• アプリケーションノート

UPLC-MS/MS による毛髪中の乱用薬物の測定:ブラジルにおける実態

UPLC-MS/MS による毛髪中の乱用薬物の測定:ブラジルにおける実態

  • Danilo Pereira
  • Waters Corporation

法中毒学目的のみに使用してください。

要約

ここでは、ブラジルにおいて商用運転免許の付与を許可するためのルーチン検査で使用できる、毛髪中のさまざまな乱用薬物の分析に用いる頑健な UPLC-MS/MS 分析法について説明します。

アプリケーションのメリット

毛髪中の乱用薬物のパネルを測定するための頑健かつ高感度の UPLC-MS/MS 分析法。

はじめに

法中毒学試験用の生体マトリックスとして毛髪を使用することが、ここ 10 年で一般的になりました。毛髪は、血液や尿などの従来のマトリックスとは異なる別の検出手段を提供し、セグメント分析を行う場合にこれを使用することで、数ヶ月から数年にわたる薬物曝露の時系列の履歴を得ることができます。人の毛髪は 1 ヶ月に約 1 cm 伸びることが知られています。薬物は、毛包の血流から成長中の毛髪マトリックスへの受動拡散、汗や皮脂から毛幹への拡散、煙や汚染された手などの外部汚染を介してなど、複数のメカニズムで毛髪に取り込まれます。  毛髪採取は非侵襲的な手法であり、尿の採取に伴うプライバシーや混入の問題なしに行えます。また、血液サンプルとは異なり、毛髪のサンプル採取には医学的訓練を受けた担当者は不要です。さらに、毛髪サンプルは簡単に保管できます。

ブラジルなどの特定の地域では、商用運転免許は、政府が認可したリストにある乱用薬物を申請者が使用していないことを証明できなければ付与されません。このリストには、オピエート、アンフェタミン、コカイン、テトラヒドロカンナビノール(THC)およびそれらの代謝物が含まれています。このことから、ブラジルでは、年間 100 万回を超える検査が行われていると推定されます。このように極めて大量の検査を確実に行えるようにするには、毛髪検査協会(SoHT)が推奨するガイドラインにも適合する、非常に迅速で頑健な分析法が必要です¹。

結果および考察

コントロールの毛髪は、ボランティアから採取し、メタノールで除染した後、ハサミで 1 ~ 2 mm に細かく切断しました。切り刻んだ毛髪は、必要になるまで 4 ℃ で保管しました。 

10 mg の切り刻んだ毛髪(スパイク済みサンプルまたは本物のサンプル)を、メタノールが入ったポリプロピレンチューブに入れました。続いてサンプルを粉砕し、50 ℃ で 15 分間インキュベートしました。インキュベーション後、サンプルを遠心分離し、上清を単純に Waters トータルリカバリーバイアルに移しました。

必要とされる非常に迅速な分離を達成するために、ACQUITY UPLC I-Class(FTN)システムを使用し、ACQUITY UPLC BEH C18 カラム(製品番号:186002349)でギ酸/アセトニトリルのグラジエントを用いて、目的の分析種を分離しました。Xevo TQ-S micro 質量分析計を使用して、各分析種について少なくとも 2 つの MRM トランジションをモニターしました。可能な場合は、同量の重水素化内部標準を濃度 0.4 ng/mg になるようにサンプルに添加して、頑健な定量ができるようにしました。クロマトグラフィーメソッドの実行時間は 1.2 分で、同重体であるノルコカインとベンゾイルレクゴニンを含むすべての分析種を分離することができました。分離された分析種のクロマトグラムを図 1 に示します。この図では、SoHT が推奨する確認カットオフ濃度と同等の濃度になるようにスパイクした目的の分析種の、スムージングおよび波形解析した定量 MRM トレースを示しています。

図 1.  毛髪検査協会が推奨する確認カットオフと同等の濃度になるようにコントロールの毛髪にスパイクした分析種を示す、スムージングおよび波形解析したクロマトグラム。定量イオンのみのトランジションを表示しています。

アッセイの直線性を調査しました。0.02 ~ 0.3 ng/mg の範囲にわたる THC の検量線を(残差プロットとともに)図 2 に示します。サンプル中の THC の有無を確認するため、同じ移動相とカラムを使用する別の分析法を用いて、カルボキシ-THC(cTHC)を検出しました。このクロマトグラフィー分析法は 5.5 分で行いました。

図 2.  コントロールの毛髪に 0.02 ~ 0.3 ng/mg の範囲になるようにスパイクした THC の直線性

結論

特定の地域において、商用運転免許の付与を許可する際に毛髪検査の実施が増加したことから、非常に低濃度の乱用薬物の定量用の迅速で正確、かつ信頼性が高く頑健な分析法の必要性が浮き彫りになっています。ACQUITY UPLC I-Class(FTN)システムと Xevo TQ-S micro 質量分析計の組み合わせにより、非常に低濃度の多数の化合物を 1.3 分以内で測定することができ、極めて高いサンプルスループットが確保されました。

参考文献

  1. Cooper, G. A. A.; Kronstrand, R.; Kintz, P. Society of Hair Testing Guidelines for Drug Testing in Hair.Forensic Science International 2012, 218, 20-24.

720006680JA、2019 年 10 月

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