ISO 25101 のガイダンスに従い、European Frameをrk Directive および米国 EPA の健康に関する勧告が設定した必要な対策レベルに沿った検出限界を、Xevo TQ-S micro を使用した本分析法によって達成可能。環境水サンプルの分析で、既存 PFAS でも新規 PFAS でも測定可能。本アプリケーションノートで紹介している分析法は堅牢性が高く、多様な環境水サンプル(表層水、地下水、廃水など)の分析に適用可能。
PFAS 分析のための ISO 25101 分析法を使用した、水サンプルの SPE による前処理が以下のメリットを提供します。
パーフルオロアルキル化合物(PFAS)は、難分解性で生体蓄積性のある人為的汚染物質です。フッ素樹脂コーティング剤や泡消火剤などで使用されており、これらの化合物はさまざまな発生源を通じて環境中に排出されます。この化合物群は何千もの化合物から構成され、現在ほとんどの勧告は最も一般的に知られている 2 種の化合物、PFOS と PFOA に焦点を合わせています。現在、世界中で PFASs のモニタリングに関する法的な要件はありませんが、多くの国はあるレベルでモニターすることを推奨しています。米国では U.S EPA が、PFOS および PFOA の合計量の勧告値を 70 ng/L(ppt)に設定しています1。一方、ヨーロッパでは、European Water Framework Directive が PFOS とその誘導体を規制対象に指定しました。環境品質を規格化した Water Framework Directive では、内水面における PFOS の年間平均値として 0.65 ng/L を推奨しています2。
勧告に対応し、検出限界を十分に下げるためには、高感度な質量分析計またはサンプルを濃縮できる前処理法が必要になります。最初のオプションとして、Xevo TQ-XS による ASTM 7979 手順を使用した分析例について、以前のアプリケーションノートで報告しました3。 本アプリケーションノートではもうひとつのアプローチを紹介します。今回の実験では固相抽出によって水サンプルを濃縮し、Waters Xevo TQ-S micro を使用して分析を行いました。この方法は、環境水サンプル中の PFOS および PFOA の分析のために確立された ISO 25101 をもとに開発されました4。 両方のアプローチとも有効であり、ラボのリソースおよび試験のニーズにより、どちらがより適しているのか選択することができます。
この分析に使用するサンプル前処理法のガイドラインとして ISO 25101 分析法を使用しました。現在 ISO 25101 は、PFOA および PFOS のみの抽出および分析をカバーしています。この分析法には、PFAS 化合物リストの拡張が検討され、追加されています。付録 A には、この分析法を使用して分析した PFAS 化合物すべてに関する情報が記載され、既存 PFAS 化合物の代替として使用されている新規化合物のサブセット(GenX など)に関する情報も付随しています。すべての標準試料は、Wellington Laboratories 社(オンタリオ州 Guelph 市)から入手しました。
地下水および表層水の分析に使用される ERA (コロラド州 Golden 市)製の認証済み QC 標準試料(カタログ番号:731)を、この分析全体における装置の QC 評価に使用しました。標準試料には、12 種の PFAS 化合物が含まれています。混合液内の各化合物に対する認定値および QC 性能許容限界が、標準試料とともに提供されており、迅速かつ簡単に装置の QC 評価を実施できます。
PFAS は幅広く使用されており、分析しなくてはならない潜在的汚染発生源が数多く存在します。要求される検出限界が ng/L 以下のレベルであるため、サンプルの採取、前処理、そして分析の際も注意が必要です。採取現場およびラボに多くの PFAS 汚染発生源があることを考慮すると、分析に使用するすべての器具に対して、可能な限り使用前に PFAS 汚染検査を行うことを推奨します。また、クロマトグラフィーシステムからの汚染も避けることができません。そのため、システムからの影響を最小限に抑えるという目的で、UPLC システム用 Waters PFC 分析キット(製品番号:176001744)を使用しました。このキットは PFAS を含まない部品(従来のテフロンコートの溶媒ラインに替わる PEEK チューブなど)および、共溶出による分析ピークへの残留バックグラウンド干渉を遅らせることのできるアイソレーターカラムで構成されています。PFC 分析キットの使用は簡単で迅速です5。 さらに、残留バックグラウンド PFAS レベルを低減するようにボトル詰めされた Honeywell (ミシガン州 Muskegon 市)製の特殊な移動相溶媒を使用しました。
標準試料はメタノール混合液として調製し、検量線作成用の標準試料は、サンプルの最終溶媒組成に適合するように水:メタノール 1:1 で希釈しました。
環境水サンプルは、表層水、地下水、流入廃水、流出廃水のさまざまな水源から採取しました。表層水および地下水は現地で採取しました。廃水サンプルは Dr. David Reckhow (マサチューセッツ大学 Amherst 分校)から提供されました。サンプルは事前に洗浄した 250 mL の HDPE ボトルに収集しました。各サンプルのブランクを抽出用に保持し、残りのサンプルは、さまざまなレベルの PFAS 化合物およびそれらの同位体で標識された標準試料でスパイクしました。同位体で標識された内部標準試料は、マトリックス効果およびサンプル前処理による回収ロスを補正するために使用しました。
ISO 25101 をガイドラインとしてサンプル抽出を実施し、PFAS 化合物の拡張リストに対応するため、分析法に多少の調整を加えました。Oasis WAX 6 cc、150 mg SPE カートリッジ(製品番号:186002493)を、250 mL の水サンプルの抽出に使用しました。サンプル前処理法の詳細を図 1 にまとめています。この方法によって、サンプルは 250 倍に濃縮されます。
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class PLUS PFC 分析キット付き |
カラム: |
ACQUITY UPLC BEH C18 2.1 x 100 mm、1.7 μm |
カラム温度: |
35 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
10 µL |
移動相 A: |
95:5 水:メタノール + 2 mM 酢酸アンモニウム |
移動相 B: |
メタノール + 2 mM 酢酸アンモニウム |
時間(分) |
流量(mL/min) |
%A |
%B |
---|---|---|---|
0 |
0.3 |
100 |
0 |
1 |
0.3 |
80 |
20 |
6 |
0.3 |
55 |
45 |
13 |
0.3 |
20 |
80 |
14 |
0.4 |
5 |
95 |
17 |
0.4 |
5 |
95 |
18 |
0.3 |
100 |
0 |
22 |
0.3 |
100 |
0 |
MS システム: |
Xevo TQ-S micro |
イオン化モード: |
ESIー |
キャピラリー電圧: |
0.5 kV |
脱溶媒温度: |
350 ℃ |
脱溶媒ガス流量: |
900 L/時間 |
コーンガス流量: |
100 L/時間 |
ソース温度: |
100 °C |
メソッドのイベント: |
16 分から 21 分まで廃液 |
使用した LC-MS/MS 分析法は、広範な対象 PFAS を測定する目的に適合しました。すべての化合物の重ね書きクロマトグラムを図 2 に示しています。開始時のグラジエント組成とサンプルの溶媒組成がかなり異なるため、早く溶出した化合物のピーク形状はわずかに広がってしまいます。
すべての化合物の検出限界を表 1 に記載しています。サンプル前処理による濃縮により、バイアルおよびサンプルでの検出限界の両方が報告されました(サンプル濃度はバイアル濃度より 250 倍低い)。ほとんどの場合、サンプル内検出限界は ng/L (ppt)以下のレベルであり、pg/L(ppq)レベルにまで達しました。水に溶けにくい化合物のいくつかは、検出限界が ng/L (ppt) でした。表 1 に示している検出限界は、PFAS 検査の現在の要件に適しています。
検量線は、すべての化合物において、複数のポイントにわたって優れた直線性が得られました。例として図 3 に PFOA の検量線および検出限界におけるクロマトグラムを示しています。
サンプルの分析中、ERA 標準試料を使用して装置性能の QC評価を行いました。すべての化合物において、誤差は指定された許容範囲内でした。認定値からの平均誤差は 15% 未満であり、多くは誤差 10% 未満でした。
表 1.すべての PFAS 化合物に対するバイアルおよびサンプルでの検出限界
*6:2 FTS の真の検出限界は、汚染のため決定できません。
ここに LOD としてリストされている濃度は、およその汚染レベルを示しています。
サンプル前処理法の全体的な性能は、図 4 に示した回収率によってまとめています。大多数の PFAS 化合物の回収率は 75% ~ 130% でした。いくつかの化合物は回収率がこれより低く、C13 および C14 (PFTriDA および PFTreDA)カルボン酸塩および新規 PFAS 化合物の 11ClPF3OUdS が挙げられます。PFTriDA および PFTreDA は、短鎖 PFCAs (パーフルオロカルボン酸)よりも水に溶けにくいことが知られています。最終サンプルの溶媒組成を調整することで、より優れた回収率を達成できますが、他の化合物への影響を評価する必要があります。PFBA、6:2 FTS、そして PFODA を含むいくつかの化合物は、異常に高い回収率を示しました。PFBA および 6:2 FTS は、サンプル分析が実施される試験室における、一般的な汚染化合物です。汚染の発生源が調査されましたが、まだ解明できていません。PFODA にはマトリックス安定化効果が見られ、これは以前のアプリケーションノートで報告しました3。図 4 の緑の棒グラフから分かるように、同位体で標識された内部標準試料を使用してサンプル前処理によるロスを補正することにより、精度がさらに向上します。
分析法の再現性は、PFASs をスパイクした地下水の 6 回の繰り返し分析によって評価しました。図 4 のオレンジ色の四角は、サンプル前処理および分析全体を通じた、地下水の 6 回の繰り返し分析における相対標準偏差(%RSD)を示しています。すべての PFASs の %RSD は 15% 未満で、その大部分が 10% 未満でした。この分析法の再現性が高いことが分かります。
一連のマトリックス注入における装置の堅牢性は、スパイクした表層水抽出物を使用して評価しました。20 回の繰り返し注入を実施して、複雑なマトリックスのピーク面積、保持時間、イオン比安定性を評価しました。PFOA について、20 回の注入における 3 つのパラメーターすべての安定性を図 5 に示しました。TrendPlot でピーク面積をプロットして %RSD を決定し、ピークを重ね合わせたところ、保持時間がシフトしていないことが分かりました。イオン比データによってイオン比が安定していることが示されました。
PFOA の分析例では、ピーク面積の %RSD は約 3% です。全体的に、この分析法におけるすべての PFASs の % RSD は 10% 未満でした。
4 種の環境水サンプルを抽出して分析し、本分析法をテストしました。サンプルには、表層水、地下水、流入廃水、最終流出廃水を使用しました。すべてのサンプルにおいて、さまざまな PFASs がさまざまな濃度で検出されました。表層水サンプルで同定されたいくつかの PFASs の例を図 6 に示しており、これには対象である既存および新規の PFASs が含まれています。図 6 に示したように、同定された PFASs は抽出ブランクには存在しません。これにより、同定された PFASs はサンプルから同定されたものであり、バックグラウンド PFAS 汚染由来ではないことが確認できます。
環境水サンプルで同定されたさまざまなパターンおよび濃度の PFASs を図 7 に示しました。スクリーニングされた 40 化合物のうち 27 が 4 つのサンプルから検出されました。すべてのサンプルに、既存および新規の PFAS 化合物の両方が含まれていました。両方の廃水サンプルとも、最高レベルのおよび最大量のさまざまな PFASs が含まれていました。地下水サンプルで検出された 6 つの PFAS のうち、その半分が新規汚染物質でした(PFEESA、PFMBA、NFDHA)。
本実験のために特別な移動相を提供し、打ち合わせおよび検討を行ってくれた、Honeywell 社に感謝いたします。本実験のために廃水サンプルを提供してくれた、マサチューセッツ大学アマースト校の Dr. David Reckhow とそのチームに感謝いたします。
720006471JA、2019 年 1 月