EU の規制(欧州委員会規則 2017/2158)では、加工食品中のアクリルアミドについて基準レベルを設け、それらを超過した場合に軽減策を確立する食品生産者の責任を規定しました。ウォーターズでは、迅速かつ効果的な抽出およびクリーンアップ手法と LC-MS/MS による測定を組み合わせた、正確で頑健なアクリルアミド分析法を開発しました。最近報告された N-アセチル-β-アラニン、3-アミノプロパンアミド、およびラクトアミドが、食品中のアクリルアミド濃度の過大評価を引き起こす可能性があるという問題に対応して、当社のアプローチの選択性をさらに調査しました。これら 3 種類の化合物は、ソース内フラグメンテーションを受けて、アクリルアミドと同じ m/z を持つイオンを生成し、続いてアクリルアミドの定量に使用するプロダクトイオンにフラグメント化することが確認されました。サンプルクリーンアップの調査では、これらの化合物がサンプル抽出物から除去されていないことが示されており、クロマトグラフィー分離されない場合は、アクリルアミドの定量に干渉する可能性があります。3 つの干渉化合物はすべて、以前に報告した LC 分析法を使用してクロマトグラフィー分離されます。生成した結果を FAPAS 標準物質を使用して検証したところ、認定値とほぼ一致していることが示されました。このことは、FAPAS 標準物質についての元のアプリケーションノート中の結果で、認定値とほぼ一致していることが示されていることからも裏付けられます。
アクリルアミドは非常に極性の高い水溶性化合物で、食品製造時に高温(+120℃)で調理することで、主にメイラード反応と呼ばれる化学反応によって生成されます1。 神経毒性、遺伝毒性、発癌性、生殖毒性などの毒性特性があるため、食品中濃度が問題となります1。 アクリルアミドはさまざまな食品に存在するため、低濃度のアクリルアミドを検出して定量できる正確で頑健な方法が不可欠です。EU 規則 2017/2158 では、食品中のアクリルアミドの含有量を低減するための軽減策とベンチマークレベルが設けられています2。
ポテトチップスやコーヒーなどの複雑な食品マトリックス中のアクリルアミド定量用のウォーターズの最新のソリューションでは、ACQUITY UPLC HSS C18 SB カラムを使用する前に、2 種のクリーンアップオプション(分散型 SPE または Oasis MCX パススルー SPE)がある改良型 QuEChERS 抽出手順を利用して、クリーンアップを強化しています3。
最近の研究では、コーヒーなどのさまざまな食品マトリックス中に、アクリルアミドの定量に干渉する可能性のある他の化合物が存在することが確認されています4。 アクリルアミドの潜在的な同重体の不純物を研究し、N-アセチル-β-アラニンのソース内フラグメントを主要な同重体イオンとして同定しました。その他に報告された顕著な干渉物質として、3-アミノプロパンアミドとラクトアミドが挙げられます。ウォーターズの手法は、バリデーションの一環として厳しい試験を経ていますが、この最近の同重体干渉物質の可能性に関する知見を踏まえ、ウォーターズの手法の選択性を再調査しました。
この試験は、Waters Acrylamide キットで、この新しい情報に基づいてアクリルアミド残留量が過大評価されていないことを確認するために実施しました。ここでは、化合物がアクリルアミドに使用されたものと同重体のトランジションを生成したかどうか、サンプルクリーンアップに使用したプロトコルによってこれらの化合物が除去されたかどうか、およびウォーターズのアプリケーションノート 720006495EN で報告されている条件を使用して、潜在的な干渉物質がクロマトグラフィー分離されたか、という 3 つの側面を調査しました。
3 種類の化合物のソース内フラグメンテーションの可能性について、溶媒標準試料で RADAR スキャンを使用して調査を行いました。RADAR は、性能を大幅に低下させることなく、MRM およびフルスキャン MS の両方を同時に取り込めるモードであり、頑健な分析法開発を簡素化しつつ加速できる独自の機能です。RADAR は、すべての Xevo タンデム四重極型質量分析計システムの標準機能です。これらのスキャン(図 1)では、アクリルアミド法の MS パラメーターを使用したときに、イオンソースで化合物から m/z 72 のイオンが生成したことが確認されています。次に、m/z 72 をプリカーサーイオンとして使用して、N-アセチル-β-アラニン、3-アミノプロパンアミド、およびラクトアミドについてプロダクトイオンのスキャンを行い、m/z 55 および 27 のプロダクトイオンの生成を確認しました。このため、これらの化合物はアクリルアミドの検出に使用する 2 つのトランジション(m/z 72 > 55 および 72 > 27)と干渉し、アクリルアミド濃度測定値の過大評価につながる可能性があります。
2 つのクリーンアップオプションによって潜在的な干渉物質の除去に成功したかどうか、および公開されている LC 条件を使用した場合に、これらの化合物がアクリルアミドと共溶出したかどうかを調査しました。図 2 のクロマトグラムに示されるように、最初の調査から得られた結果は、これらの化合物がクリーンアップ後の抽出物から完全には除去されていないため、クロマトグラフィー分離が不可欠であることを示しています。図 3 は、ACQUITY HSS C18 SB カラムおよび pH をコントロールした移動相で、以前に公開した条件を使用した場合、N-アセチル-β-アラニン、3-アミノプロパンアミド、およびラクトアミドがすべて、アクリルアミドのピークから十分に分離されたことを示しています。移動相 A (pH=7)からギ酸を除去しても、アクリルアミドのピークとラクトアミドのピークの保持時間は影響を受けず、それぞれ 2.90 分と 1.90 分のままでした。一方、N-アセチル-β-アラニンのピークは 2.95 分から 2 分にシフトし、3-アミノプロパンアミドは保持されませんでした(図 4)。したがって、移動相の pH がコントロールされていない場合、N-アセチル-β-アラニンはアクリルアミドと共溶出する可能性があることが示唆されます。
Waters Acrylamide キットの使用によりアクリルアミドの残留レベルが過大評価されていないことを確認するため、FAPAS から購入したコーヒー標準物質(レファレンス番号:TYG010RM)を分析しました。dSPE(x̅ = 248 µg/kg)および Oasis MCX SPE クリーンアップ(x̅ = 250 µg/kg)で得られた結果では、割り当てられた値 249 µg/kg との一致が見られました。この結果は、他の化合物の存在下での標準物質の分析で得られたクロマトグラムで、アクリルアミドピークが正しく割り当てられていることを示しています。pH を最適化した ACQUITY HSS C18 SB カラムを使用した分析法の選択性により、アクリルアミドの正確な定量が可能になりました。標準物質の分析から得られたイオン比と保持時間は、スパイクしたサンプルから得られたレファレンス値と一致しており、すべてが残留物分析に一般的に使用される許容範囲内に十分入っていました(例 ≦ 20% および ± 0.1 分)。
Acrylamide キット法により、N-アセチル-β-アラニン、3-アミノプロパンアミド、ラクトアミドが存在する場合でも、FAPAS 標準物質のアクリルアミドを正確に測定できます。重要なパラメーターは、水性移動相の pH をコントロールして、アクリルアミドから 3 つの潜在的干渉物質を確実に分離することにあります。
720007009JA、2020 年 9 月