研究目的のみに使用してください。診断用には使用できません。
ターゲット MS ベースの分析法が、新型コロナウイルス患者の多様な生体マトリックスからの SARS-CoV-2 タンパク質に特化した分析に有望であることが示されました。ここでは、選択したケミストリーと消耗品の組み合わせにより、ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムおよび Xevo TQ-XS タンデム四重極型質量分析計を使用して、汎用輸送培地中に採取した鼻咽頭スワブ中の SARS-CoV-2 タンパク質の検出および定量を実証します。組換えスパイクタンパク質および核タンパク質について、ペプチドごとに少なくとも 2 回のトランジションを用いて、検出のダイナミックレンジ全体での測定再現性を保ちつつ、5 つの濃度レベルすべてで直線的なレスポンスが得られました。
COVID-19 は、SARS-CoV-2 ウイルスにより引き起こされた世界中で現在進行中のパンデミックです。新型コロナウイルスの大流行により、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)ベースの試験法の代替案あるいは補足的手法として、鼻咽頭スワブやうがい液など、臨床気道サンプルから SARS-CoV-2 タンパク質を直接検出するための、ハイスループットのターゲットプロテオミクスメソッドの開発が進められています。ウイルス粒子ごとに、様々なコピー数で多数のウイルスタンパク質が存在しています1,2。 SARS-CoV-2 ウイルスの 2 つの主要成分である組換えスパイク糖タンパク質(SPIKE)および核タンパク質(NCAP)はいずれも、他のコロナウイルスと同様3、タンパク質性ウイルス粒子量 の割合増加の原因となります。これらを消化して健康な患者のサンプルから得た鼻咽頭スワブにスパイクし、汎用輸送培地(Universal Transport Medium、UTM)に採取し、サロゲートペプチドベースのアプローチによって定量しました。この研究は、「汎用可能なコロナマルチプルリアクションモニタリング分析」の開発のためのコミュニティベースの取り組みの一環として進められています4。
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class PLUS |
バイアル: |
MaxPeak HPS を採用した QuanRecovery バイアル |
カラム: |
ACQUITY PREMIER Peptide BEH C18 300 Å カラム 2.1 mm × 50 mm、1.7 µm |
カラム温度: |
40 ˚C |
サンプル温度: |
10 ˚C |
サンプル注入量: |
5 µL |
流速: |
0.6 mL/分 |
移動相 A: |
0.1% ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.1% ギ酸アセトニトリル溶液 |
MS システム: |
Xevo TQ-XS |
イオン化モード: |
ESI + |
測定モード: |
MRM |
キャピラリー電圧: |
0.5 kV |
コリジョンエネルギー: |
ペプチド/トランジション最適化済み |
コーン電圧: |
35 V |
時間(分) |
%B 溶媒 |
---|---|
0.0 |
5 |
5.5 |
33 |
5.6 |
85 |
7.0 |
85 |
7.1 |
5 |
8.0 |
5 |
ソフトウェア: |
MassLynx TargetLynx Skyline |
図 1 で示されているように、『COVID-19 を理解する:LC-MS に基づく SARS-CoV-2 検出のためのマルチプルリアクションモニタリングのトランジション選択および最適化戦略』 (720006967JA)に記載されている、開発されたマルチプルリアクションモニタリング(MRM)分析法のスループットおよび性能は、ペプチドごとに 2 回のトランジションを使用し、デューティーサイクルおよびシグナル対ノイズ比を最大化しています。ここでは、ターゲットペプチドの SPIKE_SARS2 および NCAP_SARS2 のクロマトグラフィー画面内で 5.5 分時点での分離と溶出を示しています。通常のベースラインピーク幅は 4~6 秒で、注入を含む LC-MS MRM メソッドの合計サイクル時間は 9 分未満でした。
消耗品(バイアル/SPE コレクションプレートおよびカラムケミストリー)と、再懸濁溶媒の組成の慎重な選択により、定量レスポンスが最大化されています。図 2 の下半部には、これらの成分の累積効果を示しており、元の Cov-MS 標準作業手順(SOP)で得られた平均ベースレベルの MRM レスポンスと、バイアル選択(+15%)、再懸濁溶媒の組成(+20%)、カラムケミストリー(+10%)により得られた追加のシグナルを示しています。これらにより、全体のシグナルの増加は約 55% となります。図 2 の上半部に示された様々なスパイクレベルでの % CV トランジション値により、分析法の再現性が高く、頑健であることが示唆されています。
P0DTC2|SPIKE_SARS2 からの SFIEDLLFNK(上)と P0DTC9|NCAP_SARS2 からの NPANNAAIVLQLPQGTTLPK の 2 つのペプチドの定量性能指数を図 3 に示しています(両方とも UTM マトリックスへの SARS-CoV-2 タンパク質消化物の 5 つのスパイクレベルをカバー)。R2 値が 0.998 以上、残差値が 15% 以内と直線性が良好であることが示されました。シングル MRM トランジションを使用し、NPANNAAIVLQLPQGTTLPK の検出を別のサンプルスパイクレベル(1 ng、0.088 fmol NCAP/µL UTM マトリックス溶液と同等、UTM マトリックスに存在する組換え NCAP およびスパイクが同量と仮定)によって拡張できますが、ここでは追加の試験は行いませんでした。UTM マトリックスが存在しない場合、非常に低い定量限界(LLOD)が観察されました。これは、分析法のダイナミックレンジが、主にマトリックスにより制限されていることを示唆しており、スワブの代替策の使用および/またはより効率の高いクリーンアップ/前処理技術の開発により、分析法が更に改善されることが期待されます。
半定量分析の結果を図 4 にまとめており、最終的な MRM 分析法で、すべてのターゲットペプチドが、少なくとも 3 つのスパイクレベルで検出できることを示しています。2 つのタンパク質のすべてのペプチドにわたって検出されたスパイクレベルの平均数は 4 つで、一部のペプチドでは 5 つの濃度レベルで同定されました。SPIKE_SARS2 および NCAP_SARS2 の両方のタンパク質は、UTM マトリックスに存在する場合、5 ng サンプルのスパイクレベルで同定されました。
LC-MS ベースの COVID-19 MRM ベースの実験の臨床研究および開発には、分析法の徹底的な分析的特性解析が必要となります。LC-MS に固有で重要な側面として、特異性、定量ダイナミックレンジ、分析法の頑健性/再現性が挙げられます。新型コロナウイルスに関連する分析上の課題には、LC-MS 消耗品の慎重な選択により対応することができ、リニアダイナミックレンジの最適化、非特異的吸着の抑制と同時に、分析法のスループットを維持し、固有の MRM トランジションを適用して再現可能な MRM 測定および LLOD の低減を実現できました。開発した MRM 分析法を Xevo TQ-XS タンデム四重極型質量分析計で実行・評価することに成功し、鼻咽頭スワブから汎用輸送培地に採取した SARS-CoV-2 タンパク質の検出および定量を行いました。
SARS-Cov-2 MRM メソッドを設計するためのコミュニティベースの取り組みの一環として、評価キットをご提供いただいた Cov-MS コンソーシアムの皆様に対して、感謝を申し上げます。
Laurence Van Oudenhove, Jan Claereboudt, Rowan Moore and Hans Vissers (Waters Corporation); Bart Van Puyvelde, Simon Daled, Dieter Deforce and Maarten Dhaenens (Pharmaceutical Biotechnology, University of Ghent); Katleen Van Uytfanghe (Department of Bioanalysis, University of Ghent); Steve Silvester and Sally Hannam (Alderley Analytical); Donald Jones, Dan Lane, Pankaj Gupta and Leong Ng (van Geest MS-Omics laboratory and Department of Medical Medicine and Chemical Pathology, University of Leicester).
720006968JA、2020 年 8 月