• アプリケーションノート

ミックスモード LC カラムと ACQUITY QDa 質量検出器を用いた有機酸の分析

ミックスモード LC カラムと ACQUITY QDa 質量検出器を用いた有機酸の分析

  • Jinchuan Yang
  • Paul D. Rainville
  • Waters Corporation

要約

有機酸(OA)は、食品、飲料、動物用飼料、および人々の健康に関わる多くの業界にとって重要な化合物群です。ACQUITY UPLC H-Class システムと ACQUITY QDa 質量検出器を組み合わせて、ミックスモード LC カラム(Atlantis Premier BEH C18 AX カラム)での 15 種の有機酸の分離の試験を実施しました。有機溶媒比率、塩濃度、移動相の pH などのイオンクロマトグラフィー条件が、有機酸の保持、選択性に与える影響を調べました。有機酸の分析法を開発し、フルーツジュースに適用しました。分析法の性能特性として、定量限界(LOQ)、クロマトグラフィーピーク面積と濃度の関係、精度と正確度を評価しました。この分析アプローチは、OA の保持および分離に優れ、実行時間は短く、高い検出感度および選択性を示しました。このソリューションは、フルーツジュースおよび飲料内の有機酸の測定、およびその他の応用分野に適しています。

アプリケーションのメリット

有機酸の分析に Atlantis Premier BEH C18 AX カラムを ACQUITY UPLC H-Class および ACQUITY QDa 質量検出器と組み合わせることで、以下のメリットが得られます。

  • 優れた保持とクロマトグラフィー分離能
  • フルーツジュースおよび飲料の真正性試験に役立つ高感度検出
  • サンプルマトリックス由来の共溶出化合物の干渉を受けにくい選択性の高い検出
  • 実行時間 8 分未満の高速分析

はじめに

有機酸(OA)は、食品、飲料、動物用飼料、および人々の健康に関わる多くの業界にとって重要な化合物群です。有機酸は、フルーツジュースおよび飲料の風味や香り、安定性、微生物制御に影響を与えます(1)。 有機酸は、様々なフルーツや飲料において異なる特性プロファイルを示すことが多いことから、これを真正性試験のマーカーまたはフィンガープリントとして用いることができます(2)。 図 1に、本研究で調査した OA の構造および pKa 値を示します。

図 1.  有機酸の構造および pKa

OA の分析は通常、陰イオン交換、逆相、またはミックスモードの分離のいずれかによる液体クロマトグラフィー(LC)を用いて行われます。OA の陰イオン交換クロマトグラフィーの分離は許容範囲内ですが、通常実行時間が長くなります。逆相分離では OA の分離が限定されます。ミックスモードの分離では、OA の分離能が逆相 LC よりも高くなり、多くの場合、陰イオン交換クロマトグラフィーよりも実行時間が短くなります。OA 分析でよく使用される検出手法として、電気伝導度、UV/Vis、示差屈折率(DRI)が挙げられます。これらの検出手法は OA に対する選択性が高くなく、そのために OA 分析が共溶出化合物による干渉を受けやすくなります。OA 分析のための、分離能と干渉の課題に対処できるソリューションが強く望まれています。

このアプリケーションノートでは、OA 分析の主な課題に対処するための、Waters Atlantis Premier C18 AX カラムおよび Waters ACQUITY Qda 質量検出器をベースにした分析ソリューションの開発について説明しています。Atlantis BEH C18 AX カラムにより、OA 分析において、優れた保持と分離能が得られます。ACQUITY QDa 質量検出器は OA 分析に適した選択性の高い検出器です。これら 2 つのテクノロジーを組み合わせることで、困難な OA 分析の課題に対して優れたソリューションが得られます。

実験方法

LC 条件

LC システム:

ACQUITY UPLC H-Class システム

ソフトウェア:

Empower 3 CDS

カラム:

Atlantis Premier BEH C18 AX、1.7 μm、2.1 × 150 mm

カラム温度:

30 ℃

流速:

0.35 mL/分

注入量:

1.0 µL

分析時間:

8.0 分

移動相:

A:50mM ギ酸アンモニウムおよび 0.9% ギ酸水溶液(pH=2.9)

B:0.9% ギ酸アセトニトリル溶液

C:0.9% ギ酸水溶液

グラジエント溶出プログラム:

MS 条件

MS システム:

ACQUITY QDa 質量検出器(パフォーマンス)

イオン化モード:

ESI-

キャピラリー電圧:

0.8 V

コーン電圧:

5.0 V

プローブ温度:

600 ℃

取り込み速度:

1 Hz

SIR 質量:

[M-H]-(表 1)

表 1.  有機酸の化学式、モノアイソトピック質量、分子イオンの質量-電荷比(m/z)

標準溶液の調製

個々の OA を MilliQ 水に 1.0%(w/v)になるように溶解して、原液としました。フマル酸は、無水エタノールに 1.0%(w/v)で溶解しました。個々の OA 原液を混合して MilliQ 水で希釈し、すべての OA を含む溶液(各 600 μg/mL(有効数字 3 桁を記録))を調製しました。この OA 混合原液を水で連続希釈することにより、低濃度の溶液を調製しました。

SPE による

リンゴ、ブドウ、ザクロを含むフルーツジュースのサンプルは、地元の店舗で購入しました。このジュースを MilliQ 水に 1:10 の比率で希釈し(ジュース 1 mL に対して水 9 mL)、0.45 μm ガラスマイクロファイバーメンブレンフィルター(GMF)でろ過しました。ろ過したジュース溶液は、必要に応じて水で更に希釈しました。

結果および考察

クロマトグラフィーの最適化

移動相の組成

Atlantis Premier BEH C18 AX カラムは、ミックスモードカラムです。固定相には C18 基が含まれているだけではなく、第三級アルキルアミン基が含まれており、約 pH 8 以下で正電荷を持ちます(3)。 移動相の組成(有機溶媒比率)が、OA の保持に重大な影響を及ぼすことが分かりました。図 2 に、様々な移動相組成でのアイソクラティック溶出における OA の保持係数(k’)を示します。50mM ギ酸アンモニウムおよび 0.9% ギ酸水溶液では、有機酸の k’ 値は 0.4~2.5 の範囲でした。有機物含有量(移動相 B、0.9% ギ酸アセトニトリル溶液)を約 50% まで増加させると、これらの酸のカラム保持が最小になり、すべての k’ 値が 0.5 未満になりました。有機物含有量を更に増加させると、OA の k’ 値は再び高くなりました。また、OA の溶出順序も、移動相の組成変更により変わりました。 

図 2.  Atlantis Premier BEH C18 AX カラムによる、様々な移動相組成でのアイソクラティック溶出における有機酸の保持係数(k’)。移動相 A:50mM ギ酸アンモニウムおよび 0.9% ギ酸水溶液(pH=2.9)。B:0.9% ギ酸アセトニトリル溶液。

移動相のバッファー濃度

OA 分析法の最適化において、バッファー濃度はもう 1 つの主要な要素です。図 3 に示すように、これは有機酸の保持および選択性の両方に影響を与えます。ギ酸アンモニウムの濃度が 50 mM から 0 mM に減少させると、クエン酸とマロン酸の k’ は大幅に上昇しますが、他の OA の k’ の上昇は穏やかでした。クエン酸とマロン酸の k’ が大幅に上昇するのは、他の OA と比較して pKa 値が低いことに関連しています(図 3)。OA の溶出順序も、バッファー濃度の変更に伴って変わりました。 

図 3.  Atlantis Premier BEH C18 AX カラムにおける、様々なバッファー水溶液の濃度(0.9% ギ酸含有、pH=2.9)でのアイソクラティック溶出における有機酸の保持係数(k’)。バッファー:ギ酸アンモニウム。

移動相の pH

移動相の pH も、分析法開発における重要なパラメーターです。移動相の pH は、OA の酸解離のバランスに影響を与え、これにより保持とピーク形状も影響を受けます。この試験では、良好なピーク形状を得るために pH 2.9 を使用しました。 

有機酸の分析

グラジエント溶出プログラムを開発し、OA 分析で使用しました(「実験方法」セクションを参照)。これは主にバイナリーソルベントグラジエントで、アイソクラティック溶出の追加のセグメントがあり、水にはバッファーは含まれていません(低イオン強度)。グラジエント溶出により、水にバッファーが含まれていないアイソクラティック溶出では、早期溶出する OA で良好な保持が得られ、重要なキナ酸、酒石酸、リンゴ酸については、良好な分離も得られました。

15 種の有機酸のクロマトグラムを 11 のシングルイオンレコーディング(SIR)チャンネルで収集しました(図 4)。これらの OA の分子イオン[M-H]- の大半では、質量電荷比(m/z)が異なっていました。これらは別個の SIR チャンネルで検出され、相互干渉の可能性が排除されました。図 2 に有機酸 15 種の保持時間、定量限界(LOQ)、キャリブレーション結果を示します。溶媒溶液中の有機酸の LOQ は 0.2~6 ppm の範囲内でした(溶液中では μg/mL)。 

図 4.  11 SIR チャンネルでの 15 種類の有機酸標準試料のクロマトグラム。有機酸濃度:20 ppm。カラム:Atlantis Premier BEH C18 AX、1.7 μm、2.1 × 100 mm。ピーク ID:1.乳酸、2.リンゴ酸、3.アスコルビン酸、4.キン酸、5.コハク酸、6.酒石酸、7.イソクエン酸、8.マロン酸、9.グルタル酸、10.クエン酸、11.フマル酸、12.cis-アコニチン酸、13.アジピン酸、14.シキミ酸、15.マレイン酸。
表 2.  有機酸の保持時間、キャリブレーション結果、LOQ、ピーク面積の再現性

スパイク試験により、有機酸の定量における正確度を評価しました。リンゴ、ブドウ、ザクロジュース中の主な有機酸 4 種(キナ酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸)を 0.1 mg/mL および 4 mg/mL の 2 つのレベルでスパイクしました。AOAC ガイドラインに従って回収率(4)を計算し、表 3 に示します。回収率の大半が 80~120% の範囲に収まっていました。スパイク試験には外部較正を使用しました。ただし、より正確な結果が必要とされる場合には、内部標準の使用を推奨します。特に、質量分析法を用いる場合には、内部標準を使用することが、分析の正確度と精度を改善するための一般的な方法です。 

表 3.  フルーツジュースに含まれる一般的な有機酸の回収率

OA 分析におけるこの分析法の主なメリットを、ザクロジュースの分析で示しています。図 5 はザクロジュースの重ね描きを示しており、挿入図にクロマトグラムの重ね描きを拡大表示しています。ザクロジュースに含まれる 0.007 mg/mL という低濃度の酒石酸の濃度が測定できました(表 3 参照)。図 5 では、酒石酸の SIR クロマトグラムにおける平坦なベースラインと、酒石酸のピーク付近(RT 1.5 分)に見られるピークの数が注目に値します。このような低レベルでの酒石酸の定量では、多くのピークが近接して溶出し、非選択的検出器では定量が非常に難しくなります。酒石酸は偽装ザクロジュース用のマーカーとして使用されました。偽装ザクロジュースの酒石酸のレベルは 0.07 mg/mL 以上であることが分かりました(5)。 フルーツジュースの真正性試験において、この例のザクロジュースの酒石酸などの OA の高感度検出が必要となります。

図 5.  ザクロジュースの SIR クロマトグラムの重ね描き。ジュースは、脱イオン水で 10 倍に希釈してから分析しました。挿入図は、検出された OA のクロマトグラムを、ベースラインをオフセットして拡大表示しています。

結論

OA 分析は、サンプルに存在する可能性のある多数の天然に存在する OA の分離が難しいことから、困難な作業になる場合があります。Waters UPLC/QDa システムと Atlantis Premier BEH C18 AX カラムにより、OA 分析のための優れたアプローチを実現できます。この OA 分析アプローチの主なメリット:

  • 優れた保持と分離能の改善
  • 特定のアプリケーションにメリットをもたらす高感度検出
  • サンプルマトリックス中の共溶出化合物の干渉を受けにくい高選択性検出
  • 実行時間 8 分未満の高速分析

参考文献

  1. Monica Gonzalez and Venerando Gonzalez.Organic Acids in Food Analysis by HPLC; 3rd ed.Leo M.L. Nollet, Fidel Toldra., Eds; CRC Press Taylor & Francis Group, Boca Raton, FL, 2013, pp 443.
  2. Hyoung S. Lee, HPLC Method for Separation and Determination of Non-Volatile Organic Acids in Orange Juice, J. Agric.Food Chem.1993, 41, 1991–1993.
  3. Thomas H. Walter, Bonnie A. Alden, Cheryl Boissel, Jessica Field, Nicole Lawrence, Donna Osterman, and Amit Patel, A New Mixed-Mode Reversed-Phase/Anion-Exchange Stationary Phase Based on Hybrid Particles, Waters Application Note, Waters Corporation, 720006742en, 2020.
  4. AOAC Guidelines for Single-Laboratory Validation of Chemical Methods for Dietary Supplements and Botanicals (2012) Official Methods of Analysis, 19th Ed., Appendix K, AOAC INTERNATIONAL, Rockville, MD, USA.http://www.eoma.aoac.org/app_k.pdf.
  5. Stefan Ehling and Shannon Cole, Analysis of Organic Acids in Fruit Juices by LC-MS: An Enhanced Tool for Authenticity Testing, J. Agric.Food Chem.2011, 59, 2229–2234.

720006938JA、2020 年 6 月

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