このアプリケーションノートでは、法中毒学のための疼痛管理薬および乱用薬物の固相抽出および UPLC-MS/MS 分析用の完全な分析法、およびそれがもたらす多くの利点を紹介します。
簡素化された手順で手作業によるステップの数を減らし、すべての分析種を効率的に抽出できるように、サンプル前処理を最適化しました。水湿潤性の吸着剤により、ウェル内でのサンプル前処理と、コンディショニングや平衡化なしの直接ロードが可能になり、サンプルの移送や転記ミスの可能性が排除されます。効率的で再現性の高い抽出により、高回収率、一貫したマトリックス効果、正確で精密な定量データが得られます。
ACQUITY UPLC BEH C18 カラムの使用により、正確な定量に必要なベースライン分離をすべて維持しながら、大規模なパネルの分析が迅速化されます。
StepWave テクノロジーや XDR 検出器などの機能を搭載した Waters Xevo TQ-S micro では、広いダイナミックレンジにわたって、あらゆる化合物の非常に迅速かつ正確な定量が保証されます。これにより、2 ng/mL の 6-MAM と 2500 ng/mL のメタンフェタミンの同時定量が可能になります。
サンプル前処理、UPLC 分離、MS/MS 検出の組み合わせにより、ワークフローが最適化され、迅速で正確かつ精密な分析法が得られます。
法中毒学の分析に使用される分析種のパネルには通常、違法薬物や一般的な乱用薬物が含まれています。複数の薬物クラスを総合的に把握するために、多くの場合、複数の法中毒学分析法が使用されます。これらの分析法には、免疫測定法、GC-MS、LC-MS/MS、またはこれらの分析法の組み合わせが含まれます。ウォーターズでは、法中毒学における明確な同定に適した分析感度、選択性、正確性を達成するために、包括的な薬物のパネルを定量できる分析法を開発しました。
この分析法では、Oasis MCX µElution プレートを使用した簡単なサンプル抽出手順と、ACQUITY UPLC BEH C18 カラムを使用した迅速で再現性のあるクロマトグラフィー分析法を組み合わせることにより、干渉する可能性のある分析種のクリティカルペアすべてについてベースライン分離が実現されています。拡張ダイナミックレンジ(XDR)を搭載した Waters Xevo TQ-S micro により、この多様な化合物群に必要とされる分析感度とダイナミックレンジ機能が得られました。
すべての標準試料は、Cerilliant(テキサス州ラウンドロック)および Cayman Chemical(ミシガン州アナーバー)から入手しました。分析種に応じて、メタノールで濃度 2、10、25 µg/mL のストック混合液を調製しました。内部標準ストック溶液は、メタノールで 1 µg/mL の濃度に調製しました。ナルトレキソン、メテドロン、デヒドロノルケタミン、m-OH-ベンゾイルエクゴニン、α-ピロリジノバレロフェノン(α-PVP)代謝物 1、メプロバメート、フルラゼパム、ノルプロポキシフェン、クロナゼパムを除くすべての化合物には、安定同位体標識した内部標準試料を使用しました。上述の分析種については、内部標準試料により他の分析種(ナルトレキソンおよびクロナゼパム)のいずれかの定量が妨害されるか、容易に入手できる安定標識 IS がありませんでした。ストック溶液をプールしたブランク尿中に希釈することで、サンプルを調製しました。外部品質管理材料は UTAK Laboratories(カリフォルニア州バレンシア)から入手しました。すべての分析種ならびに保持時間およびキャリブレーション範囲が、表 1 に記載されています。
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class (FTN) |
カラム: |
ACQUITY UPLC BEH C18、1.7 µm、2.1 × 100 mm |
カラム温度: |
40 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
5 µL |
流速: |
0.6 mL/分。 |
移動相 A(MPA): |
0.1% ギ酸水溶液(MilliQ 水) |
移動相 B(MPB): |
0.1% ギ酸アセトニトリル溶液(ACN) |
パージ溶媒: |
50:50 MeOH:H2O |
洗浄溶媒: |
25:25:25:25 MeOH:H2O:IPA:ACN |
時間(分) |
流速(mL/分) |
移動相 A% |
移動相 B% |
---|---|---|---|
0 |
0.6 |
98 |
2 |
3.33 |
0.6 |
33 |
67 |
3.5 |
0.6 |
10 |
90 |
3.6 |
0.6 |
98 |
2 |
4 |
0.6 |
98 |
2 |
MS システム: |
Xevo TQ-S micro |
イオン化モード: |
ESI+ |
脱溶媒温度: |
500 ℃ |
脱溶媒ガス流量: |
1,000 L/時間 |
コーンガス流量: |
150 L/時間 |
取り込み範囲: |
化合物ごとに最適化された MRM トランジション |
キャピラリー電圧: |
1.0 kV |
コリジョンエネルギー: |
化合物ごとに最適化(付録 1 参照) |
コーン電圧: |
化合物ごとに最適化(付録 1 参照) |
データ管理: |
MS ソフトウェア:MassLynx 定量ソフトウェア:TargetLynx XS |
分析種の回収率とマトリックス効果は、前述のとおりに計算しました1。 内部標準で補正したマトリックス効果は、分析種のレスポンス係数を使用して計算しました。
100 µL の尿を Oasis MCX µElution プレートの個々のウェルに添加し、続いて加水分解バッファー、10 µg/mL の β-グルクロニダーゼ酵素、100 ng/mL の内部標準試料を含む 100 µL の溶液を添加して、数回吸引して混合しました。インキュベーション後、200 µL の 4% H3PO4 を添加し、数回吸引して混合しました。すべてのサンプルは真空によって吸着剤ベッドに直接吸引され、続いて 200 µL の 80:20 H2O:MeOH で洗浄されました。プレートを高真空(約 15 インチ Hg)下で 1 分間乾燥させ、洗浄溶液をできるだけ除去しました。サンプルは、2 × 25 µL の 5% 強アンモニア溶液(Fisher、28 ~ 30%)含有 50:50 ACN:MeOH を用いて溶出させました。LC-MS/MS 分析の前に、すべてのサンプルを 150 µL のサンプル希釈液(2% ACN:1% ギ酸含有の MilliQ 水)で希釈しました。抽出手順のグラフィカルワークフローを図 1 に示します。
すべての試験化合物および保持時間、キャリブレーション範囲が表 1 に記載されています。図 2 は、パネルに含まれているすべての化合物の ACQUITY UPLC BEH C18 カラムでのクロマトグラフィーを示しています。メプロバメートとノルプロポキシフェンもパネルに含まれていましたが、ここでのサンプル前処理手順に完全に適合しないため、定性的モニタリングのみを実施しました。他のマルチ分析種のパネルと同様に、化合物と内部標準が相互に干渉しないように注意する必要があります。図 3A および 3B は、相互に干渉する可能性がある分析種の複数グループのクロマトグラフィーを示しています。いずれのケースも、ベースライン分離が達成されている(ナロキソンと 6-MAM の比較、図 3B を参照)か、MRM が相互干渉しない(デヒドロノルケタミンとエチロン、図 3A を参照)かのいずれかになりました。場合によっては、特定の内部標準を使用しませんでした。
例えば、クロナゼパム-D4 はロラゼパムの定量が干渉されるため、使用しませんでした。UPLC カラムは効率が高いため、このような多数の分析種が含まれるパネルの場合でも、分離度を損なうことなく、すべての化合物を 3 分強で溶出することができ、合計分析時間は 4 分でした。
抽出手法の目標は、すべての分析種について効率的で再現性のある回収率を達成することです。以前の試験と同様に、ベンゾジアゼピンに対応するために、洗浄プロトコルは従来の MCX メソッドから変更されています2。 図 4 には、6 つの異なるロットの尿からの化合物のパネル全体の平均抽出回収率を示しています。メプロバメートとノルプロポキシフェンを除くすべての化合物(MDMA および EDDP)で、70% を超える回収率が見られました。抽出効率も一貫していました。すべての定量化合物について、変動係数(%CV)は 10% 未満でした。個々のバッチの回収データは同じパターンでした。異なるマトリックスロットでこのような高効率の回収率が得られたことで、抽出手法の頑健性が実証されました。このことは、さまざまなソースからのサンプル中の化合物の定量において重要になります。
また、複数のロットの尿を使用してマトリックス効果を評価しました。回収率と同様に、一貫したマトリックス効果は正確な定量に不可欠です。図 5A は、6 つのロットの尿から集約したマトリックス効果を示しています。ほとんどの分析種でイオン化抑制が観察され、モルヒネおよびヒドロキシモルフォンで最大 60% のイオン化抑制が観察されました。ただし、わずか 2 つの例外(m-OH BZE およびα-OH ミダゾラム)を除き、マトリックス効果の標準偏差は 20% 未満であり、マトリックスのロット間性能が一貫していることを示しています。図 5B は、内部標準を使用して補正した場合のマトリックス効果を示しています。このケースでは、修正されたマトリックス効果の 75/78 が 20% 未満でした。
図 5A. 6 つのロットの尿に由来するすべての化合物からのマトリックス効果の平均。バーはマトリックス効果の平均を示し、誤差は標準偏差を示します。
図 5B. 内部標準により、6 つのロットの尿からのマトリックス効果を補正しました。このグラフでは、図 5A のマトリックス効果が、内部標準試料を使用して補正されています。 評価したすべての化合物のうち、標準偏差が 20% を超えたのは 2 つのみでした。また、定量評価した化合物で補正マトリックス効果が 20% を超えていたのは 3 つのみでした。
表 1 に示す濃度範囲にわたって、7 点検量線を抽出しました。キャリブレーション範囲を調整して、さまざまな化合物の予想濃度が反映されるようにしました。品質管理サンプルは、キャリブレーション試薬の範囲にまたがる 4 つの濃度で調製しました。最低試料では最低キャリブレーション試薬の 1.5 倍、最高試料では最高キャリブレーション試薬の 75% になるように調製しました。ほとんどの化合物での QC レベルは 15、75、250、および 750 ng/mL でした。低濃度の化合物での QC レベルは 3、15、50、150 ng/mL で、高濃度範囲の分析種の QC レベルは 37.5、187.5、625、1875 ng/mL でした。定量メソッドのバリデーションでは、5 日間にわたって完全な検量線および QC サンプルの抽出を行いました。検量線を 2 回、QC サンプルを 6 回抽出し、調製を毎日行いました。個々のキャリブレーション試薬と QC サンプルのコントロール限界は、ターゲット値の ±15% でした。ただし、最低点についてのみ、20% 以内であることが要求されました。QC サンプルの精度限界は、最低 QC ポイントについては 20%、その他のポイントについては 15% でした。メプロバメートとノルプロポキシフェンは定性的評価のみを行い、これらのコントロールの対象にはしませんでした。5 回の独立した抽出および分析のサマリーでは、これらの基準がすべて満たされていました(付録 2 参照)。大部分の化合物がターゲット値の 10% 以内であり、%CV は 10% 未満でした。バッチ内結果では、すべての化合物が正確性基準を満たしており、15% を超える精度結果が得られた唯一の化合物は、アンフェタミンの高 QC(18%)でした。
すべての検量線は FDA のバイオアナリシス分析法のバリデーション要件に準拠しています3。この要件では、すべてのキャリブレーション試薬は、ターゲット値の 15% 以内に収まることが求められます(ただし、最低点はターゲット値の 20% 以内)。キャリブレーション試薬の 75% でこの基準が満たされています。すべての化合物がこれらの基準に適合しており、すべての曲線の R2 値は 0.99 以上を示していました。
定量限界は、シグナルが抽出マトリックスブランクの 5 倍であり、シグナル対ノイズ比が 10 を超え、バイアスと %CV が両方とも 20% 未満であるポイントとして定義されました。この点を評価するために、いずれかのバリデーションバッチで最低のキャリブレーション試薬を 6 回繰り返し抽出しました。すべての化合物がこれらの基準に適合していました。
装置での安定性も評価しました。単一バッチの抽出と分析は、8 日間にわたって 5 回行われました。4 日間にわたって、すべての化合物が上記の定量バリデーション基準に適合していました。
正確性を評価するために、UTAK Laboratories からの外部品質管理サンプルを評価しました。これらの結果を表 2A ~ 2D にまとめています。外部品質管理サンプルを使用して評価した分析種には、オピオイド、ベンゾジアゼピン、覚せい剤、合成カチノンが含まれていました。これらの結果からは、91/98(93%)の結果がターゲット値の 20% 以内であることを示しています。フェンタニル、ノルフェンタニル、ブプレノルフィンなどの化合物は、低容量(20 µL のストック溶液)を使用してスパイクされているため、これらの分析種での大きな偏差は、マスターストック混合液の調製におけるわずかなミスの結果である可能性があります。さらに、7-アミノクロナゼパムには、尿マトリックス中での安定性の問題が生じる可能性があり、これが低バイアスの原因となる可能性があります。すべての結果において %RSD 値は 10% 未満でした。
このアプリケーションノートでは、法中毒学における違法薬物および乱用薬物の固相抽出および UPLC-MS/MS 分析用の完全な分析法について説明します。多くの利点を紹介しました。
サンプル前処理、UPLC 分離、MS/MS 検出の組み合わせにより、ワークフローが最適化され、迅速で正確かつ精密な分析法が得られます。
720006187JA、2023 年 3 月 改訂