陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)による一本鎖ガイド RNA のサイズおよび純度の評価
要約
一本鎖ガイド RNA(sgRNA)は、遺伝子編集のための CRISPR/Cas9 テクノロジーの重要な要素であり、そのサイズは通常 100 ~ 150 ベースです。このアプリケーションノートでは、Waters Protein-Pak Hi Res Q カラムで開発された最適化されや陰イオン交換分析法を使用して、低分子量範囲 ssRNA ラダー(50 ~ 500 ベース)と比較することにより、複数の sgRNA のサイズを推定できることが示されています。さらに、sgRNA サンプルの純度は同じ陰イオン交換分析法を使用して評価することができ、sgRNA 製品の一貫性に関して多くの情報が得られる複雑ではない方法が提供されます。
アプリケーションのメリット
- Waters Protein-Pak Hi Res Q カラムによる 50 ~ 500 ベースのサイズの低分子量範囲の ssRNA ラダーの分離
- Waters Protein-Pak Hi Res Q カラムによる ssRNA とその不純物の分離
- Waters Protein-Pak Hi Res Q カラムで AEX 分析法を使用する、同じグラジエント条件での、サイズ範囲が 100 ~ 150 mer の ssRNA のサイズおよび純度の推定
はじめに
クラスター状に規則正しい間隔で並んだ短鎖パリンドロームリピート(CRISPR)/CRISPR 関連(Cas)バクテリア免疫系の発見と、RNA ガイド CRISPR/CRISPR 関連タンパク質 9(Cas9)テクノロジーの哺乳類細胞への迅速な適用は、遺伝子編集の分野に大きな影響を与えました1-3。 Cas9 タンパク質は、非特異的エンドヌクレアーゼであり、ガイド RNA(gRNA)によって特定の DNA 部位に導かれ、対象の DNA の二重鎖を切断します。gRNA は、CRISPR RNA(crRNA)とトランス活性化 crRNA(tracrRNA)の 2 つの部分から構成されています。通常、crRNA は標的 DNA と相補的な 17 ~ 20 のヌクレオチド配列であり、tracrRNA は Cas9 ヌクレアーゼが結合する足場として機能します。crRNA および tracrRNA は本来 2 つの別個の RNA 分子として存在しており、crRNA 配列と tracrRNA 配列を 1 つの RNA 分子に結合するシングルガイド RNA(sgRNA)が、一般に使用される形式になっています。sgRNA の長さは 100 ~ 150 ヌクレオチドの範囲です。sgRNA は CRISPR/Cas9 テクノロジーの中核であるため、この分子の特性解析は非常に重要です。
陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)では、負の表面電荷の差異に基づいて分子が分離されます。この分析手法は、頑健で再現性があり、定量的です。自動化も簡単で、必要なサンプルは少量で、さらなる分析のためのフラクションの分離が可能になります。AEX は、アデノ随伴ウイルスの空のキャプシドと完全なキャプシドの分離、プラスミドアイソフォームの分離、dsDNA フラグメントの分離など、遺伝子治療に関連する複数の領域で利用されています4–6。sgRNA は主鎖上のリン酸基のために負に荷電しているため、sgRNA のサイズと純度の評価用に AEX を調べました。
このアプリケーションノートでは、Waters Protein-Pak Hi Res Q 強陰イオン交換カラムを ACQUITY UPLC H-Class Bio システムで使用して、50 ~ 500 ベースの範囲の一本鎖 RNA(ssRNA)ラダーを分離でき、CRISPR/Cas9 システムの sgRNA を含む約 100 ~ 150 ベースの範囲の ssRNA のサイズ推定に使用できることが示されています。さらに、これらの ssRNA の純度を、同じグラジエント条件で推定できます。
実験方法
サンプルの説明
HPRT(精製済みおよびクルード)は、事前設計された CRISPR/Cas9 sgRNA(Hs.Cas9.HPRT1.1AA、100 mer)です。GUAC はカスタマイズした ssRNA(150 mer)であり、GUAC 配列の繰り返しが含まれています。HPRT sgRNA および GUAC ssRNA は Integrated DNA Technologies(IDT)から購入しました。Rosa26 および Scrambled #2 はいずれも事前設計された CRISPR/Cas9 sgRNA(100 mer)であり、Synthego から購入しました。低分子量範囲の ssRNA ラダーは New England Biolabs(N0364S)から購入しました。
分析条件
LC 条件 |
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LC システム: |
ACQUITY UPLC H-Class Bio |
検出: |
ACQUITY UPLC TUV 検出器、5 mm チタンフローセル装着 |
波長: |
260 nm |
バイアル: |
ポリプロピレン 12 × 32 mm スクリューネックバイアル(キャップ付きおよびスリット入り PTFE/シリコーンセプタム付き)、容量 300 µL、100 本入り(製品番号:186002639) |
カラム: |
Protein-Pak Hi Res Q カラム、5 µm、4.6 × 100 mm(製品番号:186004931) |
カラム温度: |
60 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
1 ~ 10 µL |
流速: |
0.4 mL/分 |
移動相 A: |
100 mM トリス塩酸 |
移動相 B: |
100 mM トリス塩基 |
移動相 C: |
3 M 塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC) |
移動相 D: |
水 |
送液するバッファー濃度: |
20 mM |
上記のグラジエントテーブルでは、バッファーは 20 mM トリス pH 9.0 です。初期塩濃度を 0 mM に設定し、すべての分析種がカラムに強く結合するようにします。5 分後、塩濃度を 1,400 mM まで増加し、不純物のほとんどを溶出させます(事前の調査に基づく)。4 分間の平衡化の後、分離グラジエントが開始されます。低分子量範囲の ssRNA ラダーおよび個々の ssRNA の分離のため、塩濃度を 20 分間で 1,400 mM から 2,100 mM まで直線的に増加します。次に、残りの結合分子を除去するため、2,400 mM まで急速に増加します。最後に、初期状態への平衡化ステップを行い、次の注入に備えます。
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower 3(FR 4) |
結果および考察
サイズ評価
ssRNA のサイズの評価のため、pH(7.4 および 9.0)、カラム温度(30 ℃ および 60 ℃)、塩(NaCl および TMAC)などのさまざまな移動相条件で、低分子量範囲の ssRNA ラダーを使用して試験しました。
最適な条件で得られた結果が図 1B に示されています。カラム温度 60 ℃、TMAC 塩グラジエントで pH 9.0 のトリスバッファーを使用して、低分子量範囲の ssRNA ラダー(50 ~ 500 ベース)を 4 つの事前に作成した sgRNA(100 mer)および 1 つのカスタマイズした ssRNA(150 mer)とともに、Waters Protein-Pak High Res Q カラムで分離しました。この強陰イオン交換カラムでの低分子量範囲の ssRNA ラダーの分離は、図 1A に示されているように、アガロースゲルでの分離と非常によく似ていました。保持時間とラダーの各 ssRNA の塩基数の対数に基づいて、検量線を作成しました(図 1C、青色の点)。低分子量範囲の ssRNA ラダーの線形回帰では、サイズの対数と保持時間の間に強い相関関係が示されています(R2 = 0.993)。このプロットを使用して、ssRNA のサイズを個々の保持時間から計算しました。パーセント誤差は、式 {(サイズ計算値 - 理論サイズ)/理論サイズ} を用いて計算します。 パーセント誤差は、検量線のトレンドラインの上、またはそれに非常に近い位置にあるオレンジ色のデータポイントから分かるように、試験したすべての RNA で 6% 未満でした(図 1d)。 2 つのメーカーから入手した 4 つの sgRNA と人工配列でカスタマイズした ssRNA に、小さなパーセントの誤差が生じていることが分かります。100 ベースより短い ssRNA および 150 ベースを超える ssRNA は試験していませんが、この分析法は、50 ~ 500 ベースの範囲の ssRNA のサイズ評価に使用できます。
移動相条件 が pH 7.4 の トリスバッファー、カラム温度 60 ℃、TMAC 塩グラジエントでの誤差は、すべての事前作成 sgRNA(100 mer)で 5% 未満、人工作成 GUAC ssRNA(150 mer)で約 12% で、良好なサイズ推定が得られました。全体として、カラム温度 60 ℃ では、各 ssRNA に対してサイズ評価のためのピーク保持時間の決定に必要なピークが 1 本得られました。カラム温度 30 ℃ では、複数の主要ピークが得られました。これらは ssRNA の異性体と推測されます。塩として NaCl を使用した場合も、pH やカラム温度に関係なく、複数のピークが観察されました。
純度評価
精製済みおよびクルードの HPRT sgRNA を、サイズ評価と同じグラジエント条件を使用して、Protein-Pak Hi Res Q カラムで分離しました(図 2)。クルードサンプルおよび精製済みサンプルの相対純度は、示されているピーク面積に基づいて、それぞれ 37.4% および 88.0% と測定されました。HPRT sgRNA のサイズまで低存在量の不純物が存在するようですが、不純物の大部分は 50 ベースより前に溶出しました。
結論
陰イオン交換クロマトグラフィーは、頑健で再現性があり、自動化が簡単で定量情報を提供でき、その上必要なサンプルが少量です。ここで、50 ~ 500 ベースの低分子量範囲の ssRNA ラダーの成分を Waters Protein-Pak Hi Res カラムで分離することができ、塩基数の対数と、TMAC を溶出塩として使用した場合に観測された保持時間との間に、線形相関があることが実証されました。ssRNA の保持時間と低分子量範囲の ssRNA ラダーの保持時間とを比較することで、100 ~ 150 ベースの ssRNA のサイズを推定できます。さらに、sgRNA の純度も、同じクロマトグラフィー分離から観察されます。この分析法は、CRISPR/Cas9 遺伝子編集テクノロジーの主要な要素である sgRNA の分析に適用できる可能性があります。
参考文献
- Dunbar C E, High K A, J. Joung K, Kohn D B, Ozawa K, Sadelain M. Gene Therapy Comes of Age. Science 2018; 359: 175.
- Rath D, Amlinger L, Rath A, Lundgren M. The CRISPR-Cas Immune System: Biology, Mechanisms and Applications. Biochimie 2015; 117: 119–128.
- Patrick D. Hsu P D, Eric S. Lander E S, and Zhang F. Development and Applications of CRISPR-Cas9 for Genome Engineering.Cell 2014; 157: 1262–1278.
- Yang H, Koza S and Chen W. Anion-Exchange Chromatography for Determining Empty and Full Capsid Contents in Adeno-Associated Virus.Waters Application Note.2020, 720006825.
- Yang H, Koza S and Chen W. Plasmid Isoform Separation and Quantification by Anion-Exchange Chromatography (AEX).Waters Application Note.2021, 720007207.
- Yang H, Koza S and Chen W. Separation and Size Assessment of dsDNA Fragments by Anion-Exchange Chromatography (AEX).Waters Application Note.2021, 720007321.
720007428JA、2021 年 11 月