このアプリケーションノートでは、土壌中 PFAS の高感度で信頼性の高い分析のための、Waters Xevo TQ-XS タンデム四重極質量分析計に適用した、ASTM 7968 メソッドの使用について説明します。このメソッドでは、土壌サンプルのスループットを高めるために限定したサンプル前処理手法を使用するとともに、非常に高感度な LC-MS/MS システムへの大容量注入を行うことにより、この分析に必要な感度を実現しています。
パーフルオロアルキル化合物(PFAS)は、至るところに存在する環境汚染物質であり、世界中で幅広い関心を集めています。水中および土壌中に最も多く存在しますが、多くの種類のサンプルで懸念されている汚染物質です。PFAS は、産業廃液の排出、PFAS および PFAS の前駆体を含む消費財の使用および廃棄、泡消火剤の使用など、さまざまな汚染源から環境に入ります。その化学的性質のため、PFAS は分解に対する耐性が非常に強く、生体内蓄積性が非常に高い物質です。ヒトの健康に対するリスクは PFAS への曝露と関係付けられており、その影響が現在、各国の組織によって詳しくモニタリングされています。
ヒトの PFAS への曝露は、汚染された飲料水、汚染された土壌や水の存在下で栽培された食物を介した摂取など、様々な経路で発生する可能性があります。したがって、これらの汚染源に起因する曝露レベルの理解およびモニタリングに重点が置かれています。また、修復および汚染源特定の取組みは、水および土壌中の PFAS の環境レベル測定に用いる頑健なソリューションに依存しています。
さまざまな種類の水サンプル中の PFAS 分析用ソリューションが、以前のアプリケーションノートで提案されています1,2,3。 このアプリケーションノートでは、土壌中 PFAS の高感度で信頼性の高い分析のための、Waters Xevo TQ-XS タンデム四重極質量分析計に適用した、ASTM 7968 メソッドの使用について説明します。このメソッドでは、土壌サンプルのスループットを高めるために限定したサンプル前処理手法を使用するとともに、非常に高感度な LC-MS/MS システムへの大容量注入を行うことにより、この分析に必要な感度を実現しています。
工業製品には PFAS が蔓延しているため、サンプルを PFAS について分析する際は特別な注意が必要です。必要な検出下限は ng/kg(ppt)の範囲であるため、サンプルの採取、前処理、分析における課題すべてに対処する必要があります。Teflon や PTFE を含む材料、および防水設計された衣類や物品には注意が必要です。サンプルの採取から分析に至るまで、高密度ポリプロピレン(HDPE)製の容器やバイアルを使用する必要があります。サンプルに触る前は、パーソナルケア製品(ローション、化粧品など)を使用してはなりません。実際には、すべてのラボ備品の使用前に PFAS 汚染をチェックすることを推奨します。
クロマトグラフィーシステムには、PFAS を含む材料を使用して、または PFAS の存在下で製造されている LC の重要なコンポーネントが含まれるため、クロマトグラフィーシステムからの汚染は避けられません。システムの PFAS 汚染を完全に除去することはできませんが、汚染を低減し、クロマトグラフィー上で遅らせるように対策を取ることができます。PFAS 分析を使用する前に、Waters PFAS 分析キット(製品番号:176004548)を UPLC システムに取り付ける必要があります。このキットは、PFAS を含まない部品(従来の Teflon コートの溶媒ラインに替わる PEEK チューブなど)と、分析ピークとの共溶出への残留バックグラウンド干渉を遅らせることができるアイソレーターカラムで構成されています。PFAS 分析キットの取り付けは手早く行えます4。
土壌サンプルは、U.S. EPA Region 5 から提供を受けました。サンプルは、砂、沈泥、粘性の低い粘土、粘性の高い粘土などでした。すべてのサンプルには、ラボで受領する前に、EPA によってさまざまな濃度の 24 種の PFAS 化合物がスパイクされています。事前スパイク濃度がわからない状態で、盲検でサンプルの抽出および分析を行いました。
各 2 グラムのサンプルを受領し、ASTM 7968 メソッドに従って前処理を行いました5。 10 mL の 1:1 水:メタノールを各サンプルに添加しました。サンプルの pH を 20 µL の水酸化アンモニウムで 9 ~ 10 に調整しました。機械式シェーカーを用いてサンプルを 1 時間振とうし、続いて 1900 rpm で 10 分間遠心分離しました。25 mm のデュアルグラスファイバーと GHP メンブレンフィルター付き使い捨てポリプロピレンシリンジ(製品番号:WAT200802)を使用して、上清全量をろ過しました。ろ過後、酢酸 50 µL を各サンプルに添加しました。各サンプルのアリコートをポリプロピレン製オートサンプラーバイアルに移し、ポリエチレン製キャップ(製品番号:186005230)で密閉しました。
抽出後、既知濃度の 7 種の追加の PFAS(GenX、ADONA、9Cl-PF3ONS、11Cl-PF3OUdS、PFMBA、PFEESA、NFDHA)をサンプルにスパイクし、これらの新規 PFAS をメソッドに統合できるかどうかを評価しました。
LC システム: |
PFAS キットを取り付けた ACQUITY UPLC I-Class PLUS(製品番号:176004548) |
カラム: |
ACQUITY UPLC CSH Phenyl Hexyl2.1 × 100 mm、1.7 µm(製品番号:186005407) |
カラム温度: |
35 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
30 µL |
移動相 A: |
95:5 水:メタノール + 2 mM 酢酸アンモニウム |
移動相 B: |
メタノール + 2 mM 酢酸アンモニウム |
MS システム: |
Xevo TQ-XS |
イオン化モード: |
ESI- |
キャピラリー電圧: |
0.5 kV |
脱溶媒温度: |
350 ℃ |
脱溶媒ガス流量: |
1100 L/時間 |
コーンガス流量: |
150 L/時間 |
イオン源温度: |
100 ℃ |
ASTM 7968 メソッドでは、試薬ブランク、メソッドブランク、定量下限値(LLOQ)チェック、ラボコントロールサンプル(LCS)などの一連のコントロールサンプルをサンプルバッチそれぞれについて抽出および分析する必要があります。各コントロールの説明および合格基準を図 1 で概説しています。提供された土壌サンプルを 3 バッチに分けて前処理したところ、各バッチのコントロールはすべての基準を満たしていました。
この試験の定量下限値(LLOQ)は、サンプルで分析したキャリブレーション範囲を用いて決定した値で、ASTM 7968 メソッドの推奨キャリブレーション範囲から導出された値です。ASTM 7968 では、LLOQ が検量線の最低点であることを求めています。したがって、この検量線の最低点(5 ng/L または 25 ng/kg)が、この評価で PFAS の大半について決定された LLOQ となりました。一部の PFAS では若干高い LLOQ が示されましたが、この値は、Xevo TQ-XS を使用した場合のこのメソッドの感度や検出下限を反映していません。検出下限の計算値(表 1)は通常、このメソッドの規定の検量線範囲より 5 ~ 10 倍低い値です。これにより、メソッドに変更を加えて(さらにサンプルを希釈する、注入量を少なくする、サンプル重量を少なくするなど)、メソッドの頑健性をさらに向上させることが可能になります。コントロールの一環として、抽出した試薬砂中の LLOQ レベルを、各サンプルバッチについて評価しました。LLOQ チェックの回収率(表 1)はすべて 77 ~ 135% の範囲内にあり、LLOQ サンプルの許容範囲 50 ~ 150% を容易に満たしています。表 1 には、ASTM 7968 に記載されているレポート範囲も示されており、Xevo TQ-XS を使用してすべての被験化合物が要件の範囲内に収まっていることが実証されました。最後に、表 1 に、R2 値が 0.995 を超えるすべての被験化合物(R2 値が 0.994 の 6:2 FTS は除く)の直線性も示しています。一部の検量線を、示している化合物の LLOQ での定量 MRM クロマトグラムおよび定性 MRM クロマトグラムとともに、図 2 に示します。
ASTM 7968 メソッドでは、回収率は、サンプル前処理の前に土壌サンプルにスパイクした同位体標識サロゲート標準試料に基づいて計算します。このメソッドでは、70 ~ 130% の範囲の回収率が必要です。図 3 には、この評価に関わるメソッドの回収率を示しており、この試験で使用したさまざまな同位体標識サロゲートの範囲が表示されています。分析した 4 種類の土壌マトリックスすべてにおける回収率を示しています。エラーバーは、各種類の土壌の 15 サンプルについて得られた回収率の標準偏差を示します。すべての PFAS の回収率が 70 ~ 130% の範囲内に収まり、6:2 FTS と 8:2 FTS のみ回収率の値の標準偏差が 130% をわずかに超えていました。6:2 FTS は多くのラボで既知の汚染物質であり、8:2 FTS はエレクトロスプレーでイオン化しにくい PFAS 化合物の 1 つであるため、それぞればらつきが若干高くなっています。
サンプルに事前にスパイクされていたさまざまな 24 種の PFAS と、サンプルにスパイクした 7 種の新規 PFAS すべてが、4 種類の土壌すべてにおいて容易に検出できました。粘性の低い粘土のサンプル中に検出されたすべての PFAS の例を図 4 に示します。サンプルの定量は、ASTM 7968 の指定に従い、TargetLynx で外部キャリブレーションを使用して行いました。一部のコントロールサンプルおよび土壌サンプルの定量の例を図 5 に示します。回収率およびイオン比の値は、TargetLynx で自動的に計算されます。この特定のメソッドでは必要ありませんが、サンプル中で化合物が同定された際に、さらなるレベルの確認用にイオン比の情報を使用することができます。
装置の安定性を確保するため、土壌サンプル 10 点ごとに継続キャリブレーション検証(CCV)注入を行いました。検量線上の中ほどのレベルの濃度ポイントを CCV レベルとして使用しました。各 CCV 注入は、サンプルの蒸発によるバイアスがかからないように、個別のバイアル中で調製しました。サンプルキューの全体は、36 時間の分析期間にわたる計 90 回の注入で構成されています。図 6 の PFOA の例でわかるように、CCV 注入の安定性は非常に優れていました。このシステムが、高マトリックスロードのサンプルでの長時間に及ぶ一連の注入にわたって頑健であることが示されています。
720006764JA、2020 年 2 月