新型コロナウイルスのパンデミックにより、新型コロナウイルスに対するワクチンの開発のための大規模な取り組みが進められています。ワクチンのターゲットを同定するには、SARS-CoV-2 の構造生物学を理解するための堅牢な分析法が必要になります。この研究では、そのウイルス病原性における役割から、ワクチン開発の潜在的なターゲットとして注目されている SARS-CoV-2 のインタクトスパイクタンパク質の逆相液体クロマトグラフィー分析に焦点を当てています1,2。 この研究では、ギ酸(FA)の代わりにジフルオロ酢酸(DFA)を移動相モディファイヤーとして使用することで、インタクトタンパク質分析において、より良好なクロマトグラフィー分離が得られることを実証しています。更に、得られた結果は、このアプローチと N- および O-グリコシダーゼ処理を組み合わせることで、インタクトタンパク質の更に詳細な MS 調査が可能になることを示唆しています。
移動相モディファイヤーとして、FA の代わりに DFA を使用することで、以下が実現できます。
SARS-CoV-2 のスパイクタンパク質は、宿主細胞への感染を促進することから、新型コロナウイルスワクチンの潜在的なターゲットとして、研究の対象になっています。新型コロナウイルスのタンパク質の適切な特性解析は、堅牢な同定試験および純度試験に依存しています。SARS-CoV-2 のスパイクタンパク質の糖鎖および糖ペプチドについては、詳細な特性解析が行われていますが、逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)を使用したインタクトタンパク質分析(エンドグリコシダーゼの使用を組み合わせるまたは組み合わせない)により、固有の分析情報が得られると考えられます3,4。
この取り組みを支援するために、ウォーターズは以下の分析法をご紹介します。
SARS-CoV-2 スパイクタンパク質の RPLC-FLR-MS によるインタクトタンパク質の分析には、以下の実験条件を使用しました。
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class |
検出: |
FLR(蛍光波長 280 nm、励起波長 320 nm) |
バイアル: |
QuanRecovery バイアル |
カラム: |
BioResolve RP mAb ポリフェニル、2.7 μm、450Å、2.1 × 50 mm |
カラム温度: |
80 ˚C |
サンプル温度: |
8 ˚C |
サンプル注入量: |
1 µL |
流速: |
0.2 mL/分 |
移動相 A: |
0.1% IonHance DFA または FA の水溶液 |
移動相 B: |
0.1% IonHance DFA または FA のアセトニトリル溶液 |
グラジエント: |
20 分間で 15 ~ 55% の移動相 B |
MS システム: |
Vion IMS QToF 質量分析計 |
イオン化モード: |
ESI+ |
取り込み範囲: |
1500~4000 m/z |
キャピラリー電圧: |
2.25 kV |
コリジョンエネルギー: |
6 V |
コーン電圧: |
140 V |
DFA を移動相モディファイヤーとして使用することで、比較的高分離能のクロマトグラムが得られました。FA を移動相モディファイヤーとして使用した場合と比較すると、グラジエントピークキャパシティが 3 倍以上高まり、含有量がより少ないプロテオフォームの分離能が高まりました。このクロマトグラフィーのアプローチと N- および O-グリコシダーゼ処理を組み合わせることで、更に詳細なインタクトタンパク質レベルでの MS 調査が可能になると考えられます。
SARS-CoV-2 のスパイクタンパク質は、ウイルス病原性に関与しているため、ワクチン開発のターゲットになりました。治療薬開発を効率よく進めるには、SARS-CoV-2 のスパイクタンパク質ターゲットの構造および機能についての確実な理解が欠かせません。RPLC を使用したインタクトタンパク質分析により、SARS-CoV-2 スパイクタンパク質の理解を更に深めることができるため、新しい新型コロナウイルス治療法の特定および開発に役立ちます。この研究では、FA の代わりに DFA を移動相モディファイヤーとして使用することで、MS 適合性を維持しつつ、分析法の分解能を高められることが実証されました。
720006907JA、2020 年 5 月