このアプリケーションノートでは、Xevo TQ-S cronos タンデム四重極質量分析計と ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムを組み合わせた UPLC-MS/MS で、Quanpedia データベースからの汎用 MS パラメーターを使用して、SANTE/11813/2017 により定義された食料品グループ 1 および 5 に属する食品に含まれる、LC 分析可能な農薬に関する残留農薬一斉分析法の性能について説明します。
このアプリケーションノートでは、QuEChERS(DisQuE 分散サンプル前処理)手順に従い、Xevo TQ-S cronos タンデム四重極質量分析計と接続した Waters ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムを使用した LC-MS/MS によって、LC 分析可能なさまざまな農薬をルーチン測定するための頑健な定量法の開発およびバリデーションについて説明します。
残留農薬多成分一斉分析法は、効率面でのメリット(コスト、時間、労力)に加えて、農薬の使用と誤用、規制限界、あるいは残留農薬の定義に関して、国際取引や国ごとの規制に関する問題に関連する課題に対処できます。これは、ルーチンの監視モニタリングを実施するラボに最適な戦略です。
Xevo TQ-S cronos 装置は、極めて人気の高い ACQUITY QDa 質量検出器に採用されていたサンプルコーンの設計要素を取り入れ、ルーチン定量分析用の信頼性の高いシステムとして開発されたものです。逆コーン設計の一環として、最も狭い部分はコーンの中心部であり、コーンの入口は比較的広くなっています。したがって、サンプルマトリックスおよび移動相のバッファー塩がオリフィスに凝集して閉塞することを回避できます。このような設計により、コーンの洗浄間の装置の稼働時間が増え、食品マトリックスにおいて信頼性の高い感度が得られます。
本アプリケーションノートでは、Xevo TQ-S cronos システムの性能が、複雑なマトリックスにおける感度、LOQ、頑健性、精度、および取り込み速度(高速スキャンレート)、極性切り替え、ダイナミックレンジの点で、EU の MRL への適合を確認するために必要な多くの農薬の同時定量測定に適していることを実証します。
それぞれ SANTE ガイドラインの食品グループ 1(高水分含量)および 5(高デンプン含量)に属するオーガニックのキュウリ、トマト、トウガラシ、ピーマン、および玄米のサンプルを小売店から入手し、対象残留農薬についてスクリーニングしました。食品の選択は、欧州連合の複数年次管理計画 2017/660 でサンプリングされる製品に基づいて行いました1。
水分含量が多いサンプル - 10 g の粉砕サンプル(キュウリ、トマト、トウガラシ)と 10 mL のアセトニトリルを 50 mL の遠心分離チューブに入れ、20 秒間ボルテックス混合し、1 分間激しく振とうしました。
デンプン含量が多いサンプル - 5 g の粉砕した穀物(玄米)と 10 mL の超純水を 50 mL の遠心分離チューブに入れ、10 分間放置して再溶解させました。10 mL のアセトニトリルを加え、続いて 20 秒間ボルテックス混合し、1 分間振とうしました。
CEN QuEChERS の DisQuE パウチ(製品番号:186006813)の内容物を各遠心分離チューブに入れて、1 分間振とうしました。抽出混合液を、周囲温度で 5 分間、5,000 rpm(4,200 g)で遠心分離しました。後続のクリーンアップのために上清のアリコートを取りました。
次に、QuEChERS の上清(1 ~ 6 mL)を、1,200 mg の MgSO4 と 400 mg の PSA が入っている 15 mL dSPE チューブ(製品番号:186008072)に移し、30 秒間振とうしました。次に、この dSPE チューブを周囲温度で、5,000 rpm(4,200 g)以上で 5 分間遠心分離しました。
アセトニトリル抽出液の 1:10 希釈を行いました。例えば、ステップ 2 の 100 µL のアセトニトリル抽出液を 900 µL の移動相 A(5 mM ギ酸アンモニウム水溶液)と合わせました。
マトリックス添加キャリブレーション標準試料は、抽出後にブランクマトリックスを以下のように添加して調製しました。100 µL のアセトニトリル抽出物に、875 µL の移動相 A(5 mM ギ酸アンモニウム水溶液)および 25 µL の 204 種類の農薬を含むスパイク溶液(40 ng/mL)を、溶液濃度が 1 ng/mL(マトリックス中で 0.01 mg/kg に相当)になるように添加しました。
化合物名や分子式など、204 種類の農薬を含むスパイク溶液の詳細は、LC 多成分残留農薬標準試料キットの取扱説明書(製品番号:720005342EN)に記載されています2。
システム: |
ACQUITY UPLC I-Class PLUS システム |
カラム: |
ACQUITY UPLC HSS T3、1.8 µm、2.1 × 100 mm(製品番号:1860003539) |
移動相 A: |
5 mM ギ酸アンモニウム水溶液 + 0.1% ギ酸 |
移動相 B: |
5 mM ギ酸アンモニウム含有 50:50 MeCN:MeOH 溶液 + 0.1% ギ酸 |
流速: |
0.5 mL/分 |
注入量: |
3 µL |
カラム温度: |
45 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
分析時間: |
19 min |
MS 装置: |
Xevo TQ-S cronos |
イオン化: |
エレクトロスプレー |
極性: |
+/- |
キャピラリー電圧: |
+0.4/-0.54 kV |
脱溶媒温度: |
600 ℃ |
脱溶媒ガス流量: |
1000 L/時間 |
イオン源温度: |
150 ℃ |
コーンガス流量: |
0 L/時間 |
コリジョンガス(アルゴン)流量: |
0.14 mL/分 |
データは、MassLynx 4.2 ソフトウェアを使用して取り込み、TargetLynx XS アプリケーションマネージャーを使用して解析しました。204 種類の農薬に関する UPLC 分析法、MRM トランジション、化合物専用の MS パラメーター(コーン電圧およびコリジョンエネルギー)を関連する Quanpedia データベースから取得して、取り込みメソッドおよび解析メソッドを自動作成しました。比較の目的で、多成分残留農薬セット内の物理化学的多様性にまたがっている代表的な農薬を、Xevo TQ-S cronos で手動で調整しました。すべてのケースで、手動で最適化したパラメーターは Quanpedia データベースの値とほぼ一致していました。
イオン源条件(キャピラリー電圧と ESI プローブ位置)は、中程度の質量範囲の化合物に焦点を合わせて、ESI- および ESI+ の両方の極性で 10 種類の代表的な農薬の標準溶液を注入することで最適化しました。ESI プローブを最適化する目的で、多成分残留農薬セットから中程度の質量範囲の中極性の化合物(ピコキシストロビン)を使用しました。MS 実験メソッドのオートデュエル機能を 204 種類の化合物すべてに使用し、最も幅の狭いクロマトグラフィーピーク(約 3 秒)に基づいて設定したところ、すべてのピークにわたって 12 ~ 25 ポイントを達成しました。
SANTE/11813/2017 の定量分析法の関連ガイドラインに従って、LC-MS/MS 残留農薬一斉分析法の性能を評価しました3。 この分析法の適用範囲には、食品グループ 1(水分含量が高い野菜や果物)および食品グループ 5(デンプンおよび/またはタンパク質の含量が高く、水分と脂肪の含量が低い)が含まれます。本アプリケーションノートでは、40 種類を超える代表的な分析種を使用して、バリデーションパラメーターの基準に照らして LC-MS/MS 分析法の性能を実証しました。これらの代表的な分析種は、(a)物理化学的多様性にまたがっている、(b)複数年次管理計画 2017/6601 で定義されているものを含む、(c)欧州の食品及び飼料に関する緊急警報システム(Rapid Alert System for Food and Feed)に基づいて 2019 年に国境拒否対象として報告された一部の農薬、に基づいて選択しました4。 さらに、MRM 取り込みモードで動作するタンデム四重極システムの同定基準も全体的に満たしていました。マトリックス抽出物中のすべての代表的な分析種について、各分析種について最低 2 種類のプロダクトイオンが取り込まれ、S/N 比 3 以上で検出されました。その結果、抽出イオンクロマトグラムが完全にオーバーラップし、イオン比はキャリブレーション標準試料の平均イオン比の ±30% 以内であることがわかりました。最初に溶出する分析種(シロマジン)の保持時間は、分析カラムのボイドボリュームに対応する時間の 2 倍より長いという結果になりました。マトリックス中の分析種の保持時間は、マトリックス添加標準試料の保持時間の ±0.1 分以内であることがわかりました。図 1 に、キュウリ抽出物に 10 ng/mL(0.01 mg/kg)になるようにスパイクし、90% 水 + 10% アセトニトリル中で注入した代表的な分析種の代表的なクロマトグラムを示します。溶出プロファイル全体にわたって、幅が 3 ~ 6 秒のガウスピークが得られました。
バリデーションの適用範囲に含まれる 5 種類の食品において、LC-MS レスポンスに対するマトリックスの影響を調査しました。マトリックス添加標準試料を濃度 0.5 ng/mL になるように調製し(残留農薬多成分一斉分析法で通常使用される「既定」である 0.01 mg/kg MRL の 0.5 倍に相当)、定量的イオントランジションから得られたピーク面積と、同じ濃度の溶媒標準試料から得られたピーク面積を比較して、差の割合(%)として表しました。結果(図 2)から、マトリックス/分析種の組み合わせによって、イオン化の促進および抑制の両方の効果が顕著であることが明らかです。評価した化合物の大半(80% 超)で、偏差が溶媒標準試料のレスポンスの ±20% 以内に収まっています。高質量イオン(エマメクチン(m/z 886)およびスピネトラム J(m/z 748))では、より大きな %偏差(20 ~ 28% の範囲)が見られます。このため、この残留農薬多成分一斉分析法で正確な定量を行うには、マトリックス添加キャリブレーション標準試料の使用を推奨します。
マトリックス中の残留農薬の濃度 0.001 ~ 0.1 mg/kg に相当する 7 種類の濃度(0.1、0.25、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0 ng/mL)で、キュウリ抽出物および玄米抽出物中にマトリックス添加標準試料(MMS)を調製し、この分析法の直線性作業範囲を決定しました。
代表的な化合物の直線性範囲を表 1 に示します。これらの化合物では、R2 値が 0.99(以上)で、逆算した濃度の真の濃度からの偏差(TargetLynx %残差)が 20% 未満です。キュウリ抽出物の MMS 曲線の例、および「既定」の MRL に相当する濃度になるようにスパイクした代表的な ESI+ 化合物(アセフェート)および ESI 化合物(フィプロニル)の 2 つのトランジションの抽出イオンクロマトグラムの例をそれぞれ図 3A および図 3B に示します。
DisQuE 抽出プロトコルを使用した場合の平均回収率として定義される分析法の真度は、以前に測定されており、様々な食品において 70 ~ 120% の許容範囲内であることがわかっているため、本試験では調査していません5。
キュウリと玄米の両方に含まれる代表的な分析種の分析法の LOQ を、連続 3 日間の日間再現性データを使用して推定し、相対標準偏差(RSD)≤ 20%(n=18)になる最も低濃度のマトリックス添加標準試料として定義しました。すべての LOQ が MRL の 0.01 mg/kg 以下で、代表的な分析種の 93% について、推定 LOQ 値がマトリックス濃度の既定の MRL の 0.5 倍に相当することがわかりました。可能な場合、LOQ 濃度での S/N 比を計算したところ、すべてのケースにおいて 10:1 を超えることがわかりました。
試験を行うラボでは多くの場合、対象農薬の適用範囲にわたって、残留農薬多成分一斉分析法の報告限界値(RL)を MRL の 0.5 倍に設定しています。観察された感度から、マトリックス中の既定の MRL の 0.5 倍と同等かそれより低い濃度で、多くの農薬が検出および定量できることが示唆されます。
キュウリ、トマト、トウガラシ/ピーマン、玄米の試薬ブランクおよびマトリックスブランクを分析し、代表的な化合物について、定量的 MRM トランジションおよび定性的 MRM トランジションの両方のレスポンス(ピーク面積)を調査しました。定量的トランジションと定性的トランジションのいずれにおいても、また関連する保持時間においても、有意な干渉(RL の 30% 以下)は認められませんでした。
3 つの濃度(マトリックス濃度 0.005、0.01、0.1 mg/kg に相当する 0.5、1、10 ng/mL)になるようにスパイクしたキュウリおよび玄米の抽出物を繰り返し注入(n = 6)して、測定の再現性を調査しました。再現性実験は、異なる 3 日に行い、マトリックス/スパイクの濃度レベルごとの繰り返し測定値(n = 18)が得られました。図 4 のキュウリ(A)および玄米(B)の分析結果は、既定の MRL と同等の濃度で、LC-MS/MS 分析法のラボ内再現性が 20% 以下であることを示しています。
1 ng/mL(マトリックス中の MRL 濃度に相当)のマトリックス添加標準試料を繰り返し注入した後の装置の頑健性を、キュウリで調査しました。19 分間の LC グラジエントを使用して、ユーザーの操作なしで 3 µL を 200 回以上連続注入しました。連続実行時間は 67 時間(2.8 日)になり、207 回の注入後のマトリックスの合計ロード量は 60 mg を超えることになります。TrendPlot を使用して、4 種類の分析種(オキサミル、メタラキシル、モノクロトホス、スピノサド A)の定量的イオントランジションのピーク面積を示すコントロールチャートをプロットしました。図 5 から、ピーク面積がコントロールリミット(移動平均の ±3 標準偏差)内で、全体の %RSD が ≤3 であることがわかります。
このアプリケーションノートでは、Xevo TQ-S cronos タンデム四重極質量分析計と ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムを組み合わせた UPLC-MS/MS で、Quanpedia データベースからの汎用 MS パラメーター(極性切り替えを含む)を使用して、SANTE/11813/2017 により定義された食料品グループ 1 および 5 に属する食品に含まれる、LC 分析可能な農薬に関する残留農薬一斉分析法の性能について説明します。内部バリデーションの結果は、この分析法の性能が農薬の公的管理および適性評価試験に関する規制ガイドラインを満たしていることを示しています。CEN QuEChERS の使用は、キャリブレーション特性、直線性、感度、ラボ内再現性のすべてにおいて、残留農薬の EU MRL への準拠の確認に適していることが示されました。さらに、このシステムは、長時間の分析においてもユーザーの操作が最小限で済むため、ルーチン操作における信頼性が高いことが実証されました。
分析者は、各自のラボの分析法をバリデーションし、その分析法の性能が目的に適合しており、また関連の分析コントロール保証システムのニーズを満たしていることを証明しなければなりません。
720006637JA、2019 年 8 月