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クロマトグラフィーシステムの遷移金属とリン酸基が含まれている化合物との相互作用により、クロマトグラフィーの性能が低下したり、化合物が失われたりすることがあります。ウォーターズは、MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)と呼ばれる新しいクラスのテクノロジーを開発し、これは ACQUITY Premier と呼ばれる新しい液体クロマトグラフィーシステムの開発に適用されました。MaxPeak HPS は、LC システムおよびクロマトグラフィーカラムのコンポーネントで使用すると、金属表面との望ましくない相互作用を軽減する非常に効果的な表面バリアを提供し、特定の化合物の分析の役に立ちます。ホスホペプチドは、このようなクラスの化合物の 1 つです。この新しいテクノロジーをクロマトグラフィーシステムの接液コンポーネントとカラムハウジングの両方に適用すると、ホスホペプチドの回収率を大幅に向上させることができます。本実験で分析した一部のペプチドは、標準システムでは検出されませんが、HPS 流路系では非常に強いシグナルが生成されることがわかっています。
このノートに記載されているデータでは、ホスホペプチドのレスポンスを調べるための従来のシステムと HPS を採用したシステムの性能を比較しています。α-カゼインおよびβ-カゼインのトリプシン消化物を、合成 PhosphoMix 標準試料とともに分析し、回収率が、リン酸化部位の数とアミノ酸残基の数に基づいて変わることが示されました。極端な場合、一部のペプチドは、従来の構成ではまったく検出されませんが、HPS を採用したシステムを使用すると大きいイオンカウント数で検出されることがわかっています。
質量分析が分析技法として進歩し続けているにもかかわらず、質量分析と組み合わせた液体クロマトグラフィー(LC-MS)によるホスホペプチドの検出は、プロテオミクスの分野で非常に難しいアプリケーションのままです。1 つの主要な問題は、1 つまたは複数の酸性リン酸基が存在するため、ホスホペプチドが効率的にプロトン化せず、検出が困難なことです1。ただし、LC-MS によるホスホペプチド分析の難しさの原因となる重要な他のメカニズムがあります。
LC システムの接液コンポーネントからの回収が不完全であることが、ホスホペプチド検出効率低下のもう 1 つの主要な原因です。金属イオンは、ルイス酸/ルイス塩基相互作用を介してリン酸基と相互作用し、部分的または完全に保持されて、ピーク形状が不良になります。ペプチドに含まれるリン酸基が多いほど、回収率とクロマトグラフィーのピーク形状が悪くなる傾向があります。LC-MS 分析でホスホペプチドの回収率を向上させる現行の戦略としては、EDTA またはクエン酸塩をサンプルに添加して金属キレートとして機能させることや、サンプル分析の前にこれらの溶液を複数回注入して流路系の不動態化処理を試みるなどの手段があります2。 ただし、これらの戦略には、クロマトグラフィー性能と MS 測定の感度に問題が発生する場合があるという欠点があります。
このアプリケーションノートでは、ホスホペプチドの分析での MaxPeak HPS テクノロジーの利点について調査しました。MaxPeak HPS ハードウェアでは、架橋エチルハイブリッドシリカと化学的に類似している無機/有機ハイブリッドシリカ表面層を利用します。MaxPeak HPS は、カラムや LC 流路など、LC 分離中に液体と接する金属表面に適用すると、サンプル成分の分離には関与しない復元力のあるバリアをもたらします。従来のシステムと HPS によって変更したシステムの両方を使用して、多数のホスホペプチドの回収率のレスポンスを測定する実験を行いました。
溶液中で α-カゼインと β-カゼインのトリプシン消化が実行され、LC システムを使用せずに 5 µL/分で ESI ソースに注入すると、得られたサンプル中に、予想されたほとんどのホスホペプチドが存在することが確認されました。注入によって、消化物由来の最大の多重ホスホペプチド、QMEAESISSSEEIVPNSVEQK および RELEELNVPGEIVESLSSSEESITR が存在することがわかりましたが、非常に低いレベルでした。一、二、三、四リン酸化合成ペプチドで構成される標準合成ホスホペプチド混合液 1 および 3(Sigma-Aldrich)から、さらにホスホペプチド種を取得しました。サンプルを 0.1% ギ酸水溶液に溶解して、各ペプチドの濃度を 1 pmol/µL にしました。各分析では、1 pmol をカラムに注入しました。
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class(従来型)および ACQUITY Premier(HPS) |
カラム: |
CSH 2.1 mm×100 mm(従来型および HPS) |
カラム温度: |
55 ℃ |
サンプル温度: |
8 °C |
流速: |
150 µL/分(2.1 mm) |
移動相 A: |
0.1% ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.1% ギ酸アセトニトリル溶液 |
グラジエント: |
1 ~ 40% B/15 分 |
MS システム: |
SYNAPT XS |
イオン化モード: |
エレクトロスプレーポジティブイオン |
測定モード: |
ToF MSE |
取り込み範囲: |
50-2000 Da |
コリジョンエネルギー: |
トラップ CE ランプ(14 ~ 40 eV) |
キャピラリー電圧: |
2.2 kV |
コーン電圧: |
30 V |
ロックマス溶液: |
Glu フィブリノペプチド B(2+、m/z 785.8426) |
クロマトグラフィーソフトウェア: |
MassLynx v4.2 |
MS ソフトウェア: |
MassLynx v4.2 |
インフォマティクス: |
PLGS 3.0.3、SkyLine(ワシントン大学) |
一般に、HPS カラムを使用すると、ほとんどのペプチドの回収率が大幅に向上します。表 1 のデータで、分析したすべてのサンプルからの予想されるホスホペプチドから得られた結果が強調表示されています。右端の 2 つの色付きの列に、MassLynx での生データを再構築したイオンクロマトグラムと Skyline ソフトウェアのデータ抽出を使用して得られた、シグナルに基づくペプチドの回収率とピーク形状が示されています。HPS カラムを使用して達成されたホスホペプチド回収率の向上の例が、図 1 に示されています。1 pmol の α-カゼイン注入から得られた生データのクロマトグラムが示されており、HPS システムからのデータは上のトレースです。HPS への変更は、サンプルに存在する非修飾ペプチドのレスポンスにほとんど影響しませんが、短い保持時間の範囲を約 8.5 分から 10.5 分に拡大すると、2 つのピークが、従来のシステムでは事実上存在しないのに対し、HPS では大きなシグナルレスポンスになることが示されています。Skyline を使用して抽出した場合のデータを詳細に調べると(図 2)、別の一リン酸化ペプチド VPQLEIVPNSAEER の存在が明らかになり、従来のシステムでは観察されなかったシグナルが、HPS システムカラムでは大きなシグナルと良好なピーク形状に変わります。抽出したイオンはプリカーサー 2+ と 3+ です。複数のリン酸化部位があるペプチド、ADEPSSEESDLEIDK の例が図 3 に示されています。一般に、このような多重リン酸化ペプチドでは、従来の構成で示されているように、回収率が非常に悪くなります。比較すると、HPS システムでは、これらの多重リン酸化種の回収率の大幅な増加が示されています。図 4 に、従来型および HPS を採用したシステムで分析した β-カゼイン消化物の ProteinLynx Global Server(PLGS)検索レポートが示されています。タンパク質シーケンスカバー率マップで、修飾ペプチドが存在するタンパク質配列の領域が強調表示されています。従来の構成で分析した場合に FQSEEQQQTEDELQDK が存在せず、HPS を採用したセットアップではこの存在が明確に示されていることが認められます。ペプチドの PLGS マッチアミノ酸配列も示されています。
LC 流路系にエチレン架橋シロキサン構造に基づく有機/無機ハイブリッドバリアを適用することにより、LC-MS 研究でのホスホペプチドの回収率のレスポンスが、質量分析レスポンスとクロマトグラフィーピーク形状に関しては、大幅な改善が見られることが示されています。MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)として知られているこの処理された表面により、通常の LC システムを使用するホスホプロテオミクス分析で見られる問題の原因である、金属イオンとペプチドに存在するリン酸基との相互作用が緩和されます。ペプチドが含まれているさまざまなサンプルについて分析したところ、さまざまな程度の改善が認められています。最も極端な場合には、この実験で分析した特定のペプチドが、標準システムで検出されないことに対して、HPS 流路を用いると非常に強いシグナルが得られます。
720007025JA、2020 年 10 月