このアプリケーションブリーフでは、抗体薬物複合体(ADC)のネイティブ条件での分析における BioAccord システムの性能を実証します。
ネイティブ LC-MS 分析向けの分析スケールのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)および BioAccord システムを使用して、リジン結合 ADC およびシステイン結合 ADC の薬物抗体比(DAR)の測定を達成しました。
薬物抗体比(DAR)は、ADC の治療効果および薬物動態に直接影響を与える重要品質特性(CQA)です。ADC 開発プロセス全体を通じて、製造工程内での DAR の測定(およびモニタリング)が重要になります。ネイティブエレクトロスプレー質量分析(ネイティブ MS)は、共有結合性の複合タンパク質医薬品および非共有結合性のタンパク質複合体の分析における強力なツールとなっています。ネイティブ MS 条件でタンパク質は、非変性の MS に適したバッファーシステムを使用して、エレクトロスプレーイオン化されます。
このような条件により、LC-MS 分析では多くのタンパク質がフォールド状態に保たれるため、特徴として低い荷電状態が示され、変性タンパク質の分析よりも広範囲で、高い質量電荷比(m/z)にわたって感度が必要です。ネイティブ MS には特有の課題があります。例えば、インフュージョン MS を行う場合、分析前に徹底的なサンプルクリーンアップが求められます。また、実験結果の生成および解釈には、優れたオペレーター技能が求められます。当社では以前、インライン SEC を既存の MS 手法と組み合わせることで、ネイティブ MS データの取り込みを簡素化するよう努めてきました1,2 。これにより、システイン結合 ADC の集団研究のためのサンプル脱塩およびバッファー交換が容易になりました。本研究では、BioAccord システムを使用することで、システイン結合 ADC およびリジン結合 ADC のネイティブ MS 分析ソリューションのアクセス性を改善しています。
BioAccord システムは小型で高性能なベンチトップシステムであり、シンプルなユーザーインターフェースと、自動システムセットアップ、自動診断機能を搭載するように設計および開発されています。
BioAccord システムは、ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムに、光学検出器(TUV または FLR)と、インラインの ACQUITY RDa 検出器(小型 oa-TOF MS)を組み合わせて構成されています。本システムの操作は、UNIFI 科学情報システムにより行われ、規制下ラボおよび非規制下ラボ向けの合理化されたワークフローソリューションが利用できます。自動データ取り込み、解析、レポート作成を組み合わせており、ADC 特性解析のための DAR 自動計算機能も含まれています。
システイン結合 ADC のネイティブ質量分析法では、ADC サンプルの DAR 値および薬物負荷分布を測定するために、非共有結合の ADC 分子をインタクトに保つための非変性条件が必要になります。本研究では、BioAccord システムに分析スケールの SEC カラム(ACQUITY UPLC Protein BEH SEC カラム、200Å、1.7 µm、2.1 mm × 150 mm、製品番号:186008471)を直接接続し、アイソクラティック溶出を実施しました(50 mM 酢酸アンモニウム(NH4OAc)を 10 分間送液)。
このような SEC 条件では、ADC サブユニットはネイティブに近い状態を保ち、4 次構造の相互作用が維持され、逆相分離で一般的な酸-有機溶媒系の移動相に見られるような、変性され、アンフォールド状態のものよりも、はるかに小さな表面積が生成されます。ネイティブエレクトロスプレー質量分析条件下のタンパク質は、逆相条件よりも電荷が少なくなり、得られるマススペクトルでは、高い m/z 範囲で小さな荷電エンベロープが表示されます。図 1 に示されているように、BioAccord の拡張された質量範囲(最大 m/z 7,000)により、高 m/z 値での測定ニーズが満たされ、複雑な非脱グリコシル化システイン結合 ADC を検出できます。これらの結果は、以前に他の高分解能 MS システムで分析した ADC サンプルのスペクトルと一致しており1,2 、BioAccord システムと以前の QTof MS システムの間で同等の DAR 値が得られています(図 1 および 表 1)。
非結合抗体 mAb、および 3 つの結合レベル(低、中、高)の ADC について、BioAccord システムで得られた、コンバインされたスペクトルの荷電状態エンベロープ(図 1、左)、単一の荷電状態の拡大(中央)、およびデコンボリューションしたスペクトル(右)を示しています。非結合 mAb スペクトルに表示されたグリコシル化パターンは、3 つのレベルの結合サンプルすべてにおいて、各結合型(0、2、4、6、8)について繰り返されています。デコンボリューションスペクトルから得られた各グリコフォームの波形解析したピーク面積の組み合わせを使用して、以前に詳述したように、UNIFI データ解析ワークフロー内で、合計平均 DAR および薬物負荷分布を自動計算しました¹。
リジン結合 ADC であるカドサイラ(トラスツズマブエムタンシン(T-DM1))の LC(SEC)-MS 分析における生スペクトルおよびデコンボリューションスペクトルを、サンプルの脱グリコシル化を必要とせずに得ることができました(図 2)。共有結合性のリジン結合 ADC の分析にネイティブ MS アプローチを使用することの利点の詳細については、以前に説明しました²。デコンボリューションスペクトルのピークには、検出された結合薬物の数のラベルが付けられています。UNIFI によって算出された DAR 値は 3.46 でした。この値は、医薬品メーカーから報告された DAR 3.50 とよく一致しています³。この結果はまた、Vion IMS QTof システムを使用した以前の試験の結果と同等でした²。
このアプリケーションブリーフでは、システイン結合 ADC およびリジン結合 ADC のルーチン LC(SEC)-ネイティブ MS 分析に、BioAccord システムが適していることが実証されました。平均 DAR および薬物負荷分布の結果は、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)分離(および TUV 検出)で生成された結果、および以前の世代の QTof MS システムによる結果と同等でした。BioAccord システムは、操作が簡素化され、コンプライアンス機能が設定可能であり、質量分析の経験の浅い科学者でも容易に使用できるようになったため、ADC の開発および製造プロセス全体を通じて、組織で質量分析をさらに展開できるようになります。このテクノロジーブリーフで示した機能および、発表されている他の BioAccord システムを使用したアプリケーション 4-8 により、BioAccord システムを用いることで、幅広いバイオ医薬品の製品品質特性のルーチン分析が行えることが分かります。
720006570JA、2019 年 5 月