• アプリケーションノート

ACQUITY UPLC I-Class と Xevo TQ-S micro を用いた加工食品中のアクリルアミドの測定

ACQUITY UPLC I-Class と Xevo TQ-S micro を用いた加工食品中のアクリルアミドの測定

  • Euan Ross
  • Joanne Williams
  • Waters Corporation

要約

このアプリケーションノートでは、アクリルアミドの定量用に開発された、ACQUITY UPLC I-Class システムと Xevo TQ-S micro を組み合わせて使用する新しい LC-MS/MS 分析法を紹介しています。この分析法は、ポテトチップス、コーヒー、パン、ベビーフードなどの加工食品マトリックス中のアクリルアミド定量のための、迅速で費用効果の高い手法を提供します。

アプリケーションのメリット

ポテトチップス、コーヒー、パン、ベビーフードなどの加工食品のマトリックス中のアクリルアミドを定量するための、迅速で費用対効果の高いアプローチ

はじめに

アクリルアミドは極性の高い水溶性化合物であり、産業プロセスや繊維製品の製造に多くの用途があります。アクリルアミドは、高温(+120 ℃)調理による食品製造中に生成される食品汚染物質でもあります1。 これが原因となって引き起こされる主な化学反応が、メイラード反応として知られています2。 アクリルアミドの毒物学的特性は広く研究されており、これには神経毒性、遺伝毒性、発がん性、生殖毒性などがあります。アクリルアミドは、国際がん研究機関(IARC)によってグループ 2A の発がん物質に分類されています3

アクリルアミドは広範囲の日常食品中に存在するため、この健康上の懸念はすべての消費者に当てはまり、体重ベースでの曝露量が最も多い年齢層は子供です。ヒトに対する食物経由のアクリルアミド曝露では、フライドポテト、ポテトチップス、クッキー、コーヒーが最も寄与しています。最近では、フライドポテト製品中のアクリルアミドのレベルが 1000 µg/kg を超えていることが報告されています4。 

2015 年 6 月、欧州食品安全機関(EFSA)は、食品中のアクリルアミドに関する最初の完全なリスク評価を発表しました1。 食物連鎖での汚染物質に関する EFSA のパネル(CONTAM)の専門家は、食品中のアクリルアミドがすべての年齢層の消費者の癌発症リスクを高める可能性があるという、以前の評価を再確認しました1

これまでのところ、ヨーロッパでは食品中のアクリルアミドの最大レベルは定められていません。食品業界は、食品中のアクリルアミドレベルを低減するための対策を策定して施行するために、多くの作業を行ってきました。これには、さまざまな食品やプロセスでのアクリルアミド生成を抑える方法に関するガイダンスの作成が含まれています。2018 年 4 月に施行された EU 規則 2017/2158 では、食品中のアクリルアミドの含有量を低減するための軽減策とベンチマークのレベルが設けられています5。この新しい法律では、食品事業者は、食品安全管理システム内でアクリルアミドを管理するための簡潔で実用的な手順を導入することを要求されています。

このアプリケーションノートでは、Xevo TQ-S micro タンデム四重極質量分析計と組み合わせた Waters ACQUITY UPLC I-Class システムを使用して、さまざまな代表的な食材中のアクリルアミドを測定する方法を社内でバリデーションした結果を報告します。 

実験方法

サンプル前処理および抽出

均質化した食品サンプルを、UPLC-MS/MS 用の改良型 QuEChERS アクリルアミドスターターキット(製品番号:176004417)メソッドを使用し、抽出用に採取した 1 g のサンプルを用いて抽出しました。抽出、クリーンアップ、LC-MS/MS 分析時のばらつきを補正するために、抽出前にすべてのサンプルに同位体標識内部標準試料(アクリルアミド d3)を添加しました。

改良型 QuEChERS による抽出物の上清を、300 mg の第 1 級・第 2 級アミン(PSA)吸着剤と 900 mg の MgSO4(UPLC-MS/MS 用アクリルアミドスターターキット、製品番号:176004417)が含まれている分散型固相抽出(dSPE)チューブを使用してクリーンアップしました。抽出物を蒸発乾燥し、0.1% ギ酸水溶液(LC-MS グレード水)に再溶解して、濃縮ステップおよびより弱い注入希釈液への溶媒交換を行いました。このアクリルアミドアプリケーションノートで使用している購入可能な消耗品キットの詳細については、waters.com/acrylamide にアクセスしてください。完全なサンプル抽出の詳細は、(www.waters.com/acrylamide で)ご依頼いただければ、入手できます。 

分析法の性能は、欧州委員会規則(EU)2017/2158 に従って評価しました。分析法の真度と精度は、スパイクしたサンプルと、標準物質として使用した FAPAS 試験材料(ポテトチップスとコーヒー)を測定して評価しました。代表的な食品の一部は 50 µg/kg および 200 µg/kg でスパイクしましたが、ベビーフードはより低いレベル 40 µg/kg でスパイクしました。キャリブレーション標準試料は、0.5 ~ 2500 ng/mL の水溶液として調製しました。LC-MS/MS 分析法の精度と真度を評価するために、ブラケット検量線の間の 2 濃度レベルで繰り返し注入(n = 15)を行いました。 

UPLC 条件

UPLC システム:

ACQUITY UPLC I-Class

カラム:

UPLC MS/MS 用 ACQUITY UPLC HSS C18 SB、1.8 μm、2.1 × 100 mm アクリルアミドスターターキット(製品番号:176004417)

カラム温度:

30 ℃

サンプル温度:

10 ℃

サンプル注入量:

5 μL(ニードルオーバーフィル付きパーシャルループ)

流速:

0.2 mL/分

移動相 A:

0.1% ギ酸水溶液(LCMS グレード)

移動相 B:

メタノール(LCMS グレード)

グラジエント:

完全なグラジエント条件は、waters.com/acrylamide でご依頼いただければ入手可能

MS 条件

MS システム:

Xevo TQ-S micro

MS ソフトウェア:

MassLynx v4.2

イオン化モード:

ESI+

測定モード:

MRM

キャピラリー電圧:

0.5 kV

コーン電圧:

20 V

コーンガス流量:

50 L/時間

脱溶媒温度:

600 ℃

脱溶媒ガス流量:

1000 L/時間

ソース温度:

150 ℃

表 1. MRM トランジション*

*最高の選択性を示す MRM トランジションを使用しました。データは、MassLynx ソフトウェア(v4.2)で取得し、TargetLynx XS を使用して解析しました。最適なデュエルタイムが、自動デュエル機能を使用して自動的に設定されました。

結果および考察

LC-MS/MS 分析法の最適化を、さまざまなカラム、移動相組成、グラジエント、MS トランジションを評価することによって行いました。「実験方法」セクションに詳説されている条件により、試験する条件の全体的に最適な性能が得られます。 

分析法の性能は、欧州委員会規則(EU)2017/2158 に概説されている基準を使用して、評価されています。分析法のバリデーションにより、さまざまな代表的な食品中のアクリルアミドに対する優れた定量性能が実証されました。得られた結果から、この分析法が、規則(EU)2158/2017 で指定されている多くの食品(ポテトチップス、パン、コーヒー、ベビービスケット、ベビーフード)のベンチマークレベルへのコンプライアンスの確認に適用できることがわかります(表 2)。  

表 2. 食材中のアクリルアミドの存在に関するベンチマークレベル、および LOD と LOQ に関連する必要値

ACQUITY UPLC HSS C18 SB カラムにより、アクリルアミドの優れた保持とピーク形状が得られます。三官能性結合を使用すると、リガンドが機械的に頑健になり、小粒子サイズ(2 µm 以下)のカラムケミストリーでのこの固定相の使用が可能になり、クロマトグラフィー分離能の向上や分析時間の短縮など、このアプリケーションでの超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)の利点が容易に得られます。図 1 に、2 ng/mL(サンプル抽出物中の 4 µg/kg に相当)の標準試料水溶液中のアクリルアミドのクロマトグラムが示されていiます。

図 1. 2 ng/mL アクリルアミド水溶液のクロマトグラム(サンプル抽出物中の 4 µg/kg に相当)

図 2 に示すように、レスポンスの直線性を、適切な濃度範囲(0.5 ~ 2500 ng/mL)にわたってブラケットキャリブレーションを使用して評価しました。マトリックス添加は、ブランク試料として使用するアクリルアミドを含まないサンプルを見つけるのが難しかったため、使用しませんでした。アクリルアミド-d3 を内部標準試料として使用し、LC-MS/MS マトリックス効果などのメソッド全体のばらつきを補正しました。決定係数(r2> 0.999)および残差(< 10%)はすべて優れていました。

図 2. 水で調製したアクリルアミドのキャリブレーショングラフ(1/x 加重の線形回帰)

図 3 に、関連するベンチマークレベルでスパイクした代表的な商品のサンプルでのアクリルアミドの検出が示されています(表 1)。図 4 に、ベビービスケット中の 14 µg/kg アクリルアミドの検出が示されています。この方法により、優れた感度と選択性が示され、EU ベンチマークレベルから導出された LOD/LOQ への準拠の確認に適していることが、実証されています。このアプリケーションソリューションは、低濃度での分析能力もあり、適性評価試験に有用です。 

図 3. さまざまな食品にベンチマークレベルでスパイクしたアクリルアミドのクロマトグラム 
図 4. ベビービスケット中に 14 µg/kg で検出されたアクリルアミドのクロマトグラム

この迅速なクリーンアップ方法は、同重体干渉がないことから分かるように、ポテトチップスやコーヒーなどの難しいマトリックスに対しても効果的であることが証明されました。クリーンアップありおよびなしでのポテトチップスサンプルの例が、図 5 に示されています。Oasis MCX による固相抽出など、代替のより選択性の高いクリーンアップ手順を使用しても、複雑な食品サンプルから干渉マトリックス成分を同等に除去することができます。優れた感度と選択性により、抽出用に採取するラボサンプルの量を減らすことも可能になります。これにより、LC-MS/MS システムの汚染を、管理可能な最小限のレベルに抑えることができます。 

図 5. クリーンアップの前後にアクリルアミドをスパイクした、ポテトチップスの分析のクロマトグラム

社内での分析法のバリデーションにより、優れた定量性能が実証されました。社内での分析法のバリデーションにより、さまざまな代表的な食品中のアクリルアミドに対する優れた定量性能が実証されました(表 3)。内部標準試料としてアクリルアミド-d3 を使用した場合、両方のスパイク濃度での分析法の精度は優れており、性能基準を満たしていました。回収率の測定値は 86% ~ 107%(許容基準は 75 ~ 110%)の範囲内で、再現性(RSDr)は 1.6% ~ 5.5% でした。規則(EU) 2158/2017 では、再現性評価に Horwitz の式から導出した値が使用されています。ただし、Horwitz の式では、100 µg/kg 未満の質量フラクションに対して許容できない高い値になるため、他で使用されているより厳しい許容基準(たとえば ≤ 20% RSD)を使用して分析法の再現性を評価しました6。 この分析法で達成された %RSD は、SANTE の許容基準(< 6%)よりもかなり低く、さまざまなマトリックスで一貫していました。 

表 3. 2 濃度でアクリルアミドをスパイクした代表的な食品の分析で得られた回収率と再現性(各濃度で n = 5、内部標準試料で補正済み)

分析法の性能をさらに評価するために、標準物質を分析しました(図 6)。FAPAS のコーヒーおよびポテトチップスの標準物質の分析で得られた測定値は、割り当てられた値と良好な精度でよく一致しました(表 4)。欧州委員会規則(EU)2158/2017 には、アクリルアミドの同定に対応する基準は含まれていませんが、基準物質の分析から得られるイオン比率と保持時間は、スパイクしたサンプルから得られたレファレンス値とよく一致し、すべてが十分に残留物分析に通常使用される許容範囲(例:≤ 20% および ±0.1 分)内でした6

図 6. アクリルアミドが含まれていることが既知の FAPAS 試験物質の分析によるクロマトグラム
表 4. 既知量のアクリルアミドが含まれている FAPAS 試験物質の分析結果(n = 9)

結論

本実験の目的は、加工食品中のアクリルアミド測定における、Xevo TQ-S micro と組み合わせた ACQUITY UPLC I-Class システムの性能を評価することでした。このアプローチを社内で検証したところ、アクリルアミドの検出、同定、定量に優れた感度が示されました。改良された QuEChERS メソッドにより、効果的なアクリルアミドの抽出およびクリーンアップが提供され、このメソッドは多くの食品マトリックスに適用できます。マトリックスレファレンス標準試料の結果により、この分析法が、正確で、再現性が良く、精度が高く、堅牢であることが、実証されています。Xevo TQ-S micro では、直線性およびキャリブレーション範囲の点で、模範的な性能が得られました。この分析法の真度および精度をさまざまな QC レベルで測定した結果、バイアスおよび %RSD について優れた結果が得られました。

参考文献

  1. EFSA CONTAM Panel (EFSA Panel on Contaminants in the Food Chain).Scientific Opinion on acrylamide in food.EFSA Journal.2015; 13(6): 4104, 321 pp.doi:10.2903/j.efsa.2015.4104.
  2. EFSA (European Food Safety Authority).Outcome of the Public Consultation on the Draft Scientific Opinion of the EFSA Panel on Contaminants in the Food Chain (CONTAM) on acrylamide in food.EFSA supporting publication 2015:EN–817:95.
  3. Carere, A. Genotoxicity and Carcinogenicity of Acrylamide: a Critical Review.Ann Ist Super Sanita, 42, 2: 144–155.
  4. Food Standards Agency.Food Survey Information Sheet.[online] Available at: https://www.food.gov.uk/sites/default/files/media/document/Acrylamide%20and%20Furan%20FSIS%202017.pdf.[Accessed 3 Oct. 2018].
  5. EU Commission Regulation 2017/2158 of 20 November 2017 establishing mitigation measures and benchmark levels for the reduction of the presence of acrylamide in food.(Online) https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CE LEX:32017R2158&from=EN.Accessed 3 Oct. 2018.
  6. European Union (2017).Document No.SANTE 11813/2017.Guidance Document on Analytical Quality Control and Method Validation Procedures for Pesticides Residues Analysis in Food and Feed (Online).https://ec.europa.eu/food/sites/food/files/plant/docs/pesticides_mrl_guidelines_ wrkdoc_2017-11813.pdf.Accessed 3 Oct. 2018.

720006495JA、2020 年 11 月改訂

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