法中毒学目的のみに使用してください。
UPC2-MS/MS は GC および LC に直交的なクロマトグラフィー手法です。UPC2-MS/MS 分析法は様々なドーピング薬物の検査用に開発されました。メルドニウム、アミロリド、エチルグルクロニドなどの極性が非常に高い化合物がよく保持され、その他の化合物の大半で優れたクロマトグラフィー性能が示されました。すべての化合物について、バッチ内およびバッチ間で保持時間が安定しており、%RSD は <0.6% でした。この分析法には、すべての化合物を世界アンチ・ドーピング機構(WADA)の最小要求性能限界レベル(MRPL)以下の濃度で正確に検出できる分析感度および選択性がありました。GC および LC に加えてこの手法を用いることで、クロマトグラフィー範囲をより完全にカバーできるため、アンチ・ドーピング分析における付加価値が高まります。
世界アンチ・ドーピング機構(WADA)の禁止リスト [WADA, 2021] には現在、特別に禁止されている物質が数百種含まれています。また、名前が特に決まっていない運動能力強化薬物で、禁止薬物のクラスに属しているものも含まれています。分析検査を要する化合物の物理化学的多様性が、アンチ・ドーピングを取り扱うラボの最大の課題の 1 つとなっています。現在、これらの課題の多くは、LC-MS(LC-HRMS および LC-MS/MS)や GC-MS(GC-HRMS および GC-MS/MS)により対処されています。一方、現在の手法では信頼性の高い同定および確認が困難な物質が多く残されています。これらの物質の多くは極性が高く、従来のクロマトグラフィープラットホームでの保持が非常に悪く、また化学的性質により良好なピーク形状が得られないなどの問題があります。UPC2-MS/MS は、GC および LC の両方に直交的な分離手法であり、多くの場合、他のクロマトグラフィー手法では達成できないような分離能と選択性が得られます [Nováková, 2015; Losacco, 2020]。このアプリケーションブリーフでは、多様な物理化学的特性を有する広範な禁止物質の UPC2-MS/MS クロマトグラフィー分析法開発および分析について詳しく説明しています。これらの禁止物質には、刺激薬、ステロイド、乱用薬物、グルココルチコイド、利尿薬、β遮断薬などの物質およびその他の禁止物質が含まれます。UPC2-MS/MS 分析法を使用することで、メルドニウム、アミロリド、エチルグルクロニドおよびその他の多数の検査対象化合物など、他のクロマトグラフィー手法では分析が困難な化合物の保持および分離が可能になりました。1,000 名分の匿名アンチ・ドーピングのサンプルでは、違反の分析所見はありませんでした。すべての分析種で保持時間がバッチ内およびバッチ間で安定していました。また、この分析法は分析感度が高く、すべての化合物を WADA の最小要求性能限界レベル(MRPL)で正確に検出できました[WADA, 2019]。
すべての分析種の標準物質および内部標準は、Drug Control Centre(DCC、英国キングス・カレッジ・ロンドン)のご厚意により無料で提供頂きました。カラムの初期スクリーニングおよび分析法開発に 8 種の化合物を使用しました。これらを表 1 に、使用した化合物と特定の MS 条件とともに示します。
研究の 2 段階目では、大規模な化合物群(これもキングス・カレッジ・ロンドンの DCC より提供されたもの)を調査しました(付録を参照)。個々の標準物質を組み合わせて、2 つの混合溶液(QC1 および QC2)を作りました。これらの混合溶液は、分析法開発および保持時間の検証のためにメタノールで調製され、また真正品サンプルのバッチを分析する際はスパイクしたレファレンスサンプルとして、ブランクの尿中で調製されました。付録には、化合物、関連する濃度、保持時間、特定の MS 条件のリストを示します。
内部標準(IS)溶液にはメフルシド、エフェドリン-d3、およびサルブタモール-d3(濃度 10 µg/mL)が含まれています。
1,000 名分の真正の匿名アンチ・ドーピング尿サンプルが DCC の厚意により提供され、リストに記載された最終条件で分析しました。
サンプル前処理は Nováková ら の方法を適用しました[Nováková, 2015]。200 µL の尿を 790 µL のアセトニトリルと 10 µL の内部標準の混合液中に希釈し(10 µg/mL)、5,000 rcf で 10 分間遠心分離して得られた上清 2 µL をカラムに注入しました。
UPC2-MS/MS |
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LC システム: |
ACQUITY UPC2 システム |
検出: |
Xevo TQ-XS |
カラム: |
Torus Diol (OH)カラム、130 Å、1.7 µm、3.0 × 100 mm |
カラム温度: |
35 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
2 μL |
流速: |
1.2 mL/分 |
移動相 A: |
CO2 |
移動相 B: |
0.1% 強アンモニア含有メタノール |
メイクアップ流速: |
メタノール 0.2 mL/分 |
MS システム: |
Xevo TQ-XS |
イオン化モード: |
ESI+ および ESI- |
キャピラリー電圧: |
2.0 kV(-2.0 kV) |
コリジョンエネルギー(CE): |
化合物による(付録参照) |
コーン電圧(CV): |
化合物による(付録参照) |
最適な条件を得るため、有機モディファイヤー組成およびカラムケミストリーという 2 つのクロマトグラフィー次元についてスクリーニングを行いました。また、移動相 B (MPB)のモディファイヤーとして、モディファイヤーなし、0.1% ギ酸、0.1% 強アンモニア、10 mM ギ酸アンモニウムをスクリーニングしました。それぞれをメタノールに添加し、MPB として使用しました。
同じ寸法および粒子サイズ(130 Å、1.7 µm、3.0 × 100 mm)の 4 本のカラムもスクリーニングしました。固定相には Viridis BEH 2-エチルピリジン(2-EP)、Torus 2-PIC、Torus 1-AA、Torus Diol(OH)カラムを含めました。すべてのカラムで最終的な分析法に記載した溶媒ランプを使用しました。ただし、Diol カラム以外のすべてのカラムでの流速は 1.5 mL/分にしました。
UPC2 カラムおよび 4 種のモディファイヤーについて、限られた化合物の試験混合液を用いて初期評価を行いました。Viridis 2-EP カラムを使用した初期試験では、0.1% 強アンモニアを使用した場合に、0.1% ギ酸、10 mM ギ酸アンモニウム、あるいはモディファイヤーを使用しなかった場合と比較して、優れたピーク形状および保持が得られることが分かりました。追加のカラムによる試験により、特に 3-OH スタノゾロール-グルクロニドおよびメルドニウムについては、保持、ピーク形状、テーリングの減少、分析感度などの点で Torus Diol カラムの性能がその他の 3 種のカラムよりも優れていることが示されました。Diol カラムのクロマトグラフィーの例を図 1 に示します。試験した最初の 8 種のドーピング化合物では、優れたクロマトグラフィー性能が得られました。逆相 LC または GC では保持が困難なエチルグルクロニドおよびメルドニウムの両方とも、この試験でよく保持されて非常に良好なピーク形状が得られ、テーリングは最小限に抑えられました。その他の化合物でも、化学的特性が多様であるにも関わらず、良好な保持および対称のピーク形状が得られました。そのため、Diol カラムを大規模なドーピング物質のパネルおよび 1,000 件の真正の匿名アスリートのサンプルの分析に使用しました。
付録に記載している化合物の拡張パネルを使用して、1,000 件のアンチ・ドーピング真正サンプルのスクリーニングを行いました。この物質のリストはアンチ・ドーピング分析を行うラボの科学者が作成したものです。化合物は、WADA 禁止リストの主な薬物クラスを代表するものを選択しました。これらの化合物のクロマトグラムを図 2 に示します。化合物の大半では、保持、ピーク形状、選択性の面で良好なクロマトグラフィー性能が得られました。例えばニケタミドは早期に溶出しましたが、ピーク形状は良好でした。また、Losacco ら. [2020] は、BEH カラムおよびギ酸アンモニウムを移動相モディファイヤーとして使用した場合に保持時間の安定性に問題があると報告していましたが、今回は保持時間は安定していました。その他のピークの多くも、優れたクロマトグラフィー特性を示しました。例外として、フェンタニルなどの化合物では一貫してピークがダブレットになっていました。オクトパミンでは顕著なテーリングが見られ、オキシモルフォンおよびカチンでは軽微なテーリングが見られました。硫酸化ステロイドの多くは、共溶出するか、構造類縁体と完全にはベースライン分離しませんでした。それでもなお、広範なケモタイプを代表する化合物の大半で優れたクロマトグラフィー性能が得られました。
UPC2 の主な長所の 1 つとして、その他のクロマトグラフィー分離手法との直交性が挙げられます。この点は、エチルグルクロニド、アミロリド、メルドニウムなど、極性が非常に高い化合物の保持および選択性において認められます。モルヒネ、サルメテロール、エチレフリン、アンフェタミンなど、その他の極性化合物や中程度の極性化合物でも非常に優れた保持と分離が見られ、UPC2 と LC の間でオーバーラップが見られます。この広範な代替の選択性により、UPC2 が重要な補完的分析法となり、LC および GC などの従来のクロマトグラフィー分析法で達成できる範囲が拡大し、代替クロマトグラフィー手法による確認を行うことができます。
レファレンス標準試料(QC1 および QC2)を各バッチの最初、途中、最後に注入したところ、すべての分析種において保持時間が安定していることがわかりました。すべての化合物のバッチ間での保持時間の %RSD は <0.6% でした。大半の化合物の %RSD は 0.5% 未満で、そのうちの 63% は 0.3% でした。これは、陽性確認のための WADA の保持時間の基準を十分に満たしています [WADA, 2015]。更に、各サンプルに含まれている内部標準をモニターしたところ、バッチ内のすべての保持時間の %RSD は <0.3% であることが分かりました。
WADA では、分析のしきい値を最小要求性能限界レベル(MRPL)と定義しています。これらの値は付録のリストに記載されており、尿の QC 標準試料(QC1 および QC2)で使用されている濃度です(ただし、ヒドロクロロチアジド、プロプラノロール、ベンドロフルメチアジドについては MRPL の 50% でスパイクしました)。ケトコナゾールおよびトラマドールには確立された MRPL がなく、付録のリストに示された濃度でスパイクしました。ケトコナゾール以外の化合物は、すべて記載された濃度で本システムにより容易に同定されました。ケトコナゾールのレスポンスは検出限界 50 ng/mL の近くでしたが、それでも 23 バッチすべてのスパイクした QC サンプルで検出されました。ブプレノルフィンは 5 ng/mL で容易に検出され、フェンタニルは 2 ng/mL で検出されました。
Xevo TQ-XS を使用した Waters UPC2-MS/MS システムは、GC および LC-MS アッセイの直交的な代替法として信頼性が高く、特に、他のクロマトグラフィー手法では十分保持されない極性の高い化合物について有効であることが実証されました。すべての分析種において、保持時間は 23 のバッチにわたって(1,200 回を超える注入)安定していました。分析法開発により、調査した方法のうち、Torus Diol カラムと 0.1% 強アンモニアの移動相モディファイヤーを併用した場合、ほぼすべての化合物について最良のクロマトグラフィーが得られることが分かりました。単純な希釈および注入法を使用した場合でも、このシステムには高い感度と選択性があり、MRPL でスパイクしたすべての化合物を明確に同定することができました。また、多くの場合、ポジティブおよびネガティブ ESI の両方で、50% MRPL でも同定することができました。
Jonathan P. Daneaceu、Peter Christensen および Michelle Wood - ウォーターズコーポレーション
Ivana Gavrilović - Drug Control Centre、King’s College London
720007172JA、2021 年 2 月