• アプリケーションノート

クエン酸回路に関連する化合物における MaxPeak High Performance Surfaces による分離と回収率の向上

クエン酸回路に関連する化合物における MaxPeak High Performance Surfaces による分離と回収率の向上

  • Kerri M. Smith
  • Paul D. Rainville
  • Waters Corporation

研究目的のみに使用してください。診断用には使用できません。

要約

このアプリケーションノートでは、TCA 回路を構成する化合物およびその他の関連する化合物の分析で、サンプル誘導体化やイオン対試薬を使用しない、MS に適合する混合モードの LC 分析法について説明します。 

アプリケーションのメリット

  • ACQUITY PREMIER CSH Phenyl-Hexyl カラムで用いられた有機-無機ハイブリッド表面テクノロジー、MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)により、分析種の金属表面との相互作用が緩和
  • TCA 回路を構成する化合物およびその他の関連する化合物に対する、サンプル誘導体化やイオン対試薬を必要としない再現性の高い LC-MS 分析法
  • フラグメントおよび保持時間検索を実行できるカスタムデータベースを使用した、Progenesis QI によるデータ解析

はじめに

トリカルボン酸(TCA)回路(クレブス回路またはクエン酸回路とも呼ばれる)は代謝の最終段階であり、ここで炭水化物、タンパク質、脂肪の分解が起こり、アセチル CoA やその他の分子が形成されます1。 次に、これらの分子の酵素的酸化により、アデノシン三リン酸(ATP)などの分子が生成され、細胞の成長や働きを促進すると同時に、他の代謝プロセスに必要な補因子が減少します1。 さらに、TCA 回路によって、細胞の成長や分裂に必要なアミノ酸、タンパク質、脂肪酸、コレステロール、ヌクレオチドの合成用のプリカーサーが生成されます2

TCA 回路が含まれている代謝プロセスや経路は非常に重要であり、化合物のアップレギュレーションおよびダウンレギュレーションでの変化、および疾病の状態および細胞過程を理解するための方法を調べていく必要性があります3。 TCA 回路の構成成分は小さく、極性が高いカルボン酸であるため、従来の逆相 LC 条件での保持が困難です。これらの化合物の分析に使用されている現在の LC 分析法としては、HILIC4、イオン対5、陰イオン交換6、および誘導体化後のガスクロマトグラフィー 7 または液体クロマトグラフィーのいずれかが行われています8。それぞれの手法ごとに固有の課題があり、金属表面の存在さらにこれらの課題を複雑化する原因となることがあります。カルボン酸塩やリン酸塩などの電子が豊富な分子が含まれている化合物は、金属(特に鉄)をキレートすることが知られています9

ここでは、TCA 回路を構成する化合物およびその他の関連する化合物の分析で、サンプル誘導体化やイオン対試薬を使用しない、MS に適合する混合モードの LC 分析法について説明します。この分析法では、有機-無機ハイブリッド表面テクノロジーである MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)を組み込んでおり、分析種の金属表面との相互作用が緩和されます。この分析法を、健康な被験者および乳がんの被験者の尿の分析に適用しました。さらに、これらのサンプルに存在する化合物と、アップレギュレーションおよびダウンレギュレーション後の化合物との差異を調べるために、統計ソフトウェアツールを使用しました。

実験方法

分析条件およびサンプル前処理

BioIVT(ニューヨーク州、ウェストベリー)から入手した、4 名の女性ヒトのコントロールサンプルと 4 名の乳がんポジティブの尿サンプルを氷上で解凍して、水で 3 倍希釈しました。次に、サンプルを 4 ℃、21,130 rcf で 10 分間遠心分離しました。シラン処理を施したトータルリカバリーバイアルに上清を移し、各乳がんポジティブ尿サンプル 50 µL を添加しました。また、実験 QC 用に、コントロール用尿サンプル 50 µL を新しいバイアルに追加しました。分析性能を確認するため、2 つのシステムスータビリティサンプルを調製しました。1 つ目はすべての化合物が濃度 100 µM で含まれている水溶液の標準試料であり、2 つ目は尿サンプル中に 100 µM でスパイクしました。これらのサンプルは、サンプルテストの最初と最後に分析されました。2 日ごとに正確に調製された、水、アセトニトリル、0.1% ギ酸の簡単な移動相を使用して、ACQUITY PREMIER CSH フェニルヘキシルカラムでサンプルを分離しました。再現可能な濃度を確実に得られるように、ガラス製アンプル入りのギ酸を使用しました。LC を Xevo G2-XS 飛行時間型質量分析計に接続し、ネガティブイオン化モードで使用しました。Xevo G2-XS で四重極のマニュアルプロファイルを設定し、コリジョンセルの RF 電圧を変更することによって、非常に低い m/z のイオンの輸送効率を最大にして、非常に小さい分子の分析ができるように調整しました。各サンプルについて 5 回の繰り返し分析をランダムに行い、MassLynx 4.2 の MSe 取り込みモードを使用してコンティナム形式で取り込んだ後、Progenesis QI で解析しました。

LC 条件

システム:

ACQUITY UPLC I-Class PLUS

バイアル:

Waters トータルリカバリー、不活性型(製品番号:186000385DV)

カラム:

ACQUITY PREMIER CSH Phenyl-Hexyl、1.7 µm、2.1 × 100 mm(製品番号:186009475)

カラム温度:

50 ℃

サンプル温度:

10 ℃

注入量:

3 µL

移動相 A:

0.1% ギ酸水溶液

移動相 B:

0.1% ギ酸含有アセトニトリル溶液

グラジエント:

MS 条件

システム:

Xevo G2-XS QTof

イオン化モード:

ESI-、分解能モード

取り込み範囲:

40 ~ 950 m/z

キャピラリー電圧:

2 kV

ソースオフセット:

50

コーン電圧:

10 V

コリジョンエネルギー(低):

6

コリジョンエネルギー(高):

40

脱溶媒温度:

500 ℃

脱溶媒ガス:

1000 L/時間

コーンガス:

10 L/時間

ソース温度:

120 ℃

キャリブレーション:

ギ酸ナトリウム 44.9977 ~ 928.8342 m/z

四重極プロファイル:

マニュアルプロファイル

ロックマス:

ロイシンエンケファリン

コリジョンセル RF 設定(MS モード):

オフセット = 100、ゲイン = 4

コリジョンセル RF 設定(MS/MS モード):

初期値 = 20、最終値 = 80

結果および考察

TCA 回路の構成成分は、小さくて極性を持つため、分析が困難です。逆相クロマトグラフィーを用いる従来の分析法では、これらの化合物の信頼性の高い測定について保持や選択性が必ずしも十分とは言えませんでした。クエン酸およびイソクエン酸は m/z 191 の同重体であり、参考文献 5 で説明されているように、リンゴ酸は分解されて、プリカーサーイオンの質量がフマル酸と同じです。両方のクリティカルペアには、正確な測定を行うために十分なクロマトグラフィー分離能が必要です。以前のテクノロジーブリーフ 10 では、極性有機酸(TCA 回路の有機酸を含む)の分析における、タンデム質量分析検出器を使用した混合モード分離法の開発について説明しました。ここでは、飛行時間型質量分析を使用した尿代謝物の分析法について詳しく説明していきます。分析法を調整して、コントロールサンプルおよび乳がんポジティブ尿サンプルの分析に使用しました。データには主成分分析(PCA)などの多変量分析技法が使用され、疾患ヒトサンプルおよび健常ヒトサンプルの重要な相関性や特異性を統計的に究明しました。

図 1 に、標準試料およびプールされている尿サンプルでの分離の代表的な例を示しています。表 1 には、この試験の対象化合物の名前、保持時間、構造が一覧表示されています。クリティカルペアについて、半値全幅(FWHM)での分離能の値がイソクエン酸とクエン酸では 10.9、リンゴ酸とフマル酸では 32 に維持され(図 2)、測定値に信頼性があることが示唆されています。

図 1. ACQUITY PREMIER CSH Phenyl-Hexyl カラムでの尿代謝物の分離。(上段)混合標準試料が含まれている水溶液、(下段)プ-ルされた尿。ピーク番号を特定するには、表 1 を参照してください。
表 1. この試験で調べた化合物の名前、保持時間および構造
図 2. クリティカルペア(クエン酸/イソクエン酸、リンゴ酸/フマル酸)の分離

前述したように、金属表面による化合物のロスは、カルボン酸やリン酸などの電子が豊富な分子が含まれている化合物で問題となります。特に、低濃度で存在する化合物において課題になります。PREMIER カラムファミリーで採用した MaxPeak HPS によって、このような化合物のピーク面積から算出した回収率が向上します。図 3 には、標準的な CSH Phenyl Hexyl カラムと比較した、PREMIER CSH Phenyl Hexyl カラムでのイソクエン酸とクエン酸、リンゴ酸、3-ホスホグリセリン酸のピーク面積から算出した回収率が示されています。それぞれの場合に、PREMIER カラムでの化合物のピーク面積の方が大きく、特に解糖系中間体である 3-ホスホグリセリン酸についてメリットが大きいです。

図 3. 標準的な CSH Phenyl Hexyl カラムと比較した、ACQUITY PREMIER CSH Phenyl Hexyl カラム(塗りつぶしトレース)による尿サンプル中のイソクエン酸とクエン酸、リンゴ酸、3-ホスホグリセリン(3-PG)酸のピーク面積から算出した回収率。数字は PREMIER カラムでのピーク面積の向上を示しています。

分析で得られたデータは、Progenesis QI にインポートして解析しました。図 4 の PCA スコアプロットには、5 回の繰り返し注入のサンプルクラスターが示されています。変動が小さいことは、クロマトグラフィー分析法の良好な再現性を示唆しています。さらに、疾患ヒトサンプルと健常ヒトサンプルでは、明確な差異が見られました。標準試料を使用して、Progenesis QI によって内部のフラグメント化および保持時間のライブラリーを作成しました。フラグメントデータベースの作成および使用方法については、参考文献 11 を参照してください。次に、ライブラリーを使用して、質量精度エラー 8 ppm 以内、保持時間エラー 0.15 分以内の制約内で、対象化合物を同定しました。最終的に、乳がんポジティブ、コントロール、QC 用の尿サンプルについて、イソクエン酸、クエン酸、2-ヒドロキオキシグルタル酸、3-ホスホグリセリン酸、コハク酸、cis-アコニット酸の含有量をプロットしました(図 5)。

図 4. 試験の PCA スコアプロット。青色:コントロール、紫色:乳がんポジティブ、オレンジ色:QC(プール)
図 5. 乳がんポジティブ、コントロール、プールされている尿(QC)の注入それぞれにおけるイソクエン酸、クエン酸、2-ヒドロキオキシグルタル酸(2-Hg)、cis-アコニット酸、コハク酸、3-ホスホグリセリン酸(3-PG)の含有量プロット

結論

この研究では、TCA 化合物およびその他の関連化合物において、移動相にイオン対試薬を添加しないノンターゲット分析に、混合モードクロマトグラフィー分析法が適用できることを示しました。さらに、PREMIER 分析カラムに組み込んだ MaxPeak HPS により、金属表面の影響を受けやすい化合物の回収が改善されています。PCA スコアプロットでの QC サンプルのタイトなクラスターによって示されているように、優れた分析再現性が達成されています。さらに、この分析法を使用して、乳がんポジティブの被験者の尿および健常な被験者の尿中の有機物および代謝物の含有量を示すことができました。

参考文献

  1. Murray, R. K.; Bender, D. A.; et al.Harper's Illustrated Biochemistry, 28th ed.New York: McGraw-Hill, 2009.Chapters 16–18; pages 131–156.
  2. Vander Heiden, M. G. et al.Cell.2017, 168, 657–669.
  3. DeBerardinis, R. J.; et al.Cell Metab.2008, 7(1), 11–20.
  4. Yuan; et al.Nature Protocols.2012, 7, 872–881.
  5. Luo, B.; et al.J. Chromatogr.A.2006, 1147, 153–164.
  6. van Dam, J. C.; et al.Anal.Chim.Acta.2002, 460, 209–218.
  7. Patel, D. P.; et al.PLoS One2017, 12, 1–16.
  8. Tan, B.; et al. Anal.Biochem.2014, 465, 134–147.
  9. Abrahamson, H.; et al.J. Inorg.Chim.Acta.1994, 226, 117–127.
  10. Smith, K. M.; et al.Separation and Detection of TCA Cycle Metabolites and Related Compounds in Human Urine by UPLC MS/MS for Clinical Research.Waters Technology Brief, 720006463EN, 2019.
  11.  http://www.nonlinear.com/progenesis/qi/v2.4/faq/fragment-databases.aspx#how-do-i-create-my-own-fragment-database.

720006727JA、2020 年 10 月 改訂

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