• アプリケーションノート

半自動固相抽出を使用した GalNAc-siRNA 結合オリゴヌクレオチドの LC-MS バイオアナリシス定量

半自動固相抽出を使用した GalNAc-siRNA 結合オリゴヌクレオチドの LC-MS バイオアナリシス定量

  • Mary Trudeau
  • Kathryn Brennan
  • Waters Corporation

要約

以下の研究では、GalNAc siRNA 結合オリゴヌクレオチドの分析において、Otto SPEcialist と組み合わせた Pipette+ による半自動リキッドハンドリングおよび固相抽出(SPE)機能について実証します。Pipette+ はリキッドハンドリングの実施に使用し、Otto SPEcialist は、ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18 カラム、ACQUITY Premier LC システム、および Xevo TQ-XS 質量分析計を用いて LC-MS/MS 分析および定量を実施する前に、生体サンプルの抽出に使用しました。

アプリケーションのメリット

  • Otto SPEcialist 加圧マニホールドおよび Pipette+ を使用した半自動サンプル前処理および抽出により、ユーザー間のばらつきを低減し、正確で再現性のある結果を保証
  • 使いやすい Otto SPEcialist および OneLab ソフトウェアでの移管可能な分析法により、異なるユーザー間およびラボ間で同じ前処理手順を実施可能に
  • MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーを使用した ACQUITY Premier システムおよび ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18 カラムの使用により、オリゴヌクレオチドの金属への吸着を低減することで、開発した分析法の検出限界と再現性が向上
  • 抽出尿および血漿内の GalNAc-siRNA 結合オリゴヌクレオチドを LOD 1 ng/mL で正確かつ高感度で定量

はじめに

オリゴヌクレオチド治療薬(ONT)に関する研究開発の取り組みの増加につれて、これらの治療薬を評価するためのより頑健で高感度かつ選択的なサンプル前処理および LC-MS 分析法のニーズが高まっています。ONT は複雑で多様な特性を持つため、その分析は困難な課題になる場合があります。ONT はポリ陰イオン性であり、生体サンプル中の金属表面やタンパク質に非特異的に吸着することが知られています。これにより、生体サンプル前処理時に起きる分析種の喪失、および LC 分析における分析種の金属表面への吸着につながる可能性があります。更に、手作業でサンプルを前処理する際の科学者のミスにより、対象分析種の喪失が更に大きくなる可能性があります1。 これらの望ましくない相互作用はすべて、クロマトグラフィーおよびその後の質量分析における性能低下や一貫性のない結果につながる可能性があります。

本研究では、さまざまな生体マトリックスからの GalNAc-siRNA 結合オリゴヌクレオチド(GalNAc)の半自動サンプル前処理および抽出メソッドについて記載します。サンプル前処理およびミックスモードの弱陰イオン交換吸着剤での固相抽出(SPE)に Pipette+ と Otto SPEcialist を使用することで半自動化アプローチが可能になり、手作業によるミスを低減し、分析上の回収率を改善することができます。半自動サンプル前処理に ACQUITY Premier LC および Oligonucleotide BEH C18 カラムによるクロマトグラフィー分離を組み合わせることで、金属への吸着の軽減によって分析結果が改善し、最終的に GalNAc の回収率が改善します。開発したこの分析法により、抽出した血漿および尿のニート溶液およびスパイクサンプルから、マトリックス効果が少なく(≤ 10%)、オリゴヌクレオチド回収率が高い固相抽出とともに、低レベル(ng/mL)での検出を達成しました。 

実験方法

試料

GalNAc‐siRNA 結合オリゴヌクレオチドは Alnylam Pharmaceuticals(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)から提供を受け、オリゴデオキシヌクレオチドホスホロチオエート(Gem132)は、Nitto Denko Avecia(米国マサチューセッツ州ミルフォード)でカスタム合成したものを使用しました。サンプル前処理は、BIOIVT(米国ニューヨーク州ウェストベリー)から購入した Sprague Dawley ラット血漿、またはプールしたヒト尿を使用して行いました。

サンプル前処理

GalNAc および Gem132 のストック溶液は、RNase フリー H2O 中に 1.0 mg/mL の濃度で調製しました。内部標準(IS)として使用した Gem132 の作業用ストック溶液は、最終濃度 250 ng/mL で調製しました。GalNAc の作業用ストック溶液は、移動相 A 中に 10 µg/mL の濃度で調製しました。この作業用ストック溶液を使用して検量線作成用および品質管理(QC)用のサンプルを調製しました。Pipette+ および OneLab ソフトウェアを使用して、スパイク後の検量線を分析時の最終濃度 2.0 1000 ng/mL(N = 2)の範囲で、品質管理サンプルを分析時の最終濃度 7.5、75、750 ng/mL(N=4)で、それぞれ移動相 A 中に調製しました。ニート溶液での回収実験は、50 mM 酢酸アンモニウム(pH 5.5)中、低濃度(10 ng/mL(N = 4))および高濃度(1000 ng/mL(N = 4))で行いました。Oasis WAX µElution SPE を使用した固相抽出手順および 200 µL のブランク血漿を使用した液-液抽出(LLE)の前処理ステップに関する情報については、Waters アプリケーションノート 720007019JA を参照してください2。 尿サンプルの前処理では、200 μL のブランク尿を 50 mM 酢酸アンモニウム(pH 5.5)で 50:50 希釈しました。SPE サンプルは、MaxPeak HPS 96 ウェルプレートを使用して 700 µL QuanRecovery に溶出し、シリコン PTFE キャップマットで覆ってボルテックス混合した後、LC-MS で分析しました。生体サンプルから分析までの完全なバイオアナリシスワークフローを図 1 に示します。 

図 1. GalNAc-siRNA 結合オリゴヌクレオチドのバイオアナリシスのためのサンプル前処理および LC-MS 分析ワークフロー

LC-MS 条件

LC システム:

ACQUITY Premier システム

移動相 A:

1% ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP) + 0.1% N, N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)水溶液

移動相 B:

0.75% ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP) + 0.0375% N, N- ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)含有 65% アセトニトリル溶液

パージ溶媒:

水:メタノール(90:10、v/v)

洗浄溶媒:

アセトニトリル:イソプロパノール:水:メタノール(25:25:25:25 v/v/v/v)

検出:

Xevo TQ-XS

カラム:

ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18、130 Å、1.7 μm、2.1 × 50 mm

カラム温度:

50 ℃

サンプル温度:

8 ℃

注入量:

10 μL

流速:

0.6 mL/分

Gradient

MS 設定

イオン化モード:

ESI-

取り込み範囲:

MRM

キャピラリー電圧:

2.00 kV

コーン電圧:

50 V

脱溶媒温度:

500 ℃

脱溶媒流量:

1000 L/時間

コーンガス流量:

150 L/時間

コリジョンガス流量:

0.2 mL/分

ネブライザーガス流量:

7 Bar

データ管理

装置コントロールソフトウェア:

MassLynx v4.2

定量ソフトウェア:

TargetLynx

結果および考察

LC-MS/MS 定量は、Xevo TQ-XS MS(ESI-)を使用して行いました。GalNAc および Gem132 のプリカーサーやフラグメントを含む、検出および定量に使用する最終的な MRM トランジションを表 1 に示します。試験中 Gem132 をモニターし、実験全体での分析性能を確認しました。この分析には、MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーを採用した ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18 カラムを使用しました。HPS テクノロジーは、オリゴヌクレオチドなどの分析種と金属との非特異的相互作用を最小限に抑えるために開発されたものです。この作業に ACQUITY Premier LC およびオリゴヌクレオチド BEH C18 カラムを使用することで、分析時の分離性能が向上し、オリゴヌクレオチド回収率と検出限界が改善し、システムの不動態化とダウンタイムに費やす時間が短縮されます。 

表 1. GalNAc および Gem132 オリゴヌクレオチドの分析に使用した最終的な MS 条件

コンパクトで半自動のサンプル前処理デバイスである Otto SPEcialist では、正圧のより効率的な使用に、固相抽出プロセスのすべてのステップで吸着床にかかる圧力を自動的に変更するソフトウェアを組み合わせています。Otto SPEcialist および GalNAc の Oasis WAX µElution SPE を使用した固相抽出性能を図 2 に示します。ここでは、ニート溶液のサンプルを 10 ng/mL および 1000 ng/mL(1 濃度あたり N = 4)で調製し、アプリケーションノート 720007019JA に記載されているプロトコルを使用して抽出を行いました。低濃度および高濃度の SPE での平均回収率はそれぞれ 109.7% および 88.6% であり、RSD 値はそれぞれ 9.97% および 4.38% でした。これらの結果から、Oasis WAX µElution SPE プレートと開発した分析法により、GalNAc が固定相に十分保持され、Otto SPEcialist により、サンプル間の変動が最小限に抑えられて高い回収率が得られることが分かります。

図 2. 96 ウェル型式の Oasis WAX µElution SPE と Otto SPEcialist を用いて実施した 10 ng/mL および 1000 ng/mL のニート溶液からの GalNAc の固相抽出での回収率

ACQUITY Premier HPS テクノロジーと生体マトリックスからの GalNAc の半自動サンプル前処理および抽出の組み合わせにより、直線性があり、正確で再現性のある定量性能が保証されます。図 3 に、スパイクした抽出血漿サンプルについての定量性能を示します。1 ng/mL の LOD、2.0 1000 ng/mL のリニアダイナミックレンジが達成されています(R2 値は 1/x 重み付け回帰で 0.996)。正確度は 86.2 117% の範囲でした。図 4 に、スパイクした抽出尿サンプルについての定量性能を示します。1.0 ng/mL の LOD、5 1000 ng/mL のダイナミックレンジが達成されています(R2 値は 1/x 重み付け回帰で 0.996)。正確度は 85.9 119% の範囲でした。このデータは、正確度(±20%)および精度(±20%)という規制要件を満たしており、R2値は 0.980 以上です3

図 3. スパイクした抽出血漿についての定量性能で LOD 1 ng/mL を達成
図 4. スパイクした抽出尿についての定量性能で LOD 1 ng/mL を達成

Pipette+ は、使いやすいブラウザーベースの OneLab ソフトウェアによって制御されます。OneLab で分注メソッドを作成・実行することで、頑健で信頼性が高く、異なる日間およびユーザー間でも常に再現性の高いサンプル前処理が実現できます。Pipette+ は、OneLab で作成した連続希釈法のピペッティング手順に従っています。この分析法では、Pipette+ を使用して、生体マトリックスで検量線および QC を作成しました。ラット血漿の分析およびサンプル抽出について、検量線および QC を 3 つのバッチ(日間)にわたって作成しました。日間および日内の QC 精度および RSD を表 2 に示します。日間正確度は 90.8 106.8%、RSD は 2.213.9% の範囲でした。日内(3 日目)正確度は 92.4 113.7%、RSD は 1.112.6% の範囲でした。プールしたヒト尿の分析およびサンプル抽出について、日間検量線および QC を 2 つのバッチにわたって作成しました。日間および日内の QC 精度および RSD を表 3 に示します。日間正確度は 93.8 111.4%、RSD は 3.313.4% の範囲でした。日内(1 日目)正確度は 90.2 109.3%、RSD は 2.711.9% の範囲でした。Pipette+ と OneLab を使用して QC サンプルを前処理することで、スパイクした抽出サンプルについて、優れた性能と正確で再現性のある結果が全バッチにわたって得られました。 

表 2. Pipette+ で前処理し、Otto SPEcialist を用いて抽出された、スパイクした抽出血漿サンプルでの日間および日内の QC 統計
表 3. Pipette+ で前処理し、Otto SPEcialist を用いて抽出された、スパイクした抽出尿サンプルでの日間および日内の QC 統計

結論

このアプリケーションでは、ニート溶液およびスパイクした抽出血漿および尿からの GalNAc-siRNA 結合オリゴヌクレオチドの固相抽出および LC-MS/MS 定量が成功したことが示されています。Pipette+ および Otto SPEcialist を使用することで、サンプル前処理および抽出手順が簡素化および効率化し、生産性が最大化できるとともに、ミスが減少し、分析法の全体的な分析性能が保証されます。ACQUITY Premier LC およびオリゴヌクレオチド BEH C18 カラムは、金属の影響を受けやすい分析種の吸着が低減するように特別に設計されており、一貫して高いレベルのオリゴヌクレオチド回収率が保証されます。この分析法の分析感度として、抽出血漿および尿中の GalNAc-siRNA 結合オリゴヌクレオチドについて、1 ng/mL の LOD が達成できました。

謝辞

著者らは、本実験のために 21 mer の GalNac オリゴヌクレオチドを寄贈して頂いた Greg Jones および Alnylam Pharmaceuticals に感謝致します。

参考文献

  1. Chapter 5 Automation Tools and Strategies for Bioanalysis, in Progress in Pharmaceutical And Biomedical Analysis, David A. Wells, Editor 2003, Elsevier.p. 135197.
  2. Brennan,K, et al., Improved Oligonucleotide SPE-LC-MS Analysis Using MaxPeak High Performance Technology.Waters Application Note, 720007019EN, 2020.
  3. Bansal, S.; DeStefano, A. Key Elements of Bioanalytical Method Validation for Small Molecules.The AAPS Journal 2007, 9 (1), E109E114.

720007418JA、2021 年 10 月

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