• アプリケーションノート

Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムによる RNA ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基の分離の向上

Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムによる RNA ヌクレオチド、ヌクレオシド、核酸塩基の分離の向上

  • Kenneth D. Berthelette
  • Steve Shiner
  • Thomas H. Walter
  • Jennifer M. Nguyen
  • Jonathan E. Turner
  • Waters Corporation

要約

新しい種類の HILIC 固定相の使用は、高極性分析種に最適な分離を得るために不可欠です。HILIC での分析法開発活動は、使用可能な固定相の特異性によって制限されていました。カラムケミストリー(非結合シリカ)のメーカー間には多くの相違が存在しますが、結合リガンドの種類や粒子の種類などさまざまな固定相を使用することで、選択性をさらに高めることができます。この研究では、4 種のカラムを使用して、13 種の RNA 成分(核酸塩基、ヌクレオシド、ヌクレオチドなど)を 1 回の分析で分離しました。ACQUITY UPLC BEH Amide カラムと Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラム、およびその他 2 種の市販の極性保持固定相を、ACQUITY Premier システムの 2.1 × 50 mm のカラムハードウェアで使用しました。検出は、Xevo TQD タンデム四重極質量分析計でマルチプルリアクションモニタリングを用いて実施しました。13 種の成分すべての分離は、Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムで実施しました。試験した 3 種の双性イオン相の間に選択性の差異が観察されました。評価した 4 種のカラムのうち、BEH Z-HILIC 粒子の独特のカラムケミストリーと ACQUITY Premier カラムおよびシステムハードウェアの組み合わせにより、これらの構造的に類似した生物学的に関連する化合物の分離が可能になりました。 

アプリケーションのメリット

  • 生物学的に関連し、構造的に類似した 13 種の RNA 成分の分離
  • 他の双性イオン固定相と比較した Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムの独特の選択性
  • MaxPeak High Performance Surfaces による、ヌクレオチドのピーク形状の向上

はじめに

RNA 成分の分析は、食品の試験やメタボロミクスなどを含むがこれらに限定されない、さまざまなワークフローの重要で不可欠な要素です1-5。 RNA 成分には、核酸塩基、ヌクレオシド、ヌクレオチド、およびさまざまな生物学的機能の過程で生じ得る修飾を受けた RNA 化合物が含まれます。さらに RNA は、リボソームやスプライソソームの重要な構造要素を構成します。RNA の残基およびそれらの可能性のある修飾は、多くの場合さまざまな疾患のバイオマーカーとして、または治療の進行状況を追跡するために調べられます。

この分析の課題の 1 つは、これらの成分が非常に極性の高い性質を持っていることです。逆相 LC は使用できますが、多くの場合、MS イオン化を犠牲にして保持力を強化するために、イオン対試薬が必要です。さらに、イオン対試薬により、システム内での平衡化にかなりの時間が必要になり、この試薬は分析後に LC 内に残る場合があります。多くの場合、イオン対試薬を使用しても、逆相 LC カラムでこれらの分析種を保持することは困難な場合があります。

これらの化合物を分析するための別の手法は、親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)です。この手法は、MS に適した移動相と極性固定相を使用して極性分析種を保持するように設計されています。HILIC を使用すると、RNA 成分を容易に保持できますが、RNA 成分相互の構造的類似性により、十分に分離されない場合があります。この研究では、13 種の RNA 成分の分離は 4 種の異なる固定相を使用して実行されます。核酸塩基、ヌクレオシド、ヌクレオチドがリボースリン酸塩とともに、Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムで最も効果的に分離されることがわかりました。 

実験方法

サンプルの説明

分析種は Sigma Aldrich から購入し、ストック溶液は 1.0 mg/mL で、0.1% ギ酸含有 50:50 アセトニトリル:水を使用して調製しました。グアニンのストック溶液(0.5 mg/mL)は、適切に溶解するように、アセトニトリル:100 mM 水酸化カリウムの 1:1 溶液中に作成しました。成分の構造が図 1 に示されています。ストック溶液を組み合わせて、次記の濃度のサンプルを作製しました:アデニン、アデノシン、シトシン、シチジン、ウラシル、ウリジン、グアニン、グアノシン(各 2.0 μg/mL)、アデノシン一リン酸(30 μg/mL)、シチジン一リン酸、ウリジン一リン酸、グアノシン一リン酸、リボースリン酸(各 50 μg/mL)。  

分析条件

LC 条件

LC システム:

クオータナリーソルベントマネージャを搭載した ACQUITY Premier

検出:

マルチプルリアクションモニタリング(表 1 を参照)

バイアル:

LCMS TruView マキシマムリカバリーバイアル(製品番号: 186005668CV)

カラム:

ACQUITY UPLC BEH Amide(製品番号:186004800)、

Atlantis Premier BEH Z-HILIC(製品番号: 186009978)

他社製 A:HILIC-z、

他社製 B:Polar x。

すべて 2.1 × 50 mm

カラム温度:

50 ℃

サンプル温度:

10 ℃

注入量:

0.5 µL

流速:

0.5 mL/分

移動相 A:

移動相 B:

アセトニトリル

移動相 D:

200 mM ギ酸アンモニウム(pH 3.0)

グラジエント:

この分離には、水とバッファーのグラジエントを採用しました。水含有量は 5 ~ 40% で変化させ、バッファー濃度は 10 ~ 50 mM で変化させました。詳細については、グラジエントテーブルを参照してください。

グラジエントテーブル

MS 条件

MS システム:

Xevo TQD

イオン化モード:

ポジティブモードおよびネガティブモード(表 1 を参照)

取り込み範囲:

マルチプルリアクションモニタリング(表 1 を参照)

キャピラリー電圧:

3.0 kV

コリジョンエネルギー:

分析種によって異なる(表 1 を参照)

コーン電圧:

分析種によって異なる(表 1 を参照)

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

MassLynx v4.2

MS ソフトウェア:

MassLynx v4.2

インフォマティクス:

MassLynx v4.2

結果および考察

RNA 成分の分析は、食品および環境のアプリケーションやメタボロミクスワークフローなど、多くの研究分野できわめて重要です。これらの化合物の分離で高い選択性を達成することは、正確で信頼性の高い定量および特性解析の改善に必要です。親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)は、これらの小さな極性分析種の保持に最適であり、この研究に使用しました。調べた 13 種の分析種は図 1 に示されています。Xevo TQD でマルチプルリアクションモニタリング(MRM)による検出を、表 1 に示されている条件で使用しました。 

図 1. 核酸塩基、ヌクレオシド、ヌクレオチドの分析種構造。構造は塩基成分別に整理し、リボースリン酸も分析しました。
表 1. 13 種の分析種の検出に使用した MRM 条件。その他の MS 条件は、「実験方法」セクションに記載されています。 

この分離には、4 種の HILIC 固定相を評価しました。ACQUITY UPLC BEH Amide、他社製の HILIC-z と Polar X、Atlantis Premier BEH Z-HILIC の各カラムをスクリーニングし、分析法をこれらの分析種に最適化しました。図 2 に、水とギ酸アンモニウムのグラジエントを用いて得られた分離が示されています。 

図 2. 4 種の異なる HILIC 固定相での 13 種の RNA 成分の分離。感度を高めるために、スケジューリングした MRM を使用しました。ピーク高さは、化合物の分離を示すためにノーマライズされ、得られたシグナル全体を反映していません。ピークには、1)ウラシル、2)アデニン、3)アデノシン、4)ウリジン、5)シトシン、6)グアニン、7)シチジン、8)グアノシン、9)アデノシン一リン酸、10)ウリジン一リン酸、11)リボースリン酸、12)シチジン一リン酸、13)グアノシン一リン酸、とラベル表示されています。 

すべての化合物の分離を達成できた唯一のカラムは Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムでした。その他のすべてのカラムでは、少なくとも 1 組の共溶出化合物が観測されました。Xevo TQD を使用してもこれらのピークを検出できますが、これらの分析種の波形解析と特性解析を向上するために、これらの共溶出プローブの分離がより好ましいことです。

BEH Amide カラムを除き、すべてのカラムは双性イオン相またはミックスモード固定相で構成されています。  それにも関わらず、これらの材質の間に保持と選択性の点で差異が観察されました。HILIC-z 固定相は他の固定相よりも保持が少なく、Polar X 相は一リン酸化合物に対して保持が良好で、核酸塩基やヌクレオシドに対して保持は他の固定相と同等でした。特定の分析種の溶出順序も 3 種の固定相で異なり、特にアデノシンおよびウリジン一リン酸で顕著でした(ピーク 9 およびピーク 10)。選択性の相違は、異なる固定相の性質に起因する場合があります。HILIC-z の材質は、表面多孔性粒子に結合している双性イオンリガンドで構成されています。一方、Polar X カラムには表面多孔性粒子にミックスモードイオン交換 HILIC 固定相が結合されており、BEH Z-HILIC では完全多孔性 BEH 95 Å 粒子に結合した双性イオンリガンドが使用されます。カラムケミストリーの相違が図 3 に示されています。   

図 3. メーカーの資料に記載されている、ベースパーティクルケミストリーおよび結合されているリガンドのケミストリーの説明 

BEH Z-HILIC と比較した BEH Amide の選択性の変化は、リガンドとベースパーティクルの両方の相違に起因する可能性があります。どちらの固定相でも完全多孔性ハイブリッドシリカ粒子が使用されますが、BEH Z-HILIC では BEH 95 Å 粒子が使用され、BEH Amide では BEH 130 Å 粒子が使用されます。ポアサイズと結合相リガンドの違いが、見かけの選択性のこれらの差異につながっています。

Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムを他のカラムと比較した場合に見られるさらなる利点は、リン酸化化合物のピーク形状の向上です。この違いは、Atlantis Premier BEH Z-HILIC を他の市販の双性イオンカラムと比較した場合に特に顕著です。後者では、リン酸化分子種のピーク形状がはるかに幅広く示されます。ACQUITY UPLC BEH Amide カラムでも、別の両性イオンカラムよりもピーク幅が狭い BEH Z-HILIC カラムと比べて、わずかにピーク幅が広くなっています。BEH Z-HILIC 固定相の充塡に使用される MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)ハードウェアにより、リン酸化化合物とカラムの金属表面との二次的な相互作用が緩和されます。特定の条件下では、ここに示されているように、金属-分析種間相互作用によってピーク形状の違いが生じることがあり、サンプル損失が発生する場合すらあります6。 この場合、ピーク面積が 4 種のカラムすべてで同等であるため、金属への吸着による分析種の損失は示されていません。表 2 に、4 種の調査対象カラムテクノロジーにわたるリン酸化化合物のピーク形状の差異が示されています。

表 2. 4 種の固定相すべてでの、リン酸化化合物の、ピーク高さ 4.4% でのピーク幅(秒)。カラムの平均ピーク幅の計算値。 

Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムの平均ピーク幅は、ACQUITY UPLC BEH Amide カラムと比較して 30% 狭く、どの他社製カラムよりも約 60% 狭くなっています。BEH Z-HILIC カラムで得られる狭いピーク幅は、クリティカルペアの分離度、感度の向上の役に立ちます。粒子-リガンドの MaxPeak HPS ハードウェアとの独特の組み合わせにより、他の HILIC 固定相と比較して、13 種の分析種がより良好なピーク形状で分離されました。 

結論

Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムなど 4 種のカラムで、生物学的に関連する 13 種の RNA 成分を分析しました。これらの化合物には、構造的に類似した RNA 核酸塩基、ヌクレオシド、ヌクレオチドが含まれており、特に短い 50 mm カラムでは、これらを分離するのは歴史的に非常に困難でした。新たな Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムにより、水、アセトニトリル、ギ酸アンモニウムのグラジエントを使用して、これらの化合物すべてを 1 回の分析で分離できました。さらに、Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムでは、試験した他のカラムと比較してヌクレオチドのピーク形状が改善されました。これは部分的には、MaxPeak HPS テクノロジーによってリン酸基とカラムの金属製ハードウェア間の相互作用が緩和されたためです。Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムを ACQUITY Premier システムと組み合わせて使用することにより、すべての核酸塩基、ヌクレオシド、ヌクレオチド、リボースリン酸の定量を達成できました。ヌクレオチドやヌクレオシドの正確な定量は、がんや特定の呼吸器疾患などの、多くの疾患の診断で極めて重要です。 

参考文献

  1. Inoue, K.; Obara, R.; Hino, T.; Oka, H. Development and Application of an HILIC-MS/MS Method for the Quantitation of Nucleotides in Infant Formula.J. Agricultural and Food Chemistry 2010, 58(18), 9918–9924.
  2. Logotheti, M.; Theochari, K.; Kostakis, M.; Pasias, I.; Thomaidis, N. Development and Validation of a HILIC–UV Method for the Determination of Nucleotides in Fish Samples.Food Chemistry 2018, 248, 70–77.
  3. Mateos-Vivas, M.; Rodriguez-Gonzalo, E.; Domingues-Alvarez, J.; Garcia-Gomez, D.; Carabias-Martinez, R. Determination of Nucleosides and Nucleotides in Baby Food by Hydrophilic Interaction Chromatography Coupled to Tandem Mass Spectrometry in the Presence of Hydrophilic Ion-Pairing Reagents.Food Chemistry 2016, 211, 827–835.
  4. Zhao, H.; Wang, X.; Li, H.; Yang, B.; Yang, H.; Huang, L. Characterization of Nucleosides and Nucleobases in Natural Cordyceps by HILIC-ESI/TOF/MS and HILIC-ESI/MS.Molecules 2013, 18(8), 9755–9769.
  5. Chen, P.; Li, W.; Li, Q.; Wang, Y.; Li, Z.; Ni, Y.; Koike, K. Identification and Quantification of Nucleosides and Nucleobases in Geosaurus and Leech by Hydrophilic-Interaction Chromatography.Talanta 2011, 85(3), 1634–1641.
  6. Jung, M.; Lauber, M. Demonstrating Improved Sensitivity and Dynamic Range with MaxPeak High Performance Surfaces (HPS) Technology: A Case Study on the Detection of Nucleotides.Waters Application Note, 720007053, 2020. 

720007324JA、2021 年 7 月

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