QSM を搭載した APC は、ポリマー業界で使用される強力な溶媒向けに特別に設計されたものです。Waters ACQUITY アドバンスドポリマークロマトグラフィー(APC)システムは、THF、クロロホルム、ジメチルスルホキシドなどの強溶媒を使用して、一貫して動作するように設計されています。業界で認められている APC システムにクオータナリーポンプの柔軟性を追加することで、ポリマー分析技術は HPLC テクノロジーに制限されなくなりました。
モノクローナル抗体(mAb)ベースの医薬品は、有効性および特異性が高いため、様々な疾患に対する有効な治療法として定着しています。市販されている mAb ベースの医薬品のうち、数年以内に特許が満了するものが複数あることから、先発品 mAb よりも安価なバイオシミラーの開発のための取り組みがますます盛んになっています。費用が高額になる臨床試験の必要性や規模を低減し、医薬品の製品化プロセスを迅速化するため、製薬企業は、網羅的解析により、先発品とバイオシミラーの分析特性の類似性が高いことを実証する必要があります1。グリコシル化は、mAb ベースの医薬品において、その効果および安全性に影響を与えるため、重要品質特性の 1 つとされています。そのため、バイオシミラーの類似性評価および品質保証のため、その特性解析をしっかりと行う必要があります2。mAb のグリコシル化プロファイルは複雑であるため、従来の LC-蛍光(FLR)ベースのメソッドを特異性の面で補完するために、質量分析法(MS)などの直交的なテクノロジーが一般的に使用されています。一方、高分解能 MS は多くの場合、熟練した科学者による装置の操作、データ解析、解釈が必要とされ、時間およびリソースの面で負担が大きくなっていました。そのため、バイオシミラー開発において、網羅的な糖鎖解析の信頼性を高めることができ、導入しやすく拡張性のあるテクノロジーおよびメソッドが強く求められています。
SmartMS を搭載した BioAccord システムは、バイオ医薬品の網羅的解析用に設計された、使いやすい LC-MS プラットホームソリューションです。これには、N-型糖鎖の同定およびプロファイリングなど、特定の分析に対応する分析ワークフローが組み込まれています。BioAccord システム内で、ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムと ACQUITY RDa 検出器を組み合わせ、UNIFI 科学情報ソフトウェアでコントロールすることで、非常に頑健なクロマトグラフィー分離および精密質量情報が得られます(図 1A)。ACQUITY RDa 検出器は、自動キャリブレーション機能が内蔵された小型のベンチトップ飛行時間型質量検出器で、装置メソッドのセットアップが分かりやすいため(図 1B および 1C)、MS 装置の操作の複雑性が大幅に軽減されます。以上より、高品質な LC-FLR および LC-MS データを取り込み、包括的なワークフローを使用して遊離糖鎖解析に有用な結果に変換することができます。そしてこれにより、製品の品質を下げることなく、バイオシミラー開発にかかる経費や時間を節約することができます。
本アプリケーションノートでは、BioAccord システムにより、バイオシミラーの開発における遊離糖鎖解析の信頼性と生産性を改善できることを実証します。グリコシル化の類似性評価の例として、BioAccord システムを使用して、インフリキシマブの先発品とバイオシミラーの遊離糖鎖を分析しました。
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class PLUS |
検出器: |
ACQUITY FLR 検出器、λex=265 nm、λem=425 nm、ACQUITY RDa MS 検出器 |
LC カラム: |
ACQUITY Glycan BEH Amide、1.7 µm、130 Å、2.1 × 150 mm(製品番号 186004742) |
カラム温度: |
60 ℃ |
サンプルバイアル: |
12 × 32 mm ガラスバイアル、トータルリカバリー(製品番号:600000750cv) |
移動相 A: |
50 mM ギ酸アンモニウム水溶液、pH = 4.4 |
移動相 B: |
アセトニトリル |
Time (min) |
Flow rate (mL/min) |
%A |
%B |
---|---|---|---|
Initial |
0.4 |
25 |
75 |
35 |
0.4 |
46 |
54 |
36.5 |
0.2 |
80 |
0 |
39.5 |
0.2 |
80 |
0 |
43.1 |
0.2 |
25 |
75 |
47.6 |
0.4 |
25 |
75 |
55 |
0.4 |
25 |
75 |
マスレンジ: |
50~2000 m/z |
取り込みモード: |
ESI+ |
データ取得モード: |
コンティナム |
サンプリングレート: |
2 Hz |
コーン電圧: |
45 V(フルスキャン)、80~100 V(フラグメンテーション) |
脱溶媒温度: |
300 ℃ |
キャピラリー電圧: |
1.5 kV |
ロックマス: |
ロイシンエンケファリン 50 fmol/μL(0.1% ギ酸含有 50/50 水/アセトニトリル水溶液) |
インフォマティクス: |
UNIFI 1.9.4 内の糖鎖アプリケーションソリューション |
統合ソリューションである BioAccord システムは、既存の糖鎖解析ワークフローをサポートし、バイオシミラーのグリコシル化の同定および比較を合理化できます5。このワークフローを実証するため、インフリキシマブの先発品とバイオシミラーから遊離させた RapiFluor-MS 標識 N 型糖鎖を、HILIC で分離し、FLR および BioAccord システムによる MS 検出を直列して行いました。RDa 検出器の自動キャリブレーションおよび自動チューニング機能により、高品質の MS データを効率良く得ることができました。UNIFI 内の「糖鎖 FLR および MS 確認」ワークフローをデータの解釈に使用することで、遊離糖鎖の保持時間と精密質量情報を用いた自動データ解析が可能になりました6。 図 2 に示すように、糖鎖の保持時間を、デキストランラダー標準試料に対してキャリブレーションし、グルコースユニット数の値(GU 値)に変換し、精密質量情報と組み合わせて UNIFI ソフトウェア内の糖鎖サイエンスライブラリーを検索してピークを同定します。GU 値を使用したライブラリー検索では、分析全体の保持時間のばらつきを最小限に低減することによって、ピーク割り当ての信頼性が高まります。
図 3 は、インフリキシマブの先発品の解析済み FLR トレースを示しています。各ピークが自動的に割り当てられ、糖鎖名および関連する構造情報が注釈付けされています。自動データ解析の結果、インフリキシマブの先発品で計 26 種の N 結合型糖鎖、バイオシミラーで 27 種の N 結合型糖鎖が、10 ppm の質量許容範囲内で同定されました。これにより、ACQUITY RDa 検出器によって高い感度および精度が得られることが実証されました。同定された糖鎖について、先発品とバイオシミラー mAb の間の糖鎖プロファイルの類似性を、ワークフロー内で自動的に評価することができます。
バイオシミラーの開発時において、重要な糖鎖構造は、しばしば高リスクの品質特性にランクされ、FDA が推奨する 3 層アプローチによる分析的類似性評価のための同等性試験(第 1 層)が必要になります7。 そのため、バイオシミラー mAb の開発を簡素化することのできる、糖鎖プロファイルの定量比較の効率的なアプローチが特に重要です。BioAccord システムのワークフロー内で、定性的および定量的の両方のモードで直接比較ができます。図 4A は、2 つのインフリキシマブの先発品サンプル(黒色と赤色で表示)および 1 つのバイオシミラーのサンプル(青色で表示)の FLR クロマトグラムの重ね書きで、2 つの先発品 mAb サンプル間の類似性が高いことを示唆しています。一方、図 4A(挿入図)のクロマトグラム拡大図に示すように、先発品とバイオシミラー mAb の間で、複数のシアル化糖鎖種の相対含有量に差が認められました。差を確認するため、クリック可能なワークフローステップ(図 4B)からサマリープロットにアクセスして、FLR レスポンスまたは選択した糖鎖種の相対存在量を定量的に比較することができます。図 4B の右側に示すように、[% 成分量]のサマリープロットで、FA2G1Sg1(F=フコース、A2=二分岐、G=ガラクトース、Sg=NeuGc)は、2 つの先発品 mAb サンプル間では相対含有量が一致しており、バイオシミラー mAb では含有量が多いことが分かります。結論として、上記の結果から、バイオシミラー評価において、LC-MS データを意味のある結果に効率的に変換する BioAccord システムの性能が実証されました。
バイオシミラー mAb の遊離糖鎖解析を行う際、同重体糖鎖など、正確な割り当てが困難な MS スペクトルを持つ糖鎖に遭遇することがよくあり、これにより糖鎖分析結果が一致しなくなることがあります。高コリジョンエネルギーフラグメンテーションは、類似構造の同重体糖鎖の識別によく使われる MS ベースの方法です。ACQUITY RDa 検出器により、別のスキャンモードで、プリカーサーイオンを事前選択することなく、低コリジョンエネネルギーと高コリジョンエネルギーの MS フラグメンテーションスペクトルを取り込むことができるため、追加の診断フラグメントイオンが得られ、構造割り当ての信頼性が向上します。(注記:糖鎖 GU サイエンスライブラリーでは、分子量の確認に低エネルギー MS チャンネルがデフォルトで使用されています)。図 5 に、糖鎖の重要なペアの同定に MS フラグメンテーションデータを使用した例を示します。図 5A に示すように、糖鎖 FA2G2 は、その免疫原性異性体 FA2G1Ga1(G1Ga1 = Gal-α (1,3)-Gal)に非常に近接して溶出しており、結果として非常に類似した GU 値になります。同時に取り込まれた MS フラグメンテーションデータから、同重体糖鎖の構造を識別することができます。図 5B に示すように、両方のピークについて高品質 MS フルスキャンとフラグメンテーションデータが得られました。ここで、ショルダーピークの MS フラグメンテーションスペクトルで最も優勢なフラグメントイオンとして α-1,3 ガラクトースの診断イオン(m/z 528)が観察され、FA2G1Ga1 と同定されました3。そのために、BioAccord システムは、結果を詳しく調べる柔軟性を提供し、バイオシミラー開発における遊離糖鎖解析の頑健性および信頼性が向上しました。
糖鎖解析をさらに迅速にするために、UNIFI ソフトウェアは分析レポートを自動作成でき、データのレビュー、共有、ファイリングが簡素化されます。UNIFI ソフトウェアのレポート機能について説明するために、カスタマイズ可能なテンプレートを使って、糖鎖解析の結果をまとめたレポートを作成しました。図 6 に示すように、レポートは、解析情報、クロマトグラム、サマリーテーブルを含む様式になっており、すべてのサンプルで同定された N 型糖鎖の相対含有量の直接比較が表示されています。異なる糖鎖のグループに基づいた比較も、レポートに含まれています。ラボによって異なる要件に適合させ、分析結果のレビューを簡素化するためにその他の必要な情報が含まれるよう、レポートをカスタマイズできます。
本研究により、BioAccord システムによる網羅的な蛍光標識遊離糖鎖解析が、効率の良いワークフローであることが実証されました。統合されたワークフロー内で、N-結合型糖鎖の頑健性の高い分離および精密質量測定が達成できて自動的に分析結果に変換され、糖鎖のアイデンティティーおよび含有量の差の判定が可能になりました。結論として、BioAccord システムにより、バイオ類似性評価のワークフローを簡素化し、バイオシミラー mAb 開発における遊離糖鎖解析の生産性よび信頼性を向上できます。
720006545, April 2019