• アプリケーションノート

ペプチドベースのマルチ特性分析(MAM)の効率的なコンプライアンス対応ワークフロー

ペプチドベースのマルチ特性分析(MAM)の効率的なコンプライアンス対応ワークフロー

  • Nilini Ranbaduge
  • Ying Qing Yu
  • Waters Corporation

要約

ペプチドベースのマルチ特性分析(MAM)用に開発されたエンドツーエンドの分析ワークフローについて説明します。waters_connect インフォマティクスプラットホームは、モノクローナル抗体(mAb)標準試料の製品品質特性(PQA)の自動データ取り込み、解析、レポート作成のための、コンプライアンス対応の環境を提供します。ペプチド MAM ワークフローアプリケーションは、waters_connect アプリケーション間のシームレスな移行を提供し、タンパク質のバイオプロダクションおよび分解から生じる製品品質特性をトラッキングおよび定量します。この試験には、酸化、脱アミド化、スクシンイミド修飾、グリコシル化、C 末端および N 末端の修飾、異性化などの修飾が含まれます。ペプチド MAM アプリケーションでは、純度評価に対応するように分析法を拡張し、指定したレファレンスサンプルに対する新規ピーク検出(NPD)機能も提供されます。

アプリケーションのメリット

  • 製品品質特性分析のためのエンドツーエンドのコンプライアンス対応ペプチド MAM ワークフロー
  • MS の専門家でない人でも高品質データを日常的に高信頼度で得られる、設置面積が小さい SmartMS 対応システム
  • コンプライアンス対応の共通インフォマティクスプラットホーム内での、ペプチドマッピング分析から MAM 分析への特性の効率的な転送
  • ターゲットペプチドベースの特性トラッキングと相対的定量
  • 高感度で偽陽性率が低い潜在的不純物の新規ピーク検出の堅牢なアルゴリズム

 

はじめに

モノクローナル抗体は、開発されるバイオ医薬品の中で最も重要なクラスの 1 つです。これらは、製造中および保管中に、さまざまな翻訳中修飾および翻訳後修飾を受けます1。 製品特性の中には、分子の効能、有効性、安全性にきわめて重要なものがあり、これらは重要品質特性(CQA)と呼ばれます。製品のライフサイクル全体を通じて PQA および CQA を管理およびモニターすることにより、規制当局の期待事項および対象製品プロファイル要件を満たす、高品質なモノクローナル抗体が確保されます。さらに、クオリティ・バイ・デザイン(QbD)アプローチは、MAM ベースの分析で得られる高度な情報からこのターゲットプロファイルを達成するためのさまざまな製造プロセスの関係の確立に焦点を当てます2,3。バイオ医薬品製造全体にわたる QbD デザインスペースを確立するには、これらの品質特性をより大規模なサンプルセットにわたって効率的にモニターできる分析法を導入する必要があります。

マルチ特性分析(MAM)は、複数の PQA および CQA をモニターするために確立された LC-MS 分析法であり、1 回の分析での未知の不純物を検出する機能が追加されています4。 光学検出に依存するイオン交換クロマトグラフィー(IEX)や親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)などの従来のクロマトグラフィー分析法とは異なり、ペプチド MAM は、質量分析(RPLC-MS)と組み合わせた逆相クロマトグラフィーに基づいて構築されています。MAM は、質量分析と高度なインフォマティクスツールの力を利用して、これらの単一特性光学ベースの検出分析法よりも高いスループット、感度、ダイナミックレンジで、複数の PQA をモニターできます。

ペプチド MAM 分析は、バイオ医薬品タンパク質の酵素消化物を分析することで、複数の製品品質特性をターゲットとし、定量するように設計されています。これは、消化されたペプチドとその対応する修飾ペプチドを定量することで実現し、通常、製品の安全性と有効性への影響、またはプロセスの安定性に焦点を当てます。ペプチド特性モニタリングは多くの場合、一般に新規ピーク検出(NPD)と呼ばれる純度評価ステップと組み合わせて使用されます。NPD データ解析の間に、実験サンプル内で検出されたピークがレファレンス管理サンプルのピークと比較され、新規ピークや、ユーザー定義のスレッシュホールドに対する相対存在量が変化したピークが特定されます。現在、多くのバイオ医薬品関連企業が、複数のベンダープラットホームにわたって MAM の評価に取り組んでいます。これらの取り組みのレポートでは、特性の定量での一貫性の重要性と、NPD の偽陽性率を最小限に抑えてユーザーの介入を減らし、分析ワークフローを自動化する必要性が強調されています。

ここでは、コンプライアンス対応の waters_connect インフォマティクスプラットホームで動作する Waters BioAccord LC-MS システムでの効率的なペプチド MAM ワークフローについて説明します。BioAccord System は、バイオ医薬品の開発、製造、QC の組織にわたる日常的な LC-MS 分析に対応するように設計された ACQUITY UPLC I-Class PLUS および ACQUITY RDa TOF MS システムで構成されています。

実験方法

サンプル前処理

レファレンスサンプル:10 mg/mL の NISTmAb (RM 8671)サンプルを、まず変性バッファー(6 mol/L グアニジン HCl、250 mmol/L Tris、pH 7.8)中に 1 mg/mL になるように希釈しました。このサンプルを、室温でジチオスレイトール(DTT、5 mmol/L)中で 30 分間インキュベートし、続いて室温の暗所で、ヨードアセトアミド(IAM、10 mmol/L)を用いて 20 分間アルキル化しました。還元アルキル化されたサンプルを、NAP-5 カラム(GE Healthcare)を用いて脱塩し、次に組換えブタトリプシンを用い、 37 ℃ で 4 時間、酵素対基質比 1:20 の条件で消化しました。

苛酷試験を実施したモノクローナル抗体サンプル: 10 mg/mL の NISTmAb(RM 8671)を、BioRad 10K MWCO スピンカラムを用いて pH 8.0 で 50 mmol/L Tris 塩基にバッファー交換し、しっかりキャップをした 0.5 mL Eppendorf LoBind チューブに移し、40 ℃ で 8 日間インキュベートしました。8 日目に、サンプルをインキュベーターから取り出し、レファレンスサンプルと同じ条件で消化しました。

スパイクしたサンプル:スパイクしたサンプルは、コントロールおよび苛酷試験を実施した NISTmAb 消化物を Pierce ペプチド保持時間キャリブレーション(PRCS)標準試料にスパイクして、調製しました。スパイクした各サンプルには、モノクローナル抗体消化物 3 µg ごとに 0.5 pmol(Pierce 標準試料)の濃度の PRCS が含まれました。 

システム適合性標準試料:MassPREP ペプチド混合液(製品番号 186002337

装置

  1. BioAccord LC-MS システム
  • ACQUITY RDa 検出器
  • ACQUITY UPLC I-Class PLUS
  • ACQUITY TUV検出器
  • カラムヒーター(CH-A)モジュール
表 1. ペプチドマッピング(特性解析)ワークフロー解析パラメーター

LC グラジエント

表 2. モノクローナル抗体消化物の分析に適用できる ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムの条件/パラメーター 

グラジエントテーブル

表 3. モノクローナル抗体サンプル分析用 LC グラジエント

MS 分析条件

表 4. ペプチド分析に用いる ACQUITY RDa 検出器の設定

データ管理

ペプチド MAM アプリケーション(モニタリング)を搭載した waters_connect インフォマティクスプラットホームを用いて、データを取り込み、解析しました。

結果および考察

特性解析:製品品質特性を定義してモニターし、サイエンスライブラリーに転送します。

MAM 特性モニタリング試験を行う前に、バイオ医薬品の特性解析分析を完了して、MAM 分析の対象になる可能性のある特性の範囲を定義する必要があります。waters_connect インフォマティクスプラットホームは、特性解析ワークフローとモニタリングワークフローの両方に対応し、これらのアプリケーション間の情報転送を効率化するツールも提供します。ペプチドマップベースのタンパク質特性解析は、waters_connect UNIFI アプリケーションのペプチドマッピングワークフローを用いて行います。このワークフローでは、ピークへのペプチド配列の割り当て、修飾の同定、MAM 分析で使用する保持時間と電荷状態の情報の入力に、焦点が当てられています。

本研究では、ペプチドマッピングデータをデータインディペンデント取得モード(BioAccord 上のフラグメンテーションモードの MS)を使用して取り込み、PQA を特定しました。ペプチドマップデータは、QTof システムで LC-MSE モードで取り込むこともできます。この場合、MS スキャンが低コリジョンエネルギーと高コリジョンエネルギーに交互に切り替わり、MS1(低コリジョンエネルギー)チャンネルを用いてペプチドを同定し、MS2(高コリジョンエネルギー)チャンネルでフラグメントイオンを取得して、配列を確認します。すべての分析サンプルのペプチドマッピングデータを、表 1 に示されているパラメーターを用いて解析しました。ペプチドの特性を同定する際に、少なくとも 3 つの確認フラグメントイオンを選択しました。このデータから、NISTmAb に存在することがわかっている多くのペプチド修飾が明らかになりました5。典型的な「ホットスポット」修飾として、DTLMISR ペプチド中のメチオニンの酸化、VVSVLTVLHQDWLNGK トリプシン消化ペプチド中のアスパラギンの脱アミド化が認められましたこの未修飾の VVSVLTVLHQDWLNGK 配列も、新規ピーク検出アプローチに関して参照されるベースピークペプチド(最大 MS 強度のピーク)を示しています。 

ペプチド MAM のために選択した特性は、NIST レファレンスモノクローナル抗体 に関する以前の情報に基づいています5。 PQA を代表する未修飾ペプチドおよび修飾ペプチドの各セットを、waters_connect サイエンスライブラリーと共通の NISTmAb ライブラリーに登録しました(図 1)。対象のペプチド特性は、[送信先 -> サイエンスライブラリー]オプションを選択するだけで、ペプチドマッピング分析からエクスポートされました。これらのサイエンスライブラリーは、ラボ間で共有し、権限のあるユーザーが分子に関する追加の情報を入手したときに、そのユーザーが更新できます。

図 1. サイエンスライブラリーは、特性解析アプリケーションとモニタリングアプリケーションの間でペプチドの特性情報を管理するために使用できます。ペプチドマッピング実験で割り当てられたペプチドの特性をライブラリーにエクスポートし、それを用いてペプチド MAM アプリケーションによって特性モニタリング用のターゲットリストを作成できます。

ペプチド MAM ワークフロー

LC-MS データはペプチドマッピングと同じ方法で収集できますが、ペプチド MAM ワークフローはデータ解析のアプローチが異なります。ペプチド MAM では、モニターする対象特性は具体的にターゲットとされ、定量は特定のパラメーター(多くの場合、各特性について最適化)に基づいて行います。このペプチド MAM ワークフローは、簡単なメソッドのセットアップ、取り込み、解析のための、他の waters_connect アプリケーション(図 2A)とシームレスに連携(リンクするペプチド MAM アプリを介して)されています。このワークフローに組み込まれているアプリケーション:取り込みメソッドエディター、サンプル登録、ペプチド MAM 解析、LC-MS ツールキット(図 2B)。

図 2. アプリケーション間の迅速なナビゲーションが可能な waters_connect ハブ (A)。ペプチド MAM (B) のワークフローは次記の組み込まれている機能で構成されています:メソッド作成用の取り込みメソッドエディターアプリケーション、データ取り込み用のサンプル登録アプリケーション、特性情報の保存および管理用のサイエンスライブラリー、ペプチド MAM 解析アプリケーション、追加の手動データレビューを容易にする LC-MS ツールキットアプリケーション。

取り込みメソッドエディターにより、データ取り込みに対応するためにサンプル登録アプリケーションのサンプルリスト内で参照される LC-MS メソッドが作成されます。ペプチド MAM アプリケーションにより、このデータとペプチド特性のリストを利用してターゲットが定量され、これらの特性について相対存在量がレポートされ、レファレンスサンプルに対する「新規ピーク」候補のリストが作成されます。自動化されたペプチド MAM データ解析の後、LC-MS ツールキットアプリケーションは手動でのフォローアップ調査を支援します。これらの機能については、以降のセクションで詳しく説明します。

LC-MS メソッドのセットアップとデータ取り込み

データ取り込みは、ターゲット定量解析および新規ピーク検出につながる装置パラメーターを含む単一のメソッドによって管理されます。ペプチド MAM 分析用の取り込みメソッドエディターアプリケーションには、ACQUITY UPLC I-Class PLUS モジュール、TUV 検出器、ACQUITY RDa 検出器の装置パラメーターが包含されています。表 2 ~ 4 に、モノクローナル抗体ベースのペプチド MAM 用に最適化された一連の汎用装置パラメーターが示されています。システムは、データを取り込んで後で解析するように設定することも、ペプチド MAM アプリケーション内で「取り込んで解析」するように設定することもできます(図 2 の左パネル)。

NISTmAb 強制分解実験のデータ取り込みのためのサンプルキューが、図 3 に示されています。このリストには、ブランク、システム適合性注入、実験対照群(レファレンスモノクローナル抗体サンプル)、強制分解分析のサンプルが含まれています。この図に示すシステム適合性注入(サンプル種類: SST)は、分析サンプルの前および後に行いましたが、必要に応じて順序を変更できます。  すべてのリファレンス/対照群および分析サンプルのサンプル種類として「未知」を選択しました(図 2、右側パネル、列 3) 。さらに、ペプチド MAM アプリケーション内での取り込み後のデータ解析を容易にするために、[New peak detection reference](新規ピーク検出レファレンス)および[Retention time alignment reference](保持時間アライメントレファレンス)用のレファレンスサンプルを選択しました。この例では、対照群モノクローナル抗体および苛酷試験を実施したスパイクサンプルが、それぞれ新規ピーク検出および保持時間のアライメントのレファレンスとして選択されました。通常、ピーク数が最も多いサンプルが、最良のクロマトグラフィーアライメントレファレンスになります。

図 3. ペプチド MAM 試験の効率的な取り込みおよび解析のメソッドを作成する際には、ペプチド MAM アプリケーション内のサンプル登録機能にアクセスします。中央のパネルに、ファイルの場所、取り込みシステム、サンプルの場所に関する情報が含まれ、右側のメインテーブルにサンプルキューが含まれています。ここでは、各注入に分析全体および NPD レファレンスサンプルでの役割を指定し、ピークアライメントを割り当てることができます。

ペプチド MAM データ解析

ペプチド MAM データ解析の最終目標は、特性のターゲット相対的定量と可能性のある新規サンプル不純物の検出です。「Process-Only」(解析のみ)分析および「Acquire & Process」(取り込みおよび解析)分析はどちらも、システム適合性の判定およびペプチド特性のターゲット定量に使用されるペプチドのリストに依存します。新規ピーク検出の解析は完全に自動化されていますが、比較評価用に指定されたリファレンスサンプルが必要です。

システム適合性試験により、システムの主要コンポーネントが、高品質データを生成するのに十分な性能範囲内にあることが確認されます。システム適合性試験は、解析メソッドで手動で作成したペプチドのターゲットリストに関連する解析データに基づいています。このリストには、クロマトグラムピーク幅(FWHM)の予想保持時間、質量正確度、MS 強度の基準について、ユーザー定義の限度値を入力することができます。これらのパラメーターからのシステム適合性注入の合格/不合格ステータスは、ペプチド MAM 分析に対する全体的なシステムの準備状況を示します。 

サイエンスライブラリーからの MAM ペプチド特性リストの直接インポートは、特性解析からモニタリング分析までのデータのトレーサビリティーを維持するための、最も簡単で最も有効なモードです。一方、他の Waters またはサードパーティ製 LC-MS システムで取り込んだデータを .csv 形式でソフトウェアにインポートすることもできます。MAM 解析メソッド内の各ペプチドのエントリーには、ペプチド配列、修飾、ターゲット保持時間、ターゲットペプチドモニタリング用に選択した電荷状態が含まれます。ペプチド MAM の一般的な解析パラメーター(図 4)により、自動保持時間アライメント(図 5A)と LC-MS ピークの同時検出に続いて、ターゲット LC 保持時間と精密質量に基づく特性の定量が可能になります。解析データ(図 5B)により、次記の 3 つの選択した特性について測定された%修飾レベルが示されます:DTLMISR ペプチドの酸化、VVSVLTVLHQDWLNGK の脱アミド化、Man5 糖鎖が含まれている HC グリコペプチド。データは、すばやく比較できるように棒グラフ形式で表示されます。苛酷試験を実施した NISTmAb サンプルの棒グラフでは、DTLMISR の酸化および VVSVLTVLHQDWLNGK の脱アミド化のレベル(図 5B、オレンジ色のバー)が増加しており、それぞれの警告しきい値のレベルは 3% および 2% を超えています。低存在量のグリコフォームである Man5 は、すべてのサンプルで修飾レベルが 0.83% (他のモニターしたグリコフォームとの比較)で、影響を受けませんでした。低存在量の Man5 糖ペプチドの定量の %RSD は、サンプルの検出されたベースピーク強度がわずか約 0.1% であるにもかかわらず、7.4% と報告されました。

図 4. ターゲット特性モニタリングおよび新規ピーク検出のパラメーターの設定。ペプチド MAM 解析では、固定質量と保持時間の許容範囲を使用して、ユーザー定義の保持時間範囲に制限することができます。新規ピーク検出の基準は次記の 5 つのパラメーターで構成されます:、最小変動率、最小 %ベースピーク強度、同位体プロファイルスコア、保持時間の許容誤差、および結果から +1 イオン(化学ノイズイオン)を除去する機能。
図 5. 保持時間アライメントパネル (A) は、対照群サンプルおよびアライメントリファレンスサンプルの DTLMISR ペプチドのピークアライメントの前後のクロマトグラムの重ね描きです。3 種類の修飾(酸化、脱アミド化、グリコシル化)を受けたペプチドについて、モニターされた特性ペプチドパネル(% 存在量)が表示されています。ユーザー定義の限度値に基づいて事前に定義された合格/不合格の基準によって、バーの色と、バーの上方に警告アイコンを表示するかが決定されます。以下の表に、苛酷試験を実施したサンプルの DTLMISR Ox 特性のターゲット基準と結果が示されています。

保持時間のアライメント

定義された保持時間内(ここでは 0.5 分)にクロマトグラフィーピークをアルゴリズムに従ってアライメントすることで、LC-MS の注入全体にわたるばらつきの原因になるピークの割り当ての誤りや同定の偽陽性率が低減されます。自動ピーク解析中、保持時間のアライメント(図 5A)では、算出したアライメントベクトルが使用されて、指定したアライメントレファレンスサンプル(ユーザー定義)に対してクロマトグラムがアライメントされます。ピークの共検出により、ペプチドのピークトラッキングに使用する複合スペクトルが生成されます。これは、異なる日や異なるシステムで取り込んだデータをアライメントする場合に特に重要です。さらに、「upper and lower retention time restriction」(保持時間の上限値と下限値)により、グラジエント前の注入の干渉やグラジエント後のカラム洗浄セグメントの解析が回避され、解析時間が短縮されてデータのレビューが簡素化されます。 

ピークの波形解析および定量のための一貫した同位体選択

各ペプチドのチャージ状態はユーザーが指定できますが、ペプチド成分トラッキング用の共検出アルゴリズムにより、ペプチド定量に使用する個々の同位体の選択が自動化されます。これにより、MAM 解析メソッドのセットアップが簡素化され、ピーク解析のばらつきが最小限に抑えられ、その結果、特性の % 修飾レベルの %RSD 範囲が小さく狭くなります。図 6、4 つの分析サンプルすべてにわたる DTLMISR 酸化のピークについての同位体選択が示されています。対照群サンプルおよび苛酷試験を実施したモノクローナル抗体サンプルは共に、DTLMISR ペプチドの定量に使用した両方のチャージ状態(+2 および +1)について、検出可能なすべての同位体(5 つ選択)が一貫して選択されていることを示しています。

図 6. DTLMISR 酸化ペプチドの XIC スペクトル(左上)および MS スペクトル(右上)は、特性の定量に使用した荷電イオンとピークを示します。DTLMISR には、ピーク面積の計算に使用する 2 つのチャージ状態(+2(最も量が多い型)イオンと +1 (少ない型)イオンがあります。対照群サンプル(中段)および苛酷試験を実施したモノクローナル抗体消化サンプル(下段)の、XIC で使用する同位体パターンとピーク面積の計算値が、ここに示されています。いずれのサンプルについても、自動ピーク解析では、各チャージ状態について 5 つの同位体すべてを使用しました。

新規ピーク検出(NPD)

新規ピーク検出は、分析を純度の分析法として利用する際の、ペプチド MAM に不可欠な部分です。NPD 分析では、レファレンスサンプルで検出されなかったサンプル、またはレファレンスサンプルで共検出されたピークからの強度が大幅にばらついたサンプルの中の不純物の保持時間とニュートラル質量が得られます。業界からのフィードバックによると、NPD に関連する現在の課題に、ピークの偽陽性率が高いことが挙げられます。これにより、サンプルの品質についての結果が不当になり、データの手動レビューに多大な時間がかかります。新しい誤ったピークが現れるたびに、規制基準を満たすための慎重なバリデーションが必要になり、これらの異常な結果の調査のために、ロットのリリースが遅れることがあります。NPD 機能を評価するために、対照群と苛酷試験を実施した NISTmAb トリプシン消化物の両方に、3 μg レベルの消化物あたり 0.5 mmol の同位体標識標準ペプチド 15 種をスパイクしました(図 7)。

図 7. 変動率、% ベースピークレベル、% 同位体類似性、% 保持時間の許容値に基づいて定義された基準で行った新規ピーク検出。基準(右側)に合格する各ピークが、レビュー用に表示されています。MS スペクトルを用いて NPD の結果を手動で確認して、ピークをさらに詳細に調べることができます。 

NPD のフィルター条件には、変動率、% ベースピーク、% 同位体類似性、保持時間の許容値(分)を含めることができます。ピーク解析では、レファレンス/対照群サンプルの共検出ピークの MS 強度に対する新規ピークの変動率が計算されます。しきい値を超えてピーク強度が上昇または減少すると、新規ピーク検出のこの基準がトリガーされます。変動率はレファレンスサンプルを基準にして計算されるため、すべての分析サンプルにわたって不純物レベル測定を標準化できます。本試験では、業界の慣行に従って、変動率の既定値として 10 以上を用いました。

% ベースピークは、バックグラウンドイオンや化学ノイズによる同定の偽陽性を避けるために NPD で使用するもう 1 つの基準です。これは、LC-MS クロマトグラム中の最も強いペプチドの MS レスポンスに対する相対値として算出されます。強制分解試験のサンプルデータ例(図 7)では、未修飾の VVSVLTVLHQDWLNGK ペプチドがベースピークとして、ソフトウェアによって決定されました。本試験では、最小 0.1% レベルの % ベースピークを用いて、新規ピーク検出の下限値を設定しました。

さらに誤同定を最小限に抑えるため、同位体類似性スコアをペプチド MAM NPD のデータ解析に導入しました。% 同位体類似性は、類似した m/z のイオンの同位体分布を基準に算出しています。インテリジェントデータキャプチャー(IDC)を用いて収集した BioAccord データのスコアは、通常 75% 以上に設定されます。保持時間の一致許容範囲を 1 分に維持し、[Exclude peptides with only +1 ions](+1 イオンのペプチドのみを除外する)オプションを選択することで、すべての溶媒イオンおよび化学ノイズを除外しました。

NPD の結果(図 7)に、スパイクした同位体標識ペプチドのニュートラル質量に対応するスパイクした対照群サンプル中に 15 の新規ピークが同定されたことが示されています。苛酷試験を実施した NISTmAb サンプルでは、新規ピークの数は 27 でした。これらのピークには、NIST mAb の以前の試験で一般的な酸化や脱アミド化などの修飾が含まれていました。苛酷試験およびスパイクを実施したモノクローナル抗体サンプルでは、42 (スパイク 15 + 苛酷試験 27)の新規ピークになるはずであり、これは今回の観察結果と一致しています。

必要に応じて、[Review](レビュー)オプションを用いて各新規ピークを確認し、選択した新規ピークの MS スペクトルを表示できます。権限があるユーザーは、結果をまとめる前に、これらの新規ピークを受け入れるか拒否することができます。

レポート

ペプチド MAM の結果を効果的に伝えるには、解析データ、関連する品質指標、解析条件を報告する必要があります。ペプチド MAM アプリケーションは、レポート生成を効率的にするための内蔵されているテンプレートを使用します。この場合に分析者は、レポートに含める章ベースの要素を柔軟に選択できます。このレポートには、注入、システム適合性試験の基準と結果、特性の定量値、新規ピーク検出、LC-MS 取り込みメソッドの記録のサマリーが記載されます。強制分解試験用に生成されたレポートの例(図 8)が、プレゼンテーション用に抜粋した主なセクションと合わせて示されています。レポート結果は、PDF 形式または .csv 形式でエクスポートすることができ、他のアプリケーションでデータを再利用できます。  

図 8. ペプチド MAM データレポートの設定には、選択可能なレポートテンプレートの章(左パネル)を使用できます。このレポートは、注入、システム適合性試験データ、ペプチド特性追跡データ、NPD、LC-MS メソッドの基準のサマリーで構成されます。 

ペプチド MAM 試験でのシステム間再現性

3 つの BioAccord システム(図 9)から生成されたデータを、上記の方法を用いて、NIST モノクローナル抗体の苛酷試験を実施したサンプルについて生成しました。このデータでは、8 つのモニターした特性について RSD が 10% 未満という再現性が得られました。本試験で重要な点は、waters_connect で動作する 3 つの BioAccord システムすべてで、最も広い強度ダイナミックレンジ(ベースピークとの 1000 倍以上の MS 強度差)を示す Man5 グリコシル化特性と VVSVLTVLHQDWLNGK 脱アミド化特性が含まれていることです。

図 9. 3 つの BioAccord システムで取り込まれた特性モニタリングデータは、共通の装置での繰り返し実験の間、および複数の装置にわたる繰り返し実験の間の特性ベースの測定値での %RSD のばらつきが小さいことを示しています。 

結論

効率的なペプチド MAM ワークフローは、コンプライアンス対応 waters_connect インフォマティクスプラットホームのコントロール下の BioAccord LC-MS システムで実証されています。この MAM 機能は、既存の従来のクロマトグラフィーおよび電気泳動による分析法を補完し、直接的かつ高感度で、選択的な特性ベースの代替測定を可能にすることで、バイオ医薬品製品の開発、プロセス開発、製造、QC ロットリリースをサポートし、加速します。

具体的には、このペプチド MAM ワークフローにより、この分野での以前の取り組みと比較して、次記の点で明確で優れた性能が得られます:1)高度に自動化されており、MS の専門家以外でも直感的に操作できるペプチド MAM ワークフロー、2)自動 RT アライメントにより、複数の注入、装置、試験にわたるピーク成分のトラッキングが改善され、一貫した特性ベースの定量が可能になる、3)高度なアルゴリズムとフィルタリングツールにより、新規ピーク検出の偽陽性が最小限に抑えられる、4)サイエンスライブラリー機能により、特性解析からモニタリングまでのデータトレーサビリティがあるシームレスな移行が可能になる、5)特性ベースの分析用の BioAccord システムの SmartMS 機能により、経験豊富な MS ユーザーでも初心者の MS ユーザーでも、高分解能 MS 装置を自信を持って操作できる。これらの機能により、ペプチド LC-MS 特性ベースのバイオ医薬品分析は、中核的なバイオ医薬品開発組織内だけでなく、LC-MS によるプロセスモニタリングおよび QC ロットリリースの新たな領域に、ルーチンで適用できます。

参考文献

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720007094JA、2020 年 12 月

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