• アプリケーションノート

ACQUITY RDa 検出器を用いた高麗人参化合物のスクリーニング

ACQUITY RDa 検出器を用いた高麗人参化合物のスクリーニング

  • Lisa Reid
  • Lauren Mullin
  • Giorgis Isaac
  • Robert S. Plumb
  • Jayne Kirk
  • Waters Corporation

要約

Waters ACQUITY RDa 検出器(高分解能 LC-MS 飛行時間型(ToF)質量分析器)を使用した、高麗人参の迅速で正確なスクリーニング。このコンパクトなベンチトップ飛行時間型質量分析計は、最大 3 桁のダイナミックレンジと、プロダクトイオンとフラグメントイオンの両方で一貫して ± 5 ppm 以内の高質量高質量精度を達成し、天然物のスクリーニングおよび真贋判定に最適です。

ACQUITY RDa 検出器と waters_connect ソフトウェアプラットホームおよび UNIFI アプリケーションを組み合わせることで、データ取り込みと解析を続けて実行できます。簡単にカスタマイズできるワークフローとライブラリー検索を組み込むことにより、分析が簡素化され、解析時間が短縮され、結果が明確に表示されてレポート形式に簡単に変換できます。

アプリケーションのメリット

  • ポジティブ極性およびネガティブ極性の両方のデータ解析を迅速に行える、包括的なスクリーニングライブラリー
  • 高度なデータ視覚化、解析、レポート作成ツール
  • 精密質量およびフラグメントイオンのマッチングによる高麗人参マトリックス中の化合物の同定
  • ジンセノサイドについて最大 3 桁のダイナミックレンジと高質量精度を実現する堅牢で再現性の高いシステム

はじめに

高麗人参の根は、活性化合物ジンセノサイドによるさまざまな治療目的のために数千年にわたって調製され、使用されています。現在、オタネニンジン(Panax ginseng)、トチバニンジン(Panax japananoicus)、アメリカニンジン(Panax quinsendolium)、サンシチニンジン(Panax notoginseng)など多くの種類の高麗人参が、市販の天然治療薬に含まれています。さまざまな種があり、それらは異なる治療特性を持ち、時には逆の治療特性があると信じられています。これは、パナックス属の多様性に大きく依存して異なる、ジンセノサイドのプロファイルによる可能性があります1

ジンセノサイドとして知られるサポニン類は、2 つの主要グループで構成されます。プロトパナキサジオール(PPD)グループには Rb1、Rb2、Rc、Rd、Rg3、Rh2、Rh3 が、プロトパナキサトリオール(PPT)グループには Rg1、Re、Rf、Rg2、Rh1 がそれぞれ含まれます2。 アメリカニンジンには、Rb1 や Rd などのプロトパナキサジオール(PPD)グループに属する特定のジンセノサイドがより豊富に含まれ、高麗人参には、アメリカニンジンには存在しない Rf などの特定のジンセノサイドが属するプロトパナキサトリオール(PPT)グループがより豊富に含まれると考えられています。植物化学プロファイルは、種間のジンセノサイドのプロファイルの違いに加えて、根の古さ、収穫時期、保管条件、調製プロセスなどの要因によっても影響を受ける可能性があります。特に、一部のジンセノサイドは、熱的に不安定なマロニルジンセノサイドとして天然に存在し(Rg1 や Rd など)、蒸すことで対応するジンセノサイドに変換することがあることに注意する必要があります3

EU および米国内では、治療効果を謳った天然物を供給する場合は、厳格な規制に忠実に従う必要があります。これらの規制により、医薬品・医療製品規制庁(Medicine and Healthcare Products Regulatory Agency:MHRA)や食品医薬品局(Food and Drug Agency:FDA)などの規制当局の評価を受けた製品のみが販売できます。これらの当局は、遵守しなければならない厳格な品質管理プロセスを製造者が整備することを要求し、強制しています。これらのプロセスにより、製品が厳格な規格に従って製造されていることが証明され、あらゆる有効成分に関して、一貫して明確に記載された量が含まれていることが保証されます。この規制により、製造者および分析受託機関間は、製品に含まれる天然素材の出所、純度、量を明確に実証する必要があります。

本文書で概説されている分析法では、クロマトグラフィーでの保持時間、精密質量およびフラグメンテーションパターン(理論的および分析的に導出されたものの両方)に基づいて、高麗人参の既知成分が同定されます。活性成分(ジンセノサイド)に焦点を合わせて、選択性とダイナミックレンジが証明されています。飛行時間型分析計である ACQUITY RDa 検出器では、すべてのデータが「フルスキャン」モードで取り込まれ、検出前にイオンが事前選択されない、従来の選択イオンモニタリングモードの定量分析法と比べて、優位性があります。これにより、この装置は、製造前の原材料の純度および汚染の評価に最適です。UNIFI ソフトウェアパッケージライブラリーとの連携により、1 つのプラットホーム内で検索、解析、レポート生成を簡単で迅速に行え、結果やデータをエクスポートする必要が無く、データの整合性を損なうこともありません。

実験方法

サンプルの説明

高麗人参 USP 抽出液(製品番号:Y0001029 Sigma Dorset、英国)を、70:30(v/v)メタノール:水で濃度 2.5 mg/mL に希釈し、ボルテック混合し、30 分間超音波処理し、4 ℃、13,000 g で 10 分間遠心分離して、微粒子を除去しました。

ジンセノサイドの検量線は、70:30 メタノール:水に希釈したジンセノサイド標準試料(製品番号:G-015-1ML、Sigma Dorset、英国)を用いて生成しました。

LC 条件

LC システム:

ACQUITY UPLC I-ClassFTN

カラム:

ACQUITY UPLC HSS T3(100 mm × 2.1 mm、1.8 μm)(製品番号:186003539)

カラム温度:

40 ℃

注入量:

10 μL

流速:

0.6 mL/分

移動相 A:

0.1% ギ酸水溶液

移動相 B:

0.1% ギ酸アセトニトリル溶液

グラジエント:

0 ~ 3 分に 95% ~ 70% A、3 ~ 7 分に 70% A でホールド、7 ~ 12 分に 70% ~ 55% A、12 ~ 18 分に 55% ~ 5% A、18 ~ 20 分に 1% A で ホールド、20 ~ 22 分に初期条件まで再平衡化

MS 条件

MS システム:

ACQUITY RDa 検出器

イオン化モード:

ポジティブとネガティブの両方

取り込み範囲:

50 ~ 2000

スキャン速度:

10 Hz

キャピラリー電圧:

0.7 kV ネガティブ、1.5 kV ポジティブ

コーン電圧:

30 V ネガティブ、40 V ポジティブ

フラグメンテーションコーン電圧:

120 ~ 170V

IDC:

オン

ソフトウェア:

waters_connect(UNIFI 1.9.12 を搭載)

ACQUITY RDa 検出器では、SmartMS テクノロジの一環としてシステムセットアップが自動的に実行されます。その結果、すべてのキャリブレーション、チューニング、ロックマス最適化が、分析前に装置によって行われ、各注入間で確認され、これらの作業を手動で行う必要がなくなります。これには、以下の溶液が必要です。

ロックマス溶液:

ACQUITY RDa 検出器ロックマスキット(ウォーターズ製品番号:186009298)

キャリブレーション溶液:

ACQUITY RDa 検出器キャリブレーションおよび洗浄キット(ウォーターズ製品番号:186009183)

洗浄溶媒:

ACQUITY RDa 検出器キャリブレーションおよび洗浄キット(ウォーターズ製品番号:186009183)

結果および考察

この分析法は、市販の高麗人参マトリックスおよびジンセノサイド標準混合物で実施しました。これらは、液体標準試料の希釈または凍結乾燥マトリックスの再溶解により調製した後、遠心分離して微粒子を除去しました。高麗人参マトリックスのクリーンアップは行いませんでした。

ACQUITY UPLC I‑Class システムクロマトグラフィーシステムと ACQUITY RDa 検出器を使用して、2.5 mg/mL の高麗人参マトリックス標準試料 10 μL を注入し、ポジティブイオン取り込みモードとネガティブイオン取り込みモードの両方で分析しました。UNIFI インフォマティクスプラットホームを使用して、パナックス属ライブラリーに対して成分マッチングを行いました。このライブラリーは、理論的なフラグメンテーションパターンと比較した、クロマトグラフィー保持時間(特定の分析法に対して)、質量精度、およびフラグメントイオンの存在に基づく化合物の同定を手助けするために使用しました。この分析から得られたデータを、22 種のジンセノサイド化合物が含まれているジンセノサイドでフィルタリングした UNIFI ライブラリーを用いて解析したところ、ネガティブ極性に対して 18 種のマッチした同定(標準試料で 8 種が確認され、質量および理論的フラグメンテーションマッチングのみが 10 種)が得られ、ポジティブ極性に対して 17 種のマッチした同定(標準試料で 8 種が確認され、質量および理論的フラグメンテーションマッチングのみで 9 種が推測された)が得られました。

図 1 に、UNIFI の標準的なレビュー画面が示されています。ここでは、同定された化合物(このケースでは Rg1)、クロマトグラフィーピークの XIC、低エネルギーおよび高エネルギースペクトル、およびサンプル内の他の同定された化合物のナビゲート可能な表が明確に示されています。高エネルギースペクトルでプリカーサーイオンおよびフラグメントイオンは、高エネルギースペクトルの上に示されている低エネルギースペクトルと、視覚的にマッチさせることができます。高エネルギースペクトル視覚表示の特徴には、明確に同定されたフラグメントの表示が含まれます。これらを拡張して、提示されている対応する化学構造を表示できます(図に示した通り)。

UNIFI 解析では、「未同定」成分も表にすることができます。未同定化合物は、既知成分の確認と包括的なスクリーニングのどちらに焦点を当てるかに応じて、解析セッションの中でまたは外でフィルタリングできます。

図 1. 各化合物についてのサマリー、選択した化合物(この場合はジンセノサイド Rg1)の XIC、選択した化合物の低エネルギーおよび高エネルギースペクトルを含む、選択した 1 回の注入における同定の表を示す UNIFI ディスプレイ。高エネルギースペクトルは同定されたフラグメントを示し、これを拡大表示すると、示されているようにフラグメント質量情報と構造を表示できます。

ライブラリー検索に加えて、システムの適用可能ダイナミックレンジを試験し、一般的な分析レベルでのデータの信頼性を確認しました。この評価では、0.001 μg/mL ~ 50 μg/mL の範囲の市販のジンセノサイド標準試料を使用して希釈シリーズを調製し、各ポイントに 10 μL を注入して、メタノールを 10 pg (0.01 ng) ~ 500 ng をオンカラム注入しました。この分析はネガティブイオンモードで実施し、ACQUITY RDa 検出器でのこれらの化合物が 2 ~ 3 桁の範囲であることが実証されました。1 ng オンカラム注入の場合、8 種類のジンセノサイド化合物すべてのシグナル対ノイズ比が 400 を超え、繰り返し注入の再現性が 1.4% RSD 未満でした。0.01 ng オンカラム注入の場合、ピークのシグナル対ノイズ比(S/N 日)が 5 を超え、0.1 ng オンカラム注入の場合、ピークのシグナル対ノイズ比が 70 を超えました。ただし、両濃度での繰り返し注入レスポンスの再現性が 10% RSD を超えたため、信頼性の高い統計分析に対して変動が大き過ぎると考えました。標準混合物中のすべてのジンセノサイド化合物のシステム性能の上限は、オンカラム 250 ng と判定されました。500 ng をオンカラム注入した場合、ピークの広がりが発生して、オーバーロードの兆候が示されました。繰り返し注入の再現性は、すべての化合物に対してレスポンスの %RSD が 4.3% 未満で良好でした。

市販の標準混合物に加え、高麗人参試験マトリックスを 5 つの濃度(等価プレ微粒子濃度 0.25 mg/mL、2.5 mg/mL、6.3 mg/mL、12.5 mg/mL、25 mg/mL(オンカラム 2.5 μg ~ 250 μg))で分析して、さまざまな濃度の内因性ジンセノサイドの検出に対するシステム適合性を実証しました。一般的な分析濃度 2.5 mg/mL では、すべての化合物が確立されたダイナミックレンジの範囲内、25 μg/mL(個々のジンセノサイド化合物がオンカラム 250 ng)未満でした。それぞれの高麗人参の濃度での、システムの確立されたダイナミックレンジの範囲内で観察されたジンセノサイド化合物の詳細は、表 1 に示されています。より高濃度のマトリックスで、一部のジンセノサイドのシグナルが確立されたダイナミックレンジを超えていますが、2 回の注入の間でのレスポンスの %RSD は良好なままでした。

表 1. さまざまな高麗人参の濃度で、装置のダイナミックレンジの範囲内にある化合物。緑色のボックスは確立されたダイナミックレンジの範囲内であることを示し、青色のボックスは確立されたダイナミックレンジの範囲外であることを示します。ボックス内の数値は、繰り返し注入間のばらつき(レスポンスのパーセンテージ偏差として計算)を示します。

表 1 の緑色のボックスは、確立されたダイナミックレンジの範囲内であること(レスポンスの値に基づく)を示し、青色のボックスは確立されたダイナミックレンジの範囲外であることを示します。ボックス内の数値は、その濃度レベルの化合物の繰り返し注入でのレスポンスの %RSD を示します。

図 2 に示すデータでは、従来どおりに視覚的表示に、選択した同定済み化合物についてのすべての分析データが含まれ、分析全体にわたる選択した成分レスポンス(表示している化合物はジンセノサイド Rg2)、選択したサンプルおよび選択した成分のクロマトグラフィーピークの XIC、分析セッションにわたる各注入での化合物のレスポンスを明確に示す棒グラフが表示されています。これにより、分析全体を即座に視覚的に比較できるため、パターン、異常、またはバッチ効果を迅速に評価できます。

図 2. 各サンプルのサマリー、選択した化合物の XIC、および選択した化合物(このケースではジンセノサイド Rg2)の分析における各注入のレスポンスを視覚的に示すサマリープロットを含む、注入の表を示す UNIFI ディスプレイ

標準希釈シリーズおよびマトリックス注入を 24 時間を超えるノンストップでの 1 回の連続分析で分析することは、システムによって容易に達成されました。8 種類のジンセノサイド標準試料それぞれのクロマトグラフィー保持時間は、全分析にわたって最大 0.05 分(3 秒)ばらつき、最大 RSD は 0.2% でした。

分析全体にわたる各標準試料の質量精度を評価したところ、分析全体にわたる最大の偏差は ± 4.7 ppm で、平均誤差は ± 1.3 ppm でした。注入間のシグナル強度とピーク面積を、各サンプルの繰り返し注入を用いて評価することにより、装置の確立されたダイナミックレンジの範囲内の繰り返し注入間のレスポンスについて、(純粋な標準試料および高麗人参混合液の注入を含み)最大変動は 4.6%、平均変動は 1.5% であることが示されました。分析セッション全体のシグナル強度とピーク面積の堅牢性を、分析の開始時と終了時にオンカラム 100 ng のジンセノサイド標準試料を注入して評価したところ、全種類のジンセノサイド化合物にわたって、シグナル数にわずか 7.8%(平均)の変化が認められ、注入 1 と注入 80 の間では(分析時間は 27 時間を超える)、レスポンスの計算値に認められた差はわずか 8.0%(平均)でした。

結論

ACQUITY RDa 検出器は、天然製品のスクリーニングアプリケーション(高麗人参の分析が含まれるが、これに限定されない)のための堅牢で効果的なツールを提供します。

優れたシグナルの再現性、優れた質量精度、広いダイナミックレンジを備えたこの LC-MS システムは、あらゆる天然製品を扱うラボにとってコンパクトな主力製品として最適です。UNIFI を搭載した waters_connect と組み合わせることで、データ取り込みと解析を単一のソフトウェアプラットホームで行うことができ、ワークフロー全体が確実に迅速化・効率化されて、オーディットトレイルで規制要件に完全に適合できます。 

参考文献

  1. Sengupta, S, Toh, SA, Sellers, LA, Skepper, JN, Koolwijk, P, Leung, HW, Yeung, HW, Wong, RN, Sasisekharan, R, Fan, TP.Modulating Angiogenesis: The Yin and the Yang in Ginseng.Circulation.2004, 110, 1219–1225. doi: 10.1161/01.CIR.0000140676.88412.CF.Epub 2004 Aug 30.PMID: 15337705.
  2. Zhu, J, Liang, Y, Yue, S, Fan, G, Zhang H, Zhang M. Combination of Panaxadiol and Panaxatriol Type Saponins and Ophioponins From Shenmai Formula Attenuates Lipopolysaccharide-induced Inflammatory Injury in Cardiac Microvascular Endothelial Cells by Blocking NF-kappa B Pathway, Journal of Cardiovascular Pharmacology.2017, 69(3), 140–146.doi: 10.1097/FJC.0000000000000450
  3. Wang, C; Ni, M; Sun, S; Li, X; He, H; Mehendale, S; Yuan, C. Detection of Adulteration of Notoginseng Root Extract with Other Panax Species by Quantitative HPLC Coupled with PCA.  J. Agric.Food Chem.2009, 57, 2363–2367.

720007139JA、2021 年 2 月

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