化学的不動態化処理は、デリケートなアプリケーションでの性能を高めるために使用される一般的な技法です。特に表面吸着の影響を受けやすい化合物の場合は、不動態化処理せずに従来の LC システムおよびカラムを使用するときに、、ピークテーリング、回収率や再現性の低下が発生することが知られています。この試験では、タンパク質およびペプチド分析専用の LC で、システム不動態化処理後にのみ、リン酸化ペプチドを回収することができました。MaxPeak HPS テクノロジーを採用した Waters ACQUITY PREMIER は、準備不要なソリューションを提供し、従来の LC テクノロジーでは避けられないシステム不動態化処理が不要になることが示されました。
従来のステンレススチール製 LC システムおよびカラムハードウェアは、イオンが流路で移動するときの、表面への化合物の吸着並びに遊離金属による汚染により、生体分子のクロマトグラフィー性能に好ましくない影響を与える可能性があります1。 より最新の LC システムでは、この現象を軽減するために耐腐食性や生体適合性のあるシステムコンポーネントおよび流路材質に移行していますが、それでも特にデリケートなアプリケーションで最適なクロマトグラフィー性能を得るには、システム不動態化処理が必要である場合があります。システム不動態化処理によって腐食に耐える保護層が復元しますが、多くの場合、硝酸やリン酸処理を用いて行います1,2。 化学的不動態処理は、サンプルのロードや保管状態から実行状態への移行の間に活性部位をブロックするための繰り返し注入のことを指す、システムやカラムの「コンディショニング」や「プライミング」よりも強引なアプローチです。多くのアプリケーションでは、システム不動態化処理が必要となることはまずなく、必要な性能を達成するための準備としてコンディショニングやプライムで十分です。
この試験では、リン酸化ペプチドが含まれているタンパク質混合液を用いて、従来の LC テクノロジーと、MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーを採用した ACQUITY PREMIER との間の性能の違いを説明しています。従来の LC システムおよびカラムを使用して化合物を回収するには、リン酸を使用したシステム不動態化処理が必須です。MaxPeak HPS テクノロジーによって、回収率の向上によるクロマトグラフィー性能の信頼性を示し、システム不動態化処理の必要性を回避することで、ラボにおける分析をより効率的にすることができるようになります。
ギ酸含有水-アセトニトリルを使用する RPLC グラジエントを使用し、従来の LC システムとカラムを使用して、インスリン受容体(TRDIpYETDpYYRK 配列の二重リン酸化ペプチド)、アンジオテンシン I、エノラーゼ T37、ブラジキニンの 4 成分混合液を分離しました。この十分にコンディショニングした LC システムは、タンパク質およびペプチドの RPLC 分析専用のシステムであり、保持時間、再現性、ピークテーリング、化合物回収率といったさまざまなシステム適合性要件を満たした多くのルーチン分析を実施してきました。図 1A では、この混合液の成分のうち 3 つのみが検出できています。インスリン受容体は金属表面に対する親和性が高いリン酸化化合物であるため、接液流路に完全に吸着されました。このペプチドは、システムをリン酸で不動態化してはじめて回収できました(図 1B)。次に、ACQUITY PREMIER Peptide CSH C18 カラム(130Å 1.7 µm 2.1×100 mm)および ACQUITY PREMIER システムを使用して上記の分離を実行し、従来の LC テクノロジーでは必要な不動態化処理を行わずに、混合液のすべての成分が回収できました(図 1C)。これにより、ACQUITY PREMIER テクノロジーの性能により、刺激の強い化学物質を用いた時間のかかるシステム不動態化処理を行う必要なく、信頼性の高い性能が得られることが実証されています。
図 1. インスリン受容体(二重リン酸化ペプチド、TRDIpYETDpYYRK)の回収。1A:インスリン受容体は、長年にわたって使い込まれた従来の LC テクノロジーでは回収することができません。1B:システム不動態化処理後、吸着が大幅に低減し、インスリン受容体が回収できるようになっています。1C:MaxPeak HPS テクノロジーを採用した ACQUITY PREMIER は、準備不要で優れたクロマトグラフィー性能を提供し、これによって従来の LC テクノロジーで避けられないシステム不動態化処理の必要性が回避されます。
分析法条件:MPA:0.1% ギ酸水溶液、MPB:0.1% ギ酸アセトニトリル溶液、グラジエント条件:12 分間で 0.5% から 40% MPB へ。30% リン酸洗浄液を使用してシステム不動態化処理を行い(図 1B のみ)、続いて初期グラジエント条件で平衡化。
さらに、MaxPeak HPS テクノロジーを採用した ACQUITY PREMIER の使用により、分析の再現性の向上も認められました。ピーク面積(化合物の回収率を反映する)の再現性を、システム不動態化処理後の従来のテクノロジーと MaxPeak HPS テクノロジーとで比較しました(図 2)。従来のテクノロジーおよび MaxPeak HPS テクノロジーでの 15 回の注入にわたる %RSD の計算結果は、それぞれ 6.22% および 0.48% でした。MaxPeak HPS テクノロジーは、一連の注入にわたってより安定した性能をもたらすだけでなく、平均ピーク面積が従来のテクノロジーより約 1.5 倍大きくなっています。向上した回収および再現性により、影響を受けやすい化合物の検出を容易にする頑健な分析法の開発における MaxPeak HPS テクノロジーの利点が、さらに実証されます。
図 2. インスリン受容体(二重リン酸化ペプチド、TRDIpYETDpYYRK)の回収率およびピーク面積の再現性。従来の LC テクノロジー、および MaxPeak HPS テクノロジーを採用した ACQUITY PREMIER での 15 回の注入にわたる %RSD の計算値は、それぞれ 6.22% および 0.48% でした。
分析法条件:30% リン酸洗浄液を使用してシステム不動態化処理を行い、その後初期グラジエント条件で平衡化。MPA:0.1% ギ酸水溶液、MPB:0.1% ギ酸アセトニトリル溶液、グラジエント条件:12 分間で 0.5% から 40% MPB へ。
システムの不動態化処理は、表面への吸着によるアーティファクトを示す、影響を受けやすいバイオ医薬品化合物の分析において、回収率および分析再現性を向上させる手段として一般的な慣行になっています。本研究では、RPLC 分析専用の十分にコンディショニングした LC システムを用いたタンパク質およびペプチドの分析において、リン酸化ペプチドは、表面を酸で不動態化処理をしてはじめて、効果的に回収されることが示さました。MaxPeak HPS テクノロジーを採用した Waters ACQUITY PREMIER により、従来の LC テクノロジーと比較して化合物の回収率および再現性が向上し、優れたクロマトグラフィー性能を発揮する準備不要なソリューションが提供されます。
720006921JA、2020 年 5 月