• アプリケーションノート

大規模サンプルセット用の頑健で再現性のある逆相脂質プロファイリング法

大規模サンプルセット用の頑健で再現性のある逆相脂質プロファイリング法

  • Giorgis Isaac
  • Nyasha Munjoma
  • Lee A. Gethings
  • Lauren Mullin
  • Robert S. Plumb
  • Waters Corporation

研究目的のみに使用してください。診断用には使用できません。

要約

動物実験を用いた安全性評価研究や疫学研究などの大規模サンプルセットからの哺乳類血漿のリピドミクス解析には、信頼性が高く頑健な分析法が必要です。迅速で頑健な分析法により、長期的な研究のサポートが容易になり、ラボ間の分析法の移管が可能になります。このニーズに対応するため、表面チャージハイブリッド(CSH)C18 テクノロジーおよび SYNAPT XS による正確な質量検出を備えた UltraPerformance 液体クロマトグラフィー(UPLC)を使用して、ハイスループットの逆相 LC-MS 分析法を開発しました。この分析法は、ヒト血漿の 100 回を超える注入において、優れた特異性、頑健性、再現性があることがわかりました。

アプリケーションのメリット

  • 再現性が高く頑健な脂質プロファイリング法
  • 大規模コホートサンプルセットに対するハイスループットで包括的なアプローチ
  • 複雑な混合物について優れたクロマトグラフィー分離を達成
  • ポジティブおよびネガティブモードの分析における最適なリピドミクスの対象範囲
  • 体液、組織サンプル、細胞培養などの広範囲の生体サンプルに適用可能

はじめに

脂質は、エネルギー貯蔵、細胞内シグナル伝達、そして癌、神経変性疾患、感染症、糖尿病などの疾患の病態生理において、重要な役割を果たしています。LC-MS の進歩により、高い感度と特異性で脂質を研究できるようになり、共溶出する化合物や同重体の干渉による影響が緩和され、存在量の少ない脂質をより容易に検出できるようになりました。リピドミクス分析を大規模な創薬および疫学研究に用いることへの関心が高まっているという事実は、長期間の研究に用いることができ、ラボ間で移管できる、ハイスループットで頑健な、再現性の高い分析法が必要であることを意味します1,2。 包括的な脂質プロファイリングでは、ポジティブおよびネガティブの両イオンモードで脂質をスクリーニングする必要があります。

従来の脂質の質量分析は多くの場合、直接注入または逆相(RP)および順相(NP)のクロマトグラフィーによって行われています。しかし、これらの分析法にはそれぞれ固有の課題があります。直接注入すると、イオン化抑制が発生し、脂質検出が制限されて再現性が低下します。これによって同重体脂質の分離もできなくなり、結果として分析が複雑になり、デコンボリューションが必要になります。NP クロマトグラフィーでは脂質をクラス別に分離できますが、多くの場合、溶出時間が長くなり、異性体の脂質が分離できません。従来の RP 分析法は広く用いられていますが、同様に溶出時間が長い、ピークキャパシティが低い、分析間再現性が低いという問題があります。

本書では、表面チャージハイブリッド(CSH)C18 ケミストリーおよび QTof 検出器を搭載した ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムを使用した、ハイスループットで頑健な、再現性が高い LC-MS 分析法での RP-UPLC による脂質分離について紹介します。2 µm 以下の粒子径と、バンドの広がりを最小限に抑えるために最適化した液体クロマトグラフィーとを組み合わせることにより、RP 分析法の大幅な改良が可能になります。この分析法は、これらの粒子の性能を最大化し、大規模コホートサンプル実験に最適化されています。

実験方法

サンプル調製:

示差イオンモビリティシステムスータビリティリピドミクス(Avanti Polar Lipids、INC.)をシステムスータビリティとして使用して、装置の性能を評価しました。混合物には、クロロホルム:メタノール(1:1)中に各脂質 1 mg/mL と PI 0.25 mg/mL が含まれ、1 バイアルあたり 0.5 mL です。500 ng/mL の作業溶液(125 ng/mL PI)を IPA/ACN (50/50)中に調製しました。

事前冷却したイソプロパノール(IPA)を用いた簡単な除タンパクによる血漿サンプル前処理を採用しました。20 µL のヒト血漿 NIST 標準物質 1950 を、80 µL の事前冷却した IPA と混合しました。サンプルを 1 分間ボルテックス混合し、-20℃ で 10 分間静置しました。サンプルを再び 1 分間ボルテックス混合した後、4 ℃ で 2 時間静置し、タンパク質を完全に沈殿させました。サンプルを最大 10,300 g、4 ℃ で 10 分間遠心分離しました。上清を移し、IPA/ACN (50/50)で 1:5 の比率に希釈し、LC-MS 分析用の Waters トータルリカバリー UPLC バイアル(製品番号 186005669CV)に移しました。

分析条件

LC 条件

LC システム:

ACQUITY UPLC I-Class PLUS

検出:

SYNAPT XS

バイアル:

トータルリカバリー UPLC バイアル

カラム:

ACQUITY UPLC CSH C18(2.1 × 100 mm、1.7 µm)

カラム温度:

55 ℃

サンプル温度:

10 ℃

サンプル注入量:

2 µL(ポジティブモード)および 4 µL(ネガティブモード)

流速:

400 µL/分

移動相 A:

600/390/10 の ACN/水/1 M ギ酸アンモニウム水溶液含有 0.1% ギ酸溶液

移動相 B:

900/90/10 の IPA/ACN/1 M ギ酸アンモニウム水溶液含有 0.1% ギ酸溶液

グラジエント:

時間(分)

流速(mL/分)

%A

%B

カーブ

初期条件

0.4

50

50

初期条件

0.5

0.4

47

53

6

4.0

0.4

45

55

6

7.0

0.4

35

65

6

7.5

0.4

20

80

1

10

0.4

1

99

6

11

0.4

1

99

1

12

0.4

50

50

1

MS 条件

MS システム:

SYNAPT XS

イオン化モード:

ESI +および ESI -

取り込み範囲:

100 ~ 1200

キャピラリー電圧:

3.0 kV(ポジティブモード)および 2.5 kV(ネガティブモード)

コリジョンエネルギー:

直線ランプ(トランスファー CE)25 ~ 45 eV

コーン電圧:

30 V

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

MassLynx V4.2

MS ソフトウェア:

MassLynx V4.2

結果および考察

以前に、血漿および組織中の脂質の詳細なプロファイリングのための、CSH C18 を用いた 20 分の分析法を開発しました3,4。 より迅速な分析の要件に対応するため、より高スループットが必要なより大規模なサンプル数を用いる研究のための代替アプローチとして、12 分間の分析法を開発しました。得られた分析法により、Avanti Polar Lipid IMS 混合試料中のさまざまな脂質クラスについて明瞭な分離が得られました。クロマトグラフィーピーク幅の平均は 6.5 秒で、10 分間の分離についての全体的なピークキャパシティは 90 でした。図 1 に示すデータは、ポジティブおよびネガティブ両イオンモードでの、Avanti Polar Lipid IMS 混合標準試料の分離を示します。 

図 1. システムスータビリティ溶液として、Avanti 示差イオンモビリティーシステムスータビリティ標準リピドミクスキットを使用しました。注入量 4 µL でのネガティブモードのベースピーク強度のクロマトグラム(上段)および注入量 2 µL でのポジティブモードのベースピーク強度のクロマトグラム(下段)。Avanti 原液を用いて、IPA/ACN(50/50)中で濃度 500 ng/mL の溶液を調製しました。

リピドミクス実験は、包括的なスクリーニングのために、ポジティブおよびネガティブの両イオン化モードで実施します。本分析法の脂質の対象範囲と適用性を実際の生体サンプルで評価するために、ヒト血漿 NIST SRM 1950 から得た総脂質抽出物を、CSH C18 カラムを装着した ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムを用いて、MSE コンティナムの分解モードで分析しました。図 2 に示すように、この結果から、この分析法によりサンプル中の血漿脂質が明瞭に分離でき、主要な脂質クラスを高い分離能と感度で分離でき、脂質対象範囲が広いことが実証されました。このデータから分かるように、リゾリン脂質および遊離脂肪酸(FFA)は、分離の最初の 2 分間に最初に溶出します(これらの脂質は極性が大きいため、早く溶出します)。極性の低い脂質(ジグリセリド、トリグリセリド、コレステロールエステル)は、分離の最後の 8 ~ 10 分に溶出します。中程度の極性を持つさまざまなリン脂質およびスフィンゴ脂質(PI、PG、PS、PC、PE、SM、Cer)は、脂肪アシル鎖および二重結合の数に応じて、2 ~ 8 分に溶出します。 

図 2. ヒト血漿標準物質(SRM 1950)のネガティブモード(上段)およびポジティブモード(下段)でのベースピーク強度クロマトグラム

分析の再現性は、リピドミクス情報がある大規模サンプル数をサポートするための重要な要素です。このことは、大規模コホート研究、バッチ間比較、またはラボ間データにおいて特に重要です。図 3 に示すように、CSH C18 カラムを装着した ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムにおいて、複数回の注入にわたる優れた保持時間の再現性が実証されました(%RSD < 0.19、n = 100)。このことは、複数のサンプルセットから得られる多数の LC-MS クロマトグラムのアラインメントと比較が必要なリピドミクス分析にとって重要です。

図 3. LPC(16:0)の m/z 496.34、PC(16:0_18:1)の m/z 758.57、SM(d18:1_24:1)の m/z 813.69、TAG(52:3)の m/z 874.79 に基づく、選択した注入回数 1 回、50 回、100 回 の場合の保持時間の再現性。平均保持時間の RSD 値は 0.19% 未満(n = 100)。

結論

血漿中の脂質分子種の検出および同定のために、頑健で再現性の高い、高分離能の UPLC-MS 分析法が開発され、分析全体(n = 100)にわたる平均保持時間の相対標準偏差 % は 0.19 未満でした。この分析法では、10 分という短い分析時間にもかかわらず、ピークキャパシティ 90 が得られ、NIST ヒト血漿サンプル中のさまざまな脂質クラスについて、優れた分離が達成されました。開発した分析法は、体液、組織サンプル、細胞培養などの広範囲の生体サンプルに簡単に適用できます。

参考文献

  1. Stephenson DJ, Hoeferlin LA, Chalfant CE.Lipidomics in Translational Research and the Clinical Significance of Lipid-Based Biomarkers. Transl Res. 2017 Nov;189:13–29.
  2. Audano M, Maldini M, Fabiani ED, Mitro N, Caruso D. Gender-related Metabolomics and Lipidomics: From Experimental Animal Models to Clinical Evidence, J Proteomics 2018 Apr 30;178:82–9.
  3. Isaac G, McDonald S, Astarita G. Lipid Separation using UPLC with Charged Surface Hybrid Technology.Waters Application Note 720004107en.2011 Sep.
  4. Damen CWN, Isaac G, Langridge J, Hankemeier T, Vreeken RJ.Enhanced Lipid Isomer Separation In Human Plasma Using Reversed-Phase UPLC with Ion-Mobility/High-Resolution MS Detection.J Lipid Res.2014 Aug;55(8):1772–83.

720006959JA、2020 年 7 月

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