• アプリケーションノート

生産性と信頼性を向上させるための統合されたペプチド特性プロファイリングとモニタリングワークフローの確立

生産性と信頼性を向上させるための統合されたペプチド特性プロファイリングとモニタリングワークフローの確立

  • Nilini Ranbaduge
  • Min Du
  • Ying Qing Yu
  • Weibin Chen
  • Waters Corporation

要約

コンプライアンス対応 UNIFI ソフトウェアによってコントロールされる BioAccord システムは、タンパク質医薬品のルーチン分析のために組み込まれている分析法を使用することを意図して、設計されています。このシステムでは、CQA モニタリングのためのペプチドのルーチン特性解析および精密質量スクリーニングを実行できます。このアプリケーションノートでは、モノクローナル抗体(mAb)の強制分解試験をケーススタディとして使用して、BioAccord システムのペプチドマッピングおよびモニタリング機能が実証されています。

アプリケーションのメリット

  • SmartMS システムのセットアップ、キャリブレーション、およびシステムステータスのモニタリング
  • データ取り込み、解析、レポート作成用の自動化されたソフトウェア
  • サイエンスライブラリー機能による、再利用のためのユーザー固有のペプチド特性ライブラリーの作成
  • 1 つの装置-インフォマティクスプラットホームを使用する、ペプチドレベルでの製品品質特性のルーチン同定およびモニタリング

はじめに

バイオ医薬品は、開発および製造時に厳密な特性解析とモニタリングを受けて、規制に適合するために製品の品質と安全性が確立されます1,2。 タンパク質の化学修飾や翻訳後修飾のペプチドレベルでの特性解析によく利用される高性能 LC-MS テクノロジーは、従来の分野を超えて、製品のライフサイクルのさまざまな段階にわたる特性モニタリングにまで拡張されています。これらの品質特性のルーチンモニタリングには、頑健で、操作が簡単で、組織全体にわたってラボに容易に展開できる、目的に適合した分析プラットホームが必要です。BioAccord システムは、このような要件を満たすように設計された、小型で高性能の新しい LC-MS システムです。この製品は、ACQUITY UPLC I-Class PLUS、SmartMS テクノロジーを特徴とする ACQUITY RDa 検出器、コンプライアンス対応 UNIFI ソフトウェアで構成されており、消耗品はすべてバイオ医薬品アプリケーションを支援するようにカスタマイズされています。UNIFI 科学情報システムは、自動データ取り込み、解析、レポート作成機能を備えた、統合された分析ワークフローメソッドを提供し、これによって、ペプチドモニタリング分析法を単一のサンプルまたは大きいサンプルバッチに対して、容易に実行および文書化することができます。このアプリケーションノートでは、モノクローナル抗体(mAb)の強制分解3,4 試験をケーススタディとして使用して、BioAccord System のペプチドマッピングおよびモニタリング機能を実証します。

実験方法

強制分解サンプルの前処理

苛酷試験(熱):NISTmAb レファレンス物質(NIST RM 8671、Gaithersburg、USA)のアリコートを 37 ℃ で 1 週間加熱しました。

苛酷試験(酸化):NISTmAb レファレンス物質の 2 つのアリコートをそれぞれ 0.01% および 3% の H2O2 中で、室温で 24 時間インキュベートしました。

ペプチドサンプル:インタクトモノクローナル抗体サンプルを、0.5 M DTT およびヨードアセトアミド溶液中で還元およびアルキル化した後、NAP-5 サイズ排除カラム(GE Healthcare Life Sciences、Pittsburgh、USA)を使用して 0.1 M Tris(pH 7.6)にバッファー交換しました。サンプルは、トリプシン(Promega、Madison、USA)を用いて 37 ℃(20:1 タンパク質対酵素)で 4 時間消化し、続いて 10% ギ酸で酸性化しました。 

LC 条件

システム:

ACQUITY UPLC I-Class PLUS

検出:

ACQUITY TUV

バイアル:

LCGC 品質証明透明ガラス 12 × 32 mm スクリューネックトータルリカバリーバイアル、キャップおよびプレスリット PTFE/シリコンセプタム付き、1 mL(製品番号:186000385C)

カラム:

ACQUITY UPLC CSH C18、130 Å、1.7 µm、1 × 100 mm(p/n:186006937)

カラム温度:

60 ℃

サンプル温度:

6 ℃

注入量:

5 µL

流速:

0.2 mL/分

移動相 A:

0.1 %ギ酸水溶液

移動相 B:

0.1% ギ酸アセトニトリル溶液

グラジエント:

1% B で 1 分間ホールド、50 分で 1% ~ 35% B、6 分で 35% ~ 85% B、85% B で 4 分間ホールド、6 分で 85% ~ 1% B、13 分間 1% B で再平衡化

MS 条件

システム:

ACQUITY RDa 検出器

イオン化モード:

ESI+

取り込みモード:

CID フラグメンテーションによるフル MS スキャン

取り込み範囲:

m/z 50 ~ 2000

キャピラリー電圧:

1.2 kV

コリジョンエネルギー:

60 ~ 120 V(低/高エネルギーランプ)

コーン電圧:

30 V

脱溶媒エネルギー:

350 ℃

Intelligent Data Capture:

オン

データ管理

インフォマティクスソフトウェア:

UNIFI 科学情報システム v. 1.9.4

結果および考察

ペプチド特性の同定からルーチンモニタリングまで

このアプリケーションノートでは、BioAccord システムを使用したペプチド品質特性のルーチンプロファイリングおよびモニタリングに焦点を合わせています。これには、ペプチドマッピングデータを使用したペプチドとその修飾の同定、UNIFI サイエンスライブラリー機能を使用した安全なユーザー定義カスタムライブラリー中の選択した品質特性のリストのアーカイブ、ターゲットペプチドのモニタリングが含まれます(図 1)。ペプチド特性のルーチンモニタリングでは、ターゲット CQA モニタリングおよび相対的定量のための精密質量スクリーニングメソッドで、カスタムライブラリー項目が読み出され、利用されます。可用性を高めるため、精密質量スクリーニングメソッドをプログラムして、異常な修飾レベルを示す特性を、スレッシュホールド機能(限界チェック)を使用してユーザーに知らせることができます。以下に示されているペプチドマッピングおよび精密質量スクリーニングはいずれも、ライブラリー機能によって同じインフォマティクスプラットホームに統合されているコンプライアンス対応分析法であり、ペプチド特性プロファイリングからモニタリングまでの連続したワークフローがユーザーに提供されます。全体的な分析については、トラスツズマブのテストケースのデータを使用してさらに詳しく説明します。

図 1.ペプチド特性の同定からルーチンモニタリングまでのワークフローメソッドの概略図

ステップ 1.品質特性同定のためのペプチドマッピングワークフロー

簡単に説明すると、モノクローナル抗体サンプルのアリコートに、温度上昇よび化学的酸化を与えた後、実験方法のセクションに記載されているトリプシン消化を行いました。データ取り込みは、代替の MS スキャン付き BioAccord システムを使用して行いました。まずコリジョンエネルギーなし、次にコリジョンエネルギーを増加して、60 ~ 120 V のエネルギーランプを使用するデータ非依存的測定(DIA)モードで、情報が豊富なフラグメントイオンを生成しました。取り込んだデータは、ペプチドマッピングメソッドで解析され、精密質量に基づいてペプチドとその修飾が確認されました。さらに、各割り当ては、一次フラグメントイオンを使用してさらに検証され、信頼性の高いペプチド特性プロファイリングが得られました。図 2A に、非修飾および修飾 HC:T21(重鎖、N 末端から 21 番目のトリプシンペプチド)の注釈付きフラグメンテーションスペクトルが示されています。図 2B のシーケンスカバー率には、±10 ppm の質量精度以内で検証され、1 ペプチドあたり 3 b/y 以上のフラグメントイオンを含むすべてのペプチド配列が含まれています。コントロールサンプルおよび苛酷試験 NISTmAb サンプルでは、90% を超えるシーケンスカバー率が報告されました。成分テーブル(図 2C)に、各サンプルで同定されたすべての確認済みペプチドおよび修飾の包括的サマリーが、それぞれの m/z、保持時間、質量許容範囲、荷電状態、一次フラグメントイオン数(b/y イオン)とともに示されています。NISTmAb に使用した酸化苛酷条件では、メチオニンおよびトリプトファンの両方の酸化が誘導されました。ルーチンの CQA モニタリングのために、成分テーブルから選択したペプチドのリストが、カスタムライブラリーに送られました。同様に、ここで説明した UNIFI 解析メソッドは、他の Waters HRMS システムでペプチドマッピングおよび PTM 確認用に取り込んだデータに適用できます。

図 2.UNIFI ペプチドマッピングメソッドのレビューパネル。(A) 非修飾および修飾 DTLMSIR ペプチド(HC:T21)の注釈付き高エネルギースペクトル。強調表示されているのは、コリジョンエネルギーのランプによって生成された b イオン(青色)および y イオン(赤色)です。(B) タンパク質のシーケンスカバー率は 92% です(高信頼性ペプチドフィルター基準として質量許容範囲 ±10 ppm 以内および 1 ペプチドあたり 3 フラグメントイオン以上を使用)。(C) 保持時間、m/z、MS 強度など、分析で同定されたすべてのペプチドの検出結果およびそれらの PTM をまとめた成分テーブル。

ステップ 2.ペプチドマッピング結果からのカスタム特性ライブラリーの作成

ペプチド同定の後、ステップ 1 のペプチドマッピングデータからカスタムライブラリーを生成しました。これには、対象のペプチド特性を成分テーブルから直接選択すること(図 3A)、および UNIFI の[Send to Library](ライブラリーに送信)オプションを使用して新しいカスタムライブラリーを作成すること(図 3B)が含まれます。各ペプチドのエントリーは、ペプチド配列、化学組成、ニュートラル質量に加えて、次記などのいくつかの主要パラメーターで構成されます:保持時間、m/z、MS 強度、MS スペクトルおよびフラグメンテーションスペクトル、荷電状態情報(図 3C)。これらは、ターゲットペプチドモニタリングメソッドで選択的に取り込んで使用できます。ここで説明されているケーススタディでは、UNIFI サイエンスライブラリー機能を使用して、NISTmAb サンプルの苛酷試験に関連する 28 の可能性のあるペプチド品質特性が、「mAb Product Quality Attributes」(モノクローナル抗体製品品質特性)ライブラリーにアーカイブされました。これらのカスタムライブラリーは、組織内の他の UNIFI ユーザーの間で変更、保存、共有することができます。

図 3.ペプチドマッピングメソッドで同定された PTM は、ターゲットペプチドモニタリング用のカスタムライブラリーにアーカイブできます。ターゲットペプチドは、ペプチドマッピング結果テーブルからライブラリーに直接送信できます。このステップは次記のとおりです:(A) 対象のペプチドを特定し、(B)[Send to Library](ライブラリーに送信)メニューオプションを選択して、新しいライブラリーを作成します。この例では、「mAb Product Quality Attributes」(モノクローナル抗体製品品質特性)ライブラリーの作成が示されています。作成されたライブラリーには、(C) 検出結果、MS イオンスペクトル、フラグメントイオンスペクトルが含まれます。ライブラリーは、分子量、電荷、RT、フラグメントイオンの情報を入力して、手動で構築することもできます。

ステップ 3.精密質量スクリーニングメソッドによる可能性のある CQA モニタリング

このアプリケーションノートでは、ペプチドのルーチンモニタリングへの UNIFI 精密質量スクリーニングデータ解析メソッドの使用が説明されています。一般的な解析パラメーターでは、ペプチド特性の強度スレッシュホールドにより、チェック基準とレポート作成が制限されますが、このスクリーニングメソッドにより、ペプチドのルーチンモニタリングが効率化し、頑健性と生産性が向上しました。このケーススタディでは、モニタリング用に選択した 28 のターゲットペプチド特性が、ステップ 2 で説明されているように、カスタム CQA ライブラリーからインポートされました(図 4A)。各ライブラリー項目は、ペプチドのニュートラル質量および保持時間に関する情報が示されており、正確なペプチド検出が可能になります。さらに、このターゲット分析法には、一価または多価のコンバインイオンレスポンスを使用して CQA の相対 % 修飾のレベルを計算する、相対的存在量測定ツールが備わっています(図 4B)。標準酸化レベルを超えるサンプルを簡単に同定するために、酸化ペプチドのレベルを可視化する際に、% 修飾に関するカスタマイズ可能な限界設定を適用しました。図 4C の例で、スレッシュホールドに任意の数を用いた限界チェックの後に、HC:T21 DTMLISR のネイティブペプチドおよび酸化ペプチドによって機能の能力が実証されています。ここに示されている両方の酸化苛酷条件により、修飾 HC:T21 ペプチドの限界がトリガーされ、事前設定された警告限界(10%)およびエラー限界(50%)をそれぞれ反映する、黄色および赤色のフラグが付けられました。各特性モニタリングステップで収集された情報は、自動レポート作成機能を介して文書化され、タンパク質医薬品のプロセス開発に使用できます。 

図 4.(A) ターゲットペプチドライブラリーは、精密質量スクリーニング解析メソッドなどの別の分析メソッドにインポートできます。各エントリーには、ターゲットモニタリングのためのペプチド配列、修飾、ニュートラル質量、保持時間の情報が含まれています。(B) このスクリーニングメソッドでは、相対的定量に XIC が使用されます。この例では、修飾ペプチドおよび非修飾ペプチドの BPI および XIC が示されています。(C) サマリープロットにより、HC:T21 ペプチドの修飾型(上)およびネイティブ型(下)の % 相対的存在量が示されています。繰り返し注入からのデータが示されています。HC:T21 酸化ペプチドに適用した限界により、設定したスレッシュホールドを超えるサンプルにフラグが付けられました。

MS のみのモードとフラグメンテーションによるフルスキャンモードが同等の性能を示す

ほとんどのペプチドモニタリング分析法では、頑健な定量を達成するために、MS のみの取り込みを使用して既知のターゲットペプチドのリストに対してサンプルをスクリーニングします。ただし、フラグメンテーションスペクトルを用いた DIA 取り込みは、モノクローナル抗体サンプル中の発現に差異のあるピークの同定および配列確認に寄与する可能性があります。MS およびフラグメンテーションメソッドを用いる MS の両方で一貫した % 修飾測定を維持する能力は、プラットホームのデータインテグリティを実証する重要な機能です。ここでは、両方の取り込みメソッドを使用してモノクローナル抗体のコントロールサンプルについて取り込んだデータにより、所定のペプチド特性の % 相対修飾が両者で同等であることが示されています。このため、両方のメソッドを、MS ベースの % 修飾レベルを損なうことなく、ルーチンのペプチドモニタリング(図 5)に使用できます。

図 5.選択したペプチドについて、MS のみのモードおよびフラグメンテーションによる MS モードの両方で検出された相対的存在量。データにより、両方の取り込みモードで同等の結果が示されています。

結論

コンプライアンス対応 UNIFI ソフトウェアによってコントロールされる BioAccord システムは、タンパク質医薬品のルーチン分析のために組み込まれている分析法を使用することを意図して、設計されています。このシステムでは、CQA モニタリングのためのペプチドのルーチン特性解析および精密質量スクリーニングを実行できます。カスタムライブラリー機能によって 2 つのペプチド分析をシームレスに統合することは、特性解析からモニタリングへ知識を移管する効果的な方法であり、さまざまな分析ラボ設定にわたって展開できます。

さらに、直感的なインフォマティクスコントロール(プロモーションチューニングパラメーター、装置の正常性ステータスの自動モニタリング、キャリブレーション)を備えた SmartMS システムは、あらゆるスキルレベルのユーザーに適した頑健な MS システムを提供します5

参考文献

  1. ICH, Pharmaceutical Development Q8(R2).International Conference on Harmonization of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use ICH: www.ICH.org, 2009; p 28.
  2. Alt, N.; Zhang, T. Y.; Motchnik, P.; Taticek, R.; Quarmby, V.; Schlothauer, T.; Beck, H.; Emrich, T.; Harris, R. J. Determination of Critical Quality Attributes for Monoclonal Antibodies Using Quality by Design Principles.Biologicals.2016, 44 (5), 291–305.
  3. Nowak, C.; Cheung, J. K.; M. Dellatore, S. M.; Katiyar, A.; Bhat, R.; Sun, J.; Ponniah, G.; Neill, A.; Mason, B.; Beck, A.; Liu, H. Forced Degradation of Recombinant Monoclonal Antibodies: A Practical Guide.mAbs.2017, 9 (8), 1217–1230.
  4. Blessy, M.; Patel, R. D.; Prajapati, P. N.; Agrawal, Y. K. Development of Forced Degradation and Stability Indicating Studies of Drugs – A Review.Journal of Pharmaceutical Analysis.2014, 4 (3), 159–165.
  5. Ranbaduge, N.; Shion, H.; Yu, Y.Q., Routine Peptide Mapping Analysis Using the BioAccord System.720006466EN.アプリケーションノートWaters Corporation.January 2019.

720006602JA、2019 年 6 月

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