研究目的のみに使用してください。診断用には使用できません。
リン酸化脂質種およびカルボン酸型脂質種は、金属に吸着しやすく、UPLC システム流路内のステンレススチール表面に容易に吸着されます。このプロセスにより、ピーク形状の不良、回収率の低下、感度の低下が起きる場合があります。ここでは、ACQUITY Premier システムで ACQUITY Premier CSH C18 カラムを用いた場合に、ACQUITY 標準カラムおよびステンレススチール ACQUITY UPLC I-Class システムを用いた場合と比較して、リン酸化脂質およびカルボン酸型脂質に対する感度、ピーク形状、回収率が大幅に向上することを明らかにします。
ACQUITY Premier テクノロジーにより、以下のことが実現します。
ホスファチジン酸(PA)は最も単純な膜リン脂質クラスであり、リン脂質代謝およびグリセロ脂質代謝の中間代謝物としての重要な機能を果たします。PA は、その中間的機能により、生体膜中の存在量は少いですが、細胞内の生化学的および生理学的プロセスにおける極めて重要なシグナル伝達分子です1-2。 リゾホスファチジン酸(LPA)は、哺乳類の生殖器系での調節機能がある生合成プリカーサーです。ホスファチジルセリン(PS)は、細胞膜の重要な成分で、全リン脂質の 5 ~ 10% を占め、アポトーシス、脂質合成、輸送の調整で重要な役割を果たします。リゾホスファチジルセリン(LPS)は、炎症プロセスで重要な役割を果たすシグナル伝達リン脂質です1-2。PA と PS は 2 つの負電荷を持つ酸性脂質で、PA の場合はどちらの電荷もリン酸基にあり、PS の場合は、1 つの負電荷はリン酸基に、もう 1 つの負電荷はカルボキシル基にあります3。
最近 50 年間、ステンレススチールは構造材として高速液体クロマトグラフィー (HPLC) 装置およびカラムに最も一般的に使用されてきました。ただし、ステンレススチール製ハードウェアは、非特異的な吸着と結合により、一部の分析種のピーク形状と回収に悪影響を与える場合があります。これらの影響を示す脂質のクラスには、一般にリン酸基やカルボキシル基などの官能基が含まれており、それらが鉄やその他の遷移金属のイオンとキレート複合体を形成する場合があります。さまざまな生体組織の包括的な脂質分析は、構造、付いている官能基、極性、解離、イオン化挙動の異なる個々の脂質クラスが非常に複雑であるため、困難な作業となっています3。 リン酸化脂質およびカルボン酸型脂質(グリセロリン酸、グリセロホスホセリン、グリセロホスホイノシトール、グリセロホスホイノシトール 1 リン酸、グリセロホスホイノシトール 2 リン酸、グリセロホスホイノシトール 3 リン酸、グリセロホスホグリセロール、リン酸化スフィンゴ脂質(セラミド-1-リン酸、スフィンゴイド塩基 1-リン酸など))は金属に吸着しやすく、クロマトグラフィーシステムの流路内に存在するステンレススチール表面に容易に吸着されます。このプロセスにより、ピーク形状の不良、回収率の低下、感度の低下につながることがあります。
リン酸化脂質と金属表面との相互作用を軽減する代替のアプローチは、移動相またはサンプルへのキレート剤の添加です。クエン酸、アセチルアセトン、メチルホスホン酸、メドロン酸などの揮発性キレート剤が LC-MS 分析に使用されています。ただし、キレート剤を使用すると、クロマトグラフィーの選択性と MS の感度に悪影響を及ぼす可能性があります。これらの課題に対処するため、UPLC 装置やカラムの金属基板への有機/無機ハイブリッドバリア表面の適用を詳しく検討しました。エチレン架橋シロキサンポリマーに基づくハイブリッド表面テクノロジーが、逆相(RP)および親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)に適していることが分かりました。このアプリケーションノートの主な目的は、リン酸基とカルボキシル基を持つ脂質について、ハイブリッド表面テクノロジー(HST)を取り入れた ACQUITY Premier システムおよび ACQUITY Premier CSH C18 カラムのクロマトグラフィー性能を評価し、標準的なステンレススチール表面の ACQUITY UPLC I-Class および CSH C18 と比較することです。
LPA (16:0/0:0)、PA (16:0/18:1)、LPS (18:1/0:0)、PS (16:0/18:1) の脂質標準試料、ニワトリの卵の PA 抽出物およびブタ脳 PS 抽出物は、Avanti Polar Lipids から入手しました。PA (16:0/18:1)、LPS (18:1/0:0)、PS (16:0/18:1) の個別の 1 mg/mL 原液はクロロホルム中に調製しました。LPA (16:0/0:0) は、クロロホルム/メタノール/水(80/20/2)中 0.5 mg/mL の濃度で、完全な溶解を促進するために 40 ℃ でゆっくり加熱し、超音波処理して調製しました。脂質標準試料用に、作業用混合液の希釈シリーズ 5、50、100、250 ng/mL を、IPA/ACN(50/50)中で調製しました。ニワトリの卵の PA 抽出物およびブタ脳の PS 抽出物は、粉末で入手し、クロロホルムに溶解して 1 mg/mL の濃度にしました。ニワトリの卵の PA 抽出物およびブタ脳の PS 抽出物の作業用溶液は、IPA/ACN(50/50)中に調製しました。
LC 条件 |
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LC システム: |
標準の ACQUITY UPLC I-Class および ACQUITY Premier |
検出: |
SYNAPT XS |
バイアル: |
Waters トータルリカバリー UPLC バイアル |
カラム: |
ACQUITY CSH C18(2.1 × 100 mm、1.7 µm) ACQUITY Premier CSH C 18(2.1 × 100 mm、1.7 µm) |
カラム温度: |
55 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
5 µL |
流速: |
400 µL/分 |
移動相 A: |
600/390/10 の ACN/水/1 M ギ酸アンモニウム水溶液含有 0.1% ギ酸溶液 |
移動相 B: |
900/90/10 の IPA/ACN/1 M ギ酸アンモニウム水溶液含有 0.1% ギ酸溶液 |
MS システム: |
SYNAPT XS |
イオン化モード: |
ESI- |
取り込み範囲: |
100 ~ 1200 Da |
キャピラリー電圧: |
2.5 kV(ネガティブモード) |
コリジョンエネルギー: |
直線ランプ(トランスファー CE)25 ~ 45 eV |
コーン電圧: |
30 V |
クロマトグラフィーソフトウェア: |
MassLynx v4.2 |
MS ソフトウェア: |
MassLynx v4.2 |
生体サンプルからのリン酸化酸性脂質の LC-MS 分析は、特に LPA、PA、LPS、PS などの低含量のシグナル伝達脂質のクラスについて極めて重要なステップです(図 1A および 1B)。以前に公開された当社の分析法4により、最も一般的に存在する極性および非極性の脂質のクラスは正確に分析できますが、リン酸化脂質およびカルボン酸型脂質のクラスは、非常に広いピークテーリングと感度の低さのために、例外でした3-6。ホスファチジン酸(PA および LPA)のリン酸基およびホスファチジルセリン(PS および LPS)のカルボキシル基は、金属イオンと結合してキレート複合体を形成し、クロマトグラフィー分析中にピークのテーリングと不鮮明の原因になります。この問題に対処するために、ACQUITY Premier CSH C18(2.1 × 100 mm、1.7 µm)カラムおよび ACQUITY Premier システムに使用するハイブリッド有機/無機表面テクノロジーを開発しました。LPA、PA、LPS、PS の連続希釈液を、ステンレススチール表面の ACQUITY UPLC システムと標準カラム、および ACQUITY Premier システムと ACQUITY Premier カラムを使用して分析しました。図 2A、2B、3A、3B に、ステンレススチール表面の ACQUITY UPLC と標準 CSH C18 カラム、および ACQUITY Premier システムと ACQUITY Premier CSH C18 カラムを使用した、LPA (16:0/0:0)、PA (16:0/18:1)、LPS LPS (18:1/0:0)、PS (16:0/18:1) の抽出イオンクロマトグラムが、並べて比較されています。ACQUITY Premier CSH C18 カラムと ACQUITY Premier システムにより、これらの化合物のピークテーリングと感度が大幅に改善されました。標準的な金属表面のシステムと比較して、ACQUITY Premier システムでのピークが著しく大きいことから明らかなように、感度が向上していることは、低い濃度レベル(5 ng/mL および 50 ng/mL)の LPA(図 2-A1 および 2-A2)で明確に確認できます。同様に、図 2-B1 および 2-B2(PA)、3-A1 および 3-A2(LPS)、3-B1 および 3-B2(PS)に、ACQUITY Premier CSH C18 カラムと ACQUITY Premier システムを用いた場合に、標準カラムとシステムの場合と比較して、感度、ピーク形状、回収率が向上していることが示されています。
開発した分析法を、ニワトリの卵の PA 抽出物およびブタ脳の PS 抽出物の分析に適用しました(図 4 および図 5)。m/z 671.47 (16:1_18:1) および 673.48 (16:0_18:1) の PA 脂質種では、標準 CSH C18 カラムとステンレススチール表面の ACQUITY UPLC を使用した場合 (図 4A) を、ACQUITY Premier CSH C18 カラムと ACQUITY Premier システムを使用した場合 (図 4B) と比較して、ピークのテーリングの幅が非常に広くなります。図 4A および 4B の下部パネルに、PA (16:0_18:1) の抽出イオンクロマトグラムが示されています。ピーク幅は、標準 CSH C18 カラムとステンレススチールでは 4.1 分(図 4A の下部パネル)、ACQUITY Premier CSH C18 カラムと ACQUITY Premier システムでは 1.2 分(図 4B の下部パネル)です。同様に、図 5 に、標準的な条件と ACQUITY Premier 条件の両方の類似の条件で得られた PS ブタ脳抽出物の PS (18:0_18:1) の抽出イオンクロマトグラムが示されています。ピーク幅は、標準 CSH C18 カラムとステンレススチールでは 1.1 分(図 5A の下部パネル)、ACQUITY Premier CSH C18 カラムと ACQUITY Premier システムでは 0.3 分(図 5B の下部パネル)です。
以前の標準の逆相カラムを使用する分析法6のほとんどとは対照的に、ACQUITY Premier テクノロジーにより、その他の脂質のクラスに加えて、リン酸およびカルボン酸が含まれている脂質を顕著な結合やピークテーリングを起こさずに同時分析することによって、リピドミクスの対象範囲が拡大され、生物学的に重要な脂質種の対象範囲、感度、回収率が向上します。
ACQUITY Premier CSH C18 カラムと ACQUITY Premier システムは、LPA、PA、LPS、PS 脂質分子種の分析の信頼性の高い分析法を提供し、リン酸化脂質およびカルボン酸型脂質の感度、ピークテーリング、回収率を大幅に向上させます。開発した分析法は、一リン酸、二リン酸、三リン酸のフォスファチジルイノシトールリン酸や、セラミド-1-リン酸、スフィンゴイド 1-リン酸などの、他のリン酸化脂質およびカルボン酸型脂質クラスに適用できます。
720007092JA、2021 年 1 月