本研究の目的は、複数の食料品に含まれる、欧州委員会農薬データベースの MRL 検出要件を満たす、あるいは上回る高極性陽イオン性残留農薬および植物成長調整剤を測定するための単一抽出 LC-MS/MS 分析法を実証します。QuPPe 法に従って抽出を行った後、ACQUITY UPLC BEH Amide カラムを搭載した Xevo TQ-S micro と ACQUITY UPLC I-Class システムの組み合わせで分析法の性能試験を行いました。分析法のバリデーション試験をリンゴ、キュウリ、小麦粉、ジャガイモの 4 種類の代表的な食料品について行いました。分析法の性能は、0.5 および 1.5 mg/kg のレベルでスパイクしたマレイン酸ヒドラジドを除き、その他すべての分析種について、0.01 および 0.05 mg/kg の 2 つのスパイクレベルを用い、各レベル 5 回の繰り返しで評価しました。内部標準化しなかった分析種は、ジフェンゾコートとアミノシクロピラクロルのみでした。PVDF フィルターの使用が分析に適していないことが確認されたキュウリ中のジフェンゾコート(60 ~ 67%)以外のすべての食料品で、真度についての分析法の性能は 92 ~ 108% でした。RSD はすべて 12% 以下でした。FAPAS QC 小麦粉サンプルを 1 ヶ月間隔で 2 回抽出したところ、すべての結果が割り当て値の 20% 以内で、許容可能な z スコアを達成するために必要な範囲内となりました。すべてのキャリブレーショングラフの残差が 20% 未満で、R2 の値が 0.99 以上でした。すべての分析種について、分析法バリデーション試験のすべてのバッチで保持時間の安定性は 3% 未満でした。
食品中の残留農薬分析には、QuEChERS などの多成分残留分析法を中心に様々な方法があります。ただし、極性化合物の抽出と測定は、依然としてかなり大きな課題として残っています。QuPPe(迅速極性農薬)法1 は、EURL-SRM(欧州連合基準試験所 – 残留物一斉分析法)によって開発されたもので、これを用いることで高極性農薬、その代謝物、および植物成長調整剤の同時抽出が可能になります。QuPPe 法では、すべての種類のマトリックスに効果的に対応できる汎用クリーンアップ法が現在ないため、高感度な LC-MS/MS 装置を用いてマトリックス効果を克服する点に着目しています。
この試験で用いた陽イオン性極性農薬には、既定 MRL の 0.01 mg/kg からクロルメコートの 7 mg/kg まで、様々な MRL(表 1 参照)があります2。 また、メラミン(シロマジンの代謝物)、アミノシクロピラクロル、ETU、PTU など、公式の EU MRL 残留物の定義に現在含まれていない成分もあります。食料品中における上記物質の濃度のモニタリングは、安全上の理由から今なお関心が持たれています。
このアプリケーションノートでは、Waters ACQUITY UPLC I-Class システムおよび Xevo TQ-S micro を用いて、高含水量および高でんぷん含量、低含水量のサンプルを代表する 4 つの食料品を対象とした性能データの例を記載しています。QuPPe 法に従って有機栽培の小麦粉、キュウリ、リンゴ、およびジャガイモから抽出を行い、キャリブレーションの直線性、保持時間の安定性、分析法の精度、真度、分析種の同定など、UPLC-MS/MS 法の様々な性能要因を評価しました。
有機栽培のリンゴ、キュウリ、ジャガイモは小売店から購入し、ラボで細かく均質化して、分析を行うまで冷蔵庫に 4 ℃ で保管しました。有機栽培の小麦粉は、購入後、室温で保管しました。
認定 QC サンプル(T09127QC)は FAPAS から購入しました。サンプルには、極性農薬の混合物(クロルメコートとメピコートを含む)が含まれており、含まれている化合物に割り当て値と許容限界値があります。
図 1 に示すように、QuPPe 法を使用して、均質化した有機栽培のリンゴ、キュウリ、ジャガイモ、小麦粉から抽出を行いました。小麦粉についてはステップを追加し、-20 ℃ で 2 時間凍結し、サンプル量を減らしました(QuPPe 法の説明を参照)。その後、QuPPe 抽出物の上清を、0.45 μm の PTFE フィルターを使用してろ過してから LC-MS/MS で分析しました。
添加回収試験は、4 種の食料品すべてに対して 0.01 mg/kg(マレイン酸ヒドラジドの場合は 0.5 mg/kg)で 5 回繰り返し、および 0.05 mg/kg の高レベル(マレイン酸ヒドラジドの場合は 1.5 mg/kg)で 5 回の繰り返しで行いました。マトリックスマッチド標準試料をそれぞれのブランク抽出物中に調製し、ろ過後にスパイクしました。リンゴ、キュウリ、ジャガイモのキャリブレーション範囲は、マレイン酸ヒドラジドのキャリブレーション範囲が 0.1 ~ 2 mg/kg であった以外は、すべての分析種について 0.002 ~ 0.2 mg/kg でした。小麦粉の場合、キャリブレーション範囲の値は、マレイン酸ヒドラジド(0.2 ~ 4 mg/kg)以外のすべての分析種について 0.004 ~ 0.4 mg/kg でした。スパイクしたサンプルの定量は、マトリックスマッチドブラケット検量線を用いて行いました。このアプリケーションでは、残留物の定量と確認において、表 2 に示す MRM を使用しました。
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class(固定ループサンプルマネージャ搭ー載) |
検出: |
Xevo TQ-S micro |
バイアル: |
Waters ポリプロピレン 12 × 32 mm スナップバイアル(キャップ付きおよびスリット入り PTFE/シリコンセプタム付き)、700 µL(製品番号 186005222) |
カラム: |
ACQUITY UPLC BEH Amide、1.7 µm、2.1 × 100 mm(製品番号 186004801) |
カラム温度: |
40 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
0.5 μL(パーシャルループ付きニードルオーバーフィル) |
流速: |
0.5 mL/分 |
移動相 A: |
20 mM ギ酸アンモニウム(pH 2.95、LC-MS グレードのギ酸で調整済み) |
移動相 B: |
アセトニトリル |
時間(分) |
流速(mL/分) |
%A |
%B |
曲線 |
---|---|---|---|---|
初期条件 |
0.5 |
3 |
97 |
6 |
0.50 |
0.5 |
3 |
97 |
6 |
4.00 |
0.5 |
30 |
70 |
4 |
5.00 |
0.5 |
40 |
60 |
6 |
6.00 |
0.5 |
40 |
60 |
6 |
6.10 |
0.5 |
3 |
97 |
6 |
10.00 |
0.5 |
3 |
97 |
6 |
MS システム: |
Xevo TQ-S micro |
イオン化モード: |
マレイン酸ヒドラジドでは ESI+/ESI- |
取り込み範囲: |
MRM |
キャピラリー電圧: |
1.00 kV |
脱溶媒温度: |
600 ℃ |
脱溶媒ガス流量: |
1000 L/時間 |
イオン源温度: |
150 ℃ |
コーンガス流量: |
150 L/時間 |
インフォマティクス: |
MassLynx v4.2 |
表 2 に記載した MRM は、このアプリケーションにおける陽イオン性極性農薬の定量および確認に使用した最適化したトランジションを示します。デュエルタイムの計算にはオートデュエル機能を使用しました。一番下のキャリブレーション標準試料では、この機能を使用して、ピーク全体で少なくとも 12 ポイントを取り込みました。定量に使用したトランジションは表 2 に太字で示されています。一部の分析種/食料品の組み合わせでは、これが必ずしも最も量が多いトランジションではありませんでしたが、バッチ間の一貫性を確保するためにこれを使用しました。
分析法の性能を、様々な特性を持つ食料品(リンゴ、キュウリ、小麦粉、ジャガイモ)をカバーする 4 つのバリデーションバッチにわたって評価しました。各バッチには、0.01 および 0.05 mg/kg の 2 つのレベルで添加回収試験が 5 回繰り返し行われました(スパイクレベルが 0.5 および 1.5 mg/kg のマレイン酸ヒドラジドを除く)。図 2 には、小麦粉のマトリックスマッチドキャリブレーション標準試料中に 0.02 mg/kg のレベルでスパイクした場合の典型的なクロマトグラムを示します(マレイン酸ヒドラジドでは 0.5 mg/kg)。分析法のバリデーション作業時には、この方法を用いてこのようなクロマトグラムがルーチンに得られました。このレベルの感度が、マトリックス効果を軽減することができる 0.5 µL の低注入量で得られました。
図 2 から分かるように、2 カラムのボイドボリュームの前に ETU と PTU が溶出していますが、調査した結果、すべてのバリデーションバッチで一貫してガウス分布のピーク形状を示し、保持時間も安定していました。初期に溶出する化合物のレスポンスに対するマトリックスの影響を、ETU および PTU について調査しました。PTU のマトリックス効果を計算したところ、内部標準化なしで 102 ~ 145% の範囲であり、ETU については 95 ~ 191% の範囲でした。標識内部標準を入手可能なすべての分析種について、標識内部標準を使用することで、マトリックス効果および分析種の回収率を補正しました。ジフェンゾコートおよびアミノシクロピラクロルでは、標識内部標準を利用できず、マトリックス効果はそれぞれ 98 ~ 107% と 132 ~ 216% の範囲でした。4 つのバリデーションバッチの結果を図 3 に示します。キュウリのブランク試料中に有意な濃度のメラミンが検出され、バリデーションデータ中のこの残留物/食料品の組み合わせについての結果は除外しました。
バリデーションバッチの結果により、標識内部標準を使用することで、ETU および PTU についての性能が許容可能であることが示されました。アミノシクロピラクロルは、標識内部標準を必要とせずに、バリデーション要件を超えていました。ジフェンゾコートの回収率が低いことについて調査したところ、LC-MS/MS 分析の前に使用するフィルターの種類によって起こる問題であることが分かりました。PTFE フィルター(0.45 μm)を使用した場合、バリデーション結果は、SANTE4 分析法のバリデーション基準の要件を超えていました。その他のすべての分析種が、分析法のバリデーション基準を満たしているか、あるいは超えていました。
マトリックスマッチド検量線を分析法のバリデーション試験を通して使用しました。得られた検量線グラフの例を図 4 に示します。すべての分析種について、バリデーション試験の各検量線グラフは決定係数 0.99 以上と表示され、残差はすべて 20% 未満でした。これらの値は、SANTE ガイドラインに定められているキャリブレーションの要件を超えています。
この結果は、SANTE ガイドラインに従って同定について評価し、回収サンプル中のすべての分析種をイオン比と保持時間の両方で確認しました。図 5 は、4 つの分析法バリデーションバッチすべてにわたる分析種の保持時間を示しており、バリデーション試験の間、保持時間が安定していることを示しています。小麦粉サンプルについては、保持時間の安定性試験を更に行いました。この試験では、オペレーターの操作なしで 0.02 mg/kg のマトリックスキャリブレーション標準試料を 200 回注入しました。図 6 に、選択した分析種の 1 回目および 200 回目の注入を示します。保持時間は安定しており、観察されるピーク形状に大きな変化はないことが分かりました。
この分析法を、クロルメコートとメピコートを含む FAPAS QC サンプル(T09127、小麦粉)で試験しました。サンプル抽出は 1 ヶ月間隔で 2 回、各 3 回の繰り返しで行いました。本研究から得られた結果を表 3 に示します。すべての繰り返しが QC 試料の範囲内にあり、両方の分析種について平均濃度が割り当て値の 20% 以内で、許容可能な z スコアの範囲内にあります。6 回の繰り返しについての室内併行精度(RSD)は 2% 未満でした。両方の分析種を、SANTE ガイドライン5
に従って、すべての繰り返しにおいて保持時間とイオン比によって確認しました。
分析法のバリデーション試験結果から、Xevo TQ-S micro と組み合わせた ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムに ACQUITY UPLC BEH Amide カラムを装着して使用することで、これは、確立された QuPPe 抽出プロトコルを用いて陽イオン性極性農薬を測定するための頑健な分析法であることが実証されました。ほとんどの化合物についての結果が、SANTE ガイドラインの分析法バリデーションの要件を超えています。この LC-MS/MS 分析法の真度と精度を、2 つのマトリックス QC レベルでの 5 回の繰り返し注入で判定し、すべての化合物について合格範囲であることが分かりました。保持時間の安定性が試験全体にわたって証明され、すべての化合物について、分析法の性能バッチすべてにわたる RSD が 2% 未満でした。ほとんどの場合、定量限界が MRL の要件を上回っています。10 分間という短い分析時間と QuPPe 抽出メソッドの利用により、調査した様々な食料品中の陽イオン性極性農薬の分析において高いサンプルスループットが得られます。
科学者は各自のラボの分析法をバリデーションし、その性能が目的に適合しており、また関連の分析コントロール保証システムのニーズを満たしていることを証明しなければなりません。
720007201JA、2021 年 3 月