創薬・バイオアナリシス分野のラボでは、多種多様なパイプラインのプログラムを支援するため、週に数百の化合物を分析する分析法をルーチンで開発しています。化合物それぞれについて個別に分析法を開発することは、手間も時間もかかります。低分子の分析法開発アプローチは十分な理解が進んでいるため、プロセスの自動化が望まれています。QuanOptimize により、膨大なセットの化合物のための MRM 分析法開発が自動化できます。最終的な分析法のパラメーターをデータベースに保管したり、最適化した分析法を用いて自動的にサンプルリストを実行したりし、データ解析法を作成して、ボタンをワンクリックするだけで定量結果を生成できるようになります。QuanOptimize により、複数のユーザー間で分析法の質を一貫して高く保つことができ、サンプル消費量を減らし、操作にかかる時間が 5 分の 1 まで短縮できます。
ここでは、18 種の低分子化合物のための分析法開発における QuanOptimize の使用(一般的なチューンページ、LC メソッドを使用)について説明しています。
正確で頑健なマルチプルリアクションモニタリング(MRM)分析法の開発により、あらゆる定量 LC-MS/MS 試験において、迅速かつ容易に重要な基盤を構築できます。一般的な創薬 DMPK ラボでは、毎週 10~100 種の化合物の薬物動態および代謝経路の測定を行っています。これには、イオン化モード、プリカーサー/プロダクトイオンの選択、コーン電圧、コリジョンエネルギーなどを含む、迅速で正確な LC-MS 分析法の開発が必要となります。MRM 分析法の開発には複数のアプローチがあり、アプローチの選択は、分析法を開発すべき化合物の数と種類により異なります。個別の化合物のアッセイ、またはサンプルの量が限られていない場合は、IntelliStart など、注入ベースの分析法開発ツールの使用が適しています。単一の化合物(サンプル量が限られている場合)または複数の化合物の分析法開発では、LC 注入ベースのアプローチが好まれます。手動注入ベースの分析法開発ワークフローを採用した場合、化合物ごとに別々の MS 分析法の作成、データの確認を行い、各プロダクトイオンについて、最適なコーン電圧、プロダクトイオン、コリジョンエネルギーの選択が必要になります。特に膨大な数の化合物の場合、これは困難で時間もかかります。また、ある程度の MS の知識や MS 装置とソフトウェアのトレーニングや習熟が必要です。
複数の化合物についての分析法開発が必要な場合は自動化アプローチが望ましいです。その方が迅速で科学者が他の仕事ができるためです。このようなラボにとって、QuanOptimize は理想的なソリューションです。ソフトウェアで使用する汎用的なパラメーターを設定しておけば、ユーザーによる操作なしに、膨大な数の化合物の分析法開発を自動的に行うことができます。このツールは LC 注入ベースの分析法開発アプローチを使用し、作成された分析法をデータベースに保存して、作成した取り込みメソッドでサンプルリストを分析します。また、データ解析法を作成し、TargetLynx の結果の生成に適用します。QuanOptimize では、注入ベースの分析法と比べて、使用するサンプル容量が大幅に少なくなり、熟練者でも初心者でも分析法の質を一貫して高く保つことができる上、時間や手間も節約できます。更に、リモートで分析法開発を続けることができます。この点は、現在の世界的なパンデミックの状況下で重要になっています。
通常、MRM 分析法の開発には、最も含有量の多いプリカーサーイオンの同定、そのイオンについてのコーン電圧の最適化、そのプリカーサーについての最良のプロダクトイオンの同定、そしてその MRM トランジションについてのコリジョンエネルギーの最適化が含まれます。QuanOptimize により、これらのステップが自動化されて最終的な MRM 分析法が得られ、これを MassLynx 内で使用して、必要な LC-MS データを取り込むことができます。図 1 に示すように、QuanOptimize の[Method Editor](メソッドエディター)の[Optimization](最適化)タブでは、イオン化モード(ボックス 1)、コーン電圧の範囲(ボックス 2)、コリジョンエネルギーの範囲(ボックス 3)、化合物ごとのフラグメント数(ボックス 4)を定義できます。取り込みパラメーター(ボックス 5)、チューンファイル(ボックス 6)、含めるプリカーサー付加イオン(ボックス 7)、無視するプロダクトイオンのロス(ボックス 8)、使用するインレットメソッド(ボックス 9)をすべて、QuanOptimize の[Method Editor](メソッドエディター)のそれぞれのタブ内で定義することができます。ピーク全体で十分なデータポイントが得られ、コーン電圧とコリジョンエネルギーの最適化が行われるようにするためには、Waters ACQUITY システムでは、汎用的な UPLC 分析法を低流速(200 µL/分など)でセットアップすることを推奨します。通常、この設定では、対象となる化合物について十分に大きなピーク幅が得られ、異なるコーン電圧およびコリジョンエネルギー値でデータ収集ができます。このメソッドエディターの設定を保存して、変更を行うことなく、別の化合物セットにわたって再使用することができます。これにより、プロセスが簡素化され、貴重な時間が節約できます。
QuanOptimize 分析法を保存した後、[Samples](サンプル)→[Format](型式)→[Load](読み込み)→[AnalysisList]に進むことで、MassLynx のサンプルリスト表示を AnalysisList に変更できます。これにより、MassLynx のサンプルリストに表示される列が変更され、よりシンプルなインターフェースを使用して化合物情報を入力できるようになります。すべての化合物バッチについて、新しいサンプルリストを作成し、化合物名、分子量、オートサンプラーでのサンプルの場所を入力またはインポートすることができます。また、化合物を[Sample Group](サンプルグループ)に割り当てて、[Internal standards](内部標準)をバッチから選択することができます。図 2 に、この試験用に QuanOptimize を使用して分析法開発を行った 18 種の低分子のリストを示します。
サンプルリストをセットアップして保存したら、[Run QuanOptimize](QuanOptimize の実行)をクリックして、QuanOptimize ウィザードに進み、QuanOptimize 分析法、サンプルリストを選択し、一意の ID を入力してから、[Finish](完了)をクリックして、取り込みを開始します。更に、取り込みメソッドを作成し、サンプルリストを実行して、定量メソッドを自動作成することができます(図 3)。QuanOptimize は、サンプルリストを実行し、QuanOptimize 分析法でユーザーが指定したパラメーターに基づいて、ユーザー操作なしに、サンプルリスト上の各化合物について MRM 分析法を作成します。
図 1 に示す QuanOptimize の分析法の設定を、この試験用に選択した 18 種の低分子のリスト(図 2)で用いました。この試験では、2 分間の LC 分析法を選択しました。QuanOptimize により、各サンプルが 2 回注入されるため、1 つの化合物につき合計 4 分間必要になり、分析法開発にかかる時間は合計 72 分間です。一方、手動の注入ベースで行う分析法開発では、1 化合物につき最大 15~20 分間かかるため、化合物すべての分析法開発に必要な時間は合計 360 分間です。更に、各化合物について手動でデータ解析法を作成するのにかかる時間と、結果ファイルを生成する追加の時間が必要になります。この自動化アプローチを用いることで、注入ベースの分析法開発と比較して、分析法開発にかかる時間が最大 5 分の 1 まで削減できます(図 4)。
QuanOptimize により、膨大な数の低分子化合物のための MRM 分析法開発が自動化され、科学者の経験レベルを問わず、分析法の質を一貫して高く保つことができ、貴重な時間や手間が節約できるため、より重要な科学分野に注力できるようになります。更に、QuanOptimize により、分析法開発が必要となる多数の化合物を読み込み、装置のセットアップを行った後は、科学者の操作なしで、リモートでラボの作業を継続できるようになります。この点は、ラボへのアクセスが制限される状況で、非常に便利です。この実験に用いられる 18 種の低分子について、QuanOptimize では、手動操作なしで 1.25 時間未満で MRM 分析法開発を完成することができ、分析法開発にかかる時間が 5 分の 1 に短縮できました。
720007002JA、2020 年 9 月