陰イオン性または電子が豊富な分析種は、液体クロマトグラフィー(LC)分析において、ステンレススチールなどの電子不足の金属表面への吸着による分析種の損失により、不良なピーク形状やシグナル強度の低下を示すことがよくあります1。 最近では、分析種の損失を防ぐために PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)製の代替のカラムハードウェアや PEEK 被覆のステンレススチール製カラムが使用されています。ただし、PEEK 材質を使用するカラムでは、従来のステンレススチール製ハードウェアよりもプレート効率が低く、カラム間のばらつきが大きいなど、その他の望ましくない問題がもたらされる場合があります。
MaxPeak Premier クラスのカラムは、MaxPeak High Performance Surfaces (HPS)ハードウェアを備えているため、金属に吸着しやすい分析種の分析をより容易に行うことができます。MaxPeak High Performance Surfaces は、金属と分析種間の相互作用や非特異的吸着に関連するサンプル損失を低減する効果的なバリアとして機能します。
このアプリケーションブリーフでは、MaxPeak HPS カラムハードウェアと、2 つの異なるベンダーの PEEK 被覆のステンレススチール製ハードウェアを比較しました。質の高い分離を行う上で、PEEK 被覆のステンレススチール製ハードウェアと比較した場合の MaxPeak HPS カラムハードウェアの利点について紹介します。
金属表面への分析種の吸着は、クロマトグラフィーにおける長年にわたる課題となっています。従来、その緩和策として、表面の不動態化処理、移動相添加剤の使用、不活性ハードウェア材料の採用などが行われてきました。このようなアプローチは、ある程度は成功していますが、欠点があります。強酸による表面の不動態化処理や、サンプルおよび/またはマトリックスでのコンディショニングはいずれも時間がかかる上に、強酸を使用する必要があるため、カラムの寿命に悪影響を及ぼします2。 キレート化剤などの移動相添加剤は、分析種の金属への吸着を防げますが、イオン化抑制などの欠点や溶解性の問題があります。また、有効性を保つためには、一貫して使用する必要があります3。
従来のステンレススチール製カラムより生体不活性が優れた代替品として、現在ではチタン製ハードウェアを採用したカラムが市販されています。チタンは耐腐食性があり、一部の化合物に対しては不活性ですが、金属性により分析種の吸着やサンプルの損失を引き起こす可能性もあります4。
また、すべての金属表面を非反応性材料に置換した PEEK カラムまたは PEEK 被覆のステンレススチール製カラムも市販されています。PEEK のみでは高圧での使用に耐えられませんが、この制約は PEEK 被覆のステンレススチールを使用することで軽減できます。ただし、PEEK のその他の制約が残されたままであり、PEEK 材質はステンレススチールと比較するとサイズのばらつきが大きく、フリットの透過性が低く、一部の溶媒には適合しません。
この試験では、MaxPeak HPS ハードウェアと 2 つの異なるベンダーの PEEK 被覆のステンレススチール製ハードウェアについて、充塡剤ベッドの効率とカラム間再現性の差を検討します。この比較に用いた MaxPeak High Performance Surfaces は、有機/無機ハイブリッド表面テクノロジーであり、金属表面と分析種の間の相互作用に対してバリアとして作用することが示されています5。いずれのタイプのハードウェアも、金属への吸着による分析種の損失を軽減するのに有効ですが、MaxPeak HPS ハードウェアには、優れた充塡剤ベッドの質により、明確な利点が示されています。
単一のバッチの BEH C18、2.5 μm 固定相を MaxPeak HPS カラムハードウェアに充塡した充塡剤ベッドの効率と、同一の充塡剤を 2 つの異なるベンダーの PEEK 被覆のステンレススチールハードウェアに充塡したものと比較しました。充塡プロセスは、この試験のすべてのカラムについて最適化しています。表 1 では、カラム効率の結果を比較します。表 1 に示した平均値から、PEEK 被覆のハードウェアは、MaxPeak HPS ハードウェアと較べて効率が 20 ~ 25% 低いことがわかります。すべてのカラムが同様に充塡されているにもかかわらず、カラムの背圧は、PEEK 被覆のハードウェアの方が MaxPeak HPS ハードウェアより約 25% 高いことがわかりました。また、MaxPeak HPS ハードウェアで得られたピークの対称性が最も優れていました。
さらに、カラム間再現性を検討するために、MaxPeak HPS カラムとベンダー A および B の PEEK 被覆ハードウェアを比較しました。それぞれの種類のハードウェアについてカラムを 5 本ずつ充塡しました。計 15 本のカラムは、すべて同一の充塡プロセスを用いて充塡し、同一の条件下で試験しました。図 1 に、それぞれの種類のハードウェアで得られたクロマトグラムを示します。3 種類のカラムでの保持時間に大きな差が見られました。PEEK 被覆ハードウェアの保持時間のばらつきが大きいのは、PEEK 材質とステンレスのサイズ許容が困難であること、および充塡時の圧力下における 2 種類のハードウェアの挙動の違いが原因と考えられます。
充塡の前に、精度較正済みの一組のピンゲージを使用して各カラムハードウェアの内径を測定し、小数第 5 位で四捨五入したインチ数を測定しました。カラムチューブの両端を測定し、その平均値を用いて各カラムの内径を表しています。次に、カラムの各ハードウェアについて、正確な長さを 50 mm と仮定して、カラム容量を計算しました。図 2 に、3 種類のハードウェアのそれぞれについて計算したカラム容量を Vo 保持時間に対してプロットしたグラフを示します。MaxPeak HPS ハードウェアでは、カラム容量と Vo 保持時間は良好な線形回帰を示していますが、いずれのベンダーの PEEK 被覆ハードウェアにおいても、このような傾向は見られません。これにより、PEEK 被覆ハードウェアの内径がカラムの全長に沿って均一でないと理論付けることができ、その結果、流れているカラムでの線速度に差が生じます。
MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーを採用した MaxPeak Premier カラムにより、金属に吸着しやすい分析種の回収率、分離能、ピーク形状が大幅に向上しています。MaxPeak HPS の有機/無機ハイブリッドテクノロジーにより、分析種の金属への吸着に対するバリアが提供され、陰イオン性または電子の豊富な分析種の回収率が向上します。この点は PEEK 被覆ステンレススチール製カラムハードウェアにも当てはまる場合がありますが、カラム効率とピーク形状の悪化、カラム背圧の上昇などの犠牲が伴い、MaxPeak HPS ハードウェアよりもカラム間のばらつきが大きくなります。
MaxPeak HPS テクノロジーを採用した MaxPeak Premier カラムでは、金属の影響を受けやすい分析種の回収率が優れており、市販の不活性カラム製品の非常に高いカラム効率とカラム間再現性を兼ね備えたメリットがもたらされます。
720007210JA、2021 年 3 月