでのチャージバリアントの定量に MS 検出のメリットが加わっており、各チャージバリアントプロファイルのさらなる調査が可能になります。まとめると、Xevo G3 QTof を waters_connect インフォマティクスプラットホームの制御下に動作させた場合の高度な機能により、インタクト/サブユニット RPLC-MS および IEX-UV-MS 法が実施でき、モノクローナル抗体医薬品およびバイオシミラーの詳細な直交的な特性解析および同等性評価が可能になります。

参考文献

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720007635JA、2022 年 5 月

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