新型コロナウイルス感染症の世界的なパンデミックにより、SARS-CoV-2 感染症治療のための低分子薬剤の転用に焦点を当てた幅広い研究が開始されました。インフルエンザの治療や予防のために開発された抗ウイルス薬に対する、新型コロナウイルスの研究に取り組んでいる人々の関心が高まっています。商品名 Arbidol® で販売されている Umifenovir は、新型コロナウイルス感染症の臨床試験での他の薬剤との併用について、現在調査中の抗ウイルス剤の 1 つです1。新型コロナウイルス感染症の治療での臨床的結果に関わらず、ウォーターズでは、2 つの塩基性基を持つ Umifenovir の分析にミックスモードクロマトグラフィーを使用する利点を実証しています。本研究では、ミックスモードの固定相を使用することで、Umifenovir について、従来の逆相充塡剤と比較してよりシャープなピークが得られることを説明しています。
C18 カラムの代わりに Atlantis PREMIER BEH C18 AX カラムを使用することで、以下のようなメリットを得ることができます。
ミックスモードクロマトグラフィー(MMC)は、複数の保持メカニズムがある分離法を開発するために適用できる技法です。Atlantis PREMIER BEH C18 AX カラムには、架橋エチレンハイブリッド粒子ベースのミックスモード逆相/陰イオン交換固定相が含まれています2。 固定相には C18 基だけでなく、第三級アルキルアミン基も含まれており、約 pH 8 未満で強い正の表面電荷が生成されます。この正の表面電荷により、従来の逆相充塡剤と比較して、イオン化した酸性物質などの陰イオンの保持力が高まり、プロトン化塩基性物質などの陽イオンの保持力が低下します。Umifenovir などの塩基性の分析種では、表面チャージハイブリッド(CSH)固定相で以前実証されているように、正の表面電荷によってピーク形状とローダビリティも向上します3。 このアプリケーションブリーフでは、Atlantis PREMIER BEH C18 AX カラムを使用して得られる Umifenovir のピーク形状とピーク幅を、従来の C18 逆相カラム ACQUITY UPLC HSS T3 で得られたものと比較します。
Umifenovir の分析には以下の実験条件を用いました。
LC システム: |
ACQUITY UPLC H-Class Bio |
検出: |
ACQUITY UPLC PDA 検出器 |
バイアル: |
ポリプロピレンプラスチック、700 μL |
カラム: |
Atlantis PREMIER BEH C18 AX、 1.7 μm、95 Å、2.1×50 mm |
ACQUITY UPLC HSS T3、 1.8 μm、100 Å、2.1×50 mm |
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カラム温度: |
30 ˚C |
サンプル: |
100 μg/mL Umifenovir および 0.1% ギ酸含有 50% アセトニトリル |
サンプル温度: |
12 ˚C |
サンプル注入量: |
1 μL |
流速: |
0.3 mL/ 分 |
移動相 |
10 mM ギ酸アンモニウム 含有 30% アセトニトリル(pH 3.0) |
ミックスモードクロマトグラフィーでは、移動相の pH とバッファー濃度を調整することで、イオン性化合物の選択性を広範囲にわたって変化させることができます。これは、MMC を使用する分析法を開発する際に考慮する必要がある最も重要なツールの 1 つです。この例では、pH 3 の移動相を使用しており、Atlantis BEH C18 AX 固定相には正の表面電荷があります。この正の表面電荷は、従来の逆相充塡剤と比較して、プロトン化した Umifenovir のような陽イオンの保持を低下させます。
両方のカラムで同じアイソクラティッククロマトグラフィー条件を使用した場合、正に荷電した Umifenovir は、イオン反発の結果、Atlantis PREMIER BEH C18 AX カラムにあまり保持されないことが判明しました。オンカラムで 0.1 μg をロードすると、このミックスモードカラムでは、ACQUITY UPLC HSS T3 カラムを使用した場合よりも、はるかにピークの幅が狭く、対称性が良くなりました。これらの違いは図 2 のクロマトグラムで容易に確認できます。ACQUITY UPLC HSS T3 カラムでの Umifenovir のピーク幅が 59 秒であったのに対し、Atlantis PREMIER BEH C18 AX カラムでは 6.9 秒でした。
この試験条件では、ACQUITY UPLC HSS T3 カラムの方でより高い保持係数(約 39)が得られました。保持係数を Atlantis PREMIER BEH C18 AX カラムで得られた値と対比できるようにするため、(バッファー強度と pH はそのままにして)移動相のアセトニトリル含有量を 40% に増加しました。得られたクロマトグラムを図 3B に示します。Umifenovir のピーク幅が大幅に減少しましたが、それでも Atlantis PREMIER BEH C18 AX カラムで得られたピークよりも約 50% 広くなっています。
Atlantis PREMIER BEH C18 AX カラムにより、幅が狭く、対称の Umifenovir ピークが得られました。この場合の USP テーリング係数は 1.5 と測定されましたが、ACQUITY UPLC HSS T3 カラムを使用したときは必ず、移動相組成に関係なく、USP テーリング係数は 2 を超えていました。
Atlantis BEH C18 AX などのミックスモード固定相により、独特の選択性が得られて既存の RP 固定相が補完され、分析法開発時のカラムのスクリーニングに有用です。Atlantis PREMIER BEH C18 AX カラムは、イオン性酸性物質を保持する能力に加え、プロトン化塩基についてもシャープで対称的なピークを生成することができるため、さまざまな種類の化合物のクロマトグラフィー分離法を開発する際には、対象が極性の酸性物質か Umifenovir のような疎水性塩基性物質かに関わらず、このカラムを検討する価値があります。
720006980JA、2020 年 8 月