• アプリケーションノート

開発、プロセスモニタリング、QC リリースに適した頑健なモノクローナル抗体サブユニットの製品品質特性モニタリング分析法の確立

開発、プロセスモニタリング、QC リリースに適した頑健なモノクローナル抗体サブユニットの製品品質特性モニタリング分析法の確立

  • Samantha Ippoliti
  • Ying Qing Yu
  • Nilini Ranbaduge
  • Weibin Chen
  • Waters Corporation

要約

このアプリケーションノートでは、バイオ医薬品開発におけるペプチド MAM アプローチを補完するサブユニットの MAM 分析法について説明します。一般的なペプチドマッピング MAM 分析法では、特性ベースの分析のためのより標的を絞った機能が提供されますが、面倒なサンプル前処理、長い分析時間(低スループット)、複雑なデータ解析といった課題を抱えています。サブユニットベースの MAM アプローチにより、これらの課題に対応すると同時に、さまざまなバイオ医薬品の特性をモニターすることができます。 

アプリケーションのメリット

  • 分析法によるアーティファクトが少ない、迅速でシンプルなサンプル前処理
  • LC-MS データの取り込みと解析に要する時間を短縮
  • インタクトモノクローナル抗体分析と比較して、追加の情報を取得
  • コンプライアンス対応 waters_connect インフォマティクスによる効率的な自動データ分析

はじめに

先発バイオ医薬品とバイオシミラーのいずれにおいても、バイオ医薬品の開発者は市場投入までの期間短縮、コスト削減、高品質に対する評判の維持という競争圧力の高まりに直面しています。医薬品開発プロセス全体を通して、重要品質特性(CQA)の特性評価とモニタリングを行うことが重要であり、これらのアッセイをプロセスモニタリングやロット出荷に拡張することがますます重要になっています。したがって、CQA モニタリングに使用する分析法は、可能な限り頑健で、感度が高く、迅速であることが求められます。 

LC-MS ペプチドマッピングのマルチ特性分析(MAM)は、従来の光学のみによる検出法と比較して、より豊富な情報が得られることでポピュラーになっています。ただし、この方法を使用する多くのラボでは、サンプル前処理によって分析法に起因するアーティファクトが発生し、再現性の低下がみられることが分かっています。さらに、通常はデータ取り込みに時間がかかり、スループットが制限されるため、得られるデータセットが非常に複雑になる可能性があります。近年、バイオ医薬品の開発者は、重要な情報をより迅速かつ確実に得るために、モノクローナル抗体サブユニットの MAM 分析に着目しています。例えば、Dong らは、細胞培養プロセスモニタリング用のモノクローナル抗体の自動精製、サブユニット消化、LC-MS 分析のための分析法を確立しました1。このワークフローにより、ほぼリアルタイムでグリコシル化プロファイルと非酵素的リジン糖化をモニターし、細胞培養プロセスを調整することができました。Sokolowska らも同様の方法を用いて Fc サブユニットのメチオニン酸化が重要な製品特性であることを明らかにし、光および化学的苛酷試験後にそのモニタリングを行いました2。 この GMP に準拠する Xevo QTof LC-MS 分析法は、市販製品の出荷試験および安定性試験の QC での使用についてバリデーションされています3。  

本研究では、抗体のグリコシル化、糖化、酸化、および配列変異をモニターするための、2 つの Tof ベース MS システム(BioAccord および Vion)を用いたサブユニットの MAM 分析法の実施について説明します。この分析法は、サブユニットベースの分析が Tof ベースの LC-MS プラットホームのコア機能であることを示しています。また、UNIFI/waters_connect などのコンプライアンス対応のインフォマティクスプラットホームに実装することで、バイオ医薬品組織内でのモノクローナル抗体の開発、製造、および品質管理の各部門の機能を支援することができます。 

実験方法

サンプルの説明

50 μg の抗体サンプルを、消化バッファー(25 mM NaCl、25 mM Tris、1 mM EDTA、pH 8.0)に含まれる 50 ユニットの Fabricator(IdeS)酵素(Genovis)(最終濃度 1 mg/mL)と共に 37 ℃ で 1 時間インキュベートしました。モノクローナル抗体の最終濃度が 5 mM になるように DTT(ジチオスレイトール)を添加し、37 ℃ で 30 分間インキュベーションして、鎖間のジスルフィドを部分的に還元しました。脱グリコシル化したサンプルの場合は、50 μg の抗体サンプルを PNGaseF* と 37 ℃ でインキュベーション(モノクローナル抗体の最終濃度 1 mg/mL)してから、IdeS 消化および還元ステップを行いました。 

*50 μg のサンプルの場合、必要に応じてRapiFluor-MS キットの 4 μL PNGaseF を用いてスケールアップしました4。 すべてのサンプルを、分析の前に 0.1% ギ酸水溶液で 0.1 mg/mL に希釈しました。 

分析条件

LC 条件

LC システム:

ACQUITY UPLC I-Class

検出:

ACQUITY UPLC TUV

バイアル:

MaxPeak HPS を採用した QuanRecovery 12 × 32 mm スクリューネックバイアル、300 μL(製品番号:186009186)

カラム:

Waters ACQUITY BEH C4 300 Å、1.7 μm、2.1 × 50 mm(製品番号:186004495)

カラム温度:

80 ℃

サンプル温度:

6 ℃

注入:

0.5 μg の IdeS 消化モノクローナル抗体(0.1 mg/mL のサンプルを 5 μL 注入)

流速:

0.25 mL/分

移動相 A:

0.1% ギ酸水溶液

移動相 B:

0.1% ギ酸アセトニトリル溶液

グラジエント

MS 分析条件

データ管理

UNIFI v1.9.4 インタクトタンパク質分析ワークフローを使用して、データの取り込み、解析、およびレポート作成を行いました。 

結果および考察

マルチ特性分析は、バイオ医薬品候補の直接的かつ選択的な製品特性分析に極めて有望であることが示されました。ここで実証している迅速かつ効率的なサブユニット MAM 分析法では、IdeS 酵素を使用してモノクローナル抗体をヒンジ領域で切断した後、鎖間ジスルフィド結合を還元して、約 25 kD の遊離軽鎖(LC)、Fd、および Fc サブユニット(図 1 参照)を生成します。遊離サブユニットについては、15 分間の LC 分析法で逆相(RP)クロマトグラフィーを実施し、得られた分離ピークで質量分析を行い、定性分析および相対定量分析を行いました。 

図 1. IdeS 消化および部分還元を含む、モノクローナル抗体サブユニット MAM のサンプル前処理 

プロセスモニタリング、QC 出荷試験、および規制対象ラボ内で実施されるその他の試験を目的とした MAM 分析法は、頑健で再現性のあることが求められます5。 BioAccord システムでのサブユニット特性ベースの分析の頑健性を評価するために、各システムで評価した同じ 3 種のカラムのセットを装着した 2 つのシステムで、IdeS 消化トラスツズマブサンプルを 3 回繰り返し注入して分析しました。3 つのサブユニットピーク(Fd、Fc、および LC)のそれぞれについて、取り込んだ質量スペクトルを MaxEnt1 を用いて自動的にデコンボリューションし、得られた質量を UNIFI データ解析(10 ppm の質量正確度スレッシュホールドを使用)においてトラスツズマブ分子種とマッチングしました。グリコシル化および糖化された分子種の相対的な割合を、デコンボリューションされた質量ピークを波形解析し、MS レスポンスによって計算しました。  LC および Fd の糖化はそれぞれ 1.6% および 1.2% で、すべての注入(n=18)にわたって RSD は 8% 未満でした。Fc の N-グリコシル化分子種の存在量は 0.1 ~ 40%(図 2 を参照)で、相対的存在量が 0.5% を超えるすべての Fc のグリコシル化分子種では、すべての注入にわたる存在量の変動が RSD 5% 未満でした。この評価結果は、バイオプロセスまたは製品出荷時の CQA モニタリングの裏付けとなるアッセイとして通常期待される範囲内に十分収まっています。主要な頑健性を実証した後、この手法を開発可能性、クローン選択、および製剤を裏付けるために一般的に行われる解析と同様の 3 つのケーススタディに適用しました。 

図 2. 2 台の BioAccord システムでサブユニット MAM 分析法を用いて分析したトラスツズマブ Fc の N-グリコシル化分子種(各システムに 3 カラムを装着、3 回の繰り返し注入を実施)。相対存在量が 0.5% を超えるすべての分子種について、%RSD は 5% 未満です。 

最初の試験は、クローンのスクリーニング時に問われる可能性のある開発可能性の問題と、細胞培養プロセスのモニタリングに関する一般的な問題に最も密接に関連しています。このサブユニット法を、重鎖に典型的な IgG1 Fc の N-グリコシル化部位に加えて、重鎖の Fd 領域に N-グリコシル化部位を持つ抗体であるセツキシマブの糖鎖プロファイリングに適用しました(図 3)。従来、N 型糖鎖は、HILIC-FLR 分析システムを使用する 2AB 標識や、RapiFluor-MS などの MS シグナル強化タグを用いる HILIC-FLR-MS による遊離糖鎖アッセイによってプロファイリングが行われていました4。 しかし、セツキシマブに遊離糖鎖アッセイを用いると、存在するすべての N 型糖鎖の全体像は得られますが、それらの存在部位の詳細情報は得られません。Fd および Fc のグリコシル化は、抗原の認識、免疫原性、および血清の半減期に様々な影響を与えるため、この情報は重要です6。 IdeS 消化セツキシマブのサンプルで 3 回の繰り返し分析を行った Fc と Fd の結果を図 4 に示します。観察された Fd の N-グリコシル化分子種(右)は、典型的な Fc の N-グリコシル化プロファイル(左)より複雑な分岐構造を示しています。すべての Fc および Fd のグリコシル化分子種の相対存在量について計算した %RSD は、これらの分析では 3% 未満でした。この結果は、セツキシマブの IdeS サブユニット消化物を分離し、フラクションを回収し、分離した Fc と Fd について遊離 N 型糖鎖アッセイを別々に実施した、以前に発表された結果と一致しています7。 サブユニット MAM 分析法を使用することで、各ドメインのグリコフォームの位置決定のために Fd と Fc を分画する必要がなくなります。このサブユニット MAM 分析法を使用するもう 1 つの利点として、同じ分析で Fc の C-末端リジン変異体やその他の CQA を同時にモニターできることが挙げられます。

図 3. Fc の典型的な部位に加えて、Fd の N-グリコシル化部位を示すセツキシマブの図 
図 4. セツキシマブの Fc および Fd の N-グリコシル化分子種 

2 番目のケーススタディでは、サブユニット MAM アプローチをクローン選択またはプロセス開発に適用して、製品の配列変異をモニターする方法について説明します。これらは、製造時に、配列突然変異や最適でない細胞培養条件によるアミノ酸の誤取り込みによって生じることがあります8。典型的な分析を模倣するため、3 種類の既知のポイント変異を含むトラスツズマブのサンプルを使用しました。そのうち 1 つは軽鎖中で(V104L) +14 Da の質量シフト、2 つは Fc 中で(E359D および M361L)併せて -32 Da の質量シフトになります。このサンプルを、元のトラスツズマブに 0.5% ~ 50% の濃度でスパイクし、定量の正確性および直線性を分析しました。この試験では、サンプルの IdeS 消化の前に脱グリコシル化を行って、スパイクした Fc 配列変異体の BioAccord システムでのデータ分析を簡素化しました。図 5A に、LC、Fd、および Fc サブユニットの質量が、10 ppm の許容誤差範囲内で、同じ基準で検出される LC および Fc の配列変異について予測された低レベルで一致する代表的な成分プロットを示します。相対的な割合は、予測されたスパイク値と一致し、結果は 1 ~ 50% の範囲にわたって直線性(R2 = 0.9994)が認められました(図 5B)。 

図 5. トラスツズマブの配列変異の分析
(A)自動的にラベルされたLC、Fd、Fc、および2つのシーケンスバリアント種を含む10%のシーケンスバリアントスパイクサンプルの成分プロット。 LC 配列変異体にはラベル(*)が付き、Fc 配列変異体分子種にはラベル(**)が付いています。(B)観察された配列変異体の割合と予測された配列変異体の割合(1 ~ 50% の間で直線性)。 

最後の例は、製材や製品の安定性試験でよく行われる作業を模倣した強制酸化実験です。最終薬剤の貯蔵期間中に起こる酸化は、医薬品の有効性に影響するため、有効期間にも影響を及ぼす場合があります。NIST リファレンスモノクローナル抗体の対照サンプルを、0.003 % または 0.01 % の過酸化水素(H2O2)で 24 時間室温で苛酷処理してから、IdeS 消化、還元し、Vion IMS システムでサブユニット MAM 分析しました。LC サブユニットおよび Fd サブユニットは、苛酷条件に耐性があることが分かりましたが、Fc サブユニットについては酸化が大幅に増加していました(図 6)。0.003 % H2O2 処理のレベルにより、ほぼすべての Fc 分子種が酸化型(単酸化および二重酸化)に変換し、0.01% H2O2 で苛酷処理したサンプルでは、二重酸化分子種が増える方向にさらにシフトしていました。 

図 6. NIST mAb の強制酸化試験、Fc 分子種。MaxEnt1 デコンボリューション(G0F 分子種の拡大図)。0.003% および 0.01% の過酸化水素(H2O2)中でのインキュベーション後の +1、+2 の酸化が示されています。 

サブユニット MAM 分析法は、モノクローナル抗体の CQA をより迅速で効率的に分析する方法ですが、考慮すべき 2 つの実際上の制限があります。まず、モニターした CQA をタンパク質質量分析によって質量分離する必要があります。例えば、異性化や脱アミドなどによる同重体分子種や近同重体分子種はこのメソッドでは分離されず、メチオニン酸化(+16 Da)などのより小さい修飾体の分離は、50kD の還元重鎖よりも 25kD の IdeS サブユニットについてより容易に定量することができます。第 2 に、サブユニット MAM は LC、Fd、または Fc の各サブユニットに対する修飾位置のみを決定することができ、サブユニットに複数の修飾が存在する場合は、結果の直接的な解釈が複雑になる可能性があります。このような状況では、部位特異的なペプチドマッピングアプローチが必要になることがあります。 

結論

本研究では、複数の Tof プラットホームにわたるモノクローナル抗体の品質特性でのサブユニットベースのモニタリングについて説明しました。サブユニット MAM ベースの分析では、ペプチドベースの MAM 分析法よりもサンプルスループットが高く、得られるデータは複雑ではなくなります。これらの利点に対して、同じサブユニット内に存在する特定の特性における選択性が制限され、脱アミド化や異性化ベースの特性をモニターできなくなる可能性が伴います。ただし、グリコシル化プロファイル、糖化、酸化、および製品の配列変異などの一般的な CQA は、この簡単なアプローチを使用してモニターすることができます。コンプライアンス対応の waters_connect/UNIFI インフォマティクスプラットホームで BioAccord および Vion システムを操作することで、この種類の分析において、Xevo QTof プラットホームを使用した以前の幅広い試験と一貫性の高い、優れた再現性と併行精度が示されました。 

参考文献

  1. Dong J, Migliore N, Mehrman S, Cunningham J, Lewis M, Hu P. High-Throughput, Automated Protein A Purification Platform with Multiattribute LC-MS Analysis for Advanced Cell Culture Process Monitoring.Anal Chem.2016.88.8673-8679. 
  2. Sokolowska I, Mo J, Dong J, Lewis M, Hu P. Subunit mass analysis for monitoring antibody oxidation.mAbs. 2017; 9:3, 498–505. 
  3. Sokolowska I, Mo J, Pirkolachahi F, McVean C, Meijer L, Switzar L, Balog C, Lewis M, Hu P. Implementation of a High-Resolution Liquid Chromatography-Mass Spectrometry Method in Quality Control Laboratories for Release and Stability Testing of a Commercial Antibody Product.Anal Chem. 2020; 92, 2369–2373. 
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  8. Lin T, Beal K, Brown P, DeGruttola H, Ly M, Wang W, Chu C, Dufield R, Casperson G, Carroll J, Friese O, Figueroa Jr.B, Marzilli L, Anderson K, Rouse J.  Evolution of a Comprehensive, Orthogonal Approach to Sequence Variant Analysis for Biotherapeutics.mAbs.2019.11:1, 1–12. 

720007129JA、2021 年 1 月

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