• アプリケーションノート

環境サンプル中のペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)のノンターゲット分析アプローチ

環境サンプル中のペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)のノンターゲット分析アプローチ

  • Marian Twohig
  • Gordon Fujimoto
  • Aarthi Mohan
  • Kari L. Organtini
  • Kenneth J. Rosnack
  • Simon Hird
  • Waters Corporation
  • University of Massachusetts Amherst

要約

ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)は、さまざまな工業製品や商業製品で使用される合成化合物のグループであり、環境汚染物質として知られています。タンデム四重極型質量分析法を用いたターゲット分析法は、このような化合物を高感度で検出できますが、検出できる潜在的な PFAS の数は限定されています。ノンターゲット手法により、サンプル中の PFAS 汚染のより包括的な特性解析が可能になります。本研究では、Xevo G2-XS QTof に PFAS キットのコンポーネントを取り付けた ACQUITY UPLC I-Class PLUS を組み合わせて使用することで、PFAS のノンターゲット分析のワークフローを紹介しています。ウォーターズ社内の PFAS レファレンスライブラリーを使用して、廃水および土壌サンプル中に検出された化合物に推定的同定を割り当てました。このライブラリーは分子イオンとフラグメントイオンの精密質量、同位体パターンから構成されています。また、レファレンス標準試料が使用できる場合、保持時間などのその他のクロマトグラフィー特性を使用して、成分の推定的同定の割り当ての信頼性を高めることができました。続いて、廃水および土壌サンプル中に検出された PFAS 成分を、同様のワークフローを使用して定量しました。共通フラグメント、ニュートラルロス、および質量欠損の検索など、追加のソフトウェアツールを使用して外部データベースを自動検索することにより、UNIFI ライブラリーには存在しない PFAS を発見できました。ここで紹介するノンターゲット手法は、新規 PFAS 化合物の発見や、環境中の PFAS 汚染について理解を深めることや、環境修復のための汚染源のフィンガープリンティングなど、様々な場面において非常に有用です。

アプリケーションのメリット

  • ダイレクト注入アプローチにより、サンプル前処理法が簡素化し、PFAS の損失や結果のバイアスを避けることができる
  • ローカルな PFAS 精密質量ライブラリーには、4,000 を超える化合物が含まれており、簡単にカスタマイズできる
  • 成分の推定同定において、複数の特性を用いる分析ソリューションにより、環境サンプル中の既知の PFAS および新規の PFAS の結果の信頼性が向上

はじめに

ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)は合成化合物のグループであり、遍在する環境汚染物質です。構造上、これらは水素が完全または一部フッ素原子に置換した脂肪族炭素鎖からなります。更に、これらの物質にはカルボン酸、ホスホン酸、アルコール、スルホン酸、またはスルホンアミドなどの末端官能基が含まれます1-3。 炭素-フッ素間結合は強いことから、高度にフッ素化された炭素化合物は安定性に優れ、分解耐性になって生物蓄積するようになります。結果として、これらの化合物は環境および生体サンプル中に幅広く検出されます。これらの化合物は環境中に残留するため、人間および野生生物に与える潜在的な健康上および環境上の影響を理解しようとしている科学者らの関心が世界中で幅広く集まっています4。最も悪名高い 2 種の PFAS 化合物(PFOA および PFOS)は、健康に悪影響を及ぼすことから、その使用および製造が世界の大半の地域で禁止されています。近年、便利な機能性を保ちつつ、従来の製品より分解耐性を低減することを狙ったより短鎖長の代替ケミストリー製品を、メーカーが設計しています5。新配合の製品についての化学情報および毒性情報は多くの場合、幅広くは公開されていません。そのため、ターゲット分析種だけでなく、ノンターゲット分析種についてデータが得られる分析法は有益であり、このクラスの化合物の環境分布を十分に評価するのに利用できます4-10。 更に、これらの化合物が導入されて以来、推定 4,000 ~ 6,000 種の PFAS 様の化合物が製造されているとされています11。 タンデム四重極型質量分析法を用いた現在のターゲット分析法は、これらの化合物について高感度で検出することができますが、サンプル中に存在する潜在的な PFAS の一部にしか焦点を当てることができません。ノンターゲット手法により、サンプル中の PFAS 汚染のより包括的な特性解析が可能になります。

本研究では、超高速高分離液体クロマトグラフィー(UPLC)および高分解能飛行時間型質量分析計(TOF-MS)によるノンターゲット分析で得られたデータを使用して、水および土壌の抽出物中の PFAS を測定する 2 つのワークフローを紹介しています。1 つ目のケースでは、ペルフルオロアルキルカルボン酸(PFCA)、ペルフルオロアルキルスルホン酸(PFSA)、ペルフルオロアルキルエーテルカルボン酸(PFECA)、フルオロテロマースルホン酸(FTSA)のサブクラスを含みますがこれらに限定されない化合物を含むウォーターズ社内の PFAS レファレンスライブラリーを使用して、検出された化合物の割り当てを行いました。これらのライブラリーは、in-silico データおよび実験データから生成されたものです。マススペクトル情報は、利用可能な真正レファレンス標準試料の分析で得られた実験データによって裏付けられた、既知成分の化学構造から予測しました。ライブラリーには擬分子イオンとフラグメントイオンの精密質量、同位体パターンが含まれており、レファレンス標準試料が使用できる場合は、保持時間などの追加のクロマトグラフィー特性を使用して成分を同定しました。次に、残りの成分のデータを使用して、ChemSpider を通じて外部データベースの自動検索を行いました。

実験方法

真正 PFAS 標準試料は Wellington Laboratories(カナダ、オンタリオ州)から購入しました。

PFAS は製品に幅広く使用されているため、PFAS 化合物のサンプルを分析する際には、手順上の汚染および装置の汚染を避けるために注意が必要となります。サンプルの採取、前処理、分析における課題に対処する必要があります。テフロンまたは PTFE を含む素材を使用しないように注意する必要があります。サンプルの採取から分析に至るまで、高密度ポリプロピレン(HDPE)製の容器やバイアルを使用する必要があります。PFAS 分析においては、システム汚染が発生する可能性がありますが、適切なステップを踏むことでこれを避けることができます。PFAS 分析を使用する前に、Waters PFAS ソリューションインストールキットを UPLC システムに取り付ける必要があります。このキットは PFAS を含まないコンポーネントと、共溶出による分析ピークへの残留バックグラウンド干渉を遅らせるのに役立つアイソレーターカラム(移動相ミキサーとインジェクターの間に設置)で構成されています12

廃水および土壌のサンプル前処理

廃水および土壌のサンプルは共同研究者から提供を受け、それぞれ ASTM 7979 および ASTM 7968 に従って前処理しました。これらの ASTM 分析法では、サンプル希釈の後、シリンジフィルターでろ過してから、サンプル分析を行います。各手法の詳細はウォーターズアプリケーションノート 720006329 および 720006764 を参照してください。サンプルに 2 種の 13C 同位体標識内部標準(13C8-PFOA および 13C8-PFOS)をスパイクした後で、サンプル前処理を行いました。試験に用いた水サンプルは、地表水、地下水、飲料水、廃水などです。土壌サンプルは、砂、沈泥、粘性の低い粘土、粘性の高い粘土などです13-15

LC 条件

LC システム:

PFAS キット(製品番号:176004548)を取り付けた ACQUITY UPLC I-Class PLUS

検出:

Xevo G2-XS QTof 質量分析計、ESI ネガティブイオン

バイアル:

ポリエチレン製キャップ付きポリプロピレン製オートサンプラーバイアル(製品番号:186005230)

カラム:

ACQUITY UPLC C18 2.1 × 100 mm、1.7 µm(製品番号:186002352)

カラム温度:

35 ℃

サンプル温度:

10 ℃

注入量:

30 μL

流速:

0.300 mL/分

移動相 A:

95:5 水:メタノール + 2 mM 酢酸アンモニウム

移動相 B:

メタノール + 2 mM 酢酸アンモニウム

グラジエントテーブル

MS 条件

MS システム:

Xevo G2-XS QToF 質量分析計

イオン化モード:

ESI-イオン

取り込み範囲:

50 ~ 1200 Da

キャピラリー電圧:

0.5 kV

コーン電圧:

10 V

コリジョンエネルギー:

低:4 eV

高:20 ~ 70 eV

脱溶媒温度:

350 ℃

イオン源温度:

100 ℃

脱溶媒ガス流量:

1000(L/時間)

コーンガス:

100(L/時間)

ロックマスレファレンス:

ロイシンエンケファリン、200 ng/mL

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

UNIFI v1.9.4

MS ソフトウェア:

UNIFI v1.9.4

インフォマティクス:

UNIFI v1.9.4

ライブラリー生成

MSE と呼ばれるデータインディペンデント取得モードを使用して、単一の注入でプリカーサーイオンおよびプロダクトイオンから精密質量測定値を収集しました16。複数の属性(例えば、保持時間、精密質量、予測フラグメント)を用いて、化合物ライブラリーのエントリーを検索した場合、疑陽性の数が大幅に減少し、同定の信頼性が大幅に向上しました。使用できる真正標準試料の分析による解析データファイルを、関連する構造の .mol ファイルと併用し、対象化合物のカスタムライブラリーを作成しました。情報を Microsoft Excel からインポートして、UNIFI 内にライブラリーを作成することもできます。 レファレンス標準試料がないものについては、EPA CompTox ライブラリーからの化合物の構造を追加して新たなライブラリーを生成し、合計 4,200 を超える化合物のライブラリーが完成しました17。これらの PFAS ライブラリーはウォーターズマーケットプレイス(https://marketplace.waters.com/home)からダウンロード可能です。PFTreDA のライブラリーエントリーの例を図 1 に示します。

図 1. プリカーサーイオンおよびフラグメントイオン、付加イオンの予測 m/z およひ保持時間を示す PFTreDA(ペルフルオロテトラデカン酸)のライブラリーエントリーの例

結果および考察

図 2 の概略図に方法を説明しています。ACQUITY UPLC を Xevo G2-XS と組み合わせて使用して、コンポーネント化および UNIFI を用いる評価のための包括的なデータセットを作成しました。まず、成分を UNIFI ライブラリーのエントリーと照合して、レファレンス標準試料を使用できる場合、それらを使用してポジティブな検索結果を定量します。次に、残りの各成分由来のすべてのイオンの精密質量測定値を使用して、外部データベース検索(ChemSpider の検索など)を行うための元素組成が得られます。構造の確認には、MS/MS などの更なる実験やレファレンス標準試料とのデータ比較が最終的に必要となります。

図 2. ノンターゲット分析に使用した方法の例 

廃水および土壌のサンプルを用いて、様々な実験を実施しました。まず、定性実験を実施し、サンプル中にどの PFAS 化合物が検出されるのかを判定しました。次に定量実験を行い、検出された分析種がどの程度の量存在しているかを測定しました。

UNIFI ライブラリーを使用した廃水中の PFAS の検出

30 種の PFAS 化合物をスパイクした廃水の分析により、ターゲットスクリーニングワークフローの性能を評価しました。検出された PFAS の同定の正確さを検証するために使用した基準のサマリーを表 1 に示します。これには、実測 m/z、質量精度、保持時間の予測値および実測値、検出された付加イオンが含まれます。廃水ブランクにスパイクしたそれぞれの化合物が検出され、質量精度 0 ~ -1.1 mDa の範囲で正しく割り当てられました。

表 1. 廃水マトリックスに 1,000 ng/L(0.03 ng 注入)になるようにスパイクした 30 種の PFAS 化合物および 2 種の内部標準を示す成分サマリーテーブル 

データレビューを容易にするために、データセットにカスタマイズ可能なビューフィルターを適用して、一定の基準を満たす割り当てに限定することができます(特定の保持時間枠範囲内にある、フラグメントが検出されている、質量欠損の領域内にあるものなど)。これらのフィルターを使用することで、関連する特徴に合致する化合物/成分のみが表示されます(図 3)。

図 3. [View Filter](ビューフィルター)画面をカスタマイズして、成分サマリーに示されるデータの表示方法を管理する 

一連の PFAS を 1,000 ng/L になるようにスパイクした廃水抽出物の分析で検出された化合物の 1 つの成分サマリーを図 4 に示します。ADONA のエントリーが強調表示されており、プリカーサーイオンおよびフラグメントイオンの EIC、関連するスペクトルデータ、および構造割り当てが示されています。 カスタマイズ可能なワークフローが図の左側に示されています。リストの各エントリーを変更して、任意の分析のデータレビューの自然な進行を示すことができます。[Identified Components](同定成分)のステップが自動的に選択され、ソフトウェアによって同定されたすべてのライブラリー成分が表示されます。成分サマリーテーブルには、m/z、質量誤差、保持時間、検出された付加イオンを含む、同定された分析種についての情報が示されています。分析種の構造が、予測されたフラグメント構造および関連付けられた質量誤差とともに表示されています。これらの情報が 1 つのビューに表示されることで、結果の解釈が容易になり、同定の信頼性が高まります。

図 4. 廃水サンプル抽出物中の 1,000 ng/L の ADONA の同定(30 µL(0.03 ng)注入)。プリカーサーイオン(m/z 376.9683、質量誤差 -0.6 mDa)およびフラグメントイオン(m/z 250.9754 および 84.9903、質量誤差それぞれ -0.6 mDa および -0.3 mDa)の EIC。低コリジョンエネルギー(上)および高コリジョンエネルギーでのスペクトルが示されています。 

UNIFI ライブラリーを使用した土壌中の PFEESA の検出

土壌サンプルの分析で得られたデータも、同様に解析しました。UNIFI のデータレビューの最初のステップでは、PFAS ライブラリーの検索で割り当てられた検出化合物がすべて表示されます。これらの化合物は成分サマリーテーブルにリストされています。図 5 に PFEESA の検出および割り当てにおける成分サマリーテーブルの例を示します。 クロマトグラム画面には、プリカーサーイオンおよびライブラリーに記録されているすべての検出されたフラグメントイオンの抽出イオンクロマトグラム(EIC)が生成されています。プリカーサーイオンのスペクトルは、低コリジョンエネルギーデータ(上)に示されており、その下に高エネルギーのフラグメンテーションスペクトルが示されます。 フラグメントに割り当てられた構造は in silico フラグメンテーションアルゴリズムを使用して生成されています。

図 5. 粘性の低い粘土の抽出サンプル中の PFEESA の同定。プリカーサーイオン(m/z 314.9379、質量誤差 -0.1 mDa)およびフラグメントイオン(m/z 134.9874、質量誤差 0.0 mDa、m/z 82.9608、質量誤差 0.0 mDa)の EIC、並びに低コリジョンエネルギー(上)と高コリジョンエネルギー(下)のスペクトルおよび関連する構造。 

次に、固定コリジョンエネルギー(17 eV)を使用して、当初のスクリーニングデータの疑いのある陽性について確認のためのターゲット MS/MS 実験を行いました。PFEESA の真正標準試料の保持時間 8.10 分で溶出するクロマトグラフィーピークのスペクトルを土壌サンプル抽出物の同じ保持時間のピークのスペクトルと比較したところ、図 6 に示すように一致することが分かりました。

図 6. 真正標準試料および粘性の低い粘土抽出物のターゲットの m/z 314.9379 についての確認のためのターゲット MS/MS 実験。予測フラグメント構造および質量誤差も示しています。 

同一の MS および LC 分析法を用いて、プリカーサー m/z の EIC を使用して、溶媒(0.1% 酢酸含有 50/50 メタノール/水溶液)で作成した検量線に基づいて定量実験を実施し、土壌サンプル中の PFEESA 濃度を測定しました(図 7)。測定されたサンプル抽出物中の PFEESA 濃度は 1,730 ng/L で、元の土壌サンプル中では 8.65 ng/g でした。

図 7. 粘性の低い粘土抽出物中に 1,730 ng/L(土壌中では 8.65 ng/g)の濃度で存在する PFEESA の、PFEESA プリカーサーイオン(m/z 314.9379)およびフラグメントイオン(m/z 134.9874、m/z 82.9608)の EIC。5 ~ 10,000 ng/L の範囲にわたる直線性の検量線も示します。 

構造解明ツール

共通フラグメントの検索

UNIFI ソフトウェアには、サンプル中に存在するが UNIFI ライブラリーには存在しない PFAS の同定および解明に役立つ一連のツールが含まれています。サンプル中の残りの PFAS を割り当てる際に最も有用なツールは、共通フラグメント、ニュートラルロス、質量欠損の検索などです。コンポーネント化後、すべての問題解明ツールを利用して、単一のデータセットについて継続的に照会を行い、サンプルの再解析を行う必要なしに、新しい方法で解釈することができます。

多くの PFAS サブクラスの化学構造は、多くの場合類似の部分構造を有しており、それらが衝突誘起解離(CID)を受けた場合、共通の確認フラグメントイオンが生じる場合があります。疑いのある分析においては、共通の構造情報を使用できます。共通フラグメントが同定された後は、解析メソッドの検索条件に入力して、これら共通の構造特性についての自動検索を行えます。図 8 の成分サマリーテーブルには、共通フラグメントイオン(m/z 79.9573(SO3)および m/z98.9557(FSO3))を生じる PFAS の同定が示されています。 フラグメント EIC も、共通の特性を持つサンプル中の複数の成分を反映しています。共通フラグメントイオンのフィルタリングは、ライブラリーに存在しない可能性がある未知の PFAS を同定する戦略の 1 つです。共通フラグメントイオンのフィルタリングを用いて可能性のある同定を行ったら、ディスカバーツールを使用して成分を調査し、未知成分の可能性のある構造を同定することができます。

図 8. スパイクした廃水サンプルで共通フラグメントイオン(m/z 79.9573 および 98.9557)を有する分析種のリストを示す成分サマリー。フラグメントイオンの EIC は、1 つまたは両方のフラグメントイオンを持つ追加の成分を示しています。 

ニュートラルロスおよび質量欠損の検索

ニュートラルロスの検索により、構造特性を共有し、CID の間に共通の中性部分が損失された PFAS のサブクラスに関するデータを抽出できます。ソフトウェアのアルゴリズムにより、ターゲットのリストで指定したプリカーサーイオンの精密質量 - ニュートラルロスの精密質量について、定義した質量許容範囲内で検索が行われます。このアプローチは、探索の場面で、既知の化合物と類似した部分構造を持つ新規成分を判定するのに有用です。

CO2HFHF の損失はテロマー酸である FHEA、FOEA、FDEA で一般的です。解析メソッドにおけるターゲットのニュートラルロスのリストに基づいて、これら 3 つの成分すべてが同定され、分類されました。また、ビューフィルターにより成分が表示され、ニュートラルロスが検出されています(図 9)。レファレンスライブラリーからの情報を使用して解析メソッドを自動入力することで、関連化合物および同族列の同定に役立てることができます。

潜在的な未知 PFAS 化合物の検索には、質量欠損スクリーニングも使用できます。多くの水素がフッ素原子に置換され、低度の(あるいは負の)質量欠損になります。これらは、他のデータフィルタリング手法と併用することで、探索および同定に役立てることができます7

これらの構造解明ツールを使用して、データの調査を更に進め、サイエンスライブラリーに存在しない新規 PFAS の有無を調べることができます。

図 9. 成分サマリーに、同定されたテロマー酸である FDEA、FHEA、FOEA が示されています。CO2HFHF が共通して損失されていることがソフトウェアにより記録されています。 

UNIFI ライブラリーに存在しない廃水中のその他の PFAS の検出

UNIFI ディスカバーツールを使用して、既存の UNIFI ライブラリーに存在しない成分の同定を行うことができます。ディスカバーツールにより、プリカーサーイオンやフラグメントイオンの精密質量などを含む、生データから得られるすべての情報を使用して可能性のある分子式が生成されて、ChemSpider などの外部データベースで自動的に検索され、目的の未知の候補質量の調査を行うことができます。 廃水サンプルで検出された未同定成分のデータレビューにより、質量欠損部位内の疑いのある成分が明らかになり、ソフトウェアにより共通フラグメントイオンを有することを示すフラグが付けられます(図 10)。

図 10. 廃水中に検出された未知成分(m/z 278.9705、保持時間 7.41 分)を示す成分サマリー。 共通フラグメントおよび質量欠損の検索により、この候補に目的成分としてフラグが付けられています。 

疑いのある成分の解明により、複数の可能性のある提案がなされましたが、リストの提案された構造のうち 1 つのみが一致するフラグメントイオンを有していました。元素組成が C5HF9O3 の、最もよく一致している提案はペルフルオロ(4-メトキシブタン)酸でした。また、この成分の引用数が最も多く、この提案がデータベースで参照される頻度が多いことを示しています。元素組成および提案の一般名に加えて、表には一致したフラグメント数および引用回数の情報が示されています。提案を並べ替えて、どの構造が最もフラグメント一致および/または引用が多いかを明らかにすることで、リストで最も可能性の高い候補の優先順位を付けることもできます(図 11)。各提案の別名も記載されており、一般名が最も多く使用されている識別子でない場合の同定に有用です。

図 11. UNIFI ディスカバーツールを使用して、疑いのある候補を表示することができます。一般名、マッチしたフラグメント数、引用数が表にリストされています。提案されたプリカーサーおよびプロダクトのフラグメント構造も表示されています。 

提案された候補についての詳細情報は、UNIFI ソフトウェア内から ChemSpider エントリーにアクセスして確認できます(図 12)。

図 12. ペルフルオロ(4-メトキシブタン)酸の ChemSpider データベースのエントリー 

確証のための MS/MS 実験およびペルフルオロ(4-メトキシブタン)酸の真正標準試料を用いて保持時間およびフラグメンテーションのマッチングを行い、化合物の同定結果を確認しました(データは示していません)。未知成分が同定されたら、検出結果を UNIFI ライブラリーに保存し、今後の検索の対象とすることができます。

結論

廃水および土壌のサンプル中に検出された PFAS 化合物の割り当てにおいて、カスタムライブラリーは非常に役立ちます。 ライブラリーには、使用できる真正標準試料に基づいて作成された化合物の構造、精密質量、並びに保持時間やフラグメントイオンなどのその他の特性が含まれています。成分同定は、保持時間、精密質量、プリカーサーイオン、フラグメンテーションパターンや同位体分布など、複数の属性に基づいて行われており、割り当ての信頼性が向上しています。 追加の PFAS 構造ファイルをライブラリーに簡単に加えられるため、より多数の分析種のスクリーニングが容易になります。成分特有のスペクトルおよびクロマトグラフィーフィンガープリントを含むライブラリーの生成を、既知の構造特性に関する情報と併用することで、既存および新規の PFAS 化合物の発見のための有用なツールとなり、環境中の PFAS の存在および分布についてより多くの知見が得られます。

更に、UNIFI ソフトウェアは、共通フラグメントイオン、ニュートラルロスおよび質量欠損の検索を使用して、ライブラリーに登録されていない潜在的な未知 PFAS を同定するのに役立つツールを提供します。これらのツールを活用することで、潜在的な未知 PFAS のフィルタリングが簡単にできるようになり、可能性のある同定の数を、最も可能性の高い候補に絞った対処可能なリストにまで減らすことができます。解析はすべてデータ収集とは独立しているため、単一の分析法および注入を使用してデータを収集しつつ、データは継続的にクエリーを行い、様々な方法でフィルタリングして、未知の PFAS についてデータを掘り下げることができます。ライブラリー検索と解明ツールの併用により、ターゲット MS/MS 手法では実現できない、広範な PFAS についての環境サンプルの徹底的なスクリーニングが可能になります。Xevo G2-XS QTof と UNIFI データ解析の併用を利用するノンターゲット手法は、新しい PFAS 化合物の発見、環境に及ぼす PFAS 汚染についての理解を深めること、環境修復のための汚染源のフィンガープリンティングなど、様々な場面で活用することができます。

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720007184JA、2021 年 3 月

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